聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ

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20.生まれた感情2

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「さあ、治療いたしますわ。怪我をした方はどちらかしら」

「は、はい! こちらです!」

 シルヴィアが声をかけると、一人の兵士が慌てて案内をする。
 そこは、重傷を負った兵士たちが床に寝かされていた。
 血の臭いが充満し、呻き声が満ちている。中にはとどめを願う者さえいた。
 まだ若い兵が看護しているが、人手も物資も不足しているようだ。

「大丈夫ですわ。わたくしが治療いたします」

 そう言って、シルヴィアは祈りを捧げる。
 すると、柔らかな光が兵士たちを包み込み始めた。
 その光に触れた途端、彼らの傷が癒えていく。

「……っ!」

 今にも息絶えてしまいそうだった兵士の一人が目を開いた。そして驚愕の表情を浮かべると、慌てて起き上がる。

「こ、これは……!」

「もう心配ありませんわ」

 シルヴィアが微笑むと、兵士はその場に跪き頭を垂れた。

「せ……聖女さま……。ありがとうございます、ありがとうございます……!」

 涙ながらに感謝する兵士に続いて、他の兵士たちも次々と起き上がり始める。

「あ、ありがとうございます……聖女さま……」

「なんとお礼を申し上げればよいか……!」

 シルヴィアを取り囲み、口々に感謝の言葉を述べる兵士たち。
 そんな彼らにシルヴィアは微笑み返していた。

「皆さんが頑張ってくださったおかげですわ。わたくしはほんの少し手助けをしただけですもの」

「いえ、そんなことはありません! 聖女さまのお力があればこそです!」

「本当に……ありがとうございます……!」

「ああ……本物の聖女さまだ……あんな、うさんくさい神官どもとは違う……」

 シルヴィアの謙虚な姿勢に、兵士たちはますます感動し、涙を流して跪く。

「さあ、他にも怪我をした方は?」

「は、はい! でも、あとは軽傷の者のみなので、自分たちでなんとかできます」

「そうです。聖女さまにこれ以上ご迷惑をおかけするわけには参りません!」

 兵士たちは口々にそう言って、シルヴィアを休ませようとする。
 だが、シルヴィアは首を横に振った。

「わたくしは疲れておりませんわ。それに、怪我人を放ってはおけません」

 そう言って、シルヴィアは兵士たちの治療を続ける。
 やがて、すべての負傷者を治療し終えた頃、大きな歓声が聞こえてきた。

「大公さまが魔物を撃退したぞ!」

「さすが大公さま……!」

 どうやらマテウスが魔物を一掃したらしい。兵士たちは歓喜の声を上げている。
 すると、しっかりした足取りでマテウスが戻ってきた。
 魔物の返り血で汚れているものの、大きな怪我はないようだ。兵士の差し出した布を受け取り、返り血を拭う。

「おい、今回の死者と重症者の数は!?」

「はっ! 死者も重症者もおりません!」

 兵士の報告に、マテウスはぎょっとした顔をした。

「は? え、ちょっと待て。今回の規模で死者も重傷者も無し? んなわけあるか」

「本当です! 聖女さまが癒やしてくださったのです!」

 兵士が叫ぶと、マテウスは今気づいたというようにシルヴィアに視線を向ける。
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