大切な人達を全て奪われたけど、夢が叶ったので過去は振り返らず前に進もうと思います

アイスノ人

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第62話 新章・ルール無用のナイトゲーム

 その後も次々と繰り出される質問の応酬が続いた。

 その間も蘭子は、僕の下半身に伸ばした手を止めることなく、器用な指先で遊ぶように、無邪気な顔で質問を投げかけてきた。

 画面の向こうでは視聴者のコメントが嵐のように流れ、『先生どした?』『何か先生死んでね?息してる?』などと好き勝手言われている。

「またレ~イ!」

 カメラに向かってご満悦の笑顔を向け、蘭子は手を振りながら配信を締めくくる。

「ふぅ~お疲れ様、先生!」

 サッパリした顔で蘭子が言う。その横で、僕はもはや魂の抜けたように突っ伏していた。

「あ、やばっ!やりすぎた!? 先生、生きてる?」

  慌てて僕のズボンの中から手を引き抜く蘭子。

 指先をじっくりと眺め、クスッと笑う。

「へぇ~」

 その微笑みの意味を咀嚼《そしゃく》する前に、蘭子は興味津々な目をしたまま、指先をペロリと舐めた。

「ちょっ、何してるんですか!?」

 慌てて飛び起きる僕。

「え? なんか、味見?」

 ニヤリと笑う蘭子。

 僕は顔から火が出そうなくらい真っ赤になりながら、意味の分からない抗議を繰り返すしかなかった。

「いや~、手袋なしでやったの初めてだから、ついね」

 と、いたずらっぽく頭を掻く蘭子。

「そういう問題じゃない!!」

 僕は言葉を詰まらせ、後ずさるしかなかった。しかし、それに対し蘭子は不敵な笑みを浮かべながら、グッと顔を近づけてくる。

「え~?でも気持ちよかったでしょ~?それにここまでやってあげたのは先生が初めてなんだよ~?」

 人差し指を僕の顎に当て、ゆっくりと這わせながら蘭子が言う。

 その指先が滑るように頬をなぞるたびに、僕は体を強張らせるしかなかった。

 その指を振り払おうとした僕が「いい加減に――!」と声を上げた瞬間。

「はい、お疲れさまでした、二人とも」

 玄関の扉が開き、緋崎さんが部屋に入ってきた。

 思わず、その場で飛び上がる僕。

 リビングの扉を開けた緋崎さんが、一歩踏み入れた途端、鼻をひくつかせた。

「……ん? なんかこの部屋、変な匂いしない?」

 目を細め、ゆっくりと辺りを見回す。

 僕は心臓が凍りつくのを感じた。

 蘭子が悪びれもせず「ん~?そうかな?」ととぼけた声を出しながら、そっと自分の指先を袖で拭う。

「変なお香でも焚いてたの?」

 緋崎の疑いの視線が鋭くなっていく。

「えっ、そ、そうですね! なんか、ちょっとリラックスしたくて! あはは!」

 僕の声は明らかに上ずっていた。

 蘭子はそんな僕の様子を楽しそうに見つめ、くすくすと笑いを噛み殺している。

「ふーん……」

 彼女は納得したような、していないような微妙な顔をしながら、再び部屋を見渡した。

 慌てて僕は立ち上がり、声を張り上げた。

「か、帰りましょう緋崎さん!今すぐ!可及的速やかに!」

 息を荒げながら僕は立ち上がる。額には汗が浮かび、心臓はバクバクと音を立てていた。

 緋崎さんは少し驚いたように目を瞬かせると、僕の様子をじっと見つめた後、ためらいがちに頷いた。

「え、ええ。あ、そういえば先生のスマホ預かってたけど、すごい数の通知や着信が来てたわよ?」

「え?」

 緋崎さんの言葉に、何か嫌な予感を抱きながらスマホを受け取る。

 画面を見ると、雅や葵、真凛、そして神楽からの大量の通知と着信がずらりと並んでいた。

 恐る恐る神楽のメッセージを開くと、怒り心頭のシャー!シャー!猫スタンプが大量に送りつけられていた。そして最後に、『明日の祝日は何が何でも付き合ってもらうからね!』とのメッセージ。

 僕は深いため息をつきながら、肩を落とした。

「あら、本当にお疲れ様みたいね。明日の祝日はゆっくり休むといいわ」

 と、僕を気遣うように微笑む緋崎さん。

 すると突然、母さんからの着信。

「母さん?」

 思わず首を傾げながら、慌てて通話に出る。

『お疲れ様啓、そろそろ終わるころだと思って電話したのよ』

 母さんのいつも通りの落ち着いた声。しかし、その後の言葉が僕の心臓を締め付けた。

『今ね、お姉ちゃんが突然家に帰ってきたのよ』

「……え?」

『何やらすごい剣幕で、啓が帰ってくるまで待つって言ってるの。あなた、響子に何かしたの?』

 喉が、ごくりと鳴る。

 何もしてない……はず。いや、少なくとも、直接は。

 僕は恐る恐る顔を上げた。

 そして――

 ソファに座った蘭子が、不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと手を振っていた。

 背筋が、ぞくりと凍る。

 携帯を握る手に、じんわりと汗が滲む。

「……お手柔らかにって伝えといて」

 このまま帰れば、確実に地獄が待っている。

 しかし、逃げることもできない。

 僕の長い夜が、今、始まろうとしていた――。
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