転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗

文字の大きさ
55 / 173
第二章 王都改革編

55、孤児院訪問

 次の日の朝早く。俺はファビアン様とマティアスと共に孤児院へと向かっていた。子供達は文官によって誘導されて孤児院に行く予定なので、一足先に現地に着いて迎え入れる準備を手伝うのだ。

「フィリップ、今更なんだけど……ティナをダミエンと働かせても良かったの?」

 マティアスはガタゴトとうるさい馬車の中で、隣に座る俺にだけ聞こえる声量でそう呟いた。やっぱりそれ思うよね……俺も昨日散々考えた。でも、後悔はしていない。

「ティナの願いを叶えてあげられたから、孤児院で働くことは良いんだ。応援したいと思ってる」

 これは本音だ。俺はティナが好きなことをやって、生き生きと過ごしてくれたらそれだけで嬉しい。

「でも、シリルには悪いんだけど……、ダミエンじゃなくてもっと年配の人とか結婚してる人、そういう人を探せば良かったかもとは思った」

 そういう人は今まで従事してきた仕事があるし、読み書き計算ができるなんて要件を入れたら、当てはまる人は殆どいないってことは分かってるんだけどね……

「もちろんダミエンに不満はないんだよ。不満はないどころか、こっちからお願いしたいぐらいの逸材だ。それは分かってるんだけど……」

 そう簡単に割り切れることではない。ダミエンが凄く嫌なやつとかだったら、もっと簡単だったんだけど。
 でもここは俺が割り切るしかないんだろうな。そしてダミエンになんか負けないって、闘志を燃やすべきところなんだろう。

「複雑な立場だね」
「そうなんだよ……でもとりあえず、負けないように頑張ろうと思う」
「うん、僕はフィリップを応援するよ。頑張って」
「ありがとう」

 そうしてマティアスとポツポツ言葉を交わしていると、馬車はいつの間にか孤児院へと到着していた。

 馬車の音が聞こえたのか、俺達が到着するとすぐに二人が迎えに出てきてくれる。

「皆様ここまでご足労いただきまして、ありがとうございます」
「気にしないで。孤児院は国の大切な事業でもあるからね。それに子供達の様子も気になるし」

 俺のその言葉にティナは微笑みを浮かべて、中へと案内してくれた。孤児院の中の様子は昨日とほとんど変わっていなかったけれど、唯一厨房だけが稼働していた。

「子供達は歩いてここまで来るということでしたので、作物が育つまでと頂いた食材を使って昼食を作っています」
「皆様、お水を飲まれますか?」
「いや、大丈夫だ。それよりも院長はどちらがやることになったのだ?」

 ファビアン様のその言葉に、ダミエンが厨房から声を張って答えた。

「私がやらせていただくことになりました」
「ティナはそれで良かったの?」
「はい。私がダミエンにお願いしました。少しでも子供達と接する時間を増やしたかったのです」

 確かに院長の方が報告書を書いたりといった、子供達と接する以外の仕事は多くなる。ダミエンはそれも分かった上で引き受けてくれたのか……やっぱり良いやつだな。

「子供達が喜ぶね」
「そうだったら良いのですが」
「皆はティナを慕ってるみたいだったから、心配はいらないと思うよ」
「ありがとうございます。……あの、フィリップ様、一つだけお願いがあるのですが」

 ティナが珍しく言いづらそうに前置きをしたので、俺は安心させるためにも大きく頷いて笑みを浮かべた。

「なんでも聞くよ。もちろん叶えられるかどうかは内容次第だけど」
「それで構いません。……その、私も魔法陣魔法を習いたいのです。今までは教会での仕事を休むことができなかったので断念していましたが、機会があるならば是非挑戦したいです」

 ティナが魔法陣魔法を習いたいと思っていたなんて……気付かなかった。その願いは俺にとっても願ったり叶ったりだ。ティナと定期的に会うことができるんだから。

「その願いなら叶えられるよ。ダミエンと話し合って授業の時に仕事を休みにして参加するのでも良いし、俺がここに教えに来るのでも良い」
「本当ですか!」
「もちろん」

 授業に来てもらうのと俺がここに来るの……どちらかと言えば後者の方が良いかな。そんな頻繁に来る必要もないし、仕事終わりに少し寄ったり、休みの日に来たりすれば十分教えられるだろう。本音は俺がティナに会いに来たいだけだ。授業だとほとんど話せないだろうし。

「俺がここに教えに来るのでも良い? 孤児院の様子も定期的に見に来たいし」
「フィリップ様が大変でないのなら、私にとってはとてもありがたいことでございます」
「それならここに来るね」

 そうしてティナと話をしていたらダミエンの昼食作りが終わったようで、ティナが配膳をしてダミエンが給水器に水を汲みにいくことになった。俺達はファビアン様が水汲みの手伝いをして、俺とマティアスが配膳の手伝いをする。

「ティナ、まだ短い時間しか過ごしてないけど、ダミエンとの関係はどう?」

 二人が孤児院から出ていくと、マティアスがすぐにそんな質問を口にした。

「そうですね……まだよく分かりませんが、物腰柔らかで真面目で良き仕事仲間だと思います」
「そっか。上手くいきそうなら良かったよ」
「はい。実はどんな方なのかと心配していましたので、ダミエンで良かったです」

 ティナの笑顔を見ているといつも幸せな気分になれるけど、ダミエンがこの笑顔を作っているのかと思うと……複雑な気持ちになってしまう。
 俺ってこんなに心が狭かったかな……ハインツの時はもう少し淡白だった気がするんだけど。

「フィリップ様、こちらを運んでいただけますか?」
「もちろん」

 ティナから食事が盛られたお皿を受け取って机に運んでいく。マティアスはカトラリーを準備しているようだ。

「子供達はここで上手く暮らしていけるかな」
「今までも皆で助け合って生きてきたのですから、問題ないでしょう。それよりもとても喜ぶと思います」

 子供達が生きていくことさえ難しいのは本当に心が痛かったから、少しでも助けられたのなら嬉しい。

「喜ぶ顔が見れるのが楽しみだよ」
「そうですね」


 それからファビアン様とダミエンが帰ってきて準備が終わったところで、ついに外から子供達の声が聞こえてきた。俺達はその声を聞いて顔を見合わせ、皆で一斉に席を立ち玄関へと向かう。
 そして扉を開けると……孤児院の前には二十人ほどの、瞳をキラキラと輝かせた子供達がいた。

「ティナ姉ちゃん!」

 子供達の中で一番前にいた男の子が、ティナの姿を視界に入れた途端にそう叫ぶ。やっぱりティナは慕われてるんだな。

「ルイ、私じゃなくてまずは他の皆さんに挨拶をしなさい。それから私のことはティナ先生よ」

 おおっ、さすがティナ。ちゃんと引き締めるところは引き締めるんだね。確かにこういうのって最初が肝心だ。

「おうっ! 俺はルイ、九歳だ。よろしくな!」

 そしてこの子も素直に聞ける良い子だ。元気いっぱいでこの子供達のリーダー的存在なのかな。

「子供達は何も学べていないので敬語も分からず、申し訳ございません」
「ううん、気にしなくて良いよ」

 やっぱり誰でも無料で学べる教育機関を作りたいな。今はまだ生きていくために食料を作り出すことで精一杯で余裕はないけど……、これから畑の改良もしてもっとこの国に余裕ができたら、子供達が学べるような学校を作ろう。そして大人も望めば学べるようにしたい。
 この辺の話はもう少し後でになるだろうけど、頭の片隅には入れておこう。

「じゃあ中で昼食を食べながら自己紹介をしましょう。皆は私に付いて来てね。それから中にご飯があるけど、良いって言うまで食べちゃダメよ」
「え、ご飯!?」
「私お腹空いた~」
「早く中に行こうぜ!」

 子供達は本当に自由だ。この子達をまとめるのは相当大変な仕事だろう……でもティナは楽しそうだしダミエンも微笑ましそうに子供達を見ている。やっぱり人選は合ってたみたいだ。
 子供達はティナの言うことは聞かずに我先にと孤児院に入っていき、食事の匂いから食堂の場所を突き止めて扉を開いた。
感想 22

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。