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52.節度を守れそうにない1
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祝福を受けた作物は、辺境の地に根付いてすくすくと育っていった。
他国から仕入れた時はさほど収穫量が上がらなかった作物も、シルヴィアの祝福を受けたことで、成長が促進され、多く収穫できるようになったのだ。
おかげで、飢える者は減り、農作物の生産量も安定し始めている。
懸念事項はまだ残っているものの、おおむね順調と言えるだろう。
しかし、シルヴィアは悲しみに暮れていた。
「ああ……ティア……どうか元気で……」
シルヴィアは瞳を潤ませながら、ティアの首に抱き着いている。
ティアは寂しそうに鳴き声を上げた。
その鳴き声を聞いて、シルヴィアはさらに強く抱きしめる。
「申し訳ありませんわ……わたくしもつらいのです……ですが……」
シルヴィアが悲しげに呟くと、ティアは慰めるようにすり寄ってきた。
「ああ、ありがとうございます……ティア……」
シルヴィアは感謝の気持ちを込めて、ティアの頭を撫でる。
すると、ティアも嬉しそうに喉を鳴らした。
「……おい、大げさすぎるだろ。馬小屋に移すだけじゃねえか」
シルヴィアの後ろから、呆れたような声が聞こえてくる。
その声に反応して振り返ると、呆れた表情をしたマテウスが立っていた。
「だって……ティアと別れるなんて……」
シルヴィアが涙ぐみながら訴えると、マテウスはため息をついた。
「あのなあ……夜は馬小屋で寝るってだけだろ。朝になれば、また会えるんだからよ」
「それはそうですが……」
確かにマテウスの言うとおりなのだが、それでもシルヴィアは悲しみを隠せなかった。
遺跡から連れ帰ってきた子馬ティアは、あっという間に成長して、立派な体格の馬になったのだ。
これまではシルヴィアの部屋で一緒に寝ていたが、とうとう馬小屋に移さなければならない日がやってきた。
そのためシルヴィアは、今生の別れのようにティアに縋りついているのである。
「ティア……どうか元気でいてくださいね」
シルヴィアが優しく語りかけると、ティアは嬉しそうに鳴いた。
ティアの鼻を撫でると、ティアもお返しとばかりに頭を擦り付けてくる。
「ふふっ……くすぐったいですわ」
シルヴィアは笑いながら身をよじらせた。そして再びティアに抱き着き直す。
「さて、そろそろ行くぞ」
そんなシルヴィアの様子を見て、マテウスは呆れたように言った。
「そんな! もうちょっとだけ……」
シルヴィアは懇願するようにマテウスを見るが、彼は首を横に振るだけだ。
「ダメだ。早くしないと日が暮れるだろ?」
マテウスの正論に、シルヴィアは渋々ながらティアから離れた。
「……わかりましたわ」
「よし、いい子だ。じゃあ行くか」
マテウスは満足げな表情を浮かべると、シルヴィアを連れて馬小屋へと向かう。
そして、ティアを馬小屋へと移動させた後、二人は屋敷に戻った。
屋敷に戻って夕食を済ませた後も、シルヴィアはぼんやりとしたままだった。
自分でも、どうしてこうも喪失感に苛まされているのかわからない。
「おいおい、まだ落ち込んでるのか?」
マテウスは心配そうにシルヴィアの顔を覗き込んでくる。
シルヴィアは力なく首を横に振った。
「いえ……大丈夫ですわ。明日にはまた会えますもの……ただ、少し寂しいだけですわ」
シルヴィアは弱々しく微笑むと、椅子から立ち上がった。
他国から仕入れた時はさほど収穫量が上がらなかった作物も、シルヴィアの祝福を受けたことで、成長が促進され、多く収穫できるようになったのだ。
おかげで、飢える者は減り、農作物の生産量も安定し始めている。
懸念事項はまだ残っているものの、おおむね順調と言えるだろう。
しかし、シルヴィアは悲しみに暮れていた。
「ああ……ティア……どうか元気で……」
シルヴィアは瞳を潤ませながら、ティアの首に抱き着いている。
ティアは寂しそうに鳴き声を上げた。
その鳴き声を聞いて、シルヴィアはさらに強く抱きしめる。
「申し訳ありませんわ……わたくしもつらいのです……ですが……」
シルヴィアが悲しげに呟くと、ティアは慰めるようにすり寄ってきた。
「ああ、ありがとうございます……ティア……」
シルヴィアは感謝の気持ちを込めて、ティアの頭を撫でる。
すると、ティアも嬉しそうに喉を鳴らした。
「……おい、大げさすぎるだろ。馬小屋に移すだけじゃねえか」
シルヴィアの後ろから、呆れたような声が聞こえてくる。
その声に反応して振り返ると、呆れた表情をしたマテウスが立っていた。
「だって……ティアと別れるなんて……」
シルヴィアが涙ぐみながら訴えると、マテウスはため息をついた。
「あのなあ……夜は馬小屋で寝るってだけだろ。朝になれば、また会えるんだからよ」
「それはそうですが……」
確かにマテウスの言うとおりなのだが、それでもシルヴィアは悲しみを隠せなかった。
遺跡から連れ帰ってきた子馬ティアは、あっという間に成長して、立派な体格の馬になったのだ。
これまではシルヴィアの部屋で一緒に寝ていたが、とうとう馬小屋に移さなければならない日がやってきた。
そのためシルヴィアは、今生の別れのようにティアに縋りついているのである。
「ティア……どうか元気でいてくださいね」
シルヴィアが優しく語りかけると、ティアは嬉しそうに鳴いた。
ティアの鼻を撫でると、ティアもお返しとばかりに頭を擦り付けてくる。
「ふふっ……くすぐったいですわ」
シルヴィアは笑いながら身をよじらせた。そして再びティアに抱き着き直す。
「さて、そろそろ行くぞ」
そんなシルヴィアの様子を見て、マテウスは呆れたように言った。
「そんな! もうちょっとだけ……」
シルヴィアは懇願するようにマテウスを見るが、彼は首を横に振るだけだ。
「ダメだ。早くしないと日が暮れるだろ?」
マテウスの正論に、シルヴィアは渋々ながらティアから離れた。
「……わかりましたわ」
「よし、いい子だ。じゃあ行くか」
マテウスは満足げな表情を浮かべると、シルヴィアを連れて馬小屋へと向かう。
そして、ティアを馬小屋へと移動させた後、二人は屋敷に戻った。
屋敷に戻って夕食を済ませた後も、シルヴィアはぼんやりとしたままだった。
自分でも、どうしてこうも喪失感に苛まされているのかわからない。
「おいおい、まだ落ち込んでるのか?」
マテウスは心配そうにシルヴィアの顔を覗き込んでくる。
シルヴィアは力なく首を横に振った。
「いえ……大丈夫ですわ。明日にはまた会えますもの……ただ、少し寂しいだけですわ」
シルヴィアは弱々しく微笑むと、椅子から立ち上がった。
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