天然の仮面を被った令嬢は、すべてを賭けて傭兵領主に嫁ぐ──愛と復讐を誓う、たったひとりのあなたへ

葵 すみれ

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20.それは“必要”という名の贈り物2

 宝石店の扉を開けると、澄んだ鈴の音が小さく響いた。
 磨き込まれたガラス棚には、整然と並べられた宝石の数々。
 まるで光の海のように、色とりどりの煌めきが溢れている。

 パメラが一歩足を踏み入れた瞬間、小さく息をのんだ。

「……なんて、きれい……」

 その声には素直な感嘆がこもっていた。
 だが、すぐに彼女の顔に、わずかな陰が差す。

「……けれど、やはりわたくしには少し、贅沢すぎる気がいたしますの」

 控えめにそう呟く声に、レオは足を止めた。

「……贅沢じゃねぇ」

 そのまま振り返りもせず、低く告げる。

「必要なもんだ。それとも、お前は──俺の財力が、その程度しかねぇと思ってんのか?」

「いえっ、そんな……!」

 パメラが慌てて首を振る。

「俺は戦で名を上げて、爵位を得て、ここにいる。男爵の名に恥じない程度の蓄えくらいはある」

 振り返ったレオの目が、静かに彼女を射抜いた。

「遠慮は美徳じゃねぇ。俺に対して、無礼だ」

 言い切った声には怒気はなかった。ただ、まっすぐな意地と自負があった。

 パメラはしばし口を閉ざし──やがて、ほんのりと微笑んだ。

「……では、遠慮なく、選ばせていただきますわ」

「そうしろ」

 うなずいたレオは椅子に腰を下ろし、パメラが並べられた宝石の前に立つのを静かに見守る。

 ルビー、ガーネット、アメジスト──赤や紫の石が、温かな光を受けて揺らめく。

 パメラは、その中のひとつに目を留めた。
 深い赤紫の輝きが、まるで夕暮れの空のように吸い込まれそうな色を湛えていた。

「……これ、がいいですわ」

 そう言って手に取った石を、そっと胸元にあてる。
 その瞬間、レオの瞳がわずかに揺れた。

 宝石の色と、自らの目の色が重なったことに──パメラは気づいていないのだろうか。
 いや、それとも計算づくだろうか。

「どうかしら?」

 問いかける声に、レオは一拍置いてから、低く答える。

「……悪くねぇ」

「ふふっ、ありがとうございます」

 パメラの微笑みは、どこか誇らしげで、それでいて無邪気だった。
 その表情を見て、レオはまたしても思ってしまう。

(……やっかいな女だ)

 だが、口には出さない。
 宝石店の静かな空気のなか、レオは店主に合図を送る。

「それでいい。支払いは俺が済ませる。……丁重に包め」

「かしこまりました、男爵さま」

 淡々と応じた店主が奥へと引っ込むと、パメラはそっと礼を述べた。

「ありがとうございます、レオさま。……大切にいたしますわ」

「社交の準備だ。礼を言うことじゃねぇ」

 そっけなく言い放ちつつも、その声はどこか柔らかかった。
 宝石よりもあたたかな色を、瞳の奥にひとつ、宿していた。

 包まれた箱をそっと受け取ったパメラは、それを胸に抱くようにして微笑んだ。
 まるで、ただの装飾品ではなく──大切な贈り物であるかのように。

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