染谷君は知らない滝川さんはもっと知らない交差するキュンの行方とその発信源を

黒野 ヒカリ

文字の大きさ
6 / 54

教室がザワザワしている件

しおりを挟む
 


 授業終了の鐘の音に授業をスッポッかしてしまった事に気がついた僕達は慌てて教室に戻る。

 恋愛経験の無い僕は偽装とは言え滝川さんの彼氏になる事で何かが起きるかもしれないとオッケーの返事をしたのだが、少し後悔している。
 冷静になった今、よく考えると滝川さんに返事をした時の僕はどうかしてたと思う。
 初めて感じたあの高揚感は本当に何だったんだろう──

 教室に着くと、僕達を見たクラスメイト達がザワザワとしている中、互いに自分の席に戻って行った。

◇◇◇
 
 屋上から帰ってきた私の姿を見た親友の北澤美織きたざわみおりが前の席に陣取り話しかけてきた。

 「あん~、授業いなかったけどどうしたの?」

 前の席からアゴを私の机の上に組んだ腕にのせ、顔をコテンっとさせながら上目遣いで聞くという何とも男心をくすぐる技を意識せずともできる美織もモテる。

 ショートボブで何をするにもカワイイ仕草をする美織に沢山の男子が勘違いしている。そんな美織はたちが悪いと思う。

 「ちょっとね」

 私は彼氏が出来た事は隠すつもりはないが、その彼氏が実は偽装彼氏でめんどくさい告白を避ける為の物だとバレては意味がないと思っている。
 親友の美織が誰かに話すとは思ってはいないけど、ちょっとした事で他の人の耳に入らないとは言えない。
 なので、僅かな危険を避け誰にも言わずに計画を実行した。

 (どうしょう…)

 悩む間に休み時間終了の鐘が鳴り、安堵する私の顔をジト目で見る美織

 「杏、帰る時にでも聞かせてね~」

 そう言うと美織は自分の席に戻って行く。

 (美織、今は余り追求しないでほしいんだけど……)


 私はそっとタメ息を吐いた。

◇◇◇
 
 最後の授業終了の鐘が鳴り、先生が教室から出ていくと美織が私の元へとやってきた。

 「杏~、一緒に帰ろ~」

 笑顔の美織に私は放課後までどうやって説明しようか考えたけどいい案が浮かばずに『用事があるからごめんね』と言って一緒に帰る事を断ってしまったけど大丈夫だろうか?

 そんな事で美織が納得するとは思ってないけど……

 「ふぅ~ん」

 ジト目で私を見る美織はなぜかバイバイと言って帰って行った。

 美織が私にジト目を向けただけで素直に引いてくれた事に驚いたけど、私は教室から出ていく美織の後ろ姿を確認して、荷物をまとめて帰ろうとしている染谷君アイツに近づき声をかけた。

 「あのさ、一緒に帰らない?」

 「えっ!?」

 「えっ!?ってなによ!」

 「あっ、わかりました」

 私は屋上で言い合いをした時とは全く違うコイツに変なヤツと思ったけど、オッケーしてくれたので二人で教室から出ていった。

 またしても二人で一緒に出て行った私達を見たクラスメイトが教室でザワザワがしていたのは気にしない事にする。

◇◇◇

 滝川さんに一緒に帰ろうと言われビックリしたけど、偽装の彼氏とは言え付き合っている事を思い出した僕は滝川さんと一緒に帰る事にした。
 
 (何か話したらいいのかわからない、どうしたらいいのか全くわからない)

 テンパる僕の目は視点が定まっていない。 
 キョロキョロとする挙動不審な僕に滝川さんが話しかける。

 「あのさ、偽装彼氏だけど付き合ったんだから名前で呼び合わない?」

 滝川さんがそう言った瞬間に僕の頭の中は、

 名前で呼び合わない?
 名前で呼び合わない?
 名前で呼び……、

 とリピートされ思考停止となってしまい、無言のまま少し経ったところで僕の精一杯の一言は「へっ?」だった。

◇◇◇

  私が名前で呼び合わないって言うと『へっ?』だって、『へっ?』ってなによ!
  コイツは私と会話をする気があるの?タメ息しか出てこないけど私はもう一度声をかける事にする。

 「あのさ、名前で呼び合わない?って言ったんだけど?」

 「はい…」

 「へっ?ってなに?」

 「はい…」

 「はい、じゃわかんない!」

 「はい…」

 「だ・か・ら、はいじゃわかんないって!」

 「はい…」

 下を向いたまま『はい』しか言わないコイツに私は段々とイライラとしてくる

 「あんたさ、『はい』しか言えないの?」

 「いいえ…」

 「『いいえ』、も言えるじゃない」

 「はい…」

 「また、『はい』に戻ってるし…」

 「すいません…」

 「すいません、になった!」

 「はい…」

 「はぁ~」

 なんでコイツと漫才みたいなやり取りしないといけないのだろう?
 私は呆れてしまいタメ息が出てしまった。

 もはや会話にならないと思った私は強引に話を進める事にする。

 「名前だけど、染谷賢一だから私はって呼ぶね」

 「はい…」

 「ねぇ?聞いてる?」

 「はい…」

 「『はい』て事はでいいのね?」

 「け、賢!?」

◇◇◇

 突然『賢』と呼ばれ、違う世界に意識が飛んでしまっていた僕は驚きでこっちの世界に帰ってきた。

 「なに驚いてるの?賢《・・》」

 滝川さんは驚きで固まっている僕にお構いなしにそんな事を言ってくる。

 「け、賢ってぼ、僕の事?」

 余り頭が回らない僕はどうにか滝川さんに質問したけど大丈夫だろうか

 「屋上の時と全然違くない?」

 「それには事情がありまして…」

 「事情って…、まぁいいよ私の事はあんって呼んで」

 「あ、あ、杏って呼べ、ないよ…」

 口ごもってボソボソと言う僕にニヤニヤする滝川さんは言った。

 「聞こえないよ?」

◇◇◇
 
 屋上の時とは違い、主導権を握っている感じがしている私は楽しくて仕方がなかった。
 コイツの事を攻めて楽しくなっている私はSなのかなと思ってしまうけどそれでもいいかな。

 だって楽しいんだもん!

 「あ、あ、杏」

 「聞こえな~い」

 「あ、あ、杏」

 「はっきり言わないと終わんないよ?」

 「!?」

 「驚いてないで言いなさい、あ・んってね」

  コイツを攻め立てる私は本当に楽しんでいたのだけど、観念したのかコイツは突然叫んだ。

 「杏!」

  その瞬間にゾクゾクとしてなんとも言えない高揚感が私の中に溢れだし悪戯心が顔を出した。

 「好きは?」

◇◇◇

 「好きは?」と言われた僕は、杏と全力で言った事であの時の高揚感が湧き出ているので恥はない。

 「好きだぁぁぁぁ!」

 僕の全力の叫びに滝川さんは満足しなかったのかまたも僕に要求してくる。

 「違~う、杏、大好きでしょ?」

 そんな事を要求する滝川さんはおかしいのではないか?

 でも────

 今の僕は何だってできる気がする。

 「杏、大好きだぁぁぁ!」

 僕は気合いを入れて全力で叫んだ。

 そして、滝川さんを愛情たっぷりで抱き締めた。
 
◇◇◇

 「えっ?」

 突然抱き締められた私は我に返る、そして焦る。

 「ちょ、ちょっと待っ、」

 引き離そうとしたけどガッチリと抱き締められたコイツを引き離す事ができない。

 「杏、僕はお前が好きなんだ!いや、愛してる!」

 「ちょっ、ちょっと離し、いっ、」

 「嫌だ!僕の愛を受けとってくれるまで離さない!」

 「い、いやぁぁぁぁぁ!」

 私は全力で叫んだけどコイツに抱き締められながら愛の言葉を言われ続けられ『あれ?私、賢の事が好きかも』と一瞬思ってしまった。

 でも我に返り、素になった染谷君コイツ

 「イヤァァァァァァ!」

 と叫びながら逃げて行く後ろ姿を見た時に勘違いだったと気がついた。

 そんな私達のやり取りを見つめる視線に私は気がついてはいなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

処理中です...