夏町の涼葉

天倉永久

文字の大きさ
7 / 7

最終話 白い夏へ

しおりを挟む
天音がいなくなった夏の世界で、私は残り少ない注射を使い切り、向精神薬も飲みつくしていた。だから……今日が最後の一日になる……もうおかしくなるのは嫌だからそう決めていた……

「灯。起きて」

「うーん……」

「君。寝すぎだよ」

灯と過ごしてわかったことは目覚めが悪いこと。ずっと明るい夏の空が続いているから当然かもしれないけど、流石に灯は寝すぎだと思う。

「……寝かせてくれよ……空が夢に出てくれるんだ……」

妹の夢ばかり見ているらしく、夏屋敷が白い炎で燃えて以来ずっとこんな調子だ。中々可愛らしい奴だから体まで差し出してやったのに……

「ほら、白い夏がもうすぐ始まりそうだから」

私はまだ眠そうな灯を布団から引きずり出す。彼は眠そうな目を何度も擦る仕草が可愛かったので、私は思わず笑った……

「最後の食事」

「うん……」

「この夏町にはもう何もない」

「知ってる……空が白い……」

天音が姿を現さなくなって、気味の悪いくらいの青空は少しずつ白くなっている。私には高揚感でしかないから、最後の食事としてパンケーキを用意した。これから死ぬ灯のために。
本当は生クリームの上に果物がたっぷりと乗った甘いケーキを用意したかったけど、材料がないからパンケーキが限界だった。粉末のタマゴと小麦粉しかなかったから……

「どうして死にたいの?」

私が笑いながら訊くと

「空がいないんだ……天音と一緒に消えたみたいで僕には苦痛だ……だから死にたい……」

そう空しそうに灯は答えた。

灯は私が作ったパンケーキを一口食べると、奥の部屋へと行く……

「……涼葉に会えてよかった……」

「……私も君と会えてどれだけ幸せか……」

「これで空にまた会える。ありがとう」

灯は奥の部屋で首を吊る……しばらくじたばたした後……動かなくなった……

「好きだよ」

そう言い残して私は外へと出る。パンケーキに手を付けないまま……
夏の外は明るい白い光の空がどこまでも続いている。
だから私は、一人で誰もいない夏町の砂浜で、一人綺麗な白い夏の空をいつまでも見つめた……

「ここが私の居場所。もう誰にも傷つけられなくていい」

……私がふと前を見ると……愛おしい人が私を見て笑っていた……
……だから……不思議と私も微笑んだ……
……それは暑いのか寒いのかもわからない白い夏の日々……
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

処理中です...