転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗

文字の大きさ
44 / 173
第二章 王都改革編

44、空間石作製

 シリルは初めて入った魔道具作製部屋に、興味津々な様子だ。棚や机の上に乱雑に置かれた様々な素材を楽しそうに眺めている。

「あんまり綺麗にしてなくてごめん。最近忙しくて」
「いえ、大丈夫です。たくさんのものが見られてとても楽しいです」
「それなら良かったよ。ちなみに部屋の真ん中にある大きなテーブルが、材料を広げたり魔道具作製以外をしたい時に使う机で、壁に向かって設置されてる机が魔道具作製に使う机ね。俺は作業机って呼んでる」

 シリルに簡単な説明をしつつ、さすがに散らかりすぎている机の上を簡単に片付けていく。そして作業机にシリル用の椅子を設置して、二人で使えるように整える。

 幸いこの部屋の作業机は三人でも使えそうなほど横に長いので、隣でシリルが作業をしていても全く問題はない。ただこれ以上増えたら無理だから、早めに魔道具師のための部屋を作るべきかな。

「ここがシリルの席ね」
「ありがとうございます。この板はなんでしょうか?」
「それは固定板だよ。魔鉱石を固定するために使うんだ」
「便利なものがあるのですね……」

 魔道具作製に必要な固定板、鉄ペン、ノミ、金槌、ヤスリ、刷毛などを次々と渡していく。全部シリルのために追加注文したのだ。

「とりあえずこれだけあれば魔道具は作れる。全部シリルのだから、この木箱に仕舞って管理してね」
「はい。ありがとうございます」
「よしっ、じゃあ早速魔道具の作り方を教えるよ」

 それから一時間ほどかけて、俺は丁寧に魔道具の作り方を伝授した。シリルは熱心にメモを取っていたので、成功するかどうかは別にして作り方は完璧だと思う。

「かなり工程が多くて、それに繊細な仕事ですね」
「そうなんだよ。……正直なところね、俺はあんまり好きな作業じゃない」

 思わずそんな本音を溢すと、シリルは苦笑しつつ頼もしい言葉を口にしてくれた。

「では私ができるだけ早く魔道具を作れるようになって、フィリップ様の負担を減らしますね」

 シリルが本当に良い弟子すぎる……! そんなこと言われたら嬉しくて感動の涙が浮かんできそうだ。それに俺も頑張ろうと意欲が湧いてくる。

「ありがとう。期待してるね」

 内心では感情がぐるぐると渦巻いて騒がしかったけれど、それを抑え込んでなんとかいつも通りの笑顔を浮かべた。子爵家だって表情管理が必要な場面はあったんだ、今こそ経験を活かすとき。

「精一杯頑張ります」
「じゃあ早速シリルは魔道具を作ってみてくれる? この紙に描かれてるのが降雨器の魔法陣なんだ。発動させられるかの確認はそこの窓から外に向かってやっても良いし、実際に外に出てやっても良いよ。発動できそうだったら、降雨器を作ってみて」

 シリルは降雨器の魔法陣が描かれた紙を嬉しそうに見詰め、大きく頷いてくれた。

「それからこれは本当に申し訳ないんだけど、魔法陣を描いてる時や彫ってる時は、集中力を切らせたくないから話しかけないでもらえるとありがたいんだ。もちろん俺もシリルがその作業をしてる時は、声をかけないように気をつける」
「確かに魔法陣を描いてる時に声をかけられると、かなりの確率で失敗します。気をつけますね」
「よろしくね。注意事項はこれぐらいかな……お互い頑張ろうか」
「かしこまりました!」

 シリルはとりあえず外で降雨器の魔法陣を練習するらしく出て行ったので、俺は一人で空間石の魔法陣を紙に描いている。魔力ではなく普通にインクでだ。
 この魔法陣は前世のものから変更する必要がないのでその点では楽だけど、とにかく複雑なので何回か練習しないと失敗する予感しかしない。

 俺は何度も練習して習得した魔法陣を殊更丁寧に描いていく。神聖語をたくさん書き込むから文字の大きさを小さくして、しかし形は崩さないように……
 それから数分の時間をかけて魔法陣を描ききった。改めて確認してみても問題はなさそうだ。これなら魔道具作製に移っても大丈夫かな。

 空間石作製の難易度が高い理由は魔法陣が複雑だからという理由もあるけれど、一番は魔法陣が発動するかどうか魔道具を作ってからじゃないと確認できないという点にある。
 他の一般的な魔法陣は魔法陣だけでも発動可能だけど、空間付与と転移だけは魔道具という形、つまり魔鉱石に刻まれた状態でしか発動できないのだ。よって給水器の時には魔鉱石に魔力で魔法陣を描いた段階で発動するのか確認したけど、空間石でそれはできない。

 魔道具を作り終わって発動させる時の緊張感は、今思い出しただけでも心拍数が上がるほどだ。もちろん他の魔道具だって彫る工程で失敗したら発動しないんだけど、その前段階で確認できるかできないかは結構な違いがある。主に気持ち的な問題で。

 ふぅ……でもそんなこと考えたって俺が作るしかないんだよね、頑張るかな。そう気合を入れて、改めて先程描いた魔法陣に視線を戻す。
 この魔法陣はハインツが作れる最大性能の魔法陣だった。これを今のフィリップの体で作れるのかどうか……魔力量的に厳しい可能性が高いかな。

 少しだけ収納量を減らして必要魔力量を減らすようにしておこう。あと使用者制限は付けたほうが良いかな……でもこれは南区改造計画で使うし、ないほうが便利か。
 悪用されないためにもできれば付けたいんだけど、今回は利便性を重視しよう。そしてちゃんと王家管理を徹底してもらおう。

 俺はそんなことを考えつつ別の紙に少し変更した魔法陣を描き、それを作業机の見やすい場所に置いた。そして魔鉱石を机に持ってきて、できる限り小さく軽くなるように削り出していく。
 空間石は基本的にずっと持ち歩くものなので、どれだけ軽く小さくできるのかがその人の腕前の良さを示すものだと言われていた。魔法陣が複雑だから大きくすれば描きやすくて楽なんだけど、やっぱり使いやすさも追求したい。

 ちょうど良い大きさに削り出したらヤスリで形を整えて、魔力で魔法陣を描いた。そして一番重要な鉄ペンで彫っていく作業だ。俺は今までで一番と言っても良いほどに集中して作業を進めた。シリルが部屋の中に入ってきたことにも気づかなかったほどだ。


 ――それから数時間後、ついに空間石を作り終えた。あとはこれが使えれば完成となる。
 俺は大きく息を吐き出して、緊張しながら空間石に魔力を注いだ。すると、空間石から数センチ上空に魔法陣が浮かび上がる…………成功だっ!!

 やった、マジで良かった。これで失敗だったら本気で泣くところだ。はぁ……安心したら突然疲れが襲ってきた。

「フィリップ様、大丈夫ですか?」

 俺が背もたれに深く寄りかかったからか、シリルが心配そうに声をかけてくれた。シリルの方を見てみると、すでに魔道具作製は終わっているようで、今は魔法陣を描く練習中らしい。
感想 22

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。