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ヤット タビニデル
ミッション1-9 とりあえず酒場のお手伝い
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ガキんちょ、と笑った店長さんの顔からは疲れなり焦りなりが伺えた。
やーっぱ無理してのか。オネェさんいないと戦力激減!って妹が言ってたもんな。
でもま、聞けば案外簡単なことだった。
カップル客には2人用テーブル席。1人客はカウンターか大人数用テーブル席に案内するだけ。
そういう日だ、と分かる看板も掛かってる。あとはお客同士で決める。
うん、分かりやすい。
俺と妹は分かりました、と返事をして開店準備に取りかかった。
◆ ◆ ◆
「こんばんは。お席、こちらになります」
夜になるのはあっという間で、酒場は騒がしくはないけれど賑わい始めた。
男女比を考えつつ、歩き慣れたフロアを案内し、注文を取ってカウンターへ向かう。
店長は注文票を受け取りながら、よしよし、と呟いてフロアをじっくり眺めていた。
「お前のにいちゃん、やるじゃねえか」
「でしょ?自慢の兄です♪」
兄は初の手伝いにも関わらず、初日の私よりずっと落ち着いていて、1人来店の客には積極的に話しかけ、引き合わせてみたり。カップルにはカウンター寄りか出来るだけ静かな方がいいか気さくに微笑み、呼ばれれば即反応、品物を運ぶのだってバーの店員かってくらい格好が付いている。
「お陰で私、あんまりフロアに出てないですけどね」
今夜、うまく出来るかどうか緊張し過ぎていたのに、今はもう平常心そのもの。
フロアを任せっきりでも大丈夫そうな兄に尊敬の念を送りつつ、私は空いて下げられた食器を丁寧に、なるべく手際よく洗っていく。
洗い終わったものは店長が確認して、またお客の元へと運ばれていく。
あれー?イケメン店長とイケメン兄だけでお店回せてるじゃないですか、やダー。いや、回らないと困るんだけど!
「いいんじゃねぇの?食器は洗ってやんなきゃすぐ無くなるんだしな」
「そうですけど、なんか、こう、私も頑張るぞ!って、気持ちが空回り気味というか…」
逃げることばかり選んでいる自分が情けなく思えてしょうがないっていうか。
「…お前、食器を洗うの上手くなったよな」
「はい?そ、うです、ね」
初日の時は洗い残しだとか、くすんでるとか、グラス割るとか。店長に散々言われたものだけど、手伝い始めて数日の今では食器を洗うことにおいては何も言われなくなっていた。
で、それが何なのか?
「ガキんちょー、これ5番テーブルな」
「はーい♪」
呼ばれた兄がカウンターにやってきて、私にウィンクを残して去っていく。
なにあれ、カッコいい。
「人間、適正ってのがあるんだよ。お前、ホントは接客より黙々と食器洗ってる方が好きだろ」
うぐっ。
「さ、さすがの観察眼ですね!」
「んで、お前のにいちゃんは興味があればぐいぐい行く」
色々あってその通りですっ。
「そういうものを上手く合わせてこそ、順調ってモンになるんだ。だから、何だ」
注文が落ち着いたのか、グラスを磨き始めた店長が言葉を選びながら、チラッと横目で私を見る。
「頑張った分だけ、今はラクしたっていいんじゃねぇの?店が混むまではな」
…これは、気を遣われて?それとも慰められている?!
今の私じゃ兄には敵わないって落ち込んでいることがバレていらっしゃる感じですか!
うはー、からかってこない店長、変な感じするぅ。
「んだよ、その顔は」
え、あ、戸惑いが出てました?
「えーと、えっと、うん、なんだか楽になりました!気持ち!ありがとうございます!」
食器を洗う手を止めて、店長に一礼する。店長は、食器洗うのは止めんな、とだけ返してグラス磨きを再開した。
あえてあんまり顔を見ないようにしてるとか、格好良くてちょっと、泣けてきたじゃないか!
「も、もうすぐこっちだって洗うものがなくなるんですよ!」
そう言って、私も食器洗いに戻る。
へこたれ過ぎてたんだね、私。
逃げてる自覚があるから、受け止めてくれる兄の存在が、嬉しくてでも申し訳なくって、それが今少し、溢れてしまったんだ。
もっと、ちゃんとしなきゃ、な…。
◆ ◆ ◆
店は順調♪回転率も良し!
もしかしたら生まれるかもしれない恋のお手伝い…いい、なぜか気持ちいい!っと、何だ?
さっきまで耳心地のよかったお客の話し声が、不快なざわめきとなって店を騒がせる。
俺は片付けていたテーブルから、入り口へと視線を送った。そこにいたのは。
「おっちゃん!それ、に…?」
王子じゃね?おっちゃんの隣にいるの。
俺は片付けを中断して接客に向かおうとしたが、王子のヤロー、勝手にカウンターに向かっていきやがる。
おっちゃんも止めずに、しかも王子の隣じゃなくて近くの相席用に、だと?!
「おっちゃん!おっちゃんってば!」
「そう大声を出さずとも聞こえている」
おっちゃんの元に駆けた俺は、そーゆーんじゃなくて!と王子とおっちゃんを交互に見やった。
「このようなことは、今回限りだ。私とて全てを納得しているわけではない」
絞り出すような声は、そう。緊張だ。緊張に震えていた。
とりあえず、店長さんの指示が飛んできたので俺は片付けてに戻ったが、カウンター席に座り、グラスの酒に全く口を付けずに妹を見つめる王子のヤローが気になって仕方ありません。
落ち着けっ。これは片付けなんだから、いっぺんカウンター側に戻れるんだ!
そう心に言い聞かせて、俺は素早く手を動かした。
やーっぱ無理してのか。オネェさんいないと戦力激減!って妹が言ってたもんな。
でもま、聞けば案外簡単なことだった。
カップル客には2人用テーブル席。1人客はカウンターか大人数用テーブル席に案内するだけ。
そういう日だ、と分かる看板も掛かってる。あとはお客同士で決める。
うん、分かりやすい。
俺と妹は分かりました、と返事をして開店準備に取りかかった。
◆ ◆ ◆
「こんばんは。お席、こちらになります」
夜になるのはあっという間で、酒場は騒がしくはないけれど賑わい始めた。
男女比を考えつつ、歩き慣れたフロアを案内し、注文を取ってカウンターへ向かう。
店長は注文票を受け取りながら、よしよし、と呟いてフロアをじっくり眺めていた。
「お前のにいちゃん、やるじゃねえか」
「でしょ?自慢の兄です♪」
兄は初の手伝いにも関わらず、初日の私よりずっと落ち着いていて、1人来店の客には積極的に話しかけ、引き合わせてみたり。カップルにはカウンター寄りか出来るだけ静かな方がいいか気さくに微笑み、呼ばれれば即反応、品物を運ぶのだってバーの店員かってくらい格好が付いている。
「お陰で私、あんまりフロアに出てないですけどね」
今夜、うまく出来るかどうか緊張し過ぎていたのに、今はもう平常心そのもの。
フロアを任せっきりでも大丈夫そうな兄に尊敬の念を送りつつ、私は空いて下げられた食器を丁寧に、なるべく手際よく洗っていく。
洗い終わったものは店長が確認して、またお客の元へと運ばれていく。
あれー?イケメン店長とイケメン兄だけでお店回せてるじゃないですか、やダー。いや、回らないと困るんだけど!
「いいんじゃねぇの?食器は洗ってやんなきゃすぐ無くなるんだしな」
「そうですけど、なんか、こう、私も頑張るぞ!って、気持ちが空回り気味というか…」
逃げることばかり選んでいる自分が情けなく思えてしょうがないっていうか。
「…お前、食器を洗うの上手くなったよな」
「はい?そ、うです、ね」
初日の時は洗い残しだとか、くすんでるとか、グラス割るとか。店長に散々言われたものだけど、手伝い始めて数日の今では食器を洗うことにおいては何も言われなくなっていた。
で、それが何なのか?
「ガキんちょー、これ5番テーブルな」
「はーい♪」
呼ばれた兄がカウンターにやってきて、私にウィンクを残して去っていく。
なにあれ、カッコいい。
「人間、適正ってのがあるんだよ。お前、ホントは接客より黙々と食器洗ってる方が好きだろ」
うぐっ。
「さ、さすがの観察眼ですね!」
「んで、お前のにいちゃんは興味があればぐいぐい行く」
色々あってその通りですっ。
「そういうものを上手く合わせてこそ、順調ってモンになるんだ。だから、何だ」
注文が落ち着いたのか、グラスを磨き始めた店長が言葉を選びながら、チラッと横目で私を見る。
「頑張った分だけ、今はラクしたっていいんじゃねぇの?店が混むまではな」
…これは、気を遣われて?それとも慰められている?!
今の私じゃ兄には敵わないって落ち込んでいることがバレていらっしゃる感じですか!
うはー、からかってこない店長、変な感じするぅ。
「んだよ、その顔は」
え、あ、戸惑いが出てました?
「えーと、えっと、うん、なんだか楽になりました!気持ち!ありがとうございます!」
食器を洗う手を止めて、店長に一礼する。店長は、食器洗うのは止めんな、とだけ返してグラス磨きを再開した。
あえてあんまり顔を見ないようにしてるとか、格好良くてちょっと、泣けてきたじゃないか!
「も、もうすぐこっちだって洗うものがなくなるんですよ!」
そう言って、私も食器洗いに戻る。
へこたれ過ぎてたんだね、私。
逃げてる自覚があるから、受け止めてくれる兄の存在が、嬉しくてでも申し訳なくって、それが今少し、溢れてしまったんだ。
もっと、ちゃんとしなきゃ、な…。
◆ ◆ ◆
店は順調♪回転率も良し!
もしかしたら生まれるかもしれない恋のお手伝い…いい、なぜか気持ちいい!っと、何だ?
さっきまで耳心地のよかったお客の話し声が、不快なざわめきとなって店を騒がせる。
俺は片付けていたテーブルから、入り口へと視線を送った。そこにいたのは。
「おっちゃん!それ、に…?」
王子じゃね?おっちゃんの隣にいるの。
俺は片付けを中断して接客に向かおうとしたが、王子のヤロー、勝手にカウンターに向かっていきやがる。
おっちゃんも止めずに、しかも王子の隣じゃなくて近くの相席用に、だと?!
「おっちゃん!おっちゃんってば!」
「そう大声を出さずとも聞こえている」
おっちゃんの元に駆けた俺は、そーゆーんじゃなくて!と王子とおっちゃんを交互に見やった。
「このようなことは、今回限りだ。私とて全てを納得しているわけではない」
絞り出すような声は、そう。緊張だ。緊張に震えていた。
とりあえず、店長さんの指示が飛んできたので俺は片付けてに戻ったが、カウンター席に座り、グラスの酒に全く口を付けずに妹を見つめる王子のヤローが気になって仕方ありません。
落ち着けっ。これは片付けなんだから、いっぺんカウンター側に戻れるんだ!
そう心に言い聞かせて、俺は素早く手を動かした。
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