どうやら勇者に寝返る魔王の側近だけども【R18】

梅乃屋

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第二章

09:実は海様のおかげ

 


「当て馬だよ、当て馬!」

 魔界の午後のひととき。
 本日は晴天。気温も穏やかなので私は城の中庭で休日を過ごす。
 お茶請けの芋羊羹を齧り、苦い抹茶で喉を潤す。

 王都の老舗甘味処が売り出す数量限定の芋羊羹が手に入り、ご機嫌で午後のティータイムを満喫していたのにいきなり無粋な元勇者がどかりと座り込み、ずっと愚痴っていた。

 この前、アレックスの元仲間だったシュッとした魔法剣士ルークがやってきてアレックスに勝負を挑み、私を迎えにきたルキ様に敗れた。
 アレックスは彼らを人間界へ帰して聖女ソフィーとも話をつけるようルキ様から命令されたのだが、戻ってきたアレックスは開口一番、これだった。

 ルークが魔界へやってきた理由としては、ソフィーが神殿に籠り俗世を離れたのはアレックスのせいなので責任を取れと言う事だったらしい。
 なのでアレックスを人間界へ行かせたのだが、どうやら話は違ったらしい。

 そもそもソフィーが籠った事をルークが怒るのは筋違いな筈だが、ルークがソフィーに惚れているなら話は分かる。
 そうではないかと予想はしていたが、やはり当たりだった。

 アレックスはルークと共にソフィーを訪れ、魔界人として生きていくのでソフィーとは一緒になれないと伝えると、ルークが大激怒。
 そしてルークの大告白が起こり、晴れてルークとソフィーがくっついて、めでたしめでたし♪と。

 いやぁ、どうでもいいわ。

「見事な当て馬だねぇ♡」
 私は一口大に切り分けた芋羊羹を頬張った。

「ミラちゃん、そんな他人事みたいに言うなよ」
 アレックスはズズ、と抹茶を啜り、ふぅと息を吐いた。

「他人事だもの」
「そうだけどさー。一応同郷だった訳じゃん?少しは同情してくれてもいいんじゃね?」
「んー。私、サキュバス時代の記憶も濃いから他人に干渉しないのよね」
「魔王だけ?」
「そう。〝魔王か、魔王以外か〟よ」
「どこのホストだよ」

 呆れた顔で私の芋羊羹を盗み食うアレックス。その懐かしい美味さにカッと目を見開き気付く。

「もしかしてさ、他にも誰か日本人転生者がいた?」
「先代魔王が転生者だと思うよ」
「マジか!通りで温泉とか和食が浸透してると思ったら!」
「快適でしょ?」
「すごく♡」

 不気味な笑いをあげる転生者二人。アレックスはふと思いついた様に疑問を投げかける。

「でもさー。ミラちゃんて俺よりずっと年上だろ?転生した時期とか違うのに同じ時代の記憶あるよな?」
「それを言うなら先代もそうだったよ」
「え、そうなのか?ラグとか時間とか関係ないのか?」
「さぁ?それこそ神のみぞ知る事でしょ」

 脳裏に我が母なる時空の神の顔が浮かんだが、すぐに消えた。

「はぁぁ。この世界の神様ってみんなマイペースだよな。この前生命の神が居酒屋で魔界人と呑んでたし」
 そう言ってアレックスは二個目の芋羊羹を頬張る。

 確かにこの世界の神々は自由だ。
 創造神が呑気に魔界で隠居生活しているのを見る限り、この世界はきっとこう言うものなのだろうと納得するしかない。

 そして遠くへ目を向けると、中庭から続く回廊にこそこそと大きな体を揺らし歩いている熊…いやネビロスが見えた。

「ネビロス?」

 声をかけると彼はビクりと体を震わせ、私を恐る恐る見る。

「お、おうミラちゃん!今日も可愛いな!」
 見れば何故か大きな鞄を下げて何処か旅行へ行く様な格好だ。

「何処かへ出掛けるの?」
「うぉっ?ん、んんーまぁ、そうだな?」

 挙動不審なネビロスを訝しげに感じていると、向こうからアスタロト様が書類を持ってやってきた。

「ネビロス!長期滞在証を忘れているぞ?」

「ふぉっ!」
 ネビロスの声が上ずった。

 長期滞在証?

「ネビロス、もしかしてまた人間界に行くの?」
「お、おぅ!まぁな!あーアレックスじゃないか!お前序列二十位に入ったんだってな?わははは!おめでとうよ!」
「ありがとうネビロス!あー、てか悪かったな、その角。加減してくれてたんだろ?」
「んんーー?どうだろうな?まぁ角はその内生えるから気にすんな!」

 折れた片角を揺らし、ガハハと笑うネビロス。
 話を逸らされた感に私は察した。

 アスタロト様から書類を受け取りさっさと退散するネビロスに、私を声を掛けた。

「生まれ変わりが見つかればいいねー」

 そう言うと、彼は手を振りそそくさと行ってしまった。

 …この愛妻家め!




「ミラ」

 滑らかな美声に振り向けばルキ様。
 彼はふわりと私を抱き上げ、さっきまで私が座っていた席に着いた。

 そして挨拶のキスを軽く額に落として蕩ける笑顔を見せてくれる。
 あれからのルキ様は本当に甘い。そしてどこでもイチャつくので少し恥ずかしい。

「お前が行きたいと言っていた温泉宿の予約を入れた。来週にでもいこう」
「え!あそこ取れたんですか?! 何度お願いしても予約で埋まってると言われて取れなかったのに!」
「アスタロトが取ってくれた」

 ぐぬぬぬ!やはりこの世界は序列主義!クソ雑魚なめくじの私では無理か!クヤジイ!

 私が渋い顔をしていると、上から啄む様なキスがたくさん降ってきた。

「ん、ふふ♡ルキ様擽ったい♡」
 ちゅ、ちゅとキスを降らし、私は嬉しさで体を捩る。

「おーい。俺、いるんだけど?」
 アレックスが頬杖ついて不貞腐れていた。

「まだいたのか。ずっと見ているつもりか?」
 するりと私の頬を撫で付け、私に熱っぽい視線を送るルキ様。

「っかーーー!俺もツンデレエロ可愛いサキュバスの女が欲しい!」
 地団駄を踏みながら叫ぶアレックス。

 ルキ様は口角を上げ笑い、
「〝てんぷれ〟通りにならなくて残念だったな?」

 そう言って唇を重ねて深いキスをした。

 顔を赤らめ去って行く元勇者を目で追い、私はキスの続きを愉しんだ。

 うっかり小説の世界かと思い込み色々足掻いてしまった私だけど…。
 結局全く関係なかったと言う。
 そもそも海様が原作を参考にしてルキ様に挑んでしまったからこんな紛らわしい事になった訳で。

 でもそのお蔭で私は記憶が戻ったし、勇者にしてみれば魔界人を謳歌しているしで、結果みんな幸せになっていた。
 なので密かに海様には感謝している。


 何しろ……

「ルキ様」
「んー?」
「シュキ♡」
「ミラ、寝室へ行くか?」


 行く♡

 ……ルキ様がこんなにも甘い。






◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



これにて完結でございます。
最後までご精読ありがとうございました♡

初投稿にも拘らず、お気に入り登録して頂いた方々、本当に感謝です(>人<;)

また懲りずに別作品も投稿していきたいと思っておりますので、よろしければまたお立ち寄り頂けると幸いです(〃ω〃)



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