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◇あんたなんか呼んでないわよっ!3◆
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屋敷に戻ると、あからさまに不機嫌そうなエルトリーゼにロレッサが首を傾げた。
「ど、どうなさいました? お嬢様……」
「なんでもないわ……いえ、やっぱりロレッサにも聞きたいのだけれど」
玄関ホールを抜けて自室に向かいながら、エルトリーゼは彼女に問いかける。
「あのクソ……じゃない。その、アヴェルス殿下みたいな男性って、ロレッサにとってはどうなの? やっぱり理想の男性なの?」
なんとなく返答は予想していたが、ロレッサはにっこり頬を緩ませて頷く。
「ええ、だって、お優しくてなんでもできて、理想的じゃありませんか?」
「……そう」
低く低く返事をしたエルトリーゼに、ロレッサはまた首を傾げる。
「お嬢様? 何かあったのですか?」
「何もないわよ、何も」
つかつかと早足に歩くエルトリーゼを追いかけて、ロレッサは険しい表情で言う。
「駄目ですよお嬢様、いくらアヴェルス様がお優しいかただとは言っても、あんまりご迷惑をおかけしては……」
今、初めてロレッサに苛立ったかもしれない。だが悪いのは彼女ではない、あの爽やか理想の王子様な仮面をつけている男が悪いのだ。
「そうね、気をつけるわ」
そっけなく言うと、ロレッサは不思議そうな顔をした。
「もしかして……お嬢様が迷惑をおかけになったのではなく、殿下に何か嫌なことをされたのです?」
心優しいロレッサはやはり察しがいい。けれどここで頷こうものならあの男の報復が恐ろしい。
「ま、まさか。そんなわけないじゃない。あの殿下ですものー」
棒読みで言うと、ロレッサは腑に落ちていない様子だったが頷いた。
「そう……ですよねえ、殿下に限ってお嬢様を傷つけるようなことはなさらないでしょうし」
実際には思いっきり傷つけてくれているのだが。とはいえロレッサまで巻き込むわけにはいかない。彼女は最後まで夢を見ているべきだ。
エルトリーゼは重いため息を吐いて、部屋に戻ると湯浴みをすませてベッドに潜りこんだ。
夢を見る。土砂降りの雨が身体の上に落ちてくる。死を迎える瞬間の夢。
本当はこんなの逃避でしかないと分かっている。
セツナとしての死を迎えてエルトリーゼとして生まれ、生きて、すでにシヅルという男性は遠い過去の存在である。
それでも不思議の湖に縋るのは、あの男、アヴェルスから逃れたいからに他ならない。
夢でもなんでもいい、あの男と結婚して夫婦になって生きるくらいなら、仮の世界で眠るように生き続けるほうがいい。
(あいつは少しも私のことなんて好きじゃないんだから……)
こんなにつらくて苦しいことがあるだろうか。
逃げたかった、逃げたいと思うたびに脳裏を掠めるのは前世の恋人。
アヴェルスと違って本当にエルトリーゼ、セツナを愛してくれていた大切なひと。
現実には途切れた彼との幸福な生活をもう一度紡げるのなら、アヴェルスから逃れることができるのなら、それだけでいい。
(花火大会に行こうって、約束したのにそれも叶えられなかったし……)
あのときのシヅルの嬉しそうな笑顔を今も忘れない。
あのあと、彼はどうしたのだろう?
花火大会には行ったのだろうか? 自分は死んでしまったから、その後の彼について何も知らない。
そんなことをぼんやりと思いながら、エルトリーゼは深い眠りの底へ落ちていった。
「ど、どうなさいました? お嬢様……」
「なんでもないわ……いえ、やっぱりロレッサにも聞きたいのだけれど」
玄関ホールを抜けて自室に向かいながら、エルトリーゼは彼女に問いかける。
「あのクソ……じゃない。その、アヴェルス殿下みたいな男性って、ロレッサにとってはどうなの? やっぱり理想の男性なの?」
なんとなく返答は予想していたが、ロレッサはにっこり頬を緩ませて頷く。
「ええ、だって、お優しくてなんでもできて、理想的じゃありませんか?」
「……そう」
低く低く返事をしたエルトリーゼに、ロレッサはまた首を傾げる。
「お嬢様? 何かあったのですか?」
「何もないわよ、何も」
つかつかと早足に歩くエルトリーゼを追いかけて、ロレッサは険しい表情で言う。
「駄目ですよお嬢様、いくらアヴェルス様がお優しいかただとは言っても、あんまりご迷惑をおかけしては……」
今、初めてロレッサに苛立ったかもしれない。だが悪いのは彼女ではない、あの爽やか理想の王子様な仮面をつけている男が悪いのだ。
「そうね、気をつけるわ」
そっけなく言うと、ロレッサは不思議そうな顔をした。
「もしかして……お嬢様が迷惑をおかけになったのではなく、殿下に何か嫌なことをされたのです?」
心優しいロレッサはやはり察しがいい。けれどここで頷こうものならあの男の報復が恐ろしい。
「ま、まさか。そんなわけないじゃない。あの殿下ですものー」
棒読みで言うと、ロレッサは腑に落ちていない様子だったが頷いた。
「そう……ですよねえ、殿下に限ってお嬢様を傷つけるようなことはなさらないでしょうし」
実際には思いっきり傷つけてくれているのだが。とはいえロレッサまで巻き込むわけにはいかない。彼女は最後まで夢を見ているべきだ。
エルトリーゼは重いため息を吐いて、部屋に戻ると湯浴みをすませてベッドに潜りこんだ。
夢を見る。土砂降りの雨が身体の上に落ちてくる。死を迎える瞬間の夢。
本当はこんなの逃避でしかないと分かっている。
セツナとしての死を迎えてエルトリーゼとして生まれ、生きて、すでにシヅルという男性は遠い過去の存在である。
それでも不思議の湖に縋るのは、あの男、アヴェルスから逃れたいからに他ならない。
夢でもなんでもいい、あの男と結婚して夫婦になって生きるくらいなら、仮の世界で眠るように生き続けるほうがいい。
(あいつは少しも私のことなんて好きじゃないんだから……)
こんなにつらくて苦しいことがあるだろうか。
逃げたかった、逃げたいと思うたびに脳裏を掠めるのは前世の恋人。
アヴェルスと違って本当にエルトリーゼ、セツナを愛してくれていた大切なひと。
現実には途切れた彼との幸福な生活をもう一度紡げるのなら、アヴェルスから逃れることができるのなら、それだけでいい。
(花火大会に行こうって、約束したのにそれも叶えられなかったし……)
あのときのシヅルの嬉しそうな笑顔を今も忘れない。
あのあと、彼はどうしたのだろう?
花火大会には行ったのだろうか? 自分は死んでしまったから、その後の彼について何も知らない。
そんなことをぼんやりと思いながら、エルトリーゼは深い眠りの底へ落ちていった。
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