聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ

文字の大きさ
52 / 93

52.節度を守れそうにない1

しおりを挟む
 祝福を受けた作物は、辺境の地に根付いてすくすくと育っていった。
 他国から仕入れた時はさほど収穫量が上がらなかった作物も、シルヴィアの祝福を受けたことで、成長が促進され、多く収穫できるようになったのだ。
 おかげで、飢える者は減り、農作物の生産量も安定し始めている。
 懸念事項はまだ残っているものの、おおむね順調と言えるだろう。

 しかし、シルヴィアは悲しみに暮れていた。

「ああ……ティア……どうか元気で……」

 シルヴィアは瞳を潤ませながら、ティアの首に抱き着いている。
 ティアは寂しそうに鳴き声を上げた。
 その鳴き声を聞いて、シルヴィアはさらに強く抱きしめる。

「申し訳ありませんわ……わたくしもつらいのです……ですが……」

 シルヴィアが悲しげに呟くと、ティアは慰めるようにすり寄ってきた。

「ああ、ありがとうございます……ティア……」

 シルヴィアは感謝の気持ちを込めて、ティアの頭を撫でる。
 すると、ティアも嬉しそうに喉を鳴らした。

「……おい、大げさすぎるだろ。馬小屋に移すだけじゃねえか」

 シルヴィアの後ろから、呆れたような声が聞こえてくる。
 その声に反応して振り返ると、呆れた表情をしたマテウスが立っていた。

「だって……ティアと別れるなんて……」

 シルヴィアが涙ぐみながら訴えると、マテウスはため息をついた。

「あのなあ……夜は馬小屋で寝るってだけだろ。朝になれば、また会えるんだからよ」

「それはそうですが……」

 確かにマテウスの言うとおりなのだが、それでもシルヴィアは悲しみを隠せなかった。
 遺跡から連れ帰ってきた子馬ティアは、あっという間に成長して、立派な体格の馬になったのだ。
 これまではシルヴィアの部屋で一緒に寝ていたが、とうとう馬小屋に移さなければならない日がやってきた。
 そのためシルヴィアは、今生の別れのようにティアに縋りついているのである。

「ティア……どうか元気でいてくださいね」

 シルヴィアが優しく語りかけると、ティアは嬉しそうに鳴いた。
 ティアの鼻を撫でると、ティアもお返しとばかりに頭を擦り付けてくる。

「ふふっ……くすぐったいですわ」

 シルヴィアは笑いながら身をよじらせた。そして再びティアに抱き着き直す。

「さて、そろそろ行くぞ」

 そんなシルヴィアの様子を見て、マテウスは呆れたように言った。

「そんな! もうちょっとだけ……」

 シルヴィアは懇願するようにマテウスを見るが、彼は首を横に振るだけだ。

「ダメだ。早くしないと日が暮れるだろ?」

 マテウスの正論に、シルヴィアは渋々ながらティアから離れた。

「……わかりましたわ」

「よし、いい子だ。じゃあ行くか」

 マテウスは満足げな表情を浮かべると、シルヴィアを連れて馬小屋へと向かう。
 そして、ティアを馬小屋へと移動させた後、二人は屋敷に戻った。

 屋敷に戻って夕食を済ませた後も、シルヴィアはぼんやりとしたままだった。
 自分でも、どうしてこうも喪失感に苛まされているのかわからない。

「おいおい、まだ落ち込んでるのか?」

 マテウスは心配そうにシルヴィアの顔を覗き込んでくる。
 シルヴィアは力なく首を横に振った。

「いえ……大丈夫ですわ。明日にはまた会えますもの……ただ、少し寂しいだけですわ」

 シルヴィアは弱々しく微笑むと、椅子から立ち上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

神龍の巫女 ~聖女としてがんばってた私が突然、追放されました~ 嫌がらせでリストラ → でも隣国でステキな王子様と出会ったんだ

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫
恋愛
聖女『神龍の巫女』として神龍国家シェンロンで頑張っていたクレアは、しかしある日突然、公爵令嬢バーバラの嫌がらせでリストラされてしまう。 さらに国まで追放されたクレアは、失意の中、隣国ブリスタニア王国へと旅立った。 旅の途中で魔獣キングウルフに襲われたクレアは、助けに入った第3王子ライオネル・ブリスタニアと運命的な出会いを果たす。 「ふぇぇ!? わたしこれからどうなっちゃうの!?」

虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~

星名柚花
恋愛
聖女となって三年、リーリエは人々のために必死で頑張ってきた。 しかし、力の使い過ぎで《聖紋》を失うなり、用済みとばかりに婚約破棄され、国外追放を言い渡されてしまう。 これで私の人生も終わり…かと思いきや。 「ちょっと待った!!」 剣聖(剣の達人)と大魔導師(魔法の達人)が声を上げた。 え、二人とも国を捨ててついてきてくれるんですか? 国防の要である二人がいなくなったら大変だろうけれど、まあそんなこと追放される身としては知ったことではないわけで。 虐げられた日々はもう終わり! 私は二人と精霊たちとハッピーライフを目指します!

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏芽みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。 けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。 「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」 追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。 【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

処理中です...