転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗

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第三章 農地改革編

102、食事の誘い

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 それからティナに実物を見てもらいながら新しい作物について説明をして、楽しいティナとの時間は終わり間近となった。

「フィリップ様、本日は王宮を案内していただき、本当にありがとうございました。とても楽しく有意義な時間となりました」
「こちらこそ凄く楽しかった。ありがとう」

 俺達は二人で感謝しあって、同じタイミングでふっと笑みを浮かべる。そんな些細なことが凄く嬉しい。俺はティナの優しい笑顔に勇気をもらって、緊張で震えそうになる手をぎゅっと握り口を開いた。

「あの、ティナ。一つ話が、あるんだけど……」
「何でしょうか?」

 緊張から少し声が震えてしまった。しかしティナはそれに指摘をせず、急かすこともなく続きを待ってくれる。

「……今度さ、ティナが休みを取れる時で良いんだけど、ティナのことを……うちの屋敷の昼食に、招待しても良いかな?」

 全くかっこ良く決められなかったけど、なんとか最後まで口にすることができた。そして途中で俯いてしまった顔を上げると……そこには完全に固まっているティナがいた。

「ティナ、大丈夫?」
「あっ、は、はい。え、ええ!?」
「ごめん……驚かせたよね。嫌だったら、断ってくれても良いから」

 ティナは嬉しいというよりも困惑している様子で、いつもの俺の好きな笑顔も消えている。俺はそのことが凄く悲しくて辛くて、思わずすぐにネガティブな言葉を発してしまった。

「いえ、嫌だとかそういうことでは……というか、私の聞き間違いではないのですか!? 私がフィリップ様のお屋敷にお邪魔するなど、場違いも甚だしいのですが」

 なんだ、嫌なんじゃなくて信じてなかっただけなのか。確かに急にこんなことを言われたら困惑するのも当然だ。
 俺は拒否されていないと分かると、すぐに落ち込んだ気持ちが回復する。ティナのことになると、本当に気持ちがコントロールできない。もっとかっこ良くて余裕がある男でいたいのに。

「場違いなんかじゃないよ。俺がティナに来て欲しいんだから」

 もう一度勇気を振り絞ってそう伝えると、ティナはさっきまでとは違い、顔を赤くして照れたように俯いた。

「あの……本当に私が、公爵家のお屋敷へ伺っても良いのでしょうか」
「もちろん! 来てくれる?」
「はい、あの、私でよければ……」

 俺はティナのその返答を聞いて、その場で飛び上がって喜びたいほどに舞い上がった。しかしそれを必死に抑えて体に力を入れる。そんなことをしたらますます子供っぽいと思われる。でも、でも……嬉しすぎて普通を装えない。

 嬉しすぎて頬が緩んで口角は上がり、何故か瞳には涙が溜まっていた。

「ティナ、本当に嬉しい。ありがとう」
「い、いえ……あ、あの! 私そろそろ帰らないといけないので、し、失礼しますっ!」

 俺が嬉しい気持ちそのままにお礼を言うと、ティナは一気に顔を真っ赤にして数歩後ずさった。そして慌てた様子で言葉を発し、王宮の外に向かって歩き出してしまう。

 俺はそんなティナを引き止めることもできたけど、ティナにも気持ちを整理する時間が必要だろうと思ってそのまま見送った。いくら俺でもさっきのティナの様子を見ていれば、好意を持ってくれていることには気付く。

「やばい、マジで嬉しいな」

 思わず独り言を呟いてその場にしゃがみ込んだ。……ティナも俺と同じ気持ちを持ってくれてるのか。嬉しすぎて叫びたい。

 今日は相当カッコ悪かった気がするから、今度はちゃんと告白しよう。屋敷に昼食に来てもらってその帰り道にでも。
 もっとハインツの時にこういう経験を積んでおけば良かったよね……今更だけどさ。

「フィリップ様、大丈夫ですか?」

 しばらく同じ場所にしゃがみ込んでぐるぐると考えていたら、突然背後から声をかけられた。この声は……ニルスだ。なんでニルスがここにいるんだろう。

 従者のニルスと護衛のフレディは一緒に王宮へは来るけど、最近は基本的に別行動をしているのだ。王宮での仕事に従者はあまり必要ないし、危険もないので護衛も必要ないから。
 フレディは騎士団の詰所でニルスは執務室にいるはずなんだけど……

 ……待って、さっきのやりとり聞いてないよね!?

「ニルス、いつからここにいたの?」

 動揺しながらもなんとか平静を装って立ち上がり、ニルスの表情を窺うと……いつも通りに見えるけど、少しだけ口の端が緩んでいるのを発見した。ああ、絶対にさっきの聞いてたんだ!

「門に用事がありまして、少し前からおりました」
「はぁ……声かけてよ」
「声をかけられる雰囲気ではありませんでしたので。……旦那様にご報告しなければなりませんね」

 もう確定だ、全部聞いてたんだ。別にニルスなら良いんだけど……やっぱりそれでも少し恥ずかしい。
 従者に隠し事は不可能だから気にするなって前世ではよく言われてたけど、この世界で労働力は貴重だから、従者が主人についてない時間も結構あるのだ。だからこそ恥ずかしい。

「……俺が言うからニルスからは報告しないで」
「かしこまりました」

 そうして俺は最後にドッと疲れてニルスと別れ、俺も仕事に戻ろうと執務室に向かった。ニルスのおかげでテンションが少し下がったのは良かったのかもしれない。



ーティナ視点ー

「おう、ティナおかえ……り?」

 さっき王宮で起きた出来事が夢なのか現実なのか、よく分からないまま混乱してフラフラと歩き続け、気付いたら孤児院まで帰って来ていたらしい。目の前には怪訝な表情を浮かべたダミエンがいる。

「ダミエン、ただいま……私ちょっと寝るね」
「どうしたんだ? 顔が真っ赤だぞ。風邪か?」
「……うん、そうかも。子供達にうつしたら大変だから部屋に篭るよ」
 
 一人の時間が欲しかったのでダミエンに適当に返事をして、そのまま自分の部屋に入って鍵をかけた。

「うぅ、どうしよう」

 しかし部屋で一人になると冷静になるどころではなく、先ほどのフィリップ様の様子と言葉が鮮明に思い出されて、より落ち着かない気分になる。

 さっきの夢じゃないよね? 私がフィリップ様に、公爵家のお屋敷の昼食に招待されたんだよね? さっきのフィリップ様の言葉は一言一句、鮮明に思い出せるから夢じゃないはず。夢じゃないとしたら……

「男性が女性を自宅での食事に招待するのって、好意があるってことだよね……?」

 うわぁ……改めてその意味を考えると、恥ずかしくてそわそわして叫び出したくなる。フィリップ様は、私に好意を持ってくださっているんだろうか。もしそうなら……本当に嬉しい。嬉しすぎて泣けてくる。

 私で良いのかな。私は平民で孤児なのに……でも、フィリップが良いと言ってくださった。
 先程のフィリップ様の様子を思い出すと、私にかけてくださった言葉を思い出すと、凄く恥ずかしいけどそれを上回るほどに幸せだ。

「はっ、そうだ。こんなふうに悩んでる時間なんかないかもしれない。公爵家のお屋敷に行くなら相応しい服装を揃えないと!」

 急に現実的なことに思い至った私は、部屋にある衣装ケースとして使っている木箱をひっくり返し、ベッドの上に全ての服を並べた。

「公爵家に行くのに相応しい服なんて……持ってない。どうすれば良いかしら」

 孤児院で働いているとどうしても汚れたりほつれたりしてしまうので、修復の跡が見える服ばかりだ。上等な服は無理でも、せめて継ぎ接ぎのない綺麗な服を着ていきたい。
 お金は少し貯まってるし……買うしかないわね。後は靴も買わないと。畑仕事をしたりして、薄汚れてるものしかないから。

 そうして私は部屋中の荷物をひっくり返して、公爵家に行くのに少しでも相応しくなれるように準備を開始した。
 凄く大変な準備になりそうだけど……それ以上に幸せで、私は自然と笑顔になっていた。
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