1 / 4
(一)
しおりを挟む
「お姉ちゃん、まだあ」
先に外に出た妹の若菜の声がした。もう五分も待たせてしまっている。
ようやく出かける支度を終えた私は、慌てて玄関にやってきた。持っていた手提げを脇の下駄箱の上に置き、下駄箱からスニーカーを出して玄関に音を立てて置いた。
その音と同時に今度は背後から弟の敏夫に声をかけられた。
「姉さん、お金!」
「お金って何よ」
ぶしつけな弟に、私はスニーカーに片足に入れながら答えた。
「だから昨日言ったじゃない、那鹿島たちと自由研究をするために水族館に行くって」
そう言われてみれば、そうだった。昨夜夕食のときに、確かクラスメートたちと一緒に行く、って言ってたっけ。すっかり忘れていたわ。
「ああ、そうだったわね。気をつけて行ってくるのよ」
靴紐が少しきつくて足がすんなり入らなかった。半分入れたところで靴のかかと部分を踏まないように靴の中でつま先立ちをしながら、下駄箱に引っかけてある木製の長い靴べらを手に取り、かかとに差し込んだ。
「そうじゃなくて! 僕、お金持ってないから、ちょうだいよ」
敏夫は手の平を、上に向けてまっすぐこっちに突き出してきた。
「お小遣いはどうしたの?」
靴を履く作業をいったん止めて、弟の顔を見た。少し怒っていた。
「電車に乗って行くんだよ。小学六年生のお小遣いだけじゃ足りないに決まっているじゃないか」
そういえば、昨日そんなことを言っていたわね。イマドキの小学生は結構な額のお小遣いをもらっているらしいけど、うちは父の方針でお小遣いはかなり少額。電車に乗って水族館に行くには足りないはず。
「お姉ちゃん、まだあ」
外にいる妹が再び声をかけてきた。急がなくっちゃ。
「もうしょうがないわね」
そう言って手提げから財布を取り出した。そして財布を開けて五千円札を敏夫に渡した。
「いまこれしかないから。使い切るんじゃないわよ」
「ありがとう」
敏夫の声に被せるように「ねえー、まだあ」と再び若菜の声がした。もうだめだ、これ以上待たせるわけにはいかない。
私は財布を下駄箱の上に置いた。
「じゃあ、買い物しに街まで行ってくるから。ちゃんと玄関の鍵をかけていくのよ」
もう片方のスニーカーを履きながらそう言った。まだかかとが入っていなかったが、手提げ袋を手に取り、靴のつま先を地面にトントンさせながら慌てて外へ出た。
「わかってるよ。うるさいなあ、姉さんは。もう子どもじゃないんだから」
背後から敏夫の声を聞きながら妹に「お待たせ」と声をかけた。
「早く行こう。セール品、売り切れちゃうよ」
「そうね、行きましょう」
そうして私は若菜と一緒に歩き始めた。
(続く)
先に外に出た妹の若菜の声がした。もう五分も待たせてしまっている。
ようやく出かける支度を終えた私は、慌てて玄関にやってきた。持っていた手提げを脇の下駄箱の上に置き、下駄箱からスニーカーを出して玄関に音を立てて置いた。
その音と同時に今度は背後から弟の敏夫に声をかけられた。
「姉さん、お金!」
「お金って何よ」
ぶしつけな弟に、私はスニーカーに片足に入れながら答えた。
「だから昨日言ったじゃない、那鹿島たちと自由研究をするために水族館に行くって」
そう言われてみれば、そうだった。昨夜夕食のときに、確かクラスメートたちと一緒に行く、って言ってたっけ。すっかり忘れていたわ。
「ああ、そうだったわね。気をつけて行ってくるのよ」
靴紐が少しきつくて足がすんなり入らなかった。半分入れたところで靴のかかと部分を踏まないように靴の中でつま先立ちをしながら、下駄箱に引っかけてある木製の長い靴べらを手に取り、かかとに差し込んだ。
「そうじゃなくて! 僕、お金持ってないから、ちょうだいよ」
敏夫は手の平を、上に向けてまっすぐこっちに突き出してきた。
「お小遣いはどうしたの?」
靴を履く作業をいったん止めて、弟の顔を見た。少し怒っていた。
「電車に乗って行くんだよ。小学六年生のお小遣いだけじゃ足りないに決まっているじゃないか」
そういえば、昨日そんなことを言っていたわね。イマドキの小学生は結構な額のお小遣いをもらっているらしいけど、うちは父の方針でお小遣いはかなり少額。電車に乗って水族館に行くには足りないはず。
「お姉ちゃん、まだあ」
外にいる妹が再び声をかけてきた。急がなくっちゃ。
「もうしょうがないわね」
そう言って手提げから財布を取り出した。そして財布を開けて五千円札を敏夫に渡した。
「いまこれしかないから。使い切るんじゃないわよ」
「ありがとう」
敏夫の声に被せるように「ねえー、まだあ」と再び若菜の声がした。もうだめだ、これ以上待たせるわけにはいかない。
私は財布を下駄箱の上に置いた。
「じゃあ、買い物しに街まで行ってくるから。ちゃんと玄関の鍵をかけていくのよ」
もう片方のスニーカーを履きながらそう言った。まだかかとが入っていなかったが、手提げ袋を手に取り、靴のつま先を地面にトントンさせながら慌てて外へ出た。
「わかってるよ。うるさいなあ、姉さんは。もう子どもじゃないんだから」
背後から敏夫の声を聞きながら妹に「お待たせ」と声をかけた。
「早く行こう。セール品、売り切れちゃうよ」
「そうね、行きましょう」
そうして私は若菜と一緒に歩き始めた。
(続く)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる