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4、もう一人の仲間と出発

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「では陛下、私達はこれから準備をしてできる限り早くに出発いたします」
「いや、ちょっと待て。もう一人お前達と共に隣国へ向かう者を紹介したい。グレン」
「はっ」

 王がグレンと名を呼ぶと、王の斜め後ろに突然一人の男が姿を現した。男は濃い青髪に紺色の瞳で、涼やかな目元が特徴的だった。
 その男が現れた途端に、Sランク冒険者の三人は一気に臨戦体制をとる。この男の気配に全く気づけなかったのだ。

「お前達落ち着け、グレンは王家の諜報部隊の一員、これからお前達と共にアーシェラ奪還に尽力してくれる者だ」

 王のその言葉に、三人は臨戦体制を解いてソファーに座る。しかしまだ警戒を緩めてはいない。

「グレンは隠密行動においてはお前達よりも優れている。それから敵の位置を把握する索敵などのレベルも驚くほどに高い。しかもそれだけではなく暗器の扱いも一流だ。必ず此度の作戦の役に立つであろう。グレン、挨拶を」
「王家の諜報部第一隊に所属しております、グレンと申します。よろしくお願いいたします」

 そこまで話を聞いてまず警戒を緩めたのはエドガーだ。エドガーはグレンの実力が相当のものだと悟り、手合わせをしたくてたまらなくなっているようだ。

「俺はエドガーだ、よろしくな。グレン、俺と一度戦って見ねえか! お前はかなり強そうだ。この部屋に気配を消してずっといたってことだろ? 全く分からなかったぜ」
「よろしくお願いいたします。しかし私は一対一での戦いを得意としておりませんので。私の専門はあくまでも隠密行動からの暗殺です」
「それでもよ、お前絶対に強いって!」
「エドガー君、無理強いは良くないよ。ごめんね、グレン君だよね? これからよろしく。僕のことはニックって呼んでね」

 ニックがエドガーを嗜めてグレンに話しかける。しかしニックもグレンに興味津々な様子だ。

「よろしくお願いいたします。ニック様とお呼びさせていただきます」
「え~、そんな他人行儀だよ。ニックでいいから」
「ですが皆様はSランク冒険者の称号を持つ方々、伯爵位に相当します。私はただの平民ですので」
「もうグレン君は真面目すぎるよ~。まあいいか、段々と仲良くなろうね!」
「グレン、二人がすまないな。君の能力は此度の作戦に欠かせないものだ。よろしく頼む」
「精一杯努めさせていただきます」

 そうして三人とグレンが一通り挨拶を終えると、王がまた口を開いた。

「ではお前達頼んだぞ。必ず聖女アーシェラを救い出してくれ」


 ――それから四人は王宮を後にして、これからの旅の準備のために城下へ向かった。三人はSランク冒険者として顔が売れているので、かなり目立っている様子だ。
 
 この三人は凶悪な魔物が出たらすぐに駆けつけて倒し、ドラゴンが飛来してきたとなれば三人で力を合わせてドラゴンを撃ち取りとしているので、国民にとっては英雄のような存在となっている。

「あっ! エドガー様にアーネスト様、ニック様までいるわ。御三方が一緒におられるところを見れるだなんて、なんで幸運なのかしら……」
「本当よね。皆さんかっこいいわ……」
「あっ、今ニック様と目が合ったわ! あの笑顔が可愛いのよね。弟にしたいわぁ」

 三人の通る道ではそこかしこでこんな会話がなされている。この三人は皆タイプの違うイケメンでもあるので、その強さとかっこよさでアイドルのような存在だ。

 三人と一緒に歩いているグレンも涼やかな目元のイケメンなのだが、三人が目立ちすぎて全くと言っていいほど話題に上がっていない。
 もしかしたら気配を消しているのかもしれない。いや、もし消してなかったらただ目立たないだけ…………これ以上言うのはやめておこう。


「食糧はどうする? 暗黒山では魔物を狩って食べればいいけど、隣国に入ってからの分は買っておいたほうがいいかな?」
「そうだな。ニックの空間収納にはどのくらい入るのだったか?」
「馬車一つ分ぐらいだよ」
「では日持ちのする干し肉とパンを買って、入れておいてくれるか?」
「はーい」

 空間収納とは鞄などの収納空間を魔力で広げる魔法だ。実はこの魔法ニックが作り出した魔法で、この大陸ではニックしか使えない。海を越えた先にある大陸では何人か使える者もいるが、それでも数えられる程度だ。

「暗黒山ってどのくらいで越えられるんだ? 俺よく知らねぇんだけど。前に中腹まで行った時は三日ぐらいかかったんだよな」
「なんだ、エドガーは行ったことがあるのか? 私は途中から立ち入り禁止と言われていたから一度も行ったことがない」
「ああ、とりあえず行ってもいいところまでは行こうと思ったんだ。でもそこまでだと深淵の森の魔物と大差なくて、結局その一回しか行ってないけどな」

 暗黒山は隣国との国境の代わりなので、Sランク冒険者の三人は中腹までしか入ってはいけないことになっていたのだ。

「ニックは行ったことあるか?」
「僕もないんだよね~。でも中腹までで三日ってことは、向こう側の麓に行くまでに二週間ぐらいってところじゃない? 麓から向こうの国の王都まではどのぐらいなのか知らないけど」
「そうだな。隣国の王都近くに出るだろう場所から暗黒山を越えれば、そこから王都までは三日ぐらいじゃないか? グレン合っているか?」
「はい。アーネスト様のおっしゃる通りです」
「じゃあ王宮に着くまでに三週間、帰りもここに帰ってくるまでに三週間ぐらいってこと? うわぁ、結構長いね。帰りはアーシェラもいるし食料たくさん買っておくよ」

 実際には暗黒山の頂上には凶悪な魔物がうじゃうじゃと生息しているので、もっと時間がかかることが予想される。この三人であっても苦戦するだろう。

「ちょっと僕、魔力回復ポーションも買ってくるね。多分この道中で一番活躍するの僕の魔法だよね?」
「ああ、浄化で体を綺麗にすることや火魔法で火をおこすことは頼みたい。水魔法は私も使えるので飲み水は極力私が出そう」
「俺は身体強化しか使えねえからな。ニック頼むぜ」
「分かったよ。グレンは魔法使えるの?」
「私は索敵しか使えないのです。なので水などはいただいても良いでしょうか?」
「任せて! じゃあポーション買ってくるから~」

 ポーションはいくつかの薬草と魔石を混ぜるとできるもので、ニックはもちろん自作できる。しかし道中で作成する手間を省きたいのだろう。


 ――そうして必要なものを全て買って準備を整え、四人は王都を出た。

 王都から暗黒山までは意外と近いので、この四人が飛ばせば夜までには麓に辿り着くだろう。そして今日は麓で一泊し、明日から山を登ることになる。
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