聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ

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66.二人の未来のために2

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「面倒だから下手に出てやってりゃ調子に乗りやがって。今、俺はシルヴィアと話してんだ。てめえは邪魔だからすっこんでろ」

 そう言ってマテウスが凄むと、ディルクは気圧されたように後ずさる。
 しかし、すぐに我に返ると顔を真っ赤にして怒り出した。

「ふ、ふざけるな! こうなったら、力ずくで……」

 ディルクが言いかけると、マテウスは鼻で笑う。

「はっ! 俺に勝てるとでも思ってんのか? てめえみたいな雑魚が、この俺に?」

「ぐっ……」

 挑発的な言葉にディルクは顔を怒りに染めて、歯ぎしりをする。
 しかし、マテウスの鍛え抜かれた体つきと、圧倒的な強者の風格に気圧され、動けずにいるようだ。

「お、おい! お前らも黙っていないでなんとかしろ!」

 ディルクは側に控えている護衛兵たちに呼びかけるが、彼らは戸惑った様子で顔を見合わせるばかりだ。
 そんな様子を見て、マテウスはニヤリと笑みを浮かべる。

「全員でかかってきても構わねえぜ? ほら、俺は丸腰だ。今なら、てめえらでも勝てるかもしれねえぞ?」

 マテウスは両手を広げて無防備さをアピールする。
 しかし、誰も動こうとしない。それどころか、彼らは恐怖に染まった表情を浮かべていた。

「どうした? 早く来いよ」

 マテウスは挑発するように手招きをする。
 しかし、誰も動かない。
 いや、動けないと言った方が正しいだろう。彼らにはわかっているのだ。自分たちでは、マテウスに勝てないということが。
 それはディルクも同じようで、悔しそうに歯噛みするだけだった。
 その様子を見たマテウスは肩をすくめる。

「ったく、腰抜けどもめ。まあいいさ。てめえらに用はねえ。黙ってそこで突っ立ってやがれ」

 マテウスは吐き捨てるように言うと、シルヴィアに向き直る。そして、真剣な眼差しで見つめてきた。

「なあ、シルヴィア……俺の魔力のせいであんたを傷つけたくないんだよ。わかってくれよ」

 マテウスは懇願するように言う。つい先ほどまでとは打って変わって、弱々しい態度だ。
 しかし、シルヴィアは首を横に振った。

「いいえ、乗り越える方法があるはずです。そのことを昨日ご相談したかったのに、マテウスさまったら帰ってこなかったではありませんか」

「だって、夜這いをかけられると思ったんだぞ!? 警戒するに決まってんだろ!」

 マテウスは必死になって反論する。その姿はいつもの彼だった。
 シルヴィアは思わず微笑んでしまう。

「ええ、そうですね……マテウスさまは、わたくしのことをよくわかっていらっしゃいますものね。でしたら、これからわたくしがどうするか、予想できますわよね?」

 シルヴィアが悪戯っぽく問いかけると、マテウスは目を見開く。
 すると、ディルクが苛ついた様子で声を上げる。

「おい! いつまでイチャイチャしているんだ! いい加減にしろ!」

「あら、ごめんなさい。もう終わりますので」

 シルヴィアはあっさりと謝罪すると、マテウスに向かって微笑む。

「魔力のことより先に、解決しなくてはならないことがありますわね。わたくし、王都に行って解決してきますわ」

「なっ……!?」

 マテウスは絶句する。

「マテウスさまがわたくしを守ってくださったように、今度はわたくしが二人の未来のために戦ってきます。ですから、待っていてくださいませ」

 そう言って、シルヴィアはマテウスの頬に口づけをした。

「お、おい……あんた……」

 戸惑うような声を上げるマテウスを無視して、シルヴィアは彼から離れてティアの頭を撫でる。

「ティア、マテウスさまのことをお願いね」

 シルヴィアの言葉に、ティアは任せろと言わんばかりに嘶いた。

「さあ、両殿下。さっさと行きますわよ」

 そう言って、シルヴィアは馬車に乗り込んでいく。
 呆然としていたディルクとナイジェルは、シルヴィアに急かされて慌てて馬車に乗り込んだ。

「それでは、行ってまいります」

 シルヴィアが笑顔で手を振ると、御者は鞭を打って馬を走らせた。
 唖然としたマテウスの姿が小さくなっていくのを、シルヴィアは微笑みながら見つめる。

「行ってまいります」

 もう一度、呟くように言ってからシルヴィアは前を向いた。
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