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◇くりかえしの一日:終◆
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審議はしばらく続いた。
ヘンゼルとグレーテルの罪は重く、とてもじゃないが、無罪放免とはいかないようで。
だがしかし、むりやり従わされていた面で、情状酌量の余地がないわけでもないと。
二人にはこれから、この組織で働いてもらうということになった。
まぁ生きるなら、どうせそうなるんだが。
俺はしばらく考えていたが、結局上の命令もあり、都合よくこいつらの記憶を書き換えるようにと指令を受けた。
ったく、こういうところが気にいらねえんだ。
俺たちに居場所を与えてくれたことは感謝してるが、こういうときだけは嫌悪感がある。
それでも、実行するのは俺だ、なにが一番良いかなんて分かるはずもないが、俺なりに考えたことを実行することにした。
ヘンゼルとグレーテルとして犯罪に加担したこいつらの意志と記憶を封じこめて、本来のこいつらの意識を浮上させる。
親に捨てられたことまでは覚えているだろうから、偶然俺たちが通りかかって拾った、ここでならうけいれてくれる、ということにした。
いい気分のするものじゃあないが、こいつらは意識を書き換えられていたぶん、実際の年齢よりずっと幼い精神で止まっている。
そいつらに、罰や罪をおしつければ、どうなるか……分からないほど俺も無感情じゃない。
「アズサー、アズサー」
明朝になって、部屋のドアを叩く音と少女の声に、俺は布団から起きあがった。
「なんだー、どうしたグレーテル」
「おなかすいたの……でも、ウィリアムは忙しいから起こしちゃダメと思って」
「それはなんだ、遠まわしに俺がヒマ人だと言いたいのか」
朝から畑仕事、と言っていいのかは疑問だが。
植物の育成に励んでいるグレーテルだ、腹がすくのは無理もない。
こいつらがやって来てから、俺の部屋の冷蔵庫にも多少物が増えた。
「つっても、腹のたしになるようなもんはあんまりないぞ」
言いながら、プリンか、菓子パンか……腹減ってるなら菓子パンか。
そう思ったんだが。
「プリンがいい!」
横から冷蔵庫を覗きこんだグレーテルが無邪気に言う。
「おまえそれじゃあ腹減ったままだろ」
「いいの! あのね、ママがね、昔作ってくれたことがあるの」
「――そうか、ならプリンにするか」
無邪気なグレーテルの笑顔を見て、しようがないとそれを取って渡す。
きっとそのママってのにも、こいつ、良い思い出なんてそんなに無いだろうに。
よほどそれが嬉しかったんだろう。
「アズサー、アズサー」
なんて話していると、またドアの外から少年の声がする。
「なんだよおまえら二人ともはらっぺらしか?」
「うん、ウィリアムは忙しいから起こしちゃいけないと思って」
「おまえも俺をヒマ人扱いするか」
やって来たヘンゼルは菓子パンを選び、二人で仲良く椅子に座って食べていた。
こいつらもあんな奴らに拾われなければ、こうして普通に過ごしたんだろうか。
けど、親に捨てられた時点で、あいつらに拾われなければ死んでいたんだろうか。
孤児院に行っても、ウィリアムのように扱われたんだろうか。
結局、なにが一番良かったのかなんて俺には分からなかったが、
幸せそうにプリンと菓子パンを食べる二人を見て、俺は苦笑した。
ヘンゼルとグレーテルの罪は重く、とてもじゃないが、無罪放免とはいかないようで。
だがしかし、むりやり従わされていた面で、情状酌量の余地がないわけでもないと。
二人にはこれから、この組織で働いてもらうということになった。
まぁ生きるなら、どうせそうなるんだが。
俺はしばらく考えていたが、結局上の命令もあり、都合よくこいつらの記憶を書き換えるようにと指令を受けた。
ったく、こういうところが気にいらねえんだ。
俺たちに居場所を与えてくれたことは感謝してるが、こういうときだけは嫌悪感がある。
それでも、実行するのは俺だ、なにが一番良いかなんて分かるはずもないが、俺なりに考えたことを実行することにした。
ヘンゼルとグレーテルとして犯罪に加担したこいつらの意志と記憶を封じこめて、本来のこいつらの意識を浮上させる。
親に捨てられたことまでは覚えているだろうから、偶然俺たちが通りかかって拾った、ここでならうけいれてくれる、ということにした。
いい気分のするものじゃあないが、こいつらは意識を書き換えられていたぶん、実際の年齢よりずっと幼い精神で止まっている。
そいつらに、罰や罪をおしつければ、どうなるか……分からないほど俺も無感情じゃない。
「アズサー、アズサー」
明朝になって、部屋のドアを叩く音と少女の声に、俺は布団から起きあがった。
「なんだー、どうしたグレーテル」
「おなかすいたの……でも、ウィリアムは忙しいから起こしちゃダメと思って」
「それはなんだ、遠まわしに俺がヒマ人だと言いたいのか」
朝から畑仕事、と言っていいのかは疑問だが。
植物の育成に励んでいるグレーテルだ、腹がすくのは無理もない。
こいつらがやって来てから、俺の部屋の冷蔵庫にも多少物が増えた。
「つっても、腹のたしになるようなもんはあんまりないぞ」
言いながら、プリンか、菓子パンか……腹減ってるなら菓子パンか。
そう思ったんだが。
「プリンがいい!」
横から冷蔵庫を覗きこんだグレーテルが無邪気に言う。
「おまえそれじゃあ腹減ったままだろ」
「いいの! あのね、ママがね、昔作ってくれたことがあるの」
「――そうか、ならプリンにするか」
無邪気なグレーテルの笑顔を見て、しようがないとそれを取って渡す。
きっとそのママってのにも、こいつ、良い思い出なんてそんなに無いだろうに。
よほどそれが嬉しかったんだろう。
「アズサー、アズサー」
なんて話していると、またドアの外から少年の声がする。
「なんだよおまえら二人ともはらっぺらしか?」
「うん、ウィリアムは忙しいから起こしちゃいけないと思って」
「おまえも俺をヒマ人扱いするか」
やって来たヘンゼルは菓子パンを選び、二人で仲良く椅子に座って食べていた。
こいつらもあんな奴らに拾われなければ、こうして普通に過ごしたんだろうか。
けど、親に捨てられた時点で、あいつらに拾われなければ死んでいたんだろうか。
孤児院に行っても、ウィリアムのように扱われたんだろうか。
結局、なにが一番良かったのかなんて俺には分からなかったが、
幸せそうにプリンと菓子パンを食べる二人を見て、俺は苦笑した。
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