自分を陥れようとする妹を利用したら、何故か王弟殿下に溺愛されました

葵 すみれ

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11.告白

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 カーティスに案内されるがままにやってきたのは、普段は立ち入ることのない校舎の奥にある一室だった。
 研究室というから、もっと雑然とした場所を想像していたが、部屋の中は綺麗に整頓されていた。
 カーティスの人柄が現れているのかもしれない。

「さあ、座ってくれ」

 カーティスに促されて、レイチェルはソファに座る。
 彼は奥に備え付けられた台所でお茶の準備をしているようだ。
 レイチェルはきょろきょろと研究室の中を見回す。
 研究器具などが並べられているが、整理整頓されているからか、散らかっている印象はない。また部屋の一角には本棚があり、几帳面に資料が収められている。
 本棚には時間や領域、結界に関する研究書なども見受けられ、レイチェルは興味深く眺める。

「待たせたな」

 そうしているうちに、カーティスがお茶を運んできた。
 テーブルに二人分のお茶とお菓子が用意される。

「さあ、ゆっくりしていってくれ」

 カーティスに促されて、レイチェルはお茶を口にする。
 温かい飲み物が喉を通り、気持ちが落ち着く。

「さて……きみは私に聞きたいことがあるのだろう?」

 カーティスはレイチェルを見つめながら尋ねる。
 確かにそうなのだが、いざ尋ねて良いと言われても、何から聞けば良いのかわからない。
 まさか、ここは前世で書いた小説の世界です、などと言えるはずもない。
 そんなレイチェルの迷いを見通したのか、カーティスは小さく微笑んだ。

「いきなり言われても困るだろうか。ならば、まずは私のことから話そうか。私はカーティス・シーズフォン。先王の次男で、今は王立学園で魔術の研究をしている。ああ、年は二十一歳だ。きみより五歳年上だな」

 カーティスはお茶を飲みながら、自身のことを語り始める。

「私は少々複雑な立場の生まれでね。幼い頃は王宮で育ったが、十二歳の時に先王である父が病に倒れてからは、スーノン公爵領で育てられた。兄にとって邪魔な私は排除されかねなかったからね。母方の祖父にあたる現公爵が私を保護してくれたわけだ」

 カーティスは苦笑する。

「まあ、祖父も私のことを疎んでいただろうがね。愛娘の命を奪って生まれてきた私など、許せないだろう。しかし、それ以上に王家が気に入らないようだった。結果的には、こうして王立学園で研究をしながら、自由な身でいられるわけだがね」

 カップを置いて、カーティスは肩をすくめる。

「きみのことは幼い頃から知っているよ。リグスーン公爵邸にはよく遊びに行っていたんだ。きみの兄ジェイクともよく一緒に遊んだものだが……」

 カーティスは懐かしそうに目を細める。

「父が病に倒れてからは、すぐにスーノン公爵領に連れてこられてね。私の身を守るためと、王太子の婚約者となるきみから引き離すためだったのだろう。当時は、私も幼くて考えが及ばなかったが」

 カーティスはレイチェルを見つめ、寂しげに呟く。

「きみに会えなくて、本当に寂しかったんだ」

「……」

 レイチェルは何と返答すれば良いのかわからず、言葉を失った。
 それは本当にあったことなのだろうか。
 もしかしたら、世界が筋書きを変えようとして、後から植え付けられた記憶なのかもしれない。
 だが、カーティスの表情は切なそうで、彼が本当にレイチェルと会えなかったことを寂しく思っていたことが伝わってくる。
 それを否定することは、レイチェルにはためらわれた。

「何せ、幼いきみは私と結婚する約束をしていたのだからね」

「え……?」

 さらりと告げられたカーティスの言葉に、レイチェルは息をのむ。

「覚えていないか。きみは、『おおきくなったら、カーティスさまのおよめさんになる』と言っていたのだが……」

「……え……?」

 レイチェルは頬が熱くなるのを感じた。
 そんなことが本当にあったのだろうか。
 いや、仮に本当のことだとしても、幼い頃に交わした約束など、覚えていなくて当然だ。彼も、まさか本気で受け取っていたわけではないだろう。
 そう思いつつも、レイチェルは動揺してしまう。

「ふふ、きみは本当に愛らしいな」

 カーティスは楽しげな笑みを見せる。
 どうやらからかい半分だったらしい。レイチェルはほっとすると同時に、少しだけ残念に思った。
 だが、それは何に対して抱いた感情なのか。

「あの頃は無邪気にきみとの将来を夢見たものだ。しかし、きみは王太子の婚約者となるべき身。己の立場をわきまえなければならなかった」

 カーティスはため息をつきながら、言葉を続ける。

「私は目立たぬよう、王位に関心があると思われないよう、卒業後も学園に残って研究を続けた。このまま、ただの研究者として生きていければと思っていたんだがね」

 そこで言葉を区切ると、カーティスは大きく息を吐き出す。

「……王太子グリフィンに王位を渡すわけには、いかなくなった」

 静かに落とされた言葉には、どこか決意めいたものが滲んでいた。

「それは……どういうことですか?」

 レイチェルは思わず口を挟んでしまう。

「彼には王位を継ぐ資格がないからだよ」

 カーティスは静かな声で答える。

「それは……」

 思わず息をのみ、レイチェルはカーティスを見つめる。
 彼の瞳には強い光が宿っていた。
 まさかカーティスも、グリフィンが本当は王家の血を引いていないことを知っているのだろうか。
 そんな疑問がレイチェルの脳裏に浮かぶ。

「彼は婚約者であるきみを蔑ろにし、他の女性にうつつを抜かしている。王位を継ぐ者は結界を守る義務があるというのに、彼はそれを果たす気概さえない」

 ところが、淡々と話すカーティスの口ぶりからすると、どうやら彼は知らないようだった。

「それに何より……きみは王太子の婚約者、未来の王妃だ。グリフィンではなく、『王太子』の。つまり……」

 カーティスはそこで言葉を切り、レイチェルをまっすぐに見据える。

「幼い頃に諦めた夢を叶えるためには、私が王になればよい」

 カーティスはきっぱりと断言した。

「な……何をおっしゃっているのですか……?」

 レイチェルは戸惑いの声を上げた。
 突然、何を言い出すのだろうか。彼は自分が何を言っているのかわかっているのだろうか。反逆罪に問われても仕方がない内容だ。
 あまりにも不用心な発言に、レイチェルは唖然とする。

「私は本気だ」

 しかし、カーティスは真剣な眼差しで続けた。

「きみは私が守る。必ず、幸せにする」

 カーティスはレイチェルの手を取り、告げる。
 彼の真剣な眼差しに見つめられると、レイチェルは頭がくらくらとしてくるのを感じた。
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