異世界恋愛短編集

葵 すみれ

文字の大きさ
21 / 21
お前を愛することはないと夫に言われたので、とても感謝しています

05.感謝

しおりを挟む
 オデットは馬車に揺られながら、これまでの出来事を思い返していた。

「とうとうこの日を迎えることができて、本当に嬉しいわ……」

 幼い頃から、オデットはマルクのことを慕ってきた。
 身分違いではあったが、マルクが騎士として功績を立てれば、結婚は可能だ。
 母はオデットの思いを尊重してくれていたが、父は違った。政略の駒として有用な娘を、その程度の相手に嫁がせたくなかったのだろう。

 父は婿入りであり、ギャストン子爵家の直系は母だった。嫡男であるヒューゴが成人すれば、爵位はヒューゴのものとなる。
 ところが、父は母が亡くなると、新しい女に入れあげてしまった。邪魔になったオデットは、マルクと引き離されてしまい、ランメルト侯爵に嫁がされたのだ。

「本当に、無事に事が進んでよかったよ」

 ヒューゴもオデットとマルクの仲を認めていたが、留学中の上、まだ未成年だったために何もできなかった。
 一年経てば成人するので、それまで我慢してくれと手紙を出すので、精いっぱいだったのだ。

「父上は隠居して、後妻と共に田舎で暮らすことになった。マルクは討伐を成功へと導き、騎士爵も授かった功労者だ。もう誰も二人の結婚に異を唱える者はいない。これから、二人の結婚準備だ」

 ギャストン子爵となったヒューゴが宣言すると、オデットとマルクは顔を見合わせて、幸せそうに笑う。

「これもすべて、旦那さま……いえ、ランメルト侯爵さまのおかげですわ。最初から私の思いなどお見通しだったようで……お前の浅ましい思いは知っていると言われて、びっくりしましたけれど……一年間、白い結婚をとなって……もっとびっくりしましたわ」

「何という慧眼でしょうか。それも、オデットさまの心に俺がいることを知りながら受け入れるその度量……感じ入るばかりです」

「騎士たちにお守りを贈りたいと言ったときも、最初は不思議そうだったけれど、きっと贈りたいのがマルクだと気付いたのでしょうね。すぐに快くお許しくださって……」

「お優しく、気高いお心は、まさに貴族の鑑ですね。俺も見習わなくてはと思います。これからもっと精進して、いつかランメルト侯爵さまにも恩返しをしたいです」

 オデットとマルクは、義に厚く情に深い、高潔なジルベールという偶像を褒め称える。二人の中で彼は、己を悪く見せてまで、引き裂かれた恋人たちを再び結び付けようとしてくれた、聖人そのものだった。
 それをヒューゴは苦笑しながら見守っていたが、何も言うことはなかった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

処理中です...