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第二章 王都改革編
82、フィリップの将来(アルベルト視点)
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領地に来てから数週間が経過した。この間に街の中は綺麗に整えることができ、さらに給水器もしっかりとした石造りの台座で設置することができた。
そして降雨器の運用を任せる地区の代表者を選出し、先日からその運用も始めたところだ。これで生産量が少しでも上がれば良い。
「旦那様、こちらが冒険者を志望する者の一覧でございます。いつもと同じ内容の試験をされるのでよろしいでしょうか?」
「ああ、それで頼む。試験はいつの予定だ?」
「三日後です」
冒険者は王都であれば国、そして地方の街であればその街を治める領主、それらのどちらかが発行するライセンスがなければ名乗れない職業だ。
よって私は領地に帰ってくるたびに、いつも冒険者登録の試験に立ち会っている。基本的には一年に一回のチャンスなので参加者も多い。しかし街の外に出て魔物と戦うことも多い仕事だ、危険を伴うので試験の難易度は難しくしてあり、合格率は二割程度となっている。
「三日後には予定を入れないようにしておこう」
「よろしくお願いいたします」
そうしてクレマンと多くの仕事をこなしていると、ちょうど区切りがついたところでメディーが水を持ってきてくれたため、水分補給も兼ねて一度休憩を入れることにした。
クレマンやその他の文官達にも休むように指示をして、ソファーに移動して腰掛ける。
「ふぅ、やっと少し落ち着いてきたな」
「そうですね。旦那様がこちらにいらしてから一週間は、特に忙しかったです」
「……思い出したくもないほどだ」
改革の成果も少しは見てから帰りたいと思い、休みを潰してまで仕事に精を出していたのだ。今思えば無理をしすぎた。
「もうあんな無茶はしない」
「そうしていただけると助かります。旦那様はやると決めたら頑固なお方ですから……そういえば、フィリップ様はどのように成長されたのでしょうか?」
「フィリップは……そうだな。ティータビア様から知識を授かる前はとても真面目で心優しい子だった。しかし知識を授かってからは、そこに砕けた雰囲気と頑固な部分が加わったな」
ティータビア様からの知識を得たフィリップは、大人も顔負けの態度を取ったり言葉を発したりするが、よく見ていると案外子供っぽいところも残っている。
兄上から話を聞くと友達とふざけ合ったりもしているようだし、今まで公爵家嫡男として我慢してきた遊びたいという感情を、上手く表現できるようになった感じだろうか。それに以前は譲りぐせがあったが、最近はここぞという場所では誰が相手でも譲らない姿勢を見せる。
「旦那様と似ていらっしゃいますね」
「似ているか?」
「ええ、良き当主となるでしょう」
そうか、クレマンがフィリップのことを高く評価してくれるのは嬉しいな。ただ嬉しいが……その言葉に素直に喜ぶことができない。
「どうかされましたか?」
私のそんな様子に気付いたのだろう。クレマンが不思議そうに問いかけてくる。今までは一人で考えていたが、クレマンにも意見を求めるべきかもしれんな……クレマンならばフィリップとほとんど関わりがなく、客観的に物事を判断してくれるだろう。
「クレマン、大事な話があるんだが人払いを頼む」
「……かしこまりました。少々お待ちください」
人払いをするほどの話ということで、クレマンは少しだけ表情を固くして素早く執務室の中を私達だけにしてくれた。
「なんのお話でしょう?」
「フィリップのことなんだ。私は公爵の地位を……フィリップに託しても良いのか悩んでいる」
「それは……何故でしょうか」
「一番の懸念は王位継承の問題だ。フィリップの王位継承権はそこまで高くなく普通なら問題にならないのだが、ティータビア様から選ばれた使徒という点で、一気に存在感を増す」
今でさえ貴族、さらに教会の一部の者達はフィリップが王になるべきではと主張しているのだ。フィリップが公爵になったらその声は大きくなるだろう。公爵は王族が臣下したときにしか作られない、さらに数代しか継ぐことができないので、やはり特別な立場なのだ。
フィリップを宰相補佐とした理由の一つは、今のうちから王太子殿下との強い繋がりを見せ、王家に仕えるという立場を示すためだったのだが……私達が思っていた以上にティータビア様の使徒という立場は強く、フィリップを王にという声は強まるばかりだ。
「兄上とも話し合っていて、フィリップを国王になどと私達は誰も考えていないのだが、やはり周りは黙っていてくれないだろう。フィリップも王になることは望んでいないようだし、親としてできる限り悪意に晒したくないのだ」
「それは難しい問題ですね……フィリップ様のお気持ちが一番ですが、現状知り得たことだけで私の考えを示させていただきますと、フィリップ様が公爵位を継がれない方が問題は起きづらいだろうと思います」
やはりそう考えるか……今度フィリップとも話し合うべきなのだろうな。私がフィリップに厳しい話をしたくなくて、まだ子供だから、仕事が忙しいからと後回しにしていたが、向き合わなければいけないな。
「クレマン、率直な意見をありがとう。それを踏まえた上でフィリップと話をしようと思う」
「それがよろしいかと思います。……そろそろ婚約者も決めなくてはいけない時期ですのに、難しいですね」
「そういえばそうだな」
フィリップはもう十歳だ。数年以内には決めなくてはいけないだろう。十歳ならばもう決まっている者もいる歳だ。
「候補はいらっしゃるのですか?」
「いや、そろそろ決めようかと思っていたところに、フィリップがティータビア様から選ばれて立場が変わったのだ。結局先延ばしになってしまっている」
王都に戻ったらヴィクトリアとも話をしなければいけないな。……しかしフィリップは好きな相手がいるらしいと報告を受けた。どうすることがフィリップにとって最善なのか、難しいところだ。
「クレマン、お前なら家柄的に何も問題がない相手と一緒になるか、身分差がありこれから一生そのことで悩む可能性はあるが自分が好いた相手と一緒になるか、どちらが幸せだ?」
「また難しい質問ですね……フィリップ様にそういうお相手がいらっしゃるということでしょうか?」
「ああ、相手は平民の孤児でつい最近まで教会に入っていたが、今はフィリップ達が作った孤児院の副院長として働いている。教会にいたので礼儀作法は身に付いているが、貴族社会のことはほとんど知らないだろう」
確かティナという名前だったか。最初に報告を聞いた時には本当に驚いた。本人から聞いたわけではないし詳しいことは分からないが、仲は良い様子だと聞く。
「それはまた随分と……難しいですね」
「そうなのだ。私としては応援するのがフィリップの幸せに繋がるのか、別の相手を用意するべきか悩んでいる」
そこまで話を聞くと、クレマンは難しい表情を浮かべてしばらく考え込んだ。そして数分後に口を開く。
「フィリップ様が公爵位を継ぐかどうかによって変わると思います。公爵となられるのであれば、さすがにそのお相手を他家の養子にしたとしても、公爵家に嫁がせるのは難しいでしょう。しかしフィリップ様が公爵位を継がずに、例えば改革の功績で侯爵位を新たに得たとしましょう。その場合ならば伯爵家の養子にでもすれば嫁がせるのは可能かと」
確かにそうだな……そもそもこの国は身分がそこまで厳格なものではないのだ。昔から魔力が多い平民を貴族家の養子にしたりなどということは、頻繁に行われてきた。
ここで問題となるのは公爵という爵位のみ。公爵位は王家に連なるものなので、やはり身分や血筋が大切になるのだ。
「それも踏まえてフィリップに話をするべきだな」
「はい。最終的にはフィリップ様の決断を尊重することが、一番本人の幸せに繋がると愚考いたします。幸い下にはローベルト様がおりますゆえ」
「そうだな、ローベルトも素直で優秀だと使用人達から評判だ」
フィリップに爵位がもらえるのかどうかだけは、兄上に確認してからフィリップに話をしよう。ただそこまで心配いらないだろうな……確か子供が一人しかできなくて、代替わりした息子が無能で潰れかけている侯爵家があったはずだ。
あの家の代わりに新たに侯爵家を創設するのなら、全体の数は変わらないし大きな問題とならないだろう。
「私もお会いしてみたいですね」
「もう少し経てば街と街の移動がもっと安全になるだろうから、その時は家族でここを訪れよう」
「お待ちしております」
そうしてクレマンと話を終えた私は、また仕事に精を出した。
そして降雨器の運用を任せる地区の代表者を選出し、先日からその運用も始めたところだ。これで生産量が少しでも上がれば良い。
「旦那様、こちらが冒険者を志望する者の一覧でございます。いつもと同じ内容の試験をされるのでよろしいでしょうか?」
「ああ、それで頼む。試験はいつの予定だ?」
「三日後です」
冒険者は王都であれば国、そして地方の街であればその街を治める領主、それらのどちらかが発行するライセンスがなければ名乗れない職業だ。
よって私は領地に帰ってくるたびに、いつも冒険者登録の試験に立ち会っている。基本的には一年に一回のチャンスなので参加者も多い。しかし街の外に出て魔物と戦うことも多い仕事だ、危険を伴うので試験の難易度は難しくしてあり、合格率は二割程度となっている。
「三日後には予定を入れないようにしておこう」
「よろしくお願いいたします」
そうしてクレマンと多くの仕事をこなしていると、ちょうど区切りがついたところでメディーが水を持ってきてくれたため、水分補給も兼ねて一度休憩を入れることにした。
クレマンやその他の文官達にも休むように指示をして、ソファーに移動して腰掛ける。
「ふぅ、やっと少し落ち着いてきたな」
「そうですね。旦那様がこちらにいらしてから一週間は、特に忙しかったです」
「……思い出したくもないほどだ」
改革の成果も少しは見てから帰りたいと思い、休みを潰してまで仕事に精を出していたのだ。今思えば無理をしすぎた。
「もうあんな無茶はしない」
「そうしていただけると助かります。旦那様はやると決めたら頑固なお方ですから……そういえば、フィリップ様はどのように成長されたのでしょうか?」
「フィリップは……そうだな。ティータビア様から知識を授かる前はとても真面目で心優しい子だった。しかし知識を授かってからは、そこに砕けた雰囲気と頑固な部分が加わったな」
ティータビア様からの知識を得たフィリップは、大人も顔負けの態度を取ったり言葉を発したりするが、よく見ていると案外子供っぽいところも残っている。
兄上から話を聞くと友達とふざけ合ったりもしているようだし、今まで公爵家嫡男として我慢してきた遊びたいという感情を、上手く表現できるようになった感じだろうか。それに以前は譲りぐせがあったが、最近はここぞという場所では誰が相手でも譲らない姿勢を見せる。
「旦那様と似ていらっしゃいますね」
「似ているか?」
「ええ、良き当主となるでしょう」
そうか、クレマンがフィリップのことを高く評価してくれるのは嬉しいな。ただ嬉しいが……その言葉に素直に喜ぶことができない。
「どうかされましたか?」
私のそんな様子に気付いたのだろう。クレマンが不思議そうに問いかけてくる。今までは一人で考えていたが、クレマンにも意見を求めるべきかもしれんな……クレマンならばフィリップとほとんど関わりがなく、客観的に物事を判断してくれるだろう。
「クレマン、大事な話があるんだが人払いを頼む」
「……かしこまりました。少々お待ちください」
人払いをするほどの話ということで、クレマンは少しだけ表情を固くして素早く執務室の中を私達だけにしてくれた。
「なんのお話でしょう?」
「フィリップのことなんだ。私は公爵の地位を……フィリップに託しても良いのか悩んでいる」
「それは……何故でしょうか」
「一番の懸念は王位継承の問題だ。フィリップの王位継承権はそこまで高くなく普通なら問題にならないのだが、ティータビア様から選ばれた使徒という点で、一気に存在感を増す」
今でさえ貴族、さらに教会の一部の者達はフィリップが王になるべきではと主張しているのだ。フィリップが公爵になったらその声は大きくなるだろう。公爵は王族が臣下したときにしか作られない、さらに数代しか継ぐことができないので、やはり特別な立場なのだ。
フィリップを宰相補佐とした理由の一つは、今のうちから王太子殿下との強い繋がりを見せ、王家に仕えるという立場を示すためだったのだが……私達が思っていた以上にティータビア様の使徒という立場は強く、フィリップを王にという声は強まるばかりだ。
「兄上とも話し合っていて、フィリップを国王になどと私達は誰も考えていないのだが、やはり周りは黙っていてくれないだろう。フィリップも王になることは望んでいないようだし、親としてできる限り悪意に晒したくないのだ」
「それは難しい問題ですね……フィリップ様のお気持ちが一番ですが、現状知り得たことだけで私の考えを示させていただきますと、フィリップ様が公爵位を継がれない方が問題は起きづらいだろうと思います」
やはりそう考えるか……今度フィリップとも話し合うべきなのだろうな。私がフィリップに厳しい話をしたくなくて、まだ子供だから、仕事が忙しいからと後回しにしていたが、向き合わなければいけないな。
「クレマン、率直な意見をありがとう。それを踏まえた上でフィリップと話をしようと思う」
「それがよろしいかと思います。……そろそろ婚約者も決めなくてはいけない時期ですのに、難しいですね」
「そういえばそうだな」
フィリップはもう十歳だ。数年以内には決めなくてはいけないだろう。十歳ならばもう決まっている者もいる歳だ。
「候補はいらっしゃるのですか?」
「いや、そろそろ決めようかと思っていたところに、フィリップがティータビア様から選ばれて立場が変わったのだ。結局先延ばしになってしまっている」
王都に戻ったらヴィクトリアとも話をしなければいけないな。……しかしフィリップは好きな相手がいるらしいと報告を受けた。どうすることがフィリップにとって最善なのか、難しいところだ。
「クレマン、お前なら家柄的に何も問題がない相手と一緒になるか、身分差がありこれから一生そのことで悩む可能性はあるが自分が好いた相手と一緒になるか、どちらが幸せだ?」
「また難しい質問ですね……フィリップ様にそういうお相手がいらっしゃるということでしょうか?」
「ああ、相手は平民の孤児でつい最近まで教会に入っていたが、今はフィリップ達が作った孤児院の副院長として働いている。教会にいたので礼儀作法は身に付いているが、貴族社会のことはほとんど知らないだろう」
確かティナという名前だったか。最初に報告を聞いた時には本当に驚いた。本人から聞いたわけではないし詳しいことは分からないが、仲は良い様子だと聞く。
「それはまた随分と……難しいですね」
「そうなのだ。私としては応援するのがフィリップの幸せに繋がるのか、別の相手を用意するべきか悩んでいる」
そこまで話を聞くと、クレマンは難しい表情を浮かべてしばらく考え込んだ。そして数分後に口を開く。
「フィリップ様が公爵位を継ぐかどうかによって変わると思います。公爵となられるのであれば、さすがにそのお相手を他家の養子にしたとしても、公爵家に嫁がせるのは難しいでしょう。しかしフィリップ様が公爵位を継がずに、例えば改革の功績で侯爵位を新たに得たとしましょう。その場合ならば伯爵家の養子にでもすれば嫁がせるのは可能かと」
確かにそうだな……そもそもこの国は身分がそこまで厳格なものではないのだ。昔から魔力が多い平民を貴族家の養子にしたりなどということは、頻繁に行われてきた。
ここで問題となるのは公爵という爵位のみ。公爵位は王家に連なるものなので、やはり身分や血筋が大切になるのだ。
「それも踏まえてフィリップに話をするべきだな」
「はい。最終的にはフィリップ様の決断を尊重することが、一番本人の幸せに繋がると愚考いたします。幸い下にはローベルト様がおりますゆえ」
「そうだな、ローベルトも素直で優秀だと使用人達から評判だ」
フィリップに爵位がもらえるのかどうかだけは、兄上に確認してからフィリップに話をしよう。ただそこまで心配いらないだろうな……確か子供が一人しかできなくて、代替わりした息子が無能で潰れかけている侯爵家があったはずだ。
あの家の代わりに新たに侯爵家を創設するのなら、全体の数は変わらないし大きな問題とならないだろう。
「私もお会いしてみたいですね」
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