転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗

文字の大きさ
46 / 173
第二章 王都改革編

46、畑に雨を

 空間石を作ってから二週間が経過した今日。俺達はまた平民街を訪れていた。今日はファビアン様とマティアスに加え、シリルも一緒だ。
 降雨器が十分な量を作り終えたので、平民街の畑を端から巡って雨を降らせていくのだ。初日の今日だけは俺達が同行して、明日からは数人の文官と騎士が手分けして行ってくれるらしい。すぐには無理だけどもう少し時間が経ったら、平民の中でも代表者を定めてその者に降雨器を貸し出す計画も立てている。

「降雨器で少しでも作物の収穫量が増えたら良いですね」
「そうだな、それが一番の理想だ。しかし川に水を汲みに行かなくて良くなるというだけで、かなりの人数を救うことができるのだ。まずはそこを評価しよう」
「そうですね」

 既に歩き慣れてきた平民街を進んでいく。清掃計画が予定通りに完了し、今となっては貴族街と同程度の綺麗な街だ。道を行き交う人達も、心なしか表情が明るいような気がする。

「今はまだできませんがもう少し余裕ができたら、ティータビア様からの知識にあった、他の野菜や穀物なども育てられるようにしたいですね」
「そうだな。しかしこの国でどこにその種や苗があるのか分からないのだろう?」
「そうでしたね……フィリップは森や草原で探すしかないって言ってたよね?」

 マティアスから話を振られたので、頷いて肯定の意を示す。前世でたくさんあった穀物や野菜、果物などがこの世界でどこにあるのかは分からない。でも森や草原を探せば少しは見つかると思うのだ。

「もう少し余裕が生まれて、騎士や冒険者達が魔法陣魔法を使いこなせるようになったら、森へ探索に行きたいですね」
「それはまだ先の話だな」
「はい。しかし授業をしてる感じでは数人習得が早い人がいますので、その人達を集めれば森へも入れるかと思います。それでも数ヶ月は先ですが」

 作物が育つのには時間がかかるし、できれば早くに種類を増やしたい。もっと栄養バランスを考えないと、病気になる人が減らせないだろう。

「それまでは今ある作物の収穫量を増やすことに専念しよう」
「かしこまりました」

 そんな話をしながら歩いていたら、早速畑に到着した。畑の入り口には、ここら一帯の畑の持ち主が集まっている。給水器で実績を得たからか、誰も雨を降らせる魔道具の存在を疑ってはいないようだ。

「待たせたな」
「いや、大丈夫だ。畑に雨を降らせてもらえるなんて言われちゃあ、いくらでも待つぜ」
「では時間もないので早速魔道具の使い方を説明しよう。説明は魔道具を作製したフィリップとシリルに任せる」
「かしこまりました」

 ファビアン様に紹介されて一歩前に出た俺達は、降雨器の実物を見せながら雨が降る範囲や降る時間などを丁寧に説明していった。そして説明が終わったところで、質問がないかを確認する。すると一人の男性がおずおずと手を挙げた。

「これ聞いちゃいけないのかもしれないんだけど……給水器と降雨器って、というか魔道具って誰が発明したんだ? もしかしてフィリップ様とシリルさん?」

 俺はその質問に少し驚いた。平民の間にはティータビア様から知識を得たことは、あまり知られてないんだね。給水器が予想以上に当たり前に受け入れられてるから、もう周知の事実なのかと思ってた。

「あれだろ、俺聞いたぜ。ティータビア様から知識を授かったんだってよ」
「え、それ本当か!?」

 その質問の後にがやがやと騒がしくなり、そんな会話が聞こえてくる。やっぱり少しずつ広まってはいるのか。魔法陣魔法の授業をする時に平民にも広めたし、多分時間の経過とともに周知の事実になっていくのだろう。

「発明したんじゃなくて、ティータビア様より知識を授かったんだ。そしてそれを活用して、給水器や降雨器のような魔道具を作り出してるよ」
「あの話って本当だったのか! え、じゃあティータビア様から知識を授かったのって……フィリップ様?」
「うん」

 俺が頷いた途端に、半数以上の人達が一斉に祈りの姿勢を取った。俺はそんな光景に呆気に取られて二の句を告げない。

「皆の者、フィリップが困っているからその辺にしてやってくれ。フィリップはあくまでも、一人の人間として暮らしていくことが望みなのだ」

 そんなファビアン様の言葉になんとか思考ができるようになった俺は、とりあえず混乱しながらも口を開く。

「そ、その通りだから、普通にして欲しい。俺に対してじゃなくて、祈りを捧げるのならティータビア様に」
「……分かった」

 俺が咄嗟に考えた言葉を口にすると、皆は納得したように頷いてくれたのでホッと安堵の息を吐く。国民の、特に平民達の信仰心の強さを甘くみてたかも。
 俺がティータビア様から知識を得たことを隠すことはしないけど、積極的に提示するのはやめようかな。

「話が逸れたけど、早速降雨器を使っていこうか。最初に使う畑の人は前に来てくれる?」
「おう、俺だ」

 前に出てきた男性と畑の近くまで行き、降雨器をどのように使えば効率が良いのかを話し合って置き場所を決めた。そして降雨器を設置し男性が魔力を込めると……、畑に雨が降り始めた。

「シリル、ちゃんと作動してるね」
「はい。緊張していたので良かったです」
「もう簡単な魔道具なら完全に任せられるよ」
「本当ですか! ありがとうございます」

 シリルとそんな話をしつつ、雨が降る様子を皆で眺める。雨が降り始めたら騒ぎになるかと思ったけど、逆に全員がこの光景に目を奪われていて、雨音がしっかりと聞こえるほどに静かだ。
 それから一分ほどかなりの勢いで雨は降り続けて、時間が来るとピタッと止んだ。

「す、す、すげぇ!!」
「なんだ今の、めっちゃ綺麗だったよな!?」
「ああ、驚いた」

 降雨器は雲ができるわけではないので、晴れて陽の光が燦々と降り注いでいる中で雨が降る。その様子はどこか幻想的で目を奪われるのだ。それは平民達も同じだったらしい。

「畑はどうかな? 一回で足りなそうだったら二回やっても良いと思うけど」

 俺のその声に我に帰った皆は、一斉に雨を降らせた畑に近づいていく。そして土を手で少し掘って、どれだけ水が湿っているのかを確かめた。

「十分じゃねぇか?」
「ああ、普通に雨が降った時よりは水分量が少ないが、川から水汲んで撒いてる時に比べたら、かなり湿った土になってる。十分だろ」
「水が多すぎると逆に育たなくなるしな」
「だよな。一回でちょうど良い」

 そんな話し合いをした後に、俺達に向かって完璧だと笑みを浮かべてくれた。その笑顔を見て、俺とシリルは嬉しくて顔が緩む。

「シリル、完璧だってよ」
「フィリップ様の魔法陣が完璧だったんですね」
「そうかも知れないけど、それをシリルが完璧に再現してくれたからだよ。神聖語が少し違う程度だと、発動はするけど思った通りの効果が出ないってこともあるからね」

 二人でお互いに褒め合って喜びを分かち合う。この瞬間があるから魔道具作りってやめられないんだろうな。俺は前世で最後まで理解できなかった、魔道具作製の楽しさが分かったような気がする。

「じゃあ次の畑に移ろうか。あんまり時間もないからね」
「おうっ!」

 それからは王都の畑が密集している地点を回っていき、夕方といえる時間までひたすら畑に雨を降らせ続けた。これで少しでも収穫量が増えたら良いな。
感想 22

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/