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第1章 精霊がいる薬屋
6、薬の処方とお礼
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まず切り傷と擦り傷は患部を清潔に洗い流して、消毒をしてから軟膏を塗って包帯を巻く。指先の方は普通の軟膏で良いけど、足の切り傷の方はかなり深くまで傷が付いているから、皮膚の再生を促す作用が強いものにした方が良いかもしれない。
骨折は添え木をして包帯で固く固定し、痛み止めの飲み薬を処方するぐらいしかできない。あとは治るまで耐えるしかないけど……伯爵家なら治癒師にかかれるかもしれない。もし診てもらえるのなら、すぐに治るだろう。
治癒師とは魔力を使って怪我や病気の治癒ができる人達のことで、国に数人しかいないほどの希少な存在だ。だから普通はお目にかかることすらできないんだけど……伯爵様なら伝手があるかもしれない。
「お姉ちゃん……痛い……」
「もう少し耐えてください。頭が痛いとか、気持ちが悪いとかそういった症状はありますか?」
「ううん……大丈夫」
私はその返答にほっと胸を撫で下ろした。あとは患部の処置をするだけだ。
「も、持ってきました! 清潔な水と布、それから包帯と消毒液です」
「こちらが添え木になる木の板ですっ」
「私はコップと飲み水を……!」
「ありがとうございます。ではまず指先と左足の傷から対処していきます。水で綺麗に洗い流してから消毒液で再度洗い流し、布で軽く水気を拭き取ったら軟膏を塗ります。そして包帯を巻いたら終了です」
この傷だと、水で洗ったらかなり痛いだろうな……でもしっかり洗わないと、後で膿んでしまう。そうなったら最悪は死に至るのだ。ここは手加減せずにやらないと。
「これから傷口を水と消毒液で洗い流しますが、かなり痛いと思います。しかしそれをしなければ命に関わりますので、耐えてください」
「……分かった。頑張る」
私の真剣な言葉が通じたのか、男の子はこくりと頷いてくれた。
「じゃあいきます」
それから男の子は泣き続けながらも、なんとか最後まで耐えてくれた。綺麗に洗い流せて軟膏もしっかりと塗れたので、化膿することはないだろう。
「あとは骨折の対処だけです。骨折はとにかく骨を適切な位置に戻して固めるしかありません。そこの方、手伝っていただけますか?」
「わ、分かりました」
幸い男の子の足は変な方に折れ曲がっているというほどではないので、問題なく固定することができた。足が固定されたことで少しだけ痛みが弱まったのか、男の子は体の力を抜いてぐったりとしている。
痛みに耐え続けて疲れたのだろう。
「お疲れ様でした。最後にこちらを飲んでください。苦いですが痛みが和らぎます」
そうして男の子が痛み止めまで飲んでくれたところで、私は全ての対処を終えてその場に立ち上がった。あとは男の子をベッドまで運ばなくてはならない。
足は固定したし、患部は全て包帯で覆ったし、動かしてもそこまでの苦痛はないはずだ。
「処置が終わりましたので、ベッドまで運んで差し上げてください。絶対に足は動かさないように、包帯で巻かれているところにも、できる限り触れないようにお願いします」
「かしこまりました……おいっ、大きな木の板を持ってこい! 坊ちゃんを運ぶぞ!」
ふぅ……とりあえず応急処置ができて良かった。結構酷い傷だったし、対処が遅れたら大変なことになっていたかもしれない。
さっきは痛み止めしか飲んでもらわなかったけど、数日は化膿止めも飲んでもらったほうが良いかな。あとは多分これから熱が出るから、解熱剤も処方しておこう。
私がそんなことを考えつつ薬を片付けていると、目の前にフェリスが現れた。
『レイラ、かっこ良かったよ』
「本当? ありがとう。助けられて良かった」
周りに人がいなかったので、視線は向けずに小声で返事だけを返す。
『僕の方も、騒動が起こる前に情報収集は終わってるから完璧だよ』
「おお、凄いね。さすがフェリス」
『ふふんっ』
フェリスは腰に手を当てて胸を張ってドヤ顔だ。私はそんなフェリスを見て、やっと緊張の糸が解けていくのを感じた。
あそこまで重症の患者さんに薬を処方したのは初めてだったから、自分でも気付かなかったけど相当緊張していたらしい。
「勝手に処方しちゃったけど怒られるかな……」
それに応接室からも抜け出しちゃったし。しかもドアからじゃなくて窓から。ヴァレリアさんに迷惑をかけたらどうしよう……
「レイラ様、お坊ちゃまを救っていただきありがとうございました。未だ混乱しておりまして……しばらくの間、先程の応接室でお待ちいただいても良いでしょうか?」
「かしこまりました」
私は先ほどの執事補佐の男性に促され、また応接室に逆戻りとなった。そして応接室でしばらくの間、ふかふかのソファーに疲れを癒してもらいながら待っていると、部屋の扉がノックされた。
「レイラ様、失礼いたします」
執事補佐の男性の声が聞こえてきて扉が開くと……そこには予想だにしていなかった人物がいた。服装の豪華さからして、ほぼ確実に伯爵様と伯爵夫人だ。
私は急いでソファーから立ち上がり、その場に跪く。
「レイラさん、だったかしら? 顔を上げて頂戴」
私が跪くとすぐに、伯爵夫人が優しい声をかけてくださった。私はその声に従い、少しだけ顔を上げる。
「この度は、息子を救ってくれて本当にありがとう。さあソファーに座って」
「……かしこまりました。失礼いたします」
夫人はとても優しそうな雰囲気で、笑顔が素敵な方だった。その隣にいる伯爵様はガタイが良くて、怒っているわけではないと思うけど、視線を向けられると少し緊張してしまう。
「レイラと言ったな。私からも改めて礼を言う。本当に助かった」
「お役に立てて光栄です。……しかし勝手に動いてしまい、申し訳ございませんでした」
「問題ない。使用人からの聞き取りで許可を出したと聞いているからな」
そういえば、不審者として排除されないようにって、最初に近づいて良いのか聞いたんだった。ちゃんと聞いておいて良かった……あの時の私、よくやった。
「息子は痛み止めが効いたのかさっき眠ったところなの。使用人達にかなりひどい怪我だったと聞いたわ。これからどう対処すれば良いのか教えてもらえるかしら? 必要な薬は全て購入するわ」
「かしこまりました。ご子息の怪我はかなり酷かったので、数週間は毎日軟膏を塗り直して、包帯を清潔なものに変えていただきたいです。さらに化膿止めもしばらく飲んでいただいた方が安心かと。それから酷い怪我をした場合は発熱することが多いので、解熱剤も適宜服用してください。痛み止めの飲み過ぎは良くありませんので、我慢できない時だけにしていただきたいです」
私はそう説明しながら、まだ残っていた薬を薬箱から取り出した。しかし量は全然足りない。
「手持ちは少ないので、ご購入いただけるのであれば注文書をご記入いただいて、足りない分は後日配送という形になります」
「分かったわ。では必要な薬は全て購入します。後で執事とやりとりして頂戴。急がせるのだから、お金は前払いで支払うわ」
「ありがとうございます」
とりあえず責められたりはしないようだ。本当に良かった……薬も大量に売れたし、ヴァレリアさんに迷惑がかかるようなことにならなくて良かった。
「レイラさんは何か好きなものがあるかしら?」
ほっと安堵に胸を撫で下ろしていると、ナヴァール伯爵夫人が突然そんなことを聞いてきた。私は質問の意図が分からなかったけど、とりあえず当たり障りのない返答をする。
「ジャムクッキーが好きです」
「そうなのね。ではお礼に有名な焼き菓子専門店でクッキーを取り寄せておくわ。今度配達に来た時に渡すわね」
「そんな……よろしいのでしょうか?」
「もちろんよ。息子の恩人だもの」
「では、ありがたく頂戴いたします」
あまり拒否しすぎても不敬だと教わったので、私はお礼としてクッキーを受け取ることにした。私のその返答を聞いて、フェリスは飛び回って喜んでいる。
フェリス……思わず視線を向けそうになっちゃうから、できれば肩に乗っててほしいな。
それから伯爵様と伯爵夫人としばらく雑談をこなし、お二人は応接室を出ていった。そしてその後は薬の依頼を受け、今日売った分の代金をもらい、疲労感に包まれながら伯爵家を後にした。
「フェリス……なんだか疲れたよ」
『レイラは頑張ってたからね。今夜は僕が魔法を使ってあげようか?』
「……本当? じゃあ、お願いしようかな」
『了解! 張り切ってレイラの体調を完璧にしてあげるよ』
「ありがとう」
そうして今夜の約束をした事でやる気十分なフェリスと馬車に乗り、心地よい揺れに身を預けながら帰路に就いた。
骨折は添え木をして包帯で固く固定し、痛み止めの飲み薬を処方するぐらいしかできない。あとは治るまで耐えるしかないけど……伯爵家なら治癒師にかかれるかもしれない。もし診てもらえるのなら、すぐに治るだろう。
治癒師とは魔力を使って怪我や病気の治癒ができる人達のことで、国に数人しかいないほどの希少な存在だ。だから普通はお目にかかることすらできないんだけど……伯爵様なら伝手があるかもしれない。
「お姉ちゃん……痛い……」
「もう少し耐えてください。頭が痛いとか、気持ちが悪いとかそういった症状はありますか?」
「ううん……大丈夫」
私はその返答にほっと胸を撫で下ろした。あとは患部の処置をするだけだ。
「も、持ってきました! 清潔な水と布、それから包帯と消毒液です」
「こちらが添え木になる木の板ですっ」
「私はコップと飲み水を……!」
「ありがとうございます。ではまず指先と左足の傷から対処していきます。水で綺麗に洗い流してから消毒液で再度洗い流し、布で軽く水気を拭き取ったら軟膏を塗ります。そして包帯を巻いたら終了です」
この傷だと、水で洗ったらかなり痛いだろうな……でもしっかり洗わないと、後で膿んでしまう。そうなったら最悪は死に至るのだ。ここは手加減せずにやらないと。
「これから傷口を水と消毒液で洗い流しますが、かなり痛いと思います。しかしそれをしなければ命に関わりますので、耐えてください」
「……分かった。頑張る」
私の真剣な言葉が通じたのか、男の子はこくりと頷いてくれた。
「じゃあいきます」
それから男の子は泣き続けながらも、なんとか最後まで耐えてくれた。綺麗に洗い流せて軟膏もしっかりと塗れたので、化膿することはないだろう。
「あとは骨折の対処だけです。骨折はとにかく骨を適切な位置に戻して固めるしかありません。そこの方、手伝っていただけますか?」
「わ、分かりました」
幸い男の子の足は変な方に折れ曲がっているというほどではないので、問題なく固定することができた。足が固定されたことで少しだけ痛みが弱まったのか、男の子は体の力を抜いてぐったりとしている。
痛みに耐え続けて疲れたのだろう。
「お疲れ様でした。最後にこちらを飲んでください。苦いですが痛みが和らぎます」
そうして男の子が痛み止めまで飲んでくれたところで、私は全ての対処を終えてその場に立ち上がった。あとは男の子をベッドまで運ばなくてはならない。
足は固定したし、患部は全て包帯で覆ったし、動かしてもそこまでの苦痛はないはずだ。
「処置が終わりましたので、ベッドまで運んで差し上げてください。絶対に足は動かさないように、包帯で巻かれているところにも、できる限り触れないようにお願いします」
「かしこまりました……おいっ、大きな木の板を持ってこい! 坊ちゃんを運ぶぞ!」
ふぅ……とりあえず応急処置ができて良かった。結構酷い傷だったし、対処が遅れたら大変なことになっていたかもしれない。
さっきは痛み止めしか飲んでもらわなかったけど、数日は化膿止めも飲んでもらったほうが良いかな。あとは多分これから熱が出るから、解熱剤も処方しておこう。
私がそんなことを考えつつ薬を片付けていると、目の前にフェリスが現れた。
『レイラ、かっこ良かったよ』
「本当? ありがとう。助けられて良かった」
周りに人がいなかったので、視線は向けずに小声で返事だけを返す。
『僕の方も、騒動が起こる前に情報収集は終わってるから完璧だよ』
「おお、凄いね。さすがフェリス」
『ふふんっ』
フェリスは腰に手を当てて胸を張ってドヤ顔だ。私はそんなフェリスを見て、やっと緊張の糸が解けていくのを感じた。
あそこまで重症の患者さんに薬を処方したのは初めてだったから、自分でも気付かなかったけど相当緊張していたらしい。
「勝手に処方しちゃったけど怒られるかな……」
それに応接室からも抜け出しちゃったし。しかもドアからじゃなくて窓から。ヴァレリアさんに迷惑をかけたらどうしよう……
「レイラ様、お坊ちゃまを救っていただきありがとうございました。未だ混乱しておりまして……しばらくの間、先程の応接室でお待ちいただいても良いでしょうか?」
「かしこまりました」
私は先ほどの執事補佐の男性に促され、また応接室に逆戻りとなった。そして応接室でしばらくの間、ふかふかのソファーに疲れを癒してもらいながら待っていると、部屋の扉がノックされた。
「レイラ様、失礼いたします」
執事補佐の男性の声が聞こえてきて扉が開くと……そこには予想だにしていなかった人物がいた。服装の豪華さからして、ほぼ確実に伯爵様と伯爵夫人だ。
私は急いでソファーから立ち上がり、その場に跪く。
「レイラさん、だったかしら? 顔を上げて頂戴」
私が跪くとすぐに、伯爵夫人が優しい声をかけてくださった。私はその声に従い、少しだけ顔を上げる。
「この度は、息子を救ってくれて本当にありがとう。さあソファーに座って」
「……かしこまりました。失礼いたします」
夫人はとても優しそうな雰囲気で、笑顔が素敵な方だった。その隣にいる伯爵様はガタイが良くて、怒っているわけではないと思うけど、視線を向けられると少し緊張してしまう。
「レイラと言ったな。私からも改めて礼を言う。本当に助かった」
「お役に立てて光栄です。……しかし勝手に動いてしまい、申し訳ございませんでした」
「問題ない。使用人からの聞き取りで許可を出したと聞いているからな」
そういえば、不審者として排除されないようにって、最初に近づいて良いのか聞いたんだった。ちゃんと聞いておいて良かった……あの時の私、よくやった。
「息子は痛み止めが効いたのかさっき眠ったところなの。使用人達にかなりひどい怪我だったと聞いたわ。これからどう対処すれば良いのか教えてもらえるかしら? 必要な薬は全て購入するわ」
「かしこまりました。ご子息の怪我はかなり酷かったので、数週間は毎日軟膏を塗り直して、包帯を清潔なものに変えていただきたいです。さらに化膿止めもしばらく飲んでいただいた方が安心かと。それから酷い怪我をした場合は発熱することが多いので、解熱剤も適宜服用してください。痛み止めの飲み過ぎは良くありませんので、我慢できない時だけにしていただきたいです」
私はそう説明しながら、まだ残っていた薬を薬箱から取り出した。しかし量は全然足りない。
「手持ちは少ないので、ご購入いただけるのであれば注文書をご記入いただいて、足りない分は後日配送という形になります」
「分かったわ。では必要な薬は全て購入します。後で執事とやりとりして頂戴。急がせるのだから、お金は前払いで支払うわ」
「ありがとうございます」
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「レイラさんは何か好きなものがあるかしら?」
ほっと安堵に胸を撫で下ろしていると、ナヴァール伯爵夫人が突然そんなことを聞いてきた。私は質問の意図が分からなかったけど、とりあえず当たり障りのない返答をする。
「ジャムクッキーが好きです」
「そうなのね。ではお礼に有名な焼き菓子専門店でクッキーを取り寄せておくわ。今度配達に来た時に渡すわね」
「そんな……よろしいのでしょうか?」
「もちろんよ。息子の恩人だもの」
「では、ありがたく頂戴いたします」
あまり拒否しすぎても不敬だと教わったので、私はお礼としてクッキーを受け取ることにした。私のその返答を聞いて、フェリスは飛び回って喜んでいる。
フェリス……思わず視線を向けそうになっちゃうから、できれば肩に乗っててほしいな。
それから伯爵様と伯爵夫人としばらく雑談をこなし、お二人は応接室を出ていった。そしてその後は薬の依頼を受け、今日売った分の代金をもらい、疲労感に包まれながら伯爵家を後にした。
「フェリス……なんだか疲れたよ」
『レイラは頑張ってたからね。今夜は僕が魔法を使ってあげようか?』
「……本当? じゃあ、お願いしようかな」
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