王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ

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06.解雇

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「ええ、簡単なことよ。これからはジャクリーンに私の侍女になってもらうわ。同じ男爵家の娘でも、あなたのような豚と違って、私の侍女にふさわしく美しいし、わきまえているもの」

 ウージェニー王女が上機嫌で説明する。

「そんな……私は……」

 セシールはうろたえる。
 王女付きの侍女を辞めたいとは、ずっと思っていたことだ。
 だが、このような形は違う。

「さあ、そのペンダントをジャクリーンに渡しなさい。そして、この部屋から出ていくのよ」

「で、でも……私は王女殿下付きの侍女として……」

 セシールは震える声で懇願しようとする。

「あら? まだわからないの? あなたはクビなのよ。だから早くペンダントを渡して出て行きなさい!」

 ウージェニー王女が苛ついた様子でセシールを睨む。

「王女殿下は、ヴァンクール辺境伯令息とご結婚されるのよ! あなたみたいな醜い豚がいると、邪魔なの! 身の程を知りなさい!」

 ジャクリーンも声を荒げる。

「ヴァンクール辺境伯令息……?」

 セシールは小さく呟く。
 どこかで聞いたことのある名前だ。

「そうよ! 私にふさわしい美しい方よ! 私はあの方に嫁ぐのよ!」

 ウージェニー王女は誇らしげに言う。

「さあ、さっさと出て行って! 目障りよ!」

 ジャクリーンはセシールのペンダントを強引に奪い取る。そして、そのまま部屋の外へと押し出した。

「あっ……」

 セシールはバランスを崩し、床に倒れ込む。

「ふんっ! いい気味だわ!」

 ジャクリーンは吐き捨てるように言うと、扉を閉めた。

「あ……あぁ……」

 セシールは絶望に打ちひしがれながら立ち上がる。
 閉じられた扉に背を向け、セシールはゆっくりと歩き出す。

「うっ……ううっ……」

 涙がとめどなく溢れてくる。
 だが、泣いている場合ではない。
 セシールは震える足を前へと進める。
 王女付きの侍女を解雇された以上、もうこの城に居場所はない。
 一刻も早く出て行かなければならないのだ。

「きみは……」

 小さな呟きが聞こえ、セシールは立ち止まった。
 振り返ると、そこには銀髪の青年が佇んでいた。赤い瞳が驚きに染まっている。

「あ……」

 セシールは小さく声を上げた。
 この青年は、あの時にハンカチをくれた少年だと、すぐにわかった。
 整った美貌は、成長しても損なわれることはなく、むしろさらに磨かれていた。
 精悍さと繊細さを兼ね備えた容貌に、セシールは目を奪われる。

 しかし次の瞬間、今の自分の姿を思い出して、慌てて顔を伏せた。
 目の前の美しい青年に、こんな惨めな姿を見られたくなかった。

「……失礼します」

 セシールは震える声で言い、慌てて彼に背を向けて歩き出す。

「待ってくれ!」

 青年の切羽詰まったような声に、セシールはびくりと肩を震わせる。
 しかし、足を止めることはできない。
 セシールは必死に足を動かし、城の外を目指した。

「……まあ、ヴァンクール辺境伯令息! こんなに早くいらしてくださったのですね!」

 後ろから、ウージェニー王女の弾んだ声が聞こえる。
 セシールは振り返らずに、前へ前へと歩き続けた。
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