虐げられ令嬢、辺境の色ボケ老人の後妻になるはずが、美貌の辺境伯さまに溺愛されるなんて聞いていません!

葵 すみれ

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19.告白

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「旦那さま……!」

 使用人たちが一斉に頭を下げる。
 久しぶりにレイモンドの姿を見たヘスティアは、思わず胸が高鳴るのを感じた。
 彼に想いを告げようと決意したものの、機会を得られないまま今に至る。
 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

「旦那さま、実は……」

 使用人の一人が事情を説明しようとする。
 しかし、その言葉を遮るように、ポーラが大袈裟に泣き始めた。

「ひどいんです! お姉さまが、元婚約者であるタイロンお兄さまへの想いを断ち切れるように協力してあげたのに、私を悪者にしようとしているんです!」

 ポーラは目に涙を浮かべながら訴える。

「なに……?」

 レイモンドの表情が険しくなった。彼はゆっくりとヘスティアに視線を移す。

「どういうことだ……? 元婚約者への想い……?」

 愕然とした表情で、レイモンドはヘスティアを見つめる。
 その眼差しに、ヘスティアは胸が締め付けられるのを感じた。

「誤解ですわ、レイモンドさま。私はタイロンさまのことなんて何とも思っていません……!」

 ヘスティアは慌てて否定する。

「……本当か?」

「はい、もちろんです。そもそもタイロンさまは、私が背中に火傷を負った際、あっさりと妹のデボラに乗り換えたような人です。そんな男、好きになるはずありません」

 ヘスティアはきっぱりと言い切る。
 すると、レイモンドはほっとした表情を浮かべた。

「そうか……。それならいい……」

 レイモンドは安堵のため息をつく。
 しかし、ポーラは納得がいかないようだった。

「そんな……でも、お姉さまがタイロンお兄さまのブローチを盗んだのは事実よ! そうだわ! きっとお姉さまは、大旦那さまの後妻になるのが嫌になってしまったんだわ! だからこんなことをしたのよ!」

 ポーラは声を張り上げながら、ヘスティアに罪を着せようとする。
 なんと無茶苦茶なことを言うのだろうか。ヘスティアは呆れてしまった。

「ヘスティア……それは本当か?」

 ところが、レイモンドは真剣そうな表情で問いかける。

「え……?」

 ヘスティアは戸惑いの声を上げた。まさか、彼がこのような言い分を真に受けるとは思わなかったからだ。

「おじいさまの後妻になるのが嫌になったのか? 本当に……?」

 しかし、レイモンドが震える声で問いかけてきたのは、ヘスティアが想像していたものとは全く違っていた。

「え……その……」

 ヘスティアは言葉を詰まらせる。
 もともと、後妻になるつもりはない。だが、口裏を合わせている以上、ここで否定してもよいものなのだろうか。
 ヘスティアは焦った。何か言わなければ。

「あの……その……」

 だが、何も思いつかない。
 そんなヘスティアの様子を、ポーラは好機と捉えたらしい。

「ほら、やっぱりそうじゃない! これは不貞行為よ! お姉さまは大旦那さまの後妻にふさわしくないわ!」

 ポーラは勝ち誇ったように言う。

「そうだ、ヘスティア。きみはおじいさまの後妻になるべきではない……」

 レイモンドはポーラの言葉に乗るように、静かに呟いた。
 それを聞いたポーラが、さらに声を上げる。

「やっぱりそうですよね! 大旦那さまだって、きっとそう思っているはずです! さっさと放り出すべきです!」

 しかし、レイモンドはそれに答えなかった。彼はヘスティアを真っ直ぐに見つめる。

「ヘスティア……俺は……きみを愛している……」

「え……?」

 突然の言葉に、ヘスティアは頭が真っ白になった。
 今、彼は何と言ったのだろう。聞き間違いでなければ、愛していると言ったはずだ。

「だから……きみが他の男のものになるのを黙って見ているわけにはいかないんだ……たとえ、それがおじいさまでも」

 レイモンドは真剣な眼差しで言う。彼の瞳には熱がこもっているように見えた。

「な、なにを……? そんな……私は……」

 ヘスティアは動揺してうまく言葉が出てこなかった。心臓の鼓動が早まるのを感じる。顔が熱い。
 きっと真っ赤になっているに違いない。

「だから、どうか俺の妻になって欲しい……」

 レイモンドの言葉に、ヘスティアは固まってしまう。
 本当に彼が自分のことを想ってくれているというのか。それも、妻にと望んでくれるのか。信じられない。

「え……あの……」

 何を言えばいいのかわからない。言葉が出てこなかった。
 すると、レイモンドは寂しげな笑みを浮かべる。

「……すまない、突然こんなことを言われても困るよな……だが、俺は本気だ」

「い……いえ……」

 ヘスティアはうまく言葉を紡げない。心臓の鼓動が激しくなりすぎて、今にも倒れてしまいそうだった。
 しかし、この機会を逃すわけにはいかない。今こそ自分の想いを伝える時である。 ヘスティアは大きく深呼吸をした。

「わ、私も……レイモンドさまのこと……お慕いしております……」

 ヘスティアの言葉に、ポーラが息をのんだ。使用人たちの間にも驚きが広がる。
 レイモンドは驚いたように目を見開いた後、嬉しそうに微笑んだ。

「本当か?」

「はい……」

 ヘスティアは小さく頷くと、そのまま俯いてしまう。
 顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。心臓が激しく脈打っている。今にも倒れてしまいそうだ。
 だが、同時に幸福感に包まれていたのも事実だった。
 今この瞬間、自分の想いが叶ったのだと実感できたから。
 しかし、そんなヘスティアの喜びは、ポーラの叫び声によってかき消される。

「嘘よ! 絶対に嘘! そんなのありえないわ!」

 ポーラは叫ぶように言うと、ヘスティアに掴みかかってきた。

「お姉さまは、大旦那さまの後妻になるんでしょう!? 大旦那さまを裏切って、よくもそんなことを言えたわね!」

 ポーラは怒りの形相でヘスティアを睨みつける。

「ポーラ、やめろ!」

 しかし、レイモンドが慌てて止めた。使用人たちもポーラを引き離す。

「どうしてですか!? お姉さまは大旦那さまを裏切ったんですよ! それなのに……!」

 ポーラはなおも食い下がろうとした。だが、そこに新たな人物が現れる。

「儂がどうしたと?」

 威厳に満ちた声とともに現れたのは、大旦那さまこと、レイモンドの祖父であるグレアムだった。
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