天然の仮面を被った令嬢は、すべてを賭けて傭兵領主に嫁ぐ──愛と復讐を誓う、たったひとりのあなたへ

葵 すみれ

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39.問いの罠、答えの代償2

「偶然。そうですわね」

 パメラは優しく頷く。

「……でも、偶然にしては、あまりに出来すぎていた気がして。ときどき、夢に見るのです。──あの春のこと」

 叔父は、明らかに居心地悪そうに体を揺らした。

「ちょうどその頃でしたわね、アシュフォード侯爵家の件も」

「っ……」

 言葉を継ぐ前に、叔父の唇がぴくりと動く。

「名門でいらしたのに、突然“反逆”の罪で粛清されるなんて。あれも、誰かが詳しい情報を差し出したからこそと聞きました」

 紅茶を揺らす音が、静かに部屋に響く。

「おそらく、かなり近しい立場にいた方ではありませんと、あれほど正確な密告は難しいでしょうね。……ねえ、おじさま?」

 そう言って、あどけないような笑みを向けた。
 その瞬間、叔父の手がびくりと震えた。

「……ち、違う、わしは……ただ、あのときは、言われた通りにしただけで……っ」

 パメラの瞳が、かすかに見開かれる。

「──あら。どなたに?」

 問いは、ごく自然に紡がれた。だが、その一語で、空気が張り詰める。

 叔父ははっとして、口を噤んだ。
 顔が青ざめ、冷や汗がこめかみをつたう。

「……おまえ……最初から……」

 呻くような声だった。

 だがパメラは何も責めることなく、あくまで笑みを崩さない。

「わたくし、ただ知りたかっただけですの。あの春、何があったのか。──それだけ」

 紅茶を手に取る。けれど、またしても口はつけなかった。
 パメラが静かに視線を落とした、そのときだった。

「……せっかくだ、泊まっていけ。久しぶりに家族水入らずで話そうじゃないか」

 叔父の声には、不自然なほどの親しげな響きがあった。
 パメラは一瞬だけまつげを伏せ、それから、にこりと微笑みを浮かべる。

「……まあ。よろしゅうございますの?」

「もちろんだとも!」

 叔父は妙に大仰に頷き、すぐさま使用人を呼びつけて何やら指示を飛ばし始めた。
 ──まるで、自ら引き止めることで、自分の立場を保とうとするかのように。

(……本音は、わたくしをこの屋敷に留めておきたいのでしょう)

 パメラは表面上、従順な微笑をたたえたまま、内心で静かに息を吐いた。

 ──これでよかった。
 この手で確かめた。彼の口から引き出した、真実の一端。
 あとは、しかるべきときに、しかるべき人に届けばいい。

(……レオさま。どうか、お気づきになって)

 窓の向こう、初夏の陽が落ちかけていた。
 けれど、その光よりも、パメラの微笑は静かに、そして確かに、強く灯っていた。

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