ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ

文字の大きさ
5 / 25

◇五話◇

しおりを挟む
 帰りたくなかった。
 正しくは、ランヴァルドに会いたくなかった。
(はぁ……最初から分かっていたことではありませんか)
 ふらふらと街を歩きながらオデットは考える。
 あてもなく歩き続けたせいか、時間としてはそろそろランヴァルドが屋敷に戻ってくるころだろう。
(幸い、私とねえさんは似ていませんし……面影を重ねるようなことはないと思いますが。
 やはり、触れられるのはいやです)
 優しく愛をささやかれて、キスをされて、そんな関係が悲しくてしようがない。
(私はただ、魔術師としてあなたの役にたてればそれでよかったのに)
 妻になりたいなんて、望んでいなかった。
 同僚として、彼の役にたてればそれだけで幸せだったのに。
(いけません、三日後にはおおきな作戦があるのです。
 しっかりしないと……)
 ぱちんと頬をたたいて、屋敷への道を歩きだす。
(いやでもなんでも私はあのひとの妻なのです、役割をはたさなくては……)
 悲しい気持ちがこみあげてくる、むなしさもあった。
 けれどオデットは帰り道を急いだ。

 ……。
 結局、オデットが戻るとすでにランヴァルドは屋敷にいて。
 それはもうすがすがしいほどの作り笑いで出迎えてくれた。
 怒っているのは傍目にもあきらかで、覚悟はしていたのだが。

 現在オデットはベッドの上でランヴァルドにうしろから抱きしめられていた。
 頬をなぞる指先がくすぐったい。
「――あの、ランヴァルド様……眠れません」
 昼間見た姉とランヴァルドのこともあって、今日ははやく寝てしまいたいのに。
 なにより、勘違いしそうになってしまう自分がいやでたまらないのだ。
「オデット、今日もユーグと仲がよさそうだったね」
「っ、見ていらしたのですか⁉」
 オデットからはランヴァルドの表情をうかがえないが、
 唇を彼の指がなぞり、頤をなぞり首筋をたどる。
「きみたちは本当にただの幼馴染かい?」
「疑っていらっしゃるのですか?」
「きみは、彼といるときよく笑うからね」
「そ、れは……」
 ランヴァルドの前で笑顔になれないのは、
 どうしても彼の言葉を信じられないからだ。
 もしも愛されていると思ったら、きっとうれしくて、うれしくて。
 それがもし嘘だったときに、耐えきれなくなってしまう。

「ユーグとはつきあいがながいので、楽なのです。それだけですよ」
「私もきみとはそれなりにながいつきあいだと思うのだがね」
「あ、あなたは、地位も立場も違います。私にとっては雲の上のひとで……っ」
 ランヴァルドの唇がうなじに触れて、オデットの言葉がとだえる。
「そう、じゃあきみにとっては彼のほうが私より身近に感じられるわけだ」
「――ずるいですよ、そんな言いかた」
「やきもちだよ、きみがほかの男にばかり笑いかけて、楽しそうにするから」
「っ……もう、眠りませんか。体調管理をしておきませんと」
 もっともらしいことを言うなり、オデットは目を閉じた。
「お、おやすみなさい、ランヴァルド様」
「……ああ、おやすみ。オデット」
 ランヴァルドは青い瞳を細めて、オデットの髪にキスをする。

 しばらく、彼は起きていた。
 腕のなかですうすうと寝息をたてはじめた無防備なオデットを見つめて。
「……、オデット。私を信じてはくれないのかい」
 ユーグよりも、身近に感じてほしかった。
 たしかにオデットは結婚話がでるより前からランヴァルドに一定の距離を置いていた、その理由も知っている。
 だが、ランヴァルドよりもユーグのほうを身近に感じるという言葉を聞いたとき。
 彼女の声がかれるまで啼かせてやりたいと思った。
「……、おやすみ、オデット」
 愛しているのに、壊してしまいたくなる。
 その矛盾を抱えながら、ランヴァルドも眠りについた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

処理中です...