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二部
◇オデットの苦悩◆
いったいどうすればいいのだろうか。
悩みはしたが、とにかくアンネリースや家族を守らねばならない。
オデットは荷物をまとめると、ランヴァルドにはなにも話さないでくれと頼んで屋敷を出た。
無茶なことを言っている自覚はあるのだが、それでも、彼にまで迷惑をかけたくはなかった。
どちらにせよ、期限は三日だ。
とりあえず、どこかに宿をとらねばならないと街をまわったのだが、どうしてかどこの宿屋でも断られる。
困り果てたオデットがふらふらと街を歩いていると、声をかけられた。
「オデット? どうしたんだ? そんな荷物を持って」
「ユーグ……!」
巡回中らしい幼馴染の姿に、オデットはぱっと顔をあげて駆け寄った。
「ユーグ、お願いがあるんです。あなたのところに泊めてくれませんか?」
「――は?」
彼は怪訝そうな顔をする。
「なんでだよ、副団長にかぎっておまえを外に放り出すとは思えないし、いったいなにがあったんだ?」
「それについては、今は詳しくお話しできないのですが……ダメ、ですか?
どこの宿も断られてしまって……」
ユーグはしばし悩んだようすだったが、やがて、しぶしぶといったようすで頷いた。
「しようがないな……宿がとれないんじゃ、ほうっておくわけにもいかないしな」
「――ありがとうございます! ユーグ!」
ほっとしたのか、明るくなったオデットの表情にユーグは目を細める。
ユーグはもともと男爵家の出身で、屋敷から通っているひとりだ。
オデットが彼の屋敷に入るなり、ぱたぱたと小さな足音が響く。
「おかえりお兄様! って、あれ? オデット様!」
彼には弟が二人、妹が二人居る。
小さな子供たちにあっというまに囲まれたオデットは、久しぶりに会うその子たちに微笑んだ。
「おじゃまします、元気でしたか?」
「もちろん! オデット様もお元気そうでなによりです」
長女にあたる少女がうやうやしく礼をすると、その額をユーグが指ではじく。
「おまえら、今はあんまりオデットにたかるな。遊び相手なら俺がしてやるから」
「どうして? なにかあったの? お兄様」
「いいから。オデット、部屋に案内する」
「……ありがとうございます、ユーグ」
微苦笑を浮かべるオデットが憔悴しているのに、ユーグはどうやら気づいているようだった。
とおされた部屋で、オデットは封筒を見つめる。
三日以内に提出しなければならないとなると、一度、ランヴァルドの屋敷に戻ってこれにサインをしてもらう必要があるのだが、無論それは不可能だろう。
ツェリアもそれは分かっているはずだ。
そしてきっと彼女はオデットが魔術師であることを知っている。
「……しようがないなんて、わりきれませんけれど」
それでも、アンネリースを、家族を見捨てることなどできようはずもない。
覚悟を決めて、オデットは双眸を閉じた。
その頬を、透明な雫が流れて落ちる。
……。
屋敷に戻ってきたランヴァルドは、それはもう不機嫌だった。
使用人たちを問いただしても一様に口をつぐみ、オデットの行先について、なぜオデットがいないのかについて誰一人話さない。
彼女は使用人たちにも好かれていたから、庇うのは分かるのだが、ランヴァルドにも話せないとなると相当な理由があるのだろう。
そしてそれはきっと、ランヴァルドが騎士団に居た今日の午前に起きて――つまり、お姫様がらみのことなのだろう。
「――……オデット」
愛しい妻のいない部屋はいつもより暗く感じて、ランヴァルドは小さなため息を吐く。
ただでさえ、彼女はいま身籠っているというのに。
明日には居場所をつきとめようと心に誓って、彼は眠れぬ夜を過ごすことになる。
悩みはしたが、とにかくアンネリースや家族を守らねばならない。
オデットは荷物をまとめると、ランヴァルドにはなにも話さないでくれと頼んで屋敷を出た。
無茶なことを言っている自覚はあるのだが、それでも、彼にまで迷惑をかけたくはなかった。
どちらにせよ、期限は三日だ。
とりあえず、どこかに宿をとらねばならないと街をまわったのだが、どうしてかどこの宿屋でも断られる。
困り果てたオデットがふらふらと街を歩いていると、声をかけられた。
「オデット? どうしたんだ? そんな荷物を持って」
「ユーグ……!」
巡回中らしい幼馴染の姿に、オデットはぱっと顔をあげて駆け寄った。
「ユーグ、お願いがあるんです。あなたのところに泊めてくれませんか?」
「――は?」
彼は怪訝そうな顔をする。
「なんでだよ、副団長にかぎっておまえを外に放り出すとは思えないし、いったいなにがあったんだ?」
「それについては、今は詳しくお話しできないのですが……ダメ、ですか?
どこの宿も断られてしまって……」
ユーグはしばし悩んだようすだったが、やがて、しぶしぶといったようすで頷いた。
「しようがないな……宿がとれないんじゃ、ほうっておくわけにもいかないしな」
「――ありがとうございます! ユーグ!」
ほっとしたのか、明るくなったオデットの表情にユーグは目を細める。
ユーグはもともと男爵家の出身で、屋敷から通っているひとりだ。
オデットが彼の屋敷に入るなり、ぱたぱたと小さな足音が響く。
「おかえりお兄様! って、あれ? オデット様!」
彼には弟が二人、妹が二人居る。
小さな子供たちにあっというまに囲まれたオデットは、久しぶりに会うその子たちに微笑んだ。
「おじゃまします、元気でしたか?」
「もちろん! オデット様もお元気そうでなによりです」
長女にあたる少女がうやうやしく礼をすると、その額をユーグが指ではじく。
「おまえら、今はあんまりオデットにたかるな。遊び相手なら俺がしてやるから」
「どうして? なにかあったの? お兄様」
「いいから。オデット、部屋に案内する」
「……ありがとうございます、ユーグ」
微苦笑を浮かべるオデットが憔悴しているのに、ユーグはどうやら気づいているようだった。
とおされた部屋で、オデットは封筒を見つめる。
三日以内に提出しなければならないとなると、一度、ランヴァルドの屋敷に戻ってこれにサインをしてもらう必要があるのだが、無論それは不可能だろう。
ツェリアもそれは分かっているはずだ。
そしてきっと彼女はオデットが魔術師であることを知っている。
「……しようがないなんて、わりきれませんけれど」
それでも、アンネリースを、家族を見捨てることなどできようはずもない。
覚悟を決めて、オデットは双眸を閉じた。
その頬を、透明な雫が流れて落ちる。
……。
屋敷に戻ってきたランヴァルドは、それはもう不機嫌だった。
使用人たちを問いただしても一様に口をつぐみ、オデットの行先について、なぜオデットがいないのかについて誰一人話さない。
彼女は使用人たちにも好かれていたから、庇うのは分かるのだが、ランヴァルドにも話せないとなると相当な理由があるのだろう。
そしてそれはきっと、ランヴァルドが騎士団に居た今日の午前に起きて――つまり、お姫様がらみのことなのだろう。
「――……オデット」
愛しい妻のいない部屋はいつもより暗く感じて、ランヴァルドは小さなため息を吐く。
ただでさえ、彼女はいま身籠っているというのに。
明日には居場所をつきとめようと心に誓って、彼は眠れぬ夜を過ごすことになる。
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