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第三章 農地改革編
106、アプルの美味しさ
俺はアプルの実を受け取って、改めてその実をまじまじと見つめた。ハインツの時に食べていたアプルとほとんど変わらない見た目だ。赤く綺麗に熟れていて、ずっしりと重くて身が詰まっていそう。
「間違えて空間石から出しちゃったみたい。これがさっき植えた枝が、木になると付ける実だよ」
ちょうどいくつかのアプルが収穫できる程度まで育っていたので、味見も兼ねて屋敷で食べようと採取していたものだ。
……皆にはいつも助けてもらってるし、ここで食べるのもありかもしれないな。屋敷には数個だけでも十分だろう。
「へぇ~、こんなものが木に生るんですね」
「そう。美味しいか分からないけど食べてみようか」
「え、いいんですか!?」
「もちろん。どんなものになるのか知ってた方が、育て甲斐もあると思うし」
俺はそう話をしつつ、空間石からナイフを一本取り出した。何かと便利なのでいつも持ち歩いているのだ。
「誰か皮を剥いたりできる人っている?」
「フィリップ様、私がいたします」
「ニルスできるんだ。じゃあお願い」
ニルスは俺からナイフを受け取ると、水筒に入っていた水で手を洗ってから、器用に皮を剥いていった。皮が途中で途切れないので本当に上手い。
「ニルスって器用だよね……」
「ありがとうございます。こういう細かい作業は得意なんです。こちらは皮を剥いたらどのように切り分ければ良いのでしょうか?」
「普通に半分に切って、それぞれ四つずつぐらいにさらに切り分けてくれれば大丈夫。でも中に芯があるから、そこは切り取って欲しいかな」
「かしこまりました。フィリップ様、お皿を二枚出していただけますか?」
ニルスは俺が渡したお皿を庭師の一人に手渡すと、一つのお皿に可食部を、もう一つのお皿に皮や芯を入れて上手くアプルを剥いていった。そしてものの数分で、お皿に綺麗に向かれたアプルが盛られた状態になる。
「お待たせいたしました」
「ニルスありがとう。これで手を洗って、それからナイフも濯いでくれると嬉しい」
「かしこまりました。ありがとうございます」
小さな桶に水を溜めてニルスに渡し、庭師からアプルが載ったお皿を受け取った。そしてニルスの片付けが終わったところで全員を呼ぶ。
アプルを数えてみると、ちょうど人数分になるように切り分けてくれたみたいだ。
「皆、一人一つ食べてみて。さっき植えた枝が育つと付ける実だよ」
「ありがとうございます!」
皆は果物を食べるのは当然初めてなので、高揚した様子でアプルを手にしていく。俺が果物はとにかく美味しいらしいと説明したからか、皆の中で期待が高まっているようだ。
俺もこの世界で初めての果物なので、期待に胸を膨らませてアプルを手に取った。
「光の神、ティータビア様に感謝を」
皆で祈りを捧げてから、さっそくアプルを口に運んだ。シャキッという音と共に口の中に入ってきたアプルは、噛めば噛むほど甘い果汁が溢れてくる。
……ヤバい、めちゃくちゃ美味しい。
ハインツの時に食べたら、なんてことはない普通のアプルだっただろう。少しハズレだなとさえ思っていたかもしれない。
でもこの世界では絶品だ。瑞々しいものを、こうして本格的に甘いものを、そして生でも美味しいものを、この世界では初めて食べた。
「フィリップ様……この世にこんなに美味いものがあったなんて、本当に驚きです」
「衝撃的な味すぎて、なんと言ったらいいのか分かりません」
初めて果物を食べた皆は、驚愕というにふさわしい表情を浮かべていた。つくづくこの国の人達の食文化は酷かったな……魔物の方が果物を食べていた分、人間より食生活が豊かだった可能性まである。
「美味しい?」
「もちろんです! 美味しすぎて、飲み込んでしまうのが勿体ない気がします」
「ははっ、ずっと噛んでたらさすがに味は無くなるよ。こういう果物を、誰でも好きなだけ食べられるような国にしたいんだ」
俺がそう呟くと、庭師の皆もコレットさんも、ニルスとフレディも、皆がやる気に満ちた様子で拳を握った。
「お手伝いいたします」
「フィリップ様の身の安全は、絶対にお守りいたします!」
まずはニルスとフレディがそう宣言すると、その後に他の皆も同じようにこれからの抱負を語ってくれた。
アプルの効果が凄いな。今までも真剣に働いてくれてた皆だけど、これからはより積極的に働いてくれそうだ。
「ありがとう。これからもよろしくね」
「フィリップ様、こちらの皮と芯は食べられないのでしょうか?」
庭師の一人が皮を入れたお皿を覗き込んでそう口にした。俺はその言葉に苦笑しつつ、小さな桶に水を入れる。
「皮は水で洗えば食べても大丈夫だと思う。芯も美味しくはないと思うけど、一応食べられるよ。でも種は体に悪影響があるから食べないでね。それに種は植えればアプルの木が増やせるし」
「かしこまりました!」
俺のその説明を聞いて皆はタネだけ取り除くと、皮を洗って芯はそのままで口に運んだ。そして数回咀嚼すると、微妙そうな表情を浮かべる。特に芯が微妙みたいだ。
「……予想より、美味しくありませんでした」
「やっぱりそうだよね。アプルは芯と皮以外が美味しいんだ。その二つはニワールにあげれば喜んで食べてくれると思うよ」
「そうなのですね。ただ食べないのも勿体ない気がします」
それから皆は微妙そうな顔をしながらも、アプルの皮を食べ切って、芯はさすがにニワールにあげることにしたらしい。ニワールのアプルの芯への食いつきは凄かった。雑草なんて目じゃないほどの勢いだ。
「よしっ、じゃあ今日はこれで終わりにしようか。もうすぐ暗くなるし」
「そうですね。また明日の朝に様子を見に来ます」
コレットさんはやる気に満ちた、頼もしい表情でそう言った。
「俺も来る予定だよ。もし俺が来なかったらなんだけど、明日の天気が良かったら多めに水をあげて欲しい。あと落ち着けてなさそうなニワールがいたら、別で小さな囲いを作って、一人の時間を作ってあげたいんだ」
ニワールはストレスを感じすぎると卵を産まないから、この辺の配慮は大切なのだ。快適に過ごしてもらって、少しでもたくさん卵を産んで欲しい。
「かしこまりました。では明日は水やりから始めておきます。皆さんもよろしくお願いします」
「分かりました。明日はまず畑に来ますね」
そうして皆と明日の動きについて話をして、俺はニルスとフレディと共に屋敷に戻った。
これからまた忙しくなるだろうけど、どんどん生活が豊かになっていくのが凄く楽しい。これからも頑張ろう。
「間違えて空間石から出しちゃったみたい。これがさっき植えた枝が、木になると付ける実だよ」
ちょうどいくつかのアプルが収穫できる程度まで育っていたので、味見も兼ねて屋敷で食べようと採取していたものだ。
……皆にはいつも助けてもらってるし、ここで食べるのもありかもしれないな。屋敷には数個だけでも十分だろう。
「へぇ~、こんなものが木に生るんですね」
「そう。美味しいか分からないけど食べてみようか」
「え、いいんですか!?」
「もちろん。どんなものになるのか知ってた方が、育て甲斐もあると思うし」
俺はそう話をしつつ、空間石からナイフを一本取り出した。何かと便利なのでいつも持ち歩いているのだ。
「誰か皮を剥いたりできる人っている?」
「フィリップ様、私がいたします」
「ニルスできるんだ。じゃあお願い」
ニルスは俺からナイフを受け取ると、水筒に入っていた水で手を洗ってから、器用に皮を剥いていった。皮が途中で途切れないので本当に上手い。
「ニルスって器用だよね……」
「ありがとうございます。こういう細かい作業は得意なんです。こちらは皮を剥いたらどのように切り分ければ良いのでしょうか?」
「普通に半分に切って、それぞれ四つずつぐらいにさらに切り分けてくれれば大丈夫。でも中に芯があるから、そこは切り取って欲しいかな」
「かしこまりました。フィリップ様、お皿を二枚出していただけますか?」
ニルスは俺が渡したお皿を庭師の一人に手渡すと、一つのお皿に可食部を、もう一つのお皿に皮や芯を入れて上手くアプルを剥いていった。そしてものの数分で、お皿に綺麗に向かれたアプルが盛られた状態になる。
「お待たせいたしました」
「ニルスありがとう。これで手を洗って、それからナイフも濯いでくれると嬉しい」
「かしこまりました。ありがとうございます」
小さな桶に水を溜めてニルスに渡し、庭師からアプルが載ったお皿を受け取った。そしてニルスの片付けが終わったところで全員を呼ぶ。
アプルを数えてみると、ちょうど人数分になるように切り分けてくれたみたいだ。
「皆、一人一つ食べてみて。さっき植えた枝が育つと付ける実だよ」
「ありがとうございます!」
皆は果物を食べるのは当然初めてなので、高揚した様子でアプルを手にしていく。俺が果物はとにかく美味しいらしいと説明したからか、皆の中で期待が高まっているようだ。
俺もこの世界で初めての果物なので、期待に胸を膨らませてアプルを手に取った。
「光の神、ティータビア様に感謝を」
皆で祈りを捧げてから、さっそくアプルを口に運んだ。シャキッという音と共に口の中に入ってきたアプルは、噛めば噛むほど甘い果汁が溢れてくる。
……ヤバい、めちゃくちゃ美味しい。
ハインツの時に食べたら、なんてことはない普通のアプルだっただろう。少しハズレだなとさえ思っていたかもしれない。
でもこの世界では絶品だ。瑞々しいものを、こうして本格的に甘いものを、そして生でも美味しいものを、この世界では初めて食べた。
「フィリップ様……この世にこんなに美味いものがあったなんて、本当に驚きです」
「衝撃的な味すぎて、なんと言ったらいいのか分かりません」
初めて果物を食べた皆は、驚愕というにふさわしい表情を浮かべていた。つくづくこの国の人達の食文化は酷かったな……魔物の方が果物を食べていた分、人間より食生活が豊かだった可能性まである。
「美味しい?」
「もちろんです! 美味しすぎて、飲み込んでしまうのが勿体ない気がします」
「ははっ、ずっと噛んでたらさすがに味は無くなるよ。こういう果物を、誰でも好きなだけ食べられるような国にしたいんだ」
俺がそう呟くと、庭師の皆もコレットさんも、ニルスとフレディも、皆がやる気に満ちた様子で拳を握った。
「お手伝いいたします」
「フィリップ様の身の安全は、絶対にお守りいたします!」
まずはニルスとフレディがそう宣言すると、その後に他の皆も同じようにこれからの抱負を語ってくれた。
アプルの効果が凄いな。今までも真剣に働いてくれてた皆だけど、これからはより積極的に働いてくれそうだ。
「ありがとう。これからもよろしくね」
「フィリップ様、こちらの皮と芯は食べられないのでしょうか?」
庭師の一人が皮を入れたお皿を覗き込んでそう口にした。俺はその言葉に苦笑しつつ、小さな桶に水を入れる。
「皮は水で洗えば食べても大丈夫だと思う。芯も美味しくはないと思うけど、一応食べられるよ。でも種は体に悪影響があるから食べないでね。それに種は植えればアプルの木が増やせるし」
「かしこまりました!」
俺のその説明を聞いて皆はタネだけ取り除くと、皮を洗って芯はそのままで口に運んだ。そして数回咀嚼すると、微妙そうな表情を浮かべる。特に芯が微妙みたいだ。
「……予想より、美味しくありませんでした」
「やっぱりそうだよね。アプルは芯と皮以外が美味しいんだ。その二つはニワールにあげれば喜んで食べてくれると思うよ」
「そうなのですね。ただ食べないのも勿体ない気がします」
それから皆は微妙そうな顔をしながらも、アプルの皮を食べ切って、芯はさすがにニワールにあげることにしたらしい。ニワールのアプルの芯への食いつきは凄かった。雑草なんて目じゃないほどの勢いだ。
「よしっ、じゃあ今日はこれで終わりにしようか。もうすぐ暗くなるし」
「そうですね。また明日の朝に様子を見に来ます」
コレットさんはやる気に満ちた、頼もしい表情でそう言った。
「俺も来る予定だよ。もし俺が来なかったらなんだけど、明日の天気が良かったら多めに水をあげて欲しい。あと落ち着けてなさそうなニワールがいたら、別で小さな囲いを作って、一人の時間を作ってあげたいんだ」
ニワールはストレスを感じすぎると卵を産まないから、この辺の配慮は大切なのだ。快適に過ごしてもらって、少しでもたくさん卵を産んで欲しい。
「かしこまりました。では明日は水やりから始めておきます。皆さんもよろしくお願いします」
「分かりました。明日はまず畑に来ますね」
そうして皆と明日の動きについて話をして、俺はニルスとフレディと共に屋敷に戻った。
これからまた忙しくなるだろうけど、どんどん生活が豊かになっていくのが凄く楽しい。これからも頑張ろう。
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