信号の色

筑紫榛名

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(一)

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「水上咲良って覚えてる?」
 新津亜紀はそう言って、ジョッキに三分の一程残っていたビールを飲み干した。
「誰だっけ?」
 俺が聞き返した。
「ほら、中学まで一緒だった子。中学卒業後に引っ越しちゃったじゃない」
 そう言われるまですっかり忘れていた。ただ、忘れてはいたものの、よく覚えている。というかすぐ思い出すことができる。なぜなら水上咲良は、俺の初恋の相手だったからだ。
「彼女、今、こっちに出てきているらしいのよ」
「そうなんだ」
 もう昔の話だし、向こうももう俺のことなんか忘れているはずだ。
「昨日八坂と久しぶりに電話したのよ」
「八坂? 懐かしいなあ。元気でやっているのか?」
「結婚して今は旦那の実家の近くに暮らしているらしいわよ。でね、八坂が言うには、水上咲良、結構ヤバいらしいのよ」
「やばいって、どんな?」
「どうやら、知り合いに片っ端から電話を掛けて、金をせびっているんだって」
 新津は俺に顔を近づけながら言った。そして一切れの厚焼き玉子に箸を入れて半分に割り、その片方を自分の口に放り込んだ。
「そうなのか? だってあの子、金持ちの子だっただろう」
「んー、金持ちっていうか、父親が国家公務員だったんだって。うちの方に来ていたのは地方勤務だったかららしいのよ。その後どうしたとか噂は全然聞かなかったんだけど、何かあったんでしょうね。今では相当お金に困っているらしいわよ」

(続く)
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