自分で書いた未完のラノベ小説の世界に転生したけどどうしたらいいですか?

黒野 ヒカリ

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No.1

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 スマホを見つめる俺は、電車の中という事を忘れ大声を上げてしまった。

 「よっしゃーーーー!!」

 声を上げてガッツポーズをする俺に、周りの人達が白い目を向けるのは当然で、「コホンッ」と咳をして「すいません」と周りに向けて言うとすぐさまスマホに目を戻す。

 (マジか…何度見てもやっぱり間違い無い、まさか書籍化の話がくるなんて……)

 これが人目も憚らずに俺が電車の中で大声を上げた理由だ。

 元々ラノベ小説が好きで読んでいる内に『俺にも書けそうだ』と書き始めた小説が、投稿しているサイトであれよあれよとランキングが上がっていき、初めての作品でまさかの書籍化の話しが来た。

 信じられないほどの驚きに、もう一度通知を確認する。

 【白猫様の作品『転生したらハーレムウハウハ天国だった件』の書籍化を検討しております。つきましては一度お話をお伺いしたいのでご連絡お待ちしております】
 
 ペンネームも作品名も間違っていない。

 間違っていたら笑えないから三回見た。それでも同じ内容だったから間違いはないだろう。

 今度は声を出さない様に小さくガッツポーズをして、さっそく時間を取れる日にちを書き込み返信をする。

 ウキウキ気分で電車を降りると、コンビニに寄って500㎜の缶ビール四本とつまみを買って家に帰った。

 家に着くとリビングにあるテーブルに買ってきたビールとつまみが入った袋を置いて椅子に座った。

 仕事帰りのスーツも脱がずに袋からビールを取り出すとフタを空けて一口……うまい

 そしてもう一度スマホを見る。

 「やっぱり間違いないな…」

 呟く俺は喜びが沸き上がり感情が爆発する。

 「よっしゃーーーー!」

 喜びで俺が叫ぶとすぐに隣の住人に壁をドンっとされた。
 
 このアパートは木造で、隣の音が良く響く。大声を出した俺が悪い。

 『スイマセン』と心の中で謝ってまたビールを口にした。

 「かー、今日のビールはいつにも増してうまうまだわ!」

 ニヤニヤしながら一本目をあっという間に飲み干したのをかわきりに、二本、三本と次々に手にして買ってきた缶ビールを全て飲み干すまで僅か三十分!
 余りの嬉しさに考えられないほどのハイペースでビールを全て飲み干した俺はお風呂に向かった。

 湯船にお湯を張り、体を洗って浸かると瞼が自然と落ちてくる。

 ハイペースでビールを飲んだせいで一気に酔いが回り、目の前がグルグルとして気持ち悪くなってきた。
 立ち上がろにもうまく体を動かせない。

 座っている状態もキツイので浴槽にもたれ掛かり目をつぶった。
 そして俺はそのまま寝てしまった。



◇◇◇

 気が付くとベットの上にいた。

 恐ろしい勢いでビールを飲んだのに二日酔いどころか清々しい気分で朝を迎える事が出来た。

 背伸びをしてベットを降りるとおかしい事に気がつく。

 (ここどこ?)

 確かに俺が住んでいるアパートは木造だが壁は白だった、しかし今見えている壁は木の板を貼り付けただけだった。

 「ラグーご飯よー!」

 現在の状況がよくわからずに戸惑っているとドアの向こうから女性の声が聞こえてきた。

(ラグーって何?どうゆう状況なのこれ……)

 混乱して動けないでいると目の前のドアが開いた。

 「あら、ラグー起きてたの?具合は大丈夫?ご飯できたからおいで」

 やって来た女性は、十代後半ぐらいの金髪ボブの髪型をしていてかなり整った容姿の美人さんだった。
 美人はいい、とても満足だ。だが、中世ヨーロッパ風の服を着ていて『いつの時代だよ!』と思わずツッコミそうになってしまった。

 どうした物かと考えてる俺に美人さんが首をかしげ近づいて来ると俺のおでこに手を合わせた。

 「っっ!!!!!」

 (か、顔が近い!近い!美人からのこれは刺激が強すぎる)

 驚き過ぎて声にならない声を上げる俺を美人さんは見つめる。

 「熱は無いみたいね。ほら、ご飯できたから行くよー」

 美人さんは笑顔で俺の手を引っ張って一緒に部屋を出た。

 部屋を出るとリビングみたいになっていてそこにはテーブルが置いてあった。そのテーブルの上にはスープとパンが二人分並べてありいい匂いが漂っていた。

 美人さんは俺を椅子に座らせると俺の向かいに座った。

 「ほらほら冷める前に早く食べるよ」

 美人さんはそう言ってパンを千切って口に運んだ。

 俺がじっと美人さんを見てると、視線に気がついたのか美人さんは俺を見て不思議そうにしている。

 「食べないの?」

 俺は首を横に振ってパンを口に運んだ。

 「固っ」

 思わず漏れてしまった言葉に美人さんは苦笑いをする。

 「ラグーごめんね、もう少しいい物食べさせてあげたいんだけど……」

 そして暗い表情になってしまった美人さん。

 「そ、そんな事ないよ!固いけど美味しいよ!ありがとうございます?」

 こんな美人さんに暗い表情をさせてしまったのは反省である。

 「ありがとうございます?ってなんか変だよラグー?大丈夫?まだ具合悪い?」

 「だ、大丈夫だよ?」

 「そっか、大丈夫ならいいけど……スープも飲んでね。これ自信作だよ」

 ニコニコとする美人さんに見つめられながらスープをすくって一口含むと野菜の風味が口に広がりかなりいいお味だった。

 「あっ、美味しい」

 「でしょでしょ!」

 笑顔になる美人さんに見つめられながら俺はスープを飲みしたけど少し食べづらかった。

 ご飯を食べ終わり、俺は椅子に座って後片付けをしている美人さんを眺めている。

 「そんなに見つめてどうしたの?」

 「えっと……」

 言葉に詰まる……

 自分がラグーと呼ばれている事も、こんな美人さんがご飯の用意をしてくれている事も、そして現状もわかっていないので何から話していいのかわからない。

 でも聞かないとわからない。この美人さんが俺とどんな関係かはわからないが今の俺が質問できる唯一の人物である事は間違いないない。

 (どうなるかわからないけど聞いてみるか……)
 
 「あの、俺……ラグーって名前なのですか?」

 「はっ??本当にどうしたの?おかしいよラグー」

 とりあえず自分の名前を確認したかったのだが美人さんは困惑した表情を浮かべている。

 頭がおかしい認定されてはいないだろうか?と考えてしまうと何からどうやって聞けばいいのか分からなくなる。でも、現状を把握しないとどうしようもないので誤魔化したままでは終われない。

 「なんか、起きたら記憶が混乱してて……」

 「混乱って……」

 これで納得するとは思ってなかったが、美人さんは難しい顔をしたと思ったらポンっと手を叩いてウンウンと首を振ると納得した顔をした。

 「ラグーお昼に外から帰ってきて青い顔で『具合悪いから寝る』って言ってたからきっとそのせいね!」

 俺の言葉ですんなり納得してしまったこの美人さんはかなり残念な人では?と思ってしまう。

 起きる前に具合が悪いと言って寝たのが幸いしたのだろう。

 (こんな美人さんが残念なんて思いたくない!)

 「それでは改めて、あなたはラグーで私はあなたのお姉ちゃんのマリアよ」

 自慢気にそう胸をはる美人さんはなんとお姉ちゃんだった。
 彼女かもしれないと思って少しドキドキした自分を殴ってやりたい。

 「お姉ちゃん……」

 軽くショックを受けた俺は沈んだ声で呟いた。

 「ラグーどうしたの?」

 俺を心配した表情で見つめるマリアお姉ちゃんはやっぱり美人だ。
 残念ながら彼女ではなかったがこんな美人さんがお姉ちゃんだと言う事に感謝するべきであろう……グスン 

 この美人さんが今の俺のお姉ちゃんである事はわかった。

 そのお陰で一つわかった。自分の姿を確認していないから確実ではないが、この美人さんがお姉ちゃんと言っている時点で今の自分の姿は二十五年見てきた冴えない顔の【田辺ヒロシ】ではなく全く知らない姿だろう。

 そしてもう一つ、異世界かはまだわからないが俺は転生している。

 俺は一人っ子なのでお姉ちゃんどころか兄弟すらいない。
 中世ヨーロッパ風の服を着た知らない金髪美人が目が覚めたら朝ごはんを作ってましたなんて事が現代日本で起こるはずがない。
 それに転生した系小説書いてるからね。

 こうゆう状況でもそれほど慌てずにいられる俺は小説書いてて良かったと思う。

 この美人さんと血の繋がりがある俺はまだ見ぬ自分の顔の心配はしていない。
 イケメンの美少年だろうと決めつけて次の質問にとりかかる事にしよう。

 「マリアお姉ちゃん、ちなみに僕は何歳で、ここはどこなの?」

 「ラグーが自分の事を僕って言うのは珍しいね」

 クスクスとするマリアお姉ちゃんに『しまった!』と思ったが言ってしまったのはしょうがない。次から気を付ければいい。

 「まぁいいわ、ラグーは十三歳でここはミラベル帝国のデリー伯爵領ルフランよ」

 「はっ?ミラベル帝国!?」

 俺はマリアお姉ちゃんの言葉に口をあけて固まってしまった。

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