転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗

文字の大きさ
161 / 173
第四章 交易発展編

161、隣国の危機(第三者視点)

 ラスカリナ王国と山脈で隔てられた隣国であるノバック王国。その首都ノルクにある王城の一室で、国王である男が部下の男達から報告を聞いているようだ。
 しかし国王とは思えないほどに薄汚れた格好で、部屋の中にも装飾品などはない。それどころか必要な家具さえない状態だ。

「陛下……大変申し上げにくいのですが、もうノバック王国は終わりかもしれませぬ」
「他の街との連絡手段は既になく、ここ王都唯一の水源であった川までの道中に、魔物が住み着いたようです。かろうじて生きている井戸から飲み水は得られましょうが、作物を育てるほどの水はなく、近いうちに皆が飢えに苦しむことになるかと……」
「飢え死にか、魔物に殺されるか、その二択でございます。陛下……いかがいたしましょう」

 その部屋に漂うのは希望などない絶望感だ。しかしそれでも国のトップである以上、最後まで諦めてはいけないと男達は知恵を絞っている……が、いくら知恵を絞ったところでどうにもならない現実というものはある。

「魔物を倒すことは……無理だろうか」
「近年は魔物の数が増えすぎてしまい、そのため他の街との行き来も不可能になっておりますので……可能性はあるかもしれませんが、かなり低いかと」
「騎士や兵士はかなり数を減らしておりますので、魔物討伐の人員を確保することも難しいのが現状です」

 その言葉を聞いて、国王である男は頭を抱えて項垂れた。その頭には泥汚れがついていて、指はガサガサに乾燥している。一国の王というよりも、農民のような出で立ちだ。

「……隣国に送り出した密偵は、帰ってこないか?」
「まだどの国からも帰ってきておりませぬ。……魔物が蔓延る街の外で、隣国まで辿り着き生きて帰ってくるのは困難かと思います」

 そこまで話をしてもうどうしようもないと諦めかけたその時、突然部屋のドアが開かれた。

「た、た、大変です……!」
「何だ、ついに街の中にまで魔物がやって来たか?」

 国王がもう全てを諦めたような声音で発した言葉に、男が被せるように「違いますっ!」と叫んだ。

「り、隣国に送り出した騎士が一名、帰還いたしました! その者の話によると、山脈を超えた先の隣国はとても豊かな暮らしをしているそうです!」
「何だと!? どの国だ!」
「ラスカリナ王国という名だそうです。言語も問題なく通じたと」
「でかした……! 今すぐその騎士を呼べ!」

 さっきまでの絶望感から一転、一筋の希望が見えたことで、王城内は明るく生まれ変わったようだ。

 そんな王城の一室で、今度は一人の精悍な顔つきの男が国王と向かい合って椅子に座っている。

「ラスカリナ王国に辿り着いたのだな」
「はい。途中で仲間を数人亡くしましたが、それでも四人で隣国の街に到着しました。するとその街では作物が食べきれないほどにあり、よく分からない道具に魔力を込めるだけで新鮮な水を得ることができるようでした」
「……そんな街が、本当にあったのか?」
「間違いありません。そこで私達は陛下に一刻も早くお伝えしなければと、皆で国に戻りました。しかしその道中で三人の仲間を亡くし、私一人が何とかここまで辿り着けたという経緯です」

 国王はその報告を聞き少しだけ悲しげな表情を浮かべたが、すぐに切り替えたようで真剣な表情で顔を上げた。

「その国に救援を願おう。――私が直接隣国に向かう」
「なっ、それは危険すぎます!」
「いや、ここで私が行かなければ何のための国王なのか。騎士を数名だけ連れて行っても構わないか?」
「……それはもちろん、構いませんが。救援を願ったところで無碍にされる可能性も……その辿り着いた街で、お前達は受け入れられたのか?」

 一人の男が帰ってきた騎士にそう問いかけると、騎士は首を横に振った。

「一応街に入れてもらえましたが、ずっと監視がついていました。やはり怪しまれていたようです。隣国から来たことを明かして救助を願おうかと思いましたが、それによって捕まり国に帰れなくなることを危惧し、報告を優先した次第です」
「……やはりそうか。では宰相、私が帰ってこなければまた別の人員を隣国に送り込め。毎回辿り着くのが同じ街とも限らん、いつかは成功するかもしれん。我が国は隣国に助けてもらう以外で存続する方法はない」

 国王の有無を言わせぬ声音を聞き、宰相と他の男達はハッと頭を下げた。もう国王が意見を変えることはないと悟ったのだろう。

 それからは慌しかった。とにかく一日でも早く隣国に向かおうと準備を進め、その日のうちには同行者が決まった。同行者は今回帰還に成功した騎士が一名と、他に騎士が五名だ。
 必要最低限の食料を準備し、あとは現地調達だ。残り少ない金属製の武器だけは全員で持ち、王城の一室に集まった。

「皆の者、我々の目的は隣国ラスカリナ王国からの救援を得ることだ。道中には魔物が蔓延り、生きて隣国に辿り着くのは相当難しいだろう。しかしノバック王国のため、苦しむ国民のために必ず隣国へ行きたい。私のために、そして国のために命をかけてくれ」

 国王のその言葉に六人の騎士は「はっ」と声を揃えて深く頭を下げた。皆の瞳には諦めの色など微塵も感じられず、瞳の奥にはゆらりと炎が燃えている。

「ありがとう。……ではいくぞ」
「はっ!」

 滅亡寸前のこの国を救うため、七人の男たちが荒れ果てた街を後にした。この遠征の成否に、この国の運命はかかっている。
感想 22

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。