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18.計略
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レイチェルの様子を見透かすように、カーティスが微笑む。
「そんなに残念そうな顔をされると、もう一度口説きたくなってしまうな」
カーティスの言葉に、レイチェルは顔を真っ赤にして俯いた。そんな反応を楽しむように、カーティスはクスクスと笑う。
二人のやり取りを、ジェイクは呆れた顔で眺めていたが、すぐに気を取り直すと口を開いた。
「殿下、本題に入りましょう」
「ああ、そうだね」
カーティスが頷くと、三人はソファに腰かけて向かい合う形になる。
「まず最初に確認したいのですが……」
ジェイクは少しためらった後続けた。
「レイチェルのことは本当にお好きなのですか?」
その問いに対して、カーティスは大きく頷く。
「もちろんだよ。私は彼女を心の底から愛している」
カーティスの言葉には、一切の迷いがない。その眼差しも真剣そのもので、まっすぐジェイクを見返していた。
「……わかりました。それなら結構です」
ジェイクは少し気圧されたようだったが、すぐに軽く息を吐き出して表情を緩める。そして、今度はレイチェルに目を向けた。
「レイチェル、きみはどうなんだ?」
「私は……」
レイチェルは一瞬言い淀むが、意を決してカーティスの顔を見上げた。
「私も……カーティスさまのことを、お慕い申し上げております」
その言葉に嘘はない。実際に好意を抱いていることは確かだ。
しかし、それが恋愛感情なのか、本当に自分の気持ちなのかと問われると、少し自信がないというのが本音だった。
そんなレイチェルの戸惑いを見透かすかのように、カーティスは優しく微笑むと口を開いた。
「ありがとう、嬉しいよ」
その笑顔は慈愛に満ちていて、ますますレイチェルの心を揺さぶる。
この人は本当に自分のことが好きなのだと実感させられ、レイチェルは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「それでは、本題に入りましょう」
ジェイクは軽く咳払いすると、本題を切り出した。
「カーティス殿下は、この国の未来のために国王となることを決意されたのですね?」
「ああ、そうだ」
カーティスは力強く頷く。その瞳には決意の光が宿っていた。
「このままでは結界は崩壊してしまう。そうなれば、王国は魔物たちに蹂躙されることになる。しかし、今の国王や王太子にそれが止められるとは思えない。ならば、私がこの国の国王となり、国を守る盾となろう」
迷いのないカーティスの言葉からは、その覚悟が伝わってくる。
まるで実際に魔物に蹂躙されるところを目の当たりにしたかのようであり、その口調には熱がこもっていた。
「だからこそ、きみたちの力を貸して欲しい」
カーティスは真剣な眼差しで告げる。
ジェイクはしばし思案していたが、やがて口を開いた。
「……僕自身は、カーティス殿下を支持します」
そう宣言すると、ジェイクはカーティスの目を見つめた。
「殿下の紫色の瞳は、正統な王家の血筋を示すものです。しかし、国王は四大公爵家と同じ青紫、王太子にいたっては青色。結界を守る血族魔法を真に使えるのは、カーティス殿下ただお一人です。僕は殿下をお支えし、この国の未来を守りたい。しかし……」
そこまで言うと、ジェイクは眉根を寄せる。
「僕は次期リグスーン公爵ではありますが、現在の公爵は父です。まずは父を失脚させる必要がありますね」
「なるほど、たしかにそうだね。君の父上は現国王と仲が良いからね」
ジェイクの言葉に、カーティスは頷いた。
「はい。父は国王派です。それに、中継ぎの当主であるにもかかわらず、僕に家督を譲ることさえ渋っています。そのために僕も排除されないよう、これまで準備してきました。幸い、その道筋は殿下の進む道と重なるようです」
「それは心強いな」
カーティスは嬉しそうに笑った。
「殿下のお力添えをいただくと、非常に助かります」
「もちろんだよ。全面的に協力させてもらうよ」
二人は握手を交わすと微笑み合った。
「それから、カーティス殿下の婚姻に関してですが……」
ジェイクはちらりとレイチェルを見る。
「妹は残念ながら、未だ王太子の婚約者です。今の段階で公にすることはできません」
「ああ、わかっている。そちらの婚約を破棄させるのが先だろう」
ため息交じりにカーティスは頷いた。
「婚約破棄自体は、さほど難しくないとは思います。なにせ、王太子は他の女に夢中ですから。ただ……」
ジェイクはそこで言葉を詰まらせる。
「ただ、どうしたのですか?」
レイチェルが尋ねると、ジェイクは言いづらそうにしながらも続けた。
「……レイチェルが研究者と親しくしているという噂は、僕の耳にも届いている。それがカーティス殿下とまでは聞いていなかったが、もし知られれば問題になる可能性はあるだろうね」
「ああ、そういうことですか……」
レイチェルは納得しながら呟いた。
たしかに、自分とカーティスが頻繁に会っていることが知れ渡れば、婚約破棄をしたところで原因がレイチェルにあると邪推されるのは明らかだ。
おそらく王家は、王太子の浮気が原因ではなく、レイチェル自身に問題があるのだと持っていくだろう。
そうなれば、カーティスの立場も危うくなってしまうかもしれない。
「そうだな……王太子には、二人で会っていたのは結界について調べていたとは説明したが……。彼を言いくるめることができても、国王や貴族たちが納得するかは微妙なところだな」
カーティスも顎に手を当てて考え込む。
「どうにかして噂を消すことができれば良いのですが……」
ジェイクはため息をついた。
「カーティスさま、その件に関してですが」
そう言って手を挙げたのは、レイチェルだ。
「何かしら案があるようだな?」
カーティスが尋ねると、レイチェルはゆっくりと頷いた。
「はい。私に考えがあります。ただ、その方法が……カーティスさまを不快にさせてしまうかもしれません」
レイチェルは申し訳なさそうな表情を浮かべつつ、カーティスの反応を待つ。
「構わないよ。私はどんなことでも受け入れよう」
カーティスは堂々とした態度で答える。
その潔さに、レイチェルは思わず胸を打たれた。本当に信頼してくれているのだと伝わってくる。
実はレイチェルにとっても不快な方法なのだが、カーティスが受け入れてくれる以上は、自分も覚悟を決めるしかないだろう。
「では、説明いたします」
レイチェルは咳払いをすると、その方法を話し始めた。
「そんなに残念そうな顔をされると、もう一度口説きたくなってしまうな」
カーティスの言葉に、レイチェルは顔を真っ赤にして俯いた。そんな反応を楽しむように、カーティスはクスクスと笑う。
二人のやり取りを、ジェイクは呆れた顔で眺めていたが、すぐに気を取り直すと口を開いた。
「殿下、本題に入りましょう」
「ああ、そうだね」
カーティスが頷くと、三人はソファに腰かけて向かい合う形になる。
「まず最初に確認したいのですが……」
ジェイクは少しためらった後続けた。
「レイチェルのことは本当にお好きなのですか?」
その問いに対して、カーティスは大きく頷く。
「もちろんだよ。私は彼女を心の底から愛している」
カーティスの言葉には、一切の迷いがない。その眼差しも真剣そのもので、まっすぐジェイクを見返していた。
「……わかりました。それなら結構です」
ジェイクは少し気圧されたようだったが、すぐに軽く息を吐き出して表情を緩める。そして、今度はレイチェルに目を向けた。
「レイチェル、きみはどうなんだ?」
「私は……」
レイチェルは一瞬言い淀むが、意を決してカーティスの顔を見上げた。
「私も……カーティスさまのことを、お慕い申し上げております」
その言葉に嘘はない。実際に好意を抱いていることは確かだ。
しかし、それが恋愛感情なのか、本当に自分の気持ちなのかと問われると、少し自信がないというのが本音だった。
そんなレイチェルの戸惑いを見透かすかのように、カーティスは優しく微笑むと口を開いた。
「ありがとう、嬉しいよ」
その笑顔は慈愛に満ちていて、ますますレイチェルの心を揺さぶる。
この人は本当に自分のことが好きなのだと実感させられ、レイチェルは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「それでは、本題に入りましょう」
ジェイクは軽く咳払いすると、本題を切り出した。
「カーティス殿下は、この国の未来のために国王となることを決意されたのですね?」
「ああ、そうだ」
カーティスは力強く頷く。その瞳には決意の光が宿っていた。
「このままでは結界は崩壊してしまう。そうなれば、王国は魔物たちに蹂躙されることになる。しかし、今の国王や王太子にそれが止められるとは思えない。ならば、私がこの国の国王となり、国を守る盾となろう」
迷いのないカーティスの言葉からは、その覚悟が伝わってくる。
まるで実際に魔物に蹂躙されるところを目の当たりにしたかのようであり、その口調には熱がこもっていた。
「だからこそ、きみたちの力を貸して欲しい」
カーティスは真剣な眼差しで告げる。
ジェイクはしばし思案していたが、やがて口を開いた。
「……僕自身は、カーティス殿下を支持します」
そう宣言すると、ジェイクはカーティスの目を見つめた。
「殿下の紫色の瞳は、正統な王家の血筋を示すものです。しかし、国王は四大公爵家と同じ青紫、王太子にいたっては青色。結界を守る血族魔法を真に使えるのは、カーティス殿下ただお一人です。僕は殿下をお支えし、この国の未来を守りたい。しかし……」
そこまで言うと、ジェイクは眉根を寄せる。
「僕は次期リグスーン公爵ではありますが、現在の公爵は父です。まずは父を失脚させる必要がありますね」
「なるほど、たしかにそうだね。君の父上は現国王と仲が良いからね」
ジェイクの言葉に、カーティスは頷いた。
「はい。父は国王派です。それに、中継ぎの当主であるにもかかわらず、僕に家督を譲ることさえ渋っています。そのために僕も排除されないよう、これまで準備してきました。幸い、その道筋は殿下の進む道と重なるようです」
「それは心強いな」
カーティスは嬉しそうに笑った。
「殿下のお力添えをいただくと、非常に助かります」
「もちろんだよ。全面的に協力させてもらうよ」
二人は握手を交わすと微笑み合った。
「それから、カーティス殿下の婚姻に関してですが……」
ジェイクはちらりとレイチェルを見る。
「妹は残念ながら、未だ王太子の婚約者です。今の段階で公にすることはできません」
「ああ、わかっている。そちらの婚約を破棄させるのが先だろう」
ため息交じりにカーティスは頷いた。
「婚約破棄自体は、さほど難しくないとは思います。なにせ、王太子は他の女に夢中ですから。ただ……」
ジェイクはそこで言葉を詰まらせる。
「ただ、どうしたのですか?」
レイチェルが尋ねると、ジェイクは言いづらそうにしながらも続けた。
「……レイチェルが研究者と親しくしているという噂は、僕の耳にも届いている。それがカーティス殿下とまでは聞いていなかったが、もし知られれば問題になる可能性はあるだろうね」
「ああ、そういうことですか……」
レイチェルは納得しながら呟いた。
たしかに、自分とカーティスが頻繁に会っていることが知れ渡れば、婚約破棄をしたところで原因がレイチェルにあると邪推されるのは明らかだ。
おそらく王家は、王太子の浮気が原因ではなく、レイチェル自身に問題があるのだと持っていくだろう。
そうなれば、カーティスの立場も危うくなってしまうかもしれない。
「そうだな……王太子には、二人で会っていたのは結界について調べていたとは説明したが……。彼を言いくるめることができても、国王や貴族たちが納得するかは微妙なところだな」
カーティスも顎に手を当てて考え込む。
「どうにかして噂を消すことができれば良いのですが……」
ジェイクはため息をついた。
「カーティスさま、その件に関してですが」
そう言って手を挙げたのは、レイチェルだ。
「何かしら案があるようだな?」
カーティスが尋ねると、レイチェルはゆっくりと頷いた。
「はい。私に考えがあります。ただ、その方法が……カーティスさまを不快にさせてしまうかもしれません」
レイチェルは申し訳なさそうな表情を浮かべつつ、カーティスの反応を待つ。
「構わないよ。私はどんなことでも受け入れよう」
カーティスは堂々とした態度で答える。
その潔さに、レイチェルは思わず胸を打たれた。本当に信頼してくれているのだと伝わってくる。
実はレイチェルにとっても不快な方法なのだが、カーティスが受け入れてくれる以上は、自分も覚悟を決めるしかないだろう。
「では、説明いたします」
レイチェルは咳払いをすると、その方法を話し始めた。
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