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第63話 新章・不機嫌な君が、僕の手を握るまで
レイランこと蘭子との生配信コラボが終了した翌日、僕は今、新宿にある喫茶店スターバルクスに来ていた。
ガラス張りの窓から行き交う人々を眺めながら、大きくあくびをかみ殺す。昨夜、蘭子の自由奔放な振る舞いに振り回されたあげく、家に帰ると今度は姉による“スキンシップ”という名の尋問が待ち構えていた。母さんが途中で止めに入ってくれたおかげで徹夜コースは免れたものの、鏡に映る自分の顔を見ると、目の下にはうっすらと隈ができている。
コーヒーを一口飲み、重たいまぶたをこすっていると、店の入り口からブーツの音が響いた。
オーバーサイズのカットソーにショートパンツというラフな服装、それでいてモデルのような佇まい。かけていたサングラスを軽く持ち上げ、店内を見回すと、すぐに僕を見つけたようだ。神楽は迷うことなくこちらへ歩いてきて、僕の前で立ち止まる。
「おはよう」
どこかご機嫌斜めな声音で、神楽がそう言った。
「お、おはよう神楽」
昨夜の生配信のことが頭をよぎり、どこか後ろめたい気持ちを抱えながら、ぎこちなく挨拶を返す。
「今日は少し寒いわね。あったかいカフェオレが飲みたい気分だわ……」
神楽は僕の方を見ずに、顎に手を当てながら外の景色に目をやる。
「あ、はい、持ってきます……」
慌てて席を立ち、カウンターへ向かう。注文を済ませ、カフェオレを受け取ると、神楽の前にそっと置いた。
「ありがとう……」
カップを両手で包み込みながら、一口飲む。先ほどよりは少し落ち着いた表情になったが、まだどこか納得いかない様子が残っている。
やはり、昨夜の生配信が原因か。
その後も神楽の機嫌をとりつつ、昨夜の放送では何もなかったことを必死に説明する。神楽は時折、半目で僕を見つめるが、完全に怒っているわけではなさそうだった。むしろ、拗ねている、といったほうが近い。
そんなやり取りの最中、ふと気が付く。
「……そういえば、今日は真凛は?」
てっきり一緒に来るものだと思い込んでいた。
神楽に尋ねると、少し表情を曇らせながら答えた。
「……どうしても外せない用事ができたんですって。でもね、それにしては朝から元気がなかったのよ」
そう言って、神楽はカップの縁を指でなぞる。
「元気がなかった?」
「うん。昨日までは一緒に行く気満々だったのに、朝になって急に“行けなくなった”って……。なんか、大事な用事があるって言ってたけど、声のトーンが沈んでたし、ちょっと気になってるの」
確かに、神楽の言う通りだ。真凛は僕たちと一緒に過ごすのを楽しみにしていたはず。それなのに、突然の予定変更。しかも、気落ちしているような様子……。
「……何かあったのかな」
そう呟きながら、コーヒーを口に運ぶ。ほのかに苦味が広がるが、胸の奥のざわつきは消えない。
窓の外を眺める。
行き交う人々の間に、どこか真凛の姿を探してしまう自分がいた。
そんな僕の様子を見ていたのか、神楽がふっとため息をついた。
少し落ち込んでいるようにも見える彼女を前に、僕はそっと神楽を見つめた。
「心配なんだね」
神楽は黙ってコーヒーを見つめる。その横顔を見て、僕は続けた。
「大丈夫だよ。真凛なら……それに、せっかく二人で会えたんだから、少しくらい楽しく過ごしたいなって、僕は思ってる」
努めて素直な口調で言うと、神楽はゆっくりと顔を上げた。
「……楽しまないと、ね」
小さく息をつくように呟きながらも、その表情にはほんの少しだけ、柔らかさが戻っていた。
「……今日は真凛の分も、私に付き合ってもらうからね」
そう言いながら、神楽はそっと僕の手を握った。
「え……?」
驚きと戸惑いが混じった声を漏らすと、神楽は少し頬を染めながらも、どこか意地悪そうに微笑む。
「なに? 嫌なの?」
「そ、そんなことないけど……」
握られた手の感触が妙に意識され、うまく言葉が出てこない。神楽の指先がそっと絡むように動いた瞬間、僕の鼓動が一段と速くなった。
窓の外の景色がぼやけて見えるほど、神楽の存在が近く感じられた。
ガラス張りの窓から行き交う人々を眺めながら、大きくあくびをかみ殺す。昨夜、蘭子の自由奔放な振る舞いに振り回されたあげく、家に帰ると今度は姉による“スキンシップ”という名の尋問が待ち構えていた。母さんが途中で止めに入ってくれたおかげで徹夜コースは免れたものの、鏡に映る自分の顔を見ると、目の下にはうっすらと隈ができている。
コーヒーを一口飲み、重たいまぶたをこすっていると、店の入り口からブーツの音が響いた。
オーバーサイズのカットソーにショートパンツというラフな服装、それでいてモデルのような佇まい。かけていたサングラスを軽く持ち上げ、店内を見回すと、すぐに僕を見つけたようだ。神楽は迷うことなくこちらへ歩いてきて、僕の前で立ち止まる。
「おはよう」
どこかご機嫌斜めな声音で、神楽がそう言った。
「お、おはよう神楽」
昨夜の生配信のことが頭をよぎり、どこか後ろめたい気持ちを抱えながら、ぎこちなく挨拶を返す。
「今日は少し寒いわね。あったかいカフェオレが飲みたい気分だわ……」
神楽は僕の方を見ずに、顎に手を当てながら外の景色に目をやる。
「あ、はい、持ってきます……」
慌てて席を立ち、カウンターへ向かう。注文を済ませ、カフェオレを受け取ると、神楽の前にそっと置いた。
「ありがとう……」
カップを両手で包み込みながら、一口飲む。先ほどよりは少し落ち着いた表情になったが、まだどこか納得いかない様子が残っている。
やはり、昨夜の生配信が原因か。
その後も神楽の機嫌をとりつつ、昨夜の放送では何もなかったことを必死に説明する。神楽は時折、半目で僕を見つめるが、完全に怒っているわけではなさそうだった。むしろ、拗ねている、といったほうが近い。
そんなやり取りの最中、ふと気が付く。
「……そういえば、今日は真凛は?」
てっきり一緒に来るものだと思い込んでいた。
神楽に尋ねると、少し表情を曇らせながら答えた。
「……どうしても外せない用事ができたんですって。でもね、それにしては朝から元気がなかったのよ」
そう言って、神楽はカップの縁を指でなぞる。
「元気がなかった?」
「うん。昨日までは一緒に行く気満々だったのに、朝になって急に“行けなくなった”って……。なんか、大事な用事があるって言ってたけど、声のトーンが沈んでたし、ちょっと気になってるの」
確かに、神楽の言う通りだ。真凛は僕たちと一緒に過ごすのを楽しみにしていたはず。それなのに、突然の予定変更。しかも、気落ちしているような様子……。
「……何かあったのかな」
そう呟きながら、コーヒーを口に運ぶ。ほのかに苦味が広がるが、胸の奥のざわつきは消えない。
窓の外を眺める。
行き交う人々の間に、どこか真凛の姿を探してしまう自分がいた。
そんな僕の様子を見ていたのか、神楽がふっとため息をついた。
少し落ち込んでいるようにも見える彼女を前に、僕はそっと神楽を見つめた。
「心配なんだね」
神楽は黙ってコーヒーを見つめる。その横顔を見て、僕は続けた。
「大丈夫だよ。真凛なら……それに、せっかく二人で会えたんだから、少しくらい楽しく過ごしたいなって、僕は思ってる」
努めて素直な口調で言うと、神楽はゆっくりと顔を上げた。
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小さく息をつくように呟きながらも、その表情にはほんの少しだけ、柔らかさが戻っていた。
「……今日は真凛の分も、私に付き合ってもらうからね」
そう言いながら、神楽はそっと僕の手を握った。
「え……?」
驚きと戸惑いが混じった声を漏らすと、神楽は少し頬を染めながらも、どこか意地悪そうに微笑む。
「なに? 嫌なの?」
「そ、そんなことないけど……」
握られた手の感触が妙に意識され、うまく言葉が出てこない。神楽の指先がそっと絡むように動いた瞬間、僕の鼓動が一段と速くなった。
窓の外の景色がぼやけて見えるほど、神楽の存在が近く感じられた。
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