異世界でパッシブスキル「魅了」を得て無双する〜最強だけど最悪なスキルに振り回されてます〜

蒼井美紗

文字の大きさ
1 / 55

1、突然の草原とスライム

 目の前には色とりどりの光の海、聞こえてくるのは十年間歌い続けた俺らのデビュー曲、そして横には一緒にここまで走り続けた大好きな仲間達。

 そんな幸せなライブ空間、そのステージ上で幸せを感じていた俺は――なぜかどこまでも続く草原にポツンと一人で立っていた。手にはマイク、耳にはイヤモニ、服装はステージ衣装だ。

「ここ、どこだ?」

 さっきまで、つい数秒前にはステージ上で歌って踊っていたはずなのに……少しだけ眩暈がして咄嗟に目を瞑り、目を開いた時にはこの草原に立っていた。
 あの眩暈で倒れて、夢でも見てるのか? もしそうならライブを台無しにしてしまったかもしれない。
 
 三人組男性アイドルグループである、アリエーテ十周年記念ツアーの最終日、都心にあるドームで数万人を動員したライブだった。体調には細心の注意を払っていたはずなんだけどな……落ち込む。目が覚めたらどうすれば良いだろう。

 とりあえず理玖と幸矢に土下座して謝って、スタッフさん達にも謝罪行脚かな。事務所にも行かないと。そしてライブに来てくれていたファンの子達にも謝らないと……
 難しいだろうけど、ライブをもう一度やり直させてもらえないか頼んでみよう。

 そこまで考えて、ずっと俯いていた顔を上げた。頬を緩やかな風が撫でていき、その風に乗って草や土の香りが鼻をくすぐる。

「凄い、リアルな夢……だよな?」

 俺は段々と焦りを感じ始めていた。夢ってこんなにリアルなものだっけ? それにこんなに思考がはっきりしてることもない気がする。ここが現実なんてこと……さすがにないよな?
 俺は少しだけ震えている手を頬まで持っていき、ぎゅっと力一杯つねってみた。

「いたっっ……いけど、目が覚めない」

 ど、どうすれば良いんだろう……え、これ夢じゃないなんてことあり得る!? そんなことないよな、誰か夢だって言って、俺を叩き起こしてくれ!


 ――それから数十分間、自分の頬をつねったり走ってみたり大声で叫んでみたり、さらには寝ようとしてみたり、様々なことを試した。なのに俺はまだ、草原にポツンと一人ぼっちだ。

「やばい、これ夢じゃないのか……? 泣けてくるんだけど。こんなところに一人っきりとか、遭難?」

 俺って夢遊病でも患ってたのかな。可能性としては、ライブは普通に終わって家に帰って寝てる間に移動して、草原で意識を取り戻したとか?
 もしそうならライブは最後まで完走したのか。それならとりあえず心配の一つはなくなる。

 でもさ、こんな広い草原。見渡す限りどこまでも広がっている草原なんて日本にあるっけ? それに地面に生えてる植物が見たことないものばかりなのも気になる。
 夢遊病って飛行機に乗って海外まで行くこともあるのだろうか。でも待った……さっきの仮説があっていたとしたら、マイクを持ってイヤモニつけてステージ衣装を着てるのはおかしい。

 ということは…………どういうこと? いや、マジで意味が分からん! 誰か俺を助けてくれ!

「はぁ……喉乾いたな」

 周りには当然お店なんてないし、川などの水源も視界にはない。耳を澄ましてみても川のせせらぎは聞こえてこない。これ以上ここに留まっていたら、そのうち脱水で死ぬよな……気温はそこまで高くないけど、ずっと直射日光を浴びてたら体調が悪くなりそうだ。

 俺は訳の分からない状況に混乱しつつも、とりあえず生存のために場所を移動することにした。夢じゃなさそうだし……


 それから一時間ほど、体感だから実際は分からないけどかなりの時間を歩き続けた。しかし景色は一向に変わらない。俺は突然の事態と心細さと、さらにこれからの不安に疲れ切って、その場にしゃがみ込む。

「はぁ……マジでどうすれば良いんだろう」

 そう呟いたその瞬間、体にぽよんっと何かが当たる感触がした。それに驚いて咄嗟に立ち上がると、足元に透明な青色のゼリーのようなものが、ぽよんぽよんっと動いているのが視界に入った。

「何これ、生物? というかこれって、ゲームや漫画で出てくるスライムってやつじゃ……」

 逃げた方が良いのか、でももう逃げる気力もない。俺は色々に疲れ切ってそのままその場に立ち尽くしていると、スライムらしきものはにょんっと腕みたいなものを出して、俺の足をツンツン突いてきた。
 なんか……可愛いかも。悪いやつじゃないのか? 疲れと混乱から判断力が鈍っていた俺は、危険かもしれないなんてことは考えずにスライムに手を伸ばした。

 触ってみるとプルプルとした感触が気持ちいい。しかも冷たくて今の俺にとっては癒しだ。俺は徐にスライムを抱き上げて目の前に掲げてみた。

「なぁ、ここがどこだか知ってるか?」

 話しかけてみても何も反応はない。まあ、そうだよな。それにしてもこんな生物がいるって……もしかしてだけど、考えたくもないけど、ここって地球じゃないとかそんなことって……あり得る?

「なぜか突然この草原に居たんだけど、元の場所に帰りたいんだ。どうすれば良いのか知らない? ……って、こんなことスライムに言っても仕方ないか」

 俺はスライムをぎゅっと抱えてとりあえず歩き出すことにした。この冷たさで少しだけやる気が復活したのだ。なんだかさっきまでの疲れが抜けて、元気になった気がする。

「もう少し頑張ってみるかな。そういえば、お前はなんて名前なんだ?」

 俺は歩きながらまたスライムに話しかけた。なぜかこの子は俺の腕の中で大人しくしてくれている。当然返事がないのは分かってるんだけど、一人ぼっちの寂しさを紛らわせたくて話し続ける。

「スライムに名前ってないのか……じゃあ俺が考えよう。スライムだからスラッピとか?」

 あれ……今震えた? 腕の中のスライムがぷるぷるって細かく震えた気がする。

「もしかして、言葉が分かるのか?」

 今度はぷるんぷるんって大きく震えた! 本当に言葉が分かるのかもしれない! 大きく揺れる時が肯定で、細かく揺れるのが否定の意味なのかな。

「スラッピって名前は気に入った?」

 細かい震えが腕に伝わる。この名前はダメなのかも。

「そもそも君ってスライム?」

 今度は大きな震えだ。スライムで合ってたんだ……言葉が本当に通じてるのが凄い。

「じゃあ、スラ吉は? ダメか……スラ太郎は? スラ美はどう?」

 それからいくつもの名前にダメ出しされて、最終的にこのスライムの名前はスラくんに決まった。めっちゃ普通の名前になったけど、他のは全部却下されたのだから仕方がない。

「スラくん、これからよろしく」

 俺のそんな挨拶にも、ぷるんぷるんっと震えて答えてくれるスラくんが可愛い。もう完全に情が湧いている。もし俺から離れていくようなことがあったら、寂しくて泣きそうだ。
 俺はスラくんを離さないという意志を込めて、少し強めにぎゅっと抱きしめた。

「そういえば自己紹介してなかったな。俺は宮瀬涼太。地球って星の日本から来たんだ。ここに来る前はアリエーテってアイドルをやってた。歳は二十八歳で好きな食べ物はオムライス、嫌いな食べ物はゴーヤ。今一番求めてるのは水と日本への帰り方かな」

 そんな俺の言葉にスラくんは、にょんっと手みたいなものを出して俺の腕をつんつんしてくれた。これって慰めてくれてる……?

「……か、可愛いっっ!」

 俺はスラくんのプルプルボディーに頬擦りをして、叫び出したくなるような衝動を抑え込んだ。いや、既に叫んでたかも。
感想 2

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!