転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗

文字の大きさ
129 / 173
第三章 農地改革編

129、ダミエンの反応

 ダミエンが部屋に来るのを心待ちにしつつティナと話をしながら待っていると、しばらくしてから急いだ様子でダミエンが部屋をノックして入ってきた。

「遅くなってしまってすみません。一人ぐずった子がいて」
「気にしないで。もうその子は大丈夫?」
「はい。他の子と掃除に戻ってくれましたので問題ありません。では失礼いたします」

 ダミエンが一言断ってから椅子に腰掛けると、ティナの部屋には沈黙が流れた。なんとなく緊張感のある雰囲気だ。俺はその雰囲気を少しでも早くいつも通りに戻したくて、急かされるように口を開いた。

「今日は時間を取ってくれてありがとう。実は大切な話があってダミエンを呼んだんだ。聞いてもらえると嬉しい」
「もちろんです」
「実は……俺とティナなんだけど、婚約することになったんだ」

 俺はダミエンがどれほど驚くかと覚悟しながらその言葉を告げると、予想に反してダミエンは、なんてことはないように頷いた。

「かしこまりました」
「……驚かないの?」
「いつかはこうなると思っておりましたので。フィリップ様のお気持ちは分かりやすかったですし、ティナの気持ちも見ていればすぐに分かりましたから。それに二人の雰囲気が途中からあからさまに変わりましたし……」

 マジか……めちゃくちゃ恥ずかしいな。そんなに分かりやすかったのか。ティナと今まで通りに過ごそうって決めて、気持ちを通じ合わせてからも普段通りにしてたのに。

「そんなに分かりやすかった……?」
「うん。ティナがめちゃくちゃ浮かれてたし」
「うぅ、恥ずかしい」

 ティナはダミエンから告げられた言葉がよほど恥ずかしかったのか、顔を両手で覆って顔を隠してしまった。しかし耳が赤いのが横から丸見えだ。
 まあ俺もティナのことは言えないだろうけど……顔が凄く熱い気がするのは気のせいじゃないだろう。

「お、オホンッ。あの、そういうことだから……ティナの上司であるダミエンにも知っておいてもらわないとって思って話をしたんだ」

 俺はわざとらしく咳払いをして、無理やり話を戻した。

「ティナは仕事を辞めるということでしょうか?」
「ううん。少なくとも結婚するまでは仕事を続けてもらえると思う」
「私はフィリップ様と婚約するためにカルフォン伯爵家の養子にしていただくんだけど、伯爵様が許可してくださったから仕事は続けられるの」

 ダミエンはティナのその言葉を聞いて、俺とティナが婚約をするという話では変化がなかった顔を変化させた。

「伯爵家の養子って……伯爵家の養子!? ティナが貴族様になるってことか!?」
「そうだよ。そうじゃないとフィリップ様に嫁ぐのはさすがに無理だからね」
「……そうか、確かにそうだな。――これからはティナ様って呼んだ方が良いのか?」
「ううん、ティナで良いよ。ただ公の場ではそう呼んでもらわないといけなくなるのかな」
「分かった。覚えておく」

 ダミエンはそこまで話してやっと落ち着いたのか、深呼吸をしてから口を開いた。

「ではティナは伯爵家の養子になってからも、孤児院に通って仕事をするということでしょうか?」
「そういうことになるね。住み込みじゃなくなるし、今まで通りにはできないと思うから配慮をお願いしたいんだ。あと結婚してからはさすがに働けないだろうから、そのことも頭の片隅に入れておいて欲しい」
「かしこまりました」
「もし人員が足りなかったらすぐに言ってね。できる限り早く補充するから」

 これからは教育を受けた平民も増えていくだろうし、孤児院で働く人を募集するのは難しくなくなるはずだ。それにダミエンが読み書き計算できるなら、もう一人はその能力がなくても問題はない。できれば教養がある人の方が良いのはもちろんだけど。

「そうだダミエン、近いうちにカルフォン伯爵夫人と私の部屋を整えるためのお買い物に行くんだけど、いつなら休めるかな?」
「そうだな……俺が王宮に行く日以外ならいつでも大丈夫だと思うぞ」
「分かった。じゃあそう伝えて、買い物に行く日が決まったら知らせるね」
「了解だ。できる限り早く知らせてくれるとありがたい」
「それはもちろんだよ」

 予想以上にダミエンが普通に受け入れてくれて、このあとティナが働き続けるのにも問題がなさそうで良かったな。

「そうだ、子供達にはどう説明するんだ?」
「子供達には私が養子に入ることは伝えるけど、それ以外はその時が来るまでは伝えないよ。ダミエンも婚約や結婚のことは秘密だから誰にも話さないでね」
「それはもちろんだ。……けど、貴族の養子に入るなんて理由をしつこく聞かれると思うけどな」

 そうなんだよな……それが一番の問題だ。そこはティナとも一番悩んだところだけど、最終的には貴族に関わることで今は理由が話せないと言うしかないという結論になっている。

「私が根気よく話をするよ。皆は良い子達だから理解してくれるだろうし、貴族に関わることは深追いしちゃいけないってことを学んでもらう良い機会でもあると思うから」
「確かにそうだな。じゃあ子供達への対処はティナに任せる」
 
 そうしてダミエンに伝えたいことは全部伝え終わり、これから先の対応についても話し合ったところで、部屋には穏やかな沈黙が流れた。その沈黙を破ったのは優しい笑みを浮かべたダミエンだ。

「それにしても……本当に良かったな。ティナはフィリップ様と身分差があるから、これからどうなるのかと少し不安ではあったんだ。――ティナ、フィリップ様、改めて婚約おめでとうございます」
「ダミエン、ありがとう」

 ティナはダミエンからの祝いが嬉しかったのか、瞳に涙を光らせながら笑みを浮かべた。俺もそんなティナの表情を見て、自然と笑顔になる。

「ダミエン、ありがとう。これからもよろしくね。ティナのことも孤児院のことも」
「かしこまりました。精一杯頑張らせていただきます」
「ダミエン……これからも、よろしくね」
「おうっ、孤児院にいる時にはこき使ってやるからな」
「うん……うんっ、なんでも言って。頑張って働くから」
 
 それからは終始穏やかな雰囲気で話が進み、子供達の掃除が終わる時間になったところで、話し合いは終わりとなった。
感想 22

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/