異世界恋愛短編集

葵 すみれ

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お前を愛することはないと夫に言われたので、とても感謝しています

05.感謝

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 オデットは馬車に揺られながら、これまでの出来事を思い返していた。

「とうとうこの日を迎えることができて、本当に嬉しいわ……」

 幼い頃から、オデットはマルクのことを慕ってきた。
 身分違いではあったが、マルクが騎士として功績を立てれば、結婚は可能だ。
 母はオデットの思いを尊重してくれていたが、父は違った。政略の駒として有用な娘を、その程度の相手に嫁がせたくなかったのだろう。

 父は婿入りであり、ギャストン子爵家の直系は母だった。嫡男であるヒューゴが成人すれば、爵位はヒューゴのものとなる。
 ところが、父は母が亡くなると、新しい女に入れあげてしまった。邪魔になったオデットは、マルクと引き離されてしまい、ランメルト侯爵に嫁がされたのだ。

「本当に、無事に事が進んでよかったよ」

 ヒューゴもオデットとマルクの仲を認めていたが、留学中の上、まだ未成年だったために何もできなかった。
 一年経てば成人するので、それまで我慢してくれと手紙を出すので、精いっぱいだったのだ。

「父上は隠居して、後妻と共に田舎で暮らすことになった。マルクは討伐を成功へと導き、騎士爵も授かった功労者だ。もう誰も二人の結婚に異を唱える者はいない。これから、二人の結婚準備だ」

 ギャストン子爵となったヒューゴが宣言すると、オデットとマルクは顔を見合わせて、幸せそうに笑う。

「これもすべて、旦那さま……いえ、ランメルト侯爵さまのおかげですわ。最初から私の思いなどお見通しだったようで……お前の浅ましい思いは知っていると言われて、びっくりしましたけれど……一年間、白い結婚をとなって……もっとびっくりしましたわ」

「何という慧眼でしょうか。それも、オデットさまの心に俺がいることを知りながら受け入れるその度量……感じ入るばかりです」

「騎士たちにお守りを贈りたいと言ったときも、最初は不思議そうだったけれど、きっと贈りたいのがマルクだと気付いたのでしょうね。すぐに快くお許しくださって……」

「お優しく、気高いお心は、まさに貴族の鑑ですね。俺も見習わなくてはと思います。これからもっと精進して、いつかランメルト侯爵さまにも恩返しをしたいです」

 オデットとマルクは、義に厚く情に深い、高潔なジルベールという偶像を褒め称える。二人の中で彼は、己を悪く見せてまで、引き裂かれた恋人たちを再び結び付けようとしてくれた、聖人そのものだった。
 それをヒューゴは苦笑しながら見守っていたが、何も言うことはなかった。
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