天然の仮面を被った令嬢は、すべてを賭けて傭兵領主に嫁ぐ──愛と復讐を誓う、たったひとりのあなたへ

葵 すみれ

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47.共に立つために1

「……奇遇ですわね。実は、わたくしも復讐したい相手がおりますの。そして、どうやらレオさまと同じ相手のようですわ」

 静かに告げられたその言葉が、馬車の中に落ちた。

 レオはすぐには何も言えず、唇を引き結ぶ。

 仇の娘を娶った──ずっとそう思っていた。
 ラングリー家が密告に関わっていたことは、事実として動かない。
 だから、自分は復讐のためにその娘を妻にした。それが当然の報いだと、疑いなく信じていた。

 だが。

 あの屋敷で聞いた会話が、頭から離れない。
 パメラは、何も知らなかった。
 それどころか、両親すら叔父に始末されていたらしい。
 たとえ黒幕が別にいたとしても──あの叔父に、確かな罪があることは間違いない。

 パメラはラングリー家の娘だ。
 けれど、本当に罪を犯したのは彼女ではない。

 何も知らない無力な子どもだった。それどころか、密告で得た利益を享受できたとも思えない。
 そのような相手に、一族としての責任を負わせてよいのか。
 父と母を奪われ、何も知らぬままに冷遇されてきた娘に、「お前の家が仇だ」と言えるのか。

 ……違う。

 レオは目を伏せ、そっとパメラの手に目をやる。
 あたたかく、細く、けれど意志の強いその手。
 自分は、こんな手を、ただの“復讐の道具”にしようとしていたのか。

 もう、違う。
 違ってしまった。

「……それでも、言ってはくださいませんのね」

 ぽつりと落ちたパメラの声に、レオははっと顔を上げる。
 彼女は微笑んでいた。穏やかに、すべてを見透かすような目で。

「“一緒に復讐しよう”──そうおっしゃりたいのに、ためらっていらっしゃるのでしょう?」

 レオは何も言えず、唇を引き結ぶ。

 見透かされている、とわかっていた。
 だが、それでも言えなかった。
 利用するつもりで妻に迎えた過去を思えば、今さら並んで立ちたいなどと言える資格があるのか。
 それが、胸の奥に引っかかっていた。

「気にしておられるのですよね。わたくしを“利用するために娶った”ことを」

 レオは目を伏せ、小さく息を吐く。

「……そうだ。だから……」

 だが、その先の言葉を紡ぐ前に、パメラがそっと手を握り返した。

「わたくし、恨んではおりませんわ」

 パメラは静かに続ける。

「むしろ、レオさまのおかげで、思ったより早く動くことができました。お屋敷も、環境も、全部“使わせていただいた”とさえ思っておりますの」

 レオが驚いたように目を見開く。

「ですから、遠慮なさらずに」

 パメラはまっすぐに彼を見つめ、笑みを浮かべた。

「今からでも遅くはありませんわ。ご一緒に、“復讐”をいたしましょう」

 レオはその言葉を受け止めるように、じっと彼女を見つめ返した。

 そして、ようやく、わずかに笑う。

「……強いな、お前は」

「……あら、わたくしはか弱い乙女ですわ。大切にしていただかないと」

 パメラは涼しげに笑いながら、まっすぐにレオを見つめた。
 その瞳の奥に宿る光は、覚悟そのものであった。

「……じゃあ、しっかり守らねえとな」

 二人のあいだに、静かな風が吹いたような沈黙が落ちる。
 けれど、それは不安でも躊躇でもなく、確かな信頼に裏打ちされた“間”だった。

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