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本編
09:お気に入りのシャツは良い仕事をしてくれる
しおりを挟む計画通り!と悪い顔で叫びたい。
計画してなかったけどな。
何故なら昨日の覗き魔は脳筋マルセルだったからだ。
丁度フェリシテお嬢様のお供で城の図書室へ向かう途中で何だか怒気を孕んだマルセルに出くわし、俺に話があると言われ強制連行。
空いている部屋へ連れ込まれた途端、昨夜の件を問い質された。
「クロヴィスを誑かしただろ!お前まさか男娼上がりか!」
部屋に入るなりマルセルは威圧的な物言いで俺を問い質す。
男娼ではないがまぁまぁ近い事はやって来た。
違いは相手が限定されていたのと、料金が発生しない所かな。更には淫乱クソ野郎だし♡
「男娼?俺は十二歳からお嬢様に仕えていますが?」
わざと眉を顰めて答えると、俺の胸ぐらを掴み脅す王国の新人騎士。
「男娼のようにお前から誘惑したんだろうが!汚い真似をして恥ずかしくないのか!」
顔が近い!力入りすぎだぞ?シャツのボタンがブチブチいってるよ!
「もしかして昨夜の中庭での事を仰っているならお分かりでしょう。俺がお誘いを受けていたんですよ。そしてお断りしていたのも見ていた筈では?」
「減らず口を!その顔で何人も誑かしてきたんだろう!だが俺の友人に手を出すなら容赦はしないぞ!」
乱暴に掴まれたシャツのボタンがコツンコツンと床に散らばる。
あーもー。このシャツお嬢様からのプレゼントなのにぃ。
「友人だと仰るなら忠告してくれませんかね?平民なんぞに構うな、と」
「っは!そんな事を言って裏でこっそりあいつを誘惑する気だろう!どうやって誑かした?その顔か?それとも体か!」
マルセルは俺の胸元に視線をやり、はだけてしまった素肌を見て怯む。
あーボタン取れて乳首見えてるわ。
「貴様っ!俺まで誘惑する気か!」
真っ赤な顔で全く意味不明な怒りを見せるマルセル。
…アンタが脱がしたんだろうに。
「いつ俺が誘惑したんですか。あと力任せに引っ張らないで頂きたい。そもそも俺の体はフェリシテお嬢様をお守りするためにあります。不埒なお遊びに付き合えるほど暇じゃありません」
そう言って胸ぐらを掴む手にピリリと微電流を流してやった。
「…いっっ!」
刺激に慄き慌てて手を外したマルセル。
「雷を……扱えるのか?」
彼は痺れた手を摩り驚愕の目で俺を見た。
大抵のやつが驚く雷魔法。
この世界、科学技術があまり発展していないせいか雷の性質を理解できず雷魔法の使い手は少ない。
理科の知識があれば風と水魔法の組み合わせでチョチョイとしたらスタンガンくらいの電流は使えるんだよ。
流石にゲームのようなでっかい雷撃は無理だけどな。悲しいけど俺の魔力は一般レベルでそこまで威力のある魔法は使えない。
それはいいとして。
俺は脳筋マルセルの言葉を無視して転がったボタンを拾い上げる。
「このシャツ俺の私服なんですよね。後で伯爵家に請求させて頂きますね」
俺は持っていたスカーフで胸元を誤魔化し部屋を出て、早急に赤薔薇宮へ着替えを取りに行った。
何とかお嬢様の読書タイムが終わるまでには戻る事が出来たのでホッとしたのも束の間。
「一体どういうことになっているのかしら?セバスティアン?」
バサリと扇子を広げて俺を見下ろすフェリシテお嬢様。
俺を愛称ではなくセバスティアンと呼ぶ時は大抵が詰問責めする時だ。
俺は午後のティータイムでお嬢様の横で片膝をつき、洗いざらい喋ることを要求される。
「つまり?クロヴィス様に好かれてキスされた所をマルセル様に見られた、という事?」
「はい」
「で、それを問い詰められ、わたくしが贈ったシャツを破かれた訳なの?」
「破かれてはいません、ボタンが飛んだだけです」
「言い訳はよろしくてよ!」
「っひゃい」
フェリシテお嬢様はパタリと扇子を閉じ、上品にそれを胸元にしまう。
「全く。大人しく一年を過ごそうとしているのに何を企んでるの?」
「何も」
「嘘おっしゃい!」
「キャイン!」
お嬢様は溜息を溢し、お茶を飲む。
因みに本日のお茶はお嬢様お気に入りのディグレロ茶(蜂蜜入り)。お茶で機嫌を取ろうしたが、無駄だった模様。
「あ、そうそうお嬢様。取り敢えずシャツの弁償請求をダンテス伯爵家に回しておきましたので♡」
にこやかに伝えると、途端にお嬢様の綺麗な瞳が見開く。
「請求⁈ どうするのよダンテス団長が出てきたら…」
「お嬢様はいつも通り毅然として真実をお話しくだされば良いだけですよぉ」
俺がのんびりそう答えるとフェリシテお嬢様の顔が怒りに変わる。
「あなたのその顔でシャツを破かれたなんて言ったら絶対誤解するじゃない!分かってるわよ!態とらしく頬を染めてモジモジと隣で立って煽るつもりでしょ?! 何が目的?マルセル様の謹慎?失脚?」
「あ~、そうなれば良いなぁって?」
「マルセル様にはいい気味だけれど……けれどもわたくしは平穏に過ごしたい……」
彼女は項垂れた。
あはは。ごめんて。
後日マルセルの父親、ダンテス団長が赤薔薇宮へ訪ねて来た。
案の定、俺の顔を見た瞬間誤解してくれた。
「フェリシテ嬢の大事な侍従に愚息が…未遂とは言えご迷惑をお掛けし、誠に申し訳なかった」
見事に俺を性的に襲おうとしたと勘違いしてくれたのだ。
俺はお嬢様の側で笑いを堪えながら黙って俯く。
お嬢様も誤解を解くことを諦めたのか、静かに話す。
「今回は大した怪我がなかったことと、マルセル様にも将来がおありでしょうからこの事はお互い内密にしておきましょう」
「………温情に感謝する。愚息には暫く謹慎させるので勘弁して頂きたい」
「構いませんわ」
そして平民の俺にも頭を下げて退室したダンテス団長。
………親父の方はよく出来た男だ。さすが第一騎士団長だけあって良い身体してたなぁ♡
彼を送る俺の顔を覗き込んだフェリシテお嬢様。
「セブ、鼻の下が伸びてるわよ」
「おぉっふ!」
「まぁダンテス団長にひとつ貸しが出来たことは大きいわね。お父様には報告したの?」
「請求を送る前に。書面のみですが」
即座に『煽れ』と返事が来たのは内緒だ。
今回偶然が重なりマルセルを謹慎させ更にダンテス団長に貸しができた結果となり、俺としては侯爵様に顔向けできる状態になったのでホッとしている。
内密なので王室には報告が行かず、王子妃査定にも問題ないので、表向きはお嬢様の平穏も乱されていない筈だ。
ふふふ!計画通り!
計画してねーけど。
「ともかく。騒ぎを起こさないでちょうだい。何度も言うけど私は静かに過ごしたいんだから!」
「承知しております」
満足の結果ににっこりと返事をすると、彼女は眉を下げて嘆息した。
「絶対承知してないわ……」
次の日、お嬢様から新しいシャツを頂いた。
◆
【ダンテス家にて】
ダンテス団長:
「マルセル、先程赤薔薇宮へ行き今回のことは内密にしてもらった。いくら平民とは言えマレクラルス侯爵家の侍従への暴行は騎士としても最低の行為だ。一ヶ月の自宅謹慎を言い渡す。いいな?」
マルセル:
「え、え?暴行?あの父上、俺はあの侍従を問い詰めただけで…」
ダンテス団長:
「言い訳をするな!シャツを破くほどの事をしようとしたんだろうが!まだ分かっとらんのか!」
マルセル:
「い、いえ!充分に反省しています!ですが、父上が誤解するような事は何も……」
ダンテス団長:
「誤解も何も未遂で終わっただけの事だろうが!いくらあの侍従が魅力的とは言え力で捩じ伏せようとするなど言語道断だ!ワシも暫くお前の顔を見たくないわ!復帰したら第十騎士団で雑用から始めろ!」
マルセル:
「ち、父上!? お待ちください!父上っ!」
マルセル:
「何故だ……!少し脅してボタンが千切れただけなのに……!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
取り敢えず一人、片付きました♡
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