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二部
◇終幕◆
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隣国からやって来た騎士と姫君は戻っていった。
『イジワルしてわるかったわ、ごめんなさい』
ツェリアは最後、オデットにそれだけ告げて行った。
国に戻ってから、さんざんなほどに叱られたというのはあとからアニタの手紙で知った。
姫としての立場を失わずにすむことは、オデットとランヴァルド、そしてアニタとザクセンの温情があってのものだと、
そうでなければ、王城から追放される寸前であったこと。
それらを聞いて、ツェリアもまた自分の立場というものを自覚したようだと、手紙には書いてあった。
その後、朝からアーノルト伯爵邸前で起きた事件と、オデットが苦悩していたここ最近のことについて、ユーグとオデットの姉のアンネリースはとても怒っていたし、悲しんでもいた。
ユーグは「身重の身体でなんて術を使ってるんだおまえは!」と、ゴロツキを拘束しにとんできた際にオデットを叱った。
あの時オデットが使用した術は、敵の数が多ければ多いほど大量の魔力を消費する。
そのことに、ユーグは心配し、そして怒っているようだった。
アンネリースは「あなたがつらい思いをしているときに、のうのうとすごしていた自分が許せないわ」とおちこんでいた。
が、同時に「ふ、ふふふ……タダではすましませんわ。わたくしのかわいいオデットにこんなふざけたマネをなさるなんて……」と小声で呟いていた。
いつもの優しい天使のような姉と違ったので、オデットは不思議に思ったものだ。
多大な心配をかけてしまったと、オデットは謝ったのだが、
二人とも謝らなくていいから今度はきちんと話してくれと言った。
そして現在、オデットは寝室のベッドに座るランヴァルドにうしろから抱きしめられる形で座っていた。
「きみも、おなかの子たちも無事でよかった」
オデットを抱きしめてそう言うランヴァルドに、困ったように微笑む。
「ええ、すみません。すこしだけ無理をしてしまいました」
「きみのおかげで全員拘束できたのはたしかだ、しかし、今後はもうこんな無茶はやめてくれ。きみと子供たちになにかあったらと思うと……耐えられない」
「――はい」
優しく腹部を撫でたオデットの手に、ランヴァルドの手が重なる。
「ところで、オデット、私はまだ聞いていないのだが……屋敷に居ないあいだ、きみはいったいどこに行っていたんだい?」
びくりとオデットの身体が震える。
それはとても触れられたくない話だった。
「あ、あの……宿を、とって……」
「……あの時、どの宿も姫様がきみをうけいれないよう指示していたようだが?」
「……その」
ランヴァルドから視線を逸らすオデットの頤を支え、顔をあげさせると、彼はにこりと微笑む。
「どこに、行っていたんだい?」
「……ユーグの……ところに」
おそるおそる言葉を紡ぐと、彼はやはりといったようすで、オデットをぎゅうと抱きしめた。
「……そうか。そうだろうと思っていたよ。きみを泊めてくれたことは感謝している」
だけど、とランヴァルドはオデットの耳にキスをする。
「ほかの男と、それもきみと一番長い時間を過ごしてきた男と一緒に居たのだと思うと、やはり少し妬けるものだね。
公園で見かけたときも、ザクセンと一緒にいたし……本当はあの時、きみに駆け寄って抱きしめたかったよ」
「それは、私だって同じです……っ」
頬を染めて涙目で言うオデットに、ランヴァルドは小さく笑った。
「かわいらしいことを言うね」
「だって、本当のことです。私だって、ずっとあなたに会いたくて……本当はあなたに全部話してしまいたくて……」
今更になってあふれてきた涙を、彼の手が優しく拭う。
「ああ。またなにかあったら、その時は、きっと私のことを頼ってほしい」
「――はい」
優しい時間が流れることに安堵して、オデットもランヴァルドも瞳を閉じる。
それはとても、幸福な時間だった。
「愛しているよ、オデット。いつまでも」
「私もです、ランヴァルド様。ずっとずっと、愛しております」
……それからしばらくして、オデットにそっくりな男の子と、ランヴァルドによく似た女の子が産まれた。
二人とも魔術の才能に恵まれ、剣の才能にも恵まれた。
やがて魔術と剣の両方を使いこなす天才として、名を馳せていくことになる。
長男、弟は男性にしてはめずらしく、特に魔術に優れており、軍師としての才能もあり騎士団を支えた。
長女、姉はランヴァルドに負けず劣らずの剣の腕前を見せ、戦乙女と呼ばれ前線に立った。
オデットとランヴァルドは生涯、そんな二人の子供たちを愛し、見守っていった。
――幸せな家族だと周囲に羨まれるほど、アーノルト伯爵家はいつもあたたかい時が流れていたという。
END
『イジワルしてわるかったわ、ごめんなさい』
ツェリアは最後、オデットにそれだけ告げて行った。
国に戻ってから、さんざんなほどに叱られたというのはあとからアニタの手紙で知った。
姫としての立場を失わずにすむことは、オデットとランヴァルド、そしてアニタとザクセンの温情があってのものだと、
そうでなければ、王城から追放される寸前であったこと。
それらを聞いて、ツェリアもまた自分の立場というものを自覚したようだと、手紙には書いてあった。
その後、朝からアーノルト伯爵邸前で起きた事件と、オデットが苦悩していたここ最近のことについて、ユーグとオデットの姉のアンネリースはとても怒っていたし、悲しんでもいた。
ユーグは「身重の身体でなんて術を使ってるんだおまえは!」と、ゴロツキを拘束しにとんできた際にオデットを叱った。
あの時オデットが使用した術は、敵の数が多ければ多いほど大量の魔力を消費する。
そのことに、ユーグは心配し、そして怒っているようだった。
アンネリースは「あなたがつらい思いをしているときに、のうのうとすごしていた自分が許せないわ」とおちこんでいた。
が、同時に「ふ、ふふふ……タダではすましませんわ。わたくしのかわいいオデットにこんなふざけたマネをなさるなんて……」と小声で呟いていた。
いつもの優しい天使のような姉と違ったので、オデットは不思議に思ったものだ。
多大な心配をかけてしまったと、オデットは謝ったのだが、
二人とも謝らなくていいから今度はきちんと話してくれと言った。
そして現在、オデットは寝室のベッドに座るランヴァルドにうしろから抱きしめられる形で座っていた。
「きみも、おなかの子たちも無事でよかった」
オデットを抱きしめてそう言うランヴァルドに、困ったように微笑む。
「ええ、すみません。すこしだけ無理をしてしまいました」
「きみのおかげで全員拘束できたのはたしかだ、しかし、今後はもうこんな無茶はやめてくれ。きみと子供たちになにかあったらと思うと……耐えられない」
「――はい」
優しく腹部を撫でたオデットの手に、ランヴァルドの手が重なる。
「ところで、オデット、私はまだ聞いていないのだが……屋敷に居ないあいだ、きみはいったいどこに行っていたんだい?」
びくりとオデットの身体が震える。
それはとても触れられたくない話だった。
「あ、あの……宿を、とって……」
「……あの時、どの宿も姫様がきみをうけいれないよう指示していたようだが?」
「……その」
ランヴァルドから視線を逸らすオデットの頤を支え、顔をあげさせると、彼はにこりと微笑む。
「どこに、行っていたんだい?」
「……ユーグの……ところに」
おそるおそる言葉を紡ぐと、彼はやはりといったようすで、オデットをぎゅうと抱きしめた。
「……そうか。そうだろうと思っていたよ。きみを泊めてくれたことは感謝している」
だけど、とランヴァルドはオデットの耳にキスをする。
「ほかの男と、それもきみと一番長い時間を過ごしてきた男と一緒に居たのだと思うと、やはり少し妬けるものだね。
公園で見かけたときも、ザクセンと一緒にいたし……本当はあの時、きみに駆け寄って抱きしめたかったよ」
「それは、私だって同じです……っ」
頬を染めて涙目で言うオデットに、ランヴァルドは小さく笑った。
「かわいらしいことを言うね」
「だって、本当のことです。私だって、ずっとあなたに会いたくて……本当はあなたに全部話してしまいたくて……」
今更になってあふれてきた涙を、彼の手が優しく拭う。
「ああ。またなにかあったら、その時は、きっと私のことを頼ってほしい」
「――はい」
優しい時間が流れることに安堵して、オデットもランヴァルドも瞳を閉じる。
それはとても、幸福な時間だった。
「愛しているよ、オデット。いつまでも」
「私もです、ランヴァルド様。ずっとずっと、愛しております」
……それからしばらくして、オデットにそっくりな男の子と、ランヴァルドによく似た女の子が産まれた。
二人とも魔術の才能に恵まれ、剣の才能にも恵まれた。
やがて魔術と剣の両方を使いこなす天才として、名を馳せていくことになる。
長男、弟は男性にしてはめずらしく、特に魔術に優れており、軍師としての才能もあり騎士団を支えた。
長女、姉はランヴァルドに負けず劣らずの剣の腕前を見せ、戦乙女と呼ばれ前線に立った。
オデットとランヴァルドは生涯、そんな二人の子供たちを愛し、見守っていった。
――幸せな家族だと周囲に羨まれるほど、アーノルト伯爵家はいつもあたたかい時が流れていたという。
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