転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗

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第三章 農地改革編

135、臨時の治癒所

「じゃあ今後について話し合おうか。まずは治癒院を開設する時期なんだけど」

 俺がそう話を始めると、二人は紙とペンを取り出して熱心にメモを取る。やっぱり治癒以外の部分も優秀で真面目な二人だよな……人選は間違えてなかった。

「治癒院の建物はこれから建設予定だし、その建物で正式に治癒院を開設するのは半年以上先になると思う。でもその前に、王宮の一室を治癒所として治癒の仕事を始めて欲しいんだ」

 病気や怪我をしている人はこうしている間にも増えているから、できる限り早くに開設したいという意見で一致したのだ。しかし建物はどんなに急いでも数ヶ月はかかるので、まずは臨時の治癒所を開くことにした。
 正式な開設前にどの程度の患者が来るのか、どんなトラブルが起こるのか、その辺を検証できることもメリットだろう。

「その治癒所はいつから始めるのでしょうか?」
「できる限り早くが良いかな。そこまで準備には時間がかからないだろうし、数日後とかかな。一応治癒所になる予定の部屋は決めてあって、中は掃除してあるよ」
「かしこまりました。それならば数日後でも十分に始められますね」
「あの、私は王宮に住むことができるのでしょうか?」

 恐る恐る手を挙げて口を開いたのはフリッツだ。そういえばシーラは王宮で働いてたからここに住んでるけど、フリッツは通いなのか。

「もちろん住んでもらうことは可能だよ。引っ越したいなら今日の話し合いが終わった後に手続きをしてもらいたい。マティアス、部屋って空いてるかな?」
「空いてると思うけど……ちょっと聞いてくるよ」

 マティアスが執務室で働く文官のところに向かうと、その文官はマティアスと少し言葉を交わしてから、棚に向かって紙束を取り出した。そして中身を確認して、俺達の下に来てくれる。

「失礼いたします。部屋は空いているようですので、文官棟を管理する者に話を通しておきます。一名がすぐに引っ越したいということで良いでしょうか?」
「うん。それでお願い」
「かしこまりました。では連絡をしておきます。話し合いが終られたら、本人が手続きのため文官部屋に向かっていただければと思います」
「了解。ありがとね」

 マティアスが笑みを浮かべてお礼を言うと、その文官は立礼して自分の席に戻っていった。

「ということだから、帰りに文官部屋に寄ってね。場所は……シーラが教えてあげてくれる?」
「かしこまりました」
「じゃあこれで住む場所は大丈夫かな。それで話を戻すけど、引っ越しとか治癒所の準備とか諸々を数日で済ませて……来週ぐらいからは治癒所を始めて欲しい」

 俺のその言葉に二人が頷いてくれたので、これでとりあえず、この国で治癒を受けることができるようになった。あとは……診療形態を話し合わないとだよな。それから治癒院の場所と構造も。

「どんなふうに患者を受け入れるかなんだけど、基本的には予約制にしようと思ってる。治癒師は二人しかいないし、魔力量を考えて余裕がある人数だけを一日に受け入れるようにして欲しい」
「予約ですね。それは私達の負担が減らせるのでありがたいです」
「二人は大切な人材だから、無理は禁物だよ。急患が入った場合は魔力が許す範囲で二人が、もしどうしても無理なら俺を呼んでくれたら良いから」

 まあ、急患はそこまでいないだろうと思っている。治癒院を頼れるのは基本的に貴族で、貴族はあまり大怪我をするような事態にはならないだろうから。

「フィリップ、騎士が怪我をした場合はどうするんだ?」

 ファビアン様のその疑問に、二人も頷いて俺に視線を向けた。

「騎士団の怪我は職務中のものに限り、国の負担で治すということにしようかなと思っています。その場合は余裕があればこの二人のどちらかが、なければ私がいれば私が治癒をします。それでよろしいでしょうか?」
「ああ、騎士団で命を落とす者が格段に減るだろう。私は賛成だ」
「僕も賛成だよ」
「ありがとうございます。では予定通りにしようと思います」

 将来的には騎士団専用の治癒師を雇いたいと思ってるけど、まだ数年は無理なので二人に頑張ってもらうしかない。……ティナも治癒を使えるんだから、ティナが了承してくれれば力を振るってもらうのもありかもしれないな。その辺は今度相談してみるか。

「それから二人の身の安全の話なんだけど、とりあえず代金の支払いは前払いにしようと思ってる。後から払わないとかお金がないとか、そういうトラブルを避けられるようにね。急患の場合のみ後払いも認める予定なんだけど、その場合は治癒の後に支払わなかったら、本人と付き添い人の両名が罪人として捕まるってことにする予定だから、厄介な人がいたらそれを伝えて欲しい」

 この国にほとんどいない治癒師なんて相当危ない立場だから、安全対策は十分すぎるぐらいやるつもりだ。誘拐とかの可能性はかなり高いよな……

「あと治癒院には護衛を常駐させる予定だから、もちろん治癒所にも護衛を雇うよ。落ち着くまでは二人が治癒院の外にいる時でも護衛をつけたいと思ってる。身の安全のために了承してくれたら嬉しい」
「かしこまりました。私達のことを考えてくださり、本当にありがとうございます」
「護衛がいるのは心強いです。ありがとうございます」

 護衛は実際に何かが起きた時に戦力になるというのもあるけど、いるだけでかなりの抑止力になる。数年どころじゃなくて、数十年は護衛が必須だろうな。実際に前世で治癒院がそこかしこにある状態でさえ、能力の高い治癒師は護衛を付けていた。

「治癒院の建設予定地はまだ決めてないんだけど、それも警護の観点から王宮の近くにするよ」
「今のところの候補はこの辺なんだ」

 マティアスが地図を取り出して指し示したのは、王宮にほど近い貴族街の敷地だ。上級学校の建設予定地からも近く、平民街に繋がる門もそばにある。治癒院はお金さえ払えれば誰でも治癒を受けられるから、平民でも行きやすい立地にするつもりだ。

「王宮にかなり近いのですね。治癒院が建設された後も、王宮からの通いで良いのでしょうか?」
「もちろん構わないよ。ただ通勤の手間を省きたいから治癒院の中に部屋が欲しいってことなら、その意見も考慮して治癒院の設計を考えるかな」
「私は……もし認められるのでしたら、王宮の敷地内に住み続けたいです」
「了解。フリッツも?」
「は、はい。まだ分かりませんが……王宮の方が安全ではないかと思っています」

 確かに安全面はそうかもしれないな。それならとりあえず、治癒師は王宮に住む予定にしておけば良いか。そのうち治癒院の数が増えたりしたら、また考え直せば良い。

「住居は王宮の文官棟のままって予定にしておくよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、今日の話はこのぐらいかな。シーラ、フリッツ、これからもよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします!」

 そうして話し合いを終えて、俺達は執務室から出ていく二人を見送った。これで治癒院も動き出すし、国を良くするために新しく始める政策はとりあえず打ち止めだ。後は今まで始めた政策を上手くいくように進めて、それが軌道に乗ったらついに王都以外に手を広げよう。

 あくまでも今まで改革できたのは王都だけだから、領地にもそれを広げて国全体を豊かにしたいのだ。王都周辺では見つかっていない作物や魔物も他の領地にはあるかもしれない。まずは……ライストナー公爵領からかな。

 俺は国がどんどん良い方向に向かっていることを確信して、手応えを感じ拳を握った。




~あとがき~
ここで三章は終わりとなります。
四章 交易発展編は一週間後の12/10土曜日から投稿する予定ですので、楽しみにしていただけたら嬉しいです。

四章ではフィリップが領地に向かったり、他の貴族や他国の様子なども出てくる予定です。一気に世界が広がりますので、より物語に深みが出て面白くなるのではないかと思っています。これからもフィリップの活躍をご期待ください!


蒼井美紗

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