悪役令嬢のビッチ侍従

梅乃屋

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本編

39:部屋とソファとヴィラードと

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 重厚な扉、美しい意匠が施された魔導灯に大きな窓。全てが上質で洗練された作りのこの部屋。

 違和感があるとすれば壁や棚に絵画や飾りが置かれている所にそういった装飾類はなく。
 あるのは無骨な剣や大きな槍、そして物々しい甲冑。

 そんな部屋で俺は

「んっ、んっ!あ、んん♡ ヴィルっ、いぃ♡ 」
「セブっ…!はぁっセブ、ここが、好きだったな?もっと強くか?」


 激しく喘いでいた。

 おかしいのは俺の頭なのか、それともヴィラードなのか。

 そもそも俺達はルシャード殿下に二人でしっかり話し合って来いと言われ、この皇宮のヴィラード専用部屋へ招かれた。
 話をするために。

 なのにいつの間にか俺はヴィラードに腰を振り貫かれて喘いでいた。

 いや、いつの間にかじゃないんだけど。
 部屋に入るなり俺が我慢できなくなって襲ってしまったんだが、ヴィラードも俺の勢いに飲まれてそのまま盛っているんだよ。

 大きな体を持つヴィラードに誂えたのか、重厚感あるソファは二人の体重でギシギシと悲鳴を上げ、それよりも響く肉を打つ卑猥な音。

 だってヴィラードの姿を見ただけでムラムラしたんだからしょうがない。
 今はもう話し合いとかどうでも良くて、俺の性欲を満たす方が先だ。

 何せこの一週間新聞は婚約したルシャードの話題に持ちきりで、見切れて写っているヴィラードの姿を見つける度にちんこが昂ぶってたんだよ。何ならそれ見てオナってたし(照)
 実物見たら、ヤリたくなるのは当然だろ?違う?

「あっ、んんっ!ヴィル、強く、して♡ もっと、くれ♡ 」
「……………!いくらでも!」

 足をヴィラードの逞しい肩に乗せると彼はその足を掴んでさらに奥へと貫く。
 彼の上腕二頭筋が動く度に盛り上がり、割れた腹筋は汗を滴らせ淫猥に反射する。
 新聞には緊張感を纏い険しい表情で載っていた男が、今は劣情を灯した目で俺を見て、犯して、そして溺れている。

「んっ、あっ、も。イキ……そう!」
「セブ、もうちょっと待てっ、俺もだから、……!もうちょっと……!」

 顔を紅潮させたヴィラードが荒い息を吐きながら俺にお預けを言ってくる。

「んんんんっ!まだ?なぁまだ?俺もう無理っ!」
「もうちょっとだからっ!セブ、一緒にイきたいっ」

 パチュんパチュんと俺の尻を打ちつけるヴィラード。
 肩に乗せた俺の足を齧り舐めつけ必死に腰を振る。

「ハァっ…んんっ……」

 ヴィラードの悩ましい艶声が漏れて、俺はそれだけで我慢しきれず身体を震わせた。

 同時にヴィラードも動きを緩慢にさせ、俺のナカへ熱い飛沫を上げて大きく擦り付ける。



 ゆっくりと余韻に浸るかのように腰を揺らし、俺の足に軽くキスを落とす。


「やっと……一緒にイけた!」

 嬉しそうに破顔する氷獄の鬼神。
 今のヤツの顔は事後の火照った色気が溢れて色魔神となっている。

「んはぁ♡ 俺はそのまま続けても構わないんだけど……一緒にイきたかったのか?」
 そう尋ねると、驚いた顔をして逆に問われた。

「一緒にイクものでは、ないのか?」
「俺はどっちでもいいぞ」
「俺は、一緒にいきたかった」
「あははは。そうか」

 それよりも多幸感で満たされた俺はだらしなくソファに体を溶かす。
 俺の足を未だに肩へ乗せたまま俺を見つめる緑色の瞳。
 乱れたハニーブラウンの髪と、何よりも汗と体液に濡れた奴の肉体が卑猥すぎて、俺は心のシャッターを連打している。

 俺はヴィラードの腹筋を指でなぞり、うっとりと見惚れた。

「堪んねーな、この身体♡」
 思わず本音が漏れてチラリと彼を窺うと、赤い顔をしてピクピクと震えている。

 え、どした?

 どういう心境なのか分からず首を傾げると、ヴィラードは俺を抱き起こしてキスをした。

「んぬっ?」

 厚い舌が遠慮なく侵入し激しく舌を絡ませ吸い付く。
 鼻息荒く俺の口蓋を貪り何度も角度を変えて口づけを深めるヴィラード。

 よく分からない行動だが、俺に欲情しているのだけは確からしいので甘んじて受け入れる。
 強面のくせに柔らかく潤った唇に、厚くてうねる舌。
 高い鼻筋で俺の頬を擦り付け何度も匂いを嗅いでくる胸筋ムチムチマッチョ。

 唾液が糸を引くまで堪能するとやっと満足したのか、唇を離して俺の顔を見つめてきた。

「セブ…」
「んー?」
「好きだ。結婚してくれ」



 二回目のプロポーズか。


「くくく!何だよその顔!」
 耳を垂れ下げ情けない顔で様子を伺う大型犬にしか見えないこの男、帝国の鬼神。三十ちゃい。
 そんな男がたかが平民の侍従に眉を下げ媚を売り、必死に愛を乞う。

 可愛すぎて鼻血が出そうだ。

 こんなにも熱い情熱を向けられた後に見限られたら、多分俺は再起不能になるだろう。だから逃げた。
 捨てられる前に逃げた。

 正直、怖かったからな。
 本気で人を深く信じるのもそれを求められるのも、怖い。
 それは前世から続く俺の惨めな性分。
 何せ母親がそうだったから、それを見て育った俺もいつの間にか同じような事をしていた。

 ただ一つ分かったのは、その母親が俺を見捨てなかった事だ。
 何度も苗字が変わろうと、何人も相手が入れ替わろうとも俺だけには変わらず愛情を注いでくれていた。非常に分かり難かったが。

 転生して今更気付いた。
 気付くのが遅過ぎたが、お陰で少しは他人を信じようって気にもなる。
 何せ毒親ギリギリの養父にも俺に対する愛情が感じられてしまい、うっかり絆された。

 何よりヴィルの上司が俺の鎖を引き千切ってしまったし。

 だから。

「本当に俺で良いのか?色々面倒だぞ?」
「構わない」
「へぇ…。ここのブラントミュラー元宰相、俺の仕事相手だったぞ?」
「んなっ?……あの閣下は人徳に溢れ、惜しまれながらも宰相職を勇退され現在は議会で活躍されて……セブ、本当か?」
「あははは!下半身は人徳者じゃなかったぞ♡」

 ショックが大きかったのか、ヴィラードは黙って考え込む。
 ほらな?
 面倒だろう?

 だがこの男は諦めが悪いらしい。

「過去の経験は誰でもあることだ。俺も女性と付き合った事はある。同じではないか?」
「ブフっ!そうかもな」

 激しく強引な理屈だけど、俺はその言葉に救われた気がした。
 確かに元恋人と考えれば楽だ。相手がちょっと特殊なだけで。

「なーヴィル。俺は今までずっと誰かと一緒になるなんてのはあり得ない夢だと思って生きてきたんだよ。だからな、急に愛を伝えられても戸惑うというか、よく分からないてのが本音なんだよ」

「ならこれから知っていけば良い」
 何とも極端な発想のヴィラード。

「そういう問題か?」
「貴族だって知りもしない相手と結婚してうまく行っている家もある。それに…」

 ヴィラードは口角を上げ、珍しく蠱惑的な笑顔を向ける。


「俺の身体が好みなんだろう?」

 眩しい!
 そして何も言えねー!



 俺はその笑顔と肉体に撃沈した。





 ◆




「私は『話をして来い』と言ったはずだが?」

 物凄い不機嫌面で俺とヴィラードを睨む帝国第三皇子、ルシャード。

 まさに事後の火照った顔で報告しに行った俺とヴィラード。何があったかモロバレだ。
 それでもヴィラードはいつもの無表情で問題なく片が着いたと報告する。あの情交の後で良く言えたもんだ。

「エフン!では、セブはこのままフェリの侍従として仕え、ヴィラードとは婚姻を交わすのだな?」
 気を取り直し話を進めるルシャード。

「結婚はまだ先にさせて頂こうかと」
 俺がそう答えるとルシャードは訝しげに眉を顰める。

「何故だ。まだ何か隠していることでも?」
「何もありませんて。その前に殿下とフェリシテお嬢様の婚姻が控えているじゃないですか」

 そう答えるとルシャードの先ほどの険しい顔は瞬時に緩み、嬉しそうに頬を上げる。
 相当浮かれてんな、コイツ。

 それよりも。
 裏社会の人間がのうのうと皇宮に出入りすることにやはり抵抗がある旨を正直伝えると、

「例えセブが裏社会の人間とバレたとて、それを知っている者も同じようにそれを利用している者だ。つまり、誰もお前を糾弾出来る者はいない…この帝国ではな。それで恐喝してくるなら私が話をつけよう」

 この世界、権力者は大抵どこかで裏と繋がっている。
 そう考えると大きな組織を抱える俺の元ボス、養父の影響力に戦慄が走る。
 ルシャードが高級宿でわざわざ暴走を起こしたのも、養父だけに宛てたものではなく組織に対する威嚇だったのではないかと今更気づく。

「ともかくお前は私の部下になった訳だから、フェリの侍従としての仕事は勿論のこと他にも色々と動いてもらう。いいな?」

「仰せのままに」


 ……あれ?

 これってさ。


 俺は新しい鎖がついたことに気付いた。
 しかもかなりバージョンアップされたハイエンドの首輪付き…。


 逃げたら確実に消されるヤツだよな?

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