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24、緊急事態

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 俺がこの世界に突然やってきてから一ヶ月が経過した。その間に俺はリラと共にとにかく依頼をこなし、お金を貯めて必要なものや装備を整えた。冒険者ランクは俺がCでリラがBになり、高ランク冒険者への階段を駆け上がっているところだ。

 魅了スキルはかなり使いこなせるようになっていて、魔物に対峙して身の危険を感じたことはまだ一度もない。今のところ全ての魔物が問題なく俺の魅了で操れている。
 本当に使えるスキルなんだけど、パッシブなところだけがデメリットなんだよな……それもめちゃくちゃ大きなデメリットだ。

 一度だけリラがトイレに行ってる時にスキルの効果が切れたことがあって、その時は食堂の中にいたんだけど、ちょうど一組だけいた男性二人組の冒険者が魅了にかかったのだ。
 命令して相手の動きを止めようかと思ったんだけど、了承を得ずにそれをしたら攻撃したと捉えられてもおかしくないのでできず、結局は男性二人組に抱きつかれて頬擦りをされるという地獄に耐えることになった。

 ――あれは本当に辛かった。

 あの後リラが来てスキルを封じてもらって、俺のスキルを伝えてめちゃくちゃ謝ったんだよな。もう土下座の勢いで謝った。あの二人もかなりの精神的ダメージを受けて項垂れてたな……改めて本当に申し訳ない。

 あの後も俺のスキルは広まってないから、あの二人は周りに言いふらしてはいないんだろう。本当にありがたいよな……まあ、言いふらしたら自分達が俺に魅了されたと告白するようなものだし、誰でも秘密にしたがるのかもしれないけど。

「リョータ、今日もギルドに行こうか」
「もちろん」

 俺とリラはいつものようにカミーユさんに挨拶をして宿を出て、冒険者ギルドに向かった。


「今日はどの依頼にしようか」
「うーん、あの依頼はどう? 深淵の森での採取依頼」
「あっ、良いかもね」

 ちょうど俺達にぴったりの依頼で報酬も高い。これで決まりだな。そう思って依頼票を剥がそうと手を伸ばした瞬間……突然バタンッと大きな音を立てて、ギルドのドアが開いた。

「や、やばいぞ! ドラゴンが、ドラゴンが来るっ!!」

 そして相当に慌てた様子の冒険者がギルド内に飛び込んできて、そう叫ぶとその場に倒れ込んだ。

「おい、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫だ、ずっと、走ってきたから……」
「それよりもドラゴンってどういうことだよ!」
「深淵の森から、飛んでくるのを見たんだ。途中で旋回してたから、まだ街には来てないかもしれないけど、明らかに街に向かってたっ!」

 その叫びを聞いてギルド内は騒然となる。ドラゴンの脅威にパニックになる者、逃げ出そうとギルドから出ていく者、勇敢にも立ち向かおうと装備を整える者、ギルドマスターにまずは報告だと二階へ駆け上がる者。
 皆が思い思いに動くことで、ギルド内は隣にいるリラの声が聞こえないほどにうるさくなっている。

「リラ! ドラゴンってどのぐらい強いのか分かる?」

 大きな声を出してリラに話しかけると、リラは俺の耳元に口を近づけて答えを返してくれた。

「魔物の頂点って言われてて、深淵の森の奥や竜山と呼ばれてる山の山頂に住んでるって言われてる。数百年前にドラゴンに滅ぼされた国があるらしいけど、それ以来は目撃情報もほとんどなくて……」

 国が滅ぼされるってマジか。そんなに強い存在がいるなんて。

 ――俺の魅了は、効くのだろうか。

 もし効くのなら、それが一番ドラゴンを倒せる可能性が高い気がする。
 めちゃくちゃ怖いけど、この街にはもう仲の良い人達もたくさんいるんだ。何もせずに逃げ出すなんてことはしたくない。何もしなかったら、絶対に後悔する。

「リラ、魅了を試してみたい」

 俺が静かにそう告げた言葉はリラの耳に届いたようで、リラは真剣な表情で俺を見つめてきた。そしてしばらくは何も声を発さなかったけど……数十秒後に、やっと頷いてくれた。

「分かった。ドラゴンを討伐にいこう。いつも通りにやれば大丈夫だよ」
「リラ、本当にありがとう」

 俺達が頷き合ったところで、ギルドマスターの大声がギルド中に響き渡った。

「皆聞いてくれ! ドラゴンがこの街を襲うかもしれない緊急事態だ! 高ランク冒険者は街の防衛に、低ランク冒険者は一般人の誘導をしてくれ! 一般人は頑丈な建物の中で待機だ!」
「おおっ、俺がドラゴンなんて倒してやるよ!」
「僕達は誘導に行こう」

 ギルドマスターの声によってパニックに陥っていた皆が正気を取り戻したようで、ギルド内には一致団結するような雰囲気が流れた。ギルドマスターって凄いな、ただのおじいちゃんかと思ってたけど、人を従える力があるみたいだ。

「俺逹も行こう」
「うん」

 それからドラゴンの討伐に向かう勇敢な冒険者達と共に街の外門に向かうと、そこでは街を守る兵士達が大勢集まり大騒ぎになっていた。門の上からはすでにドラゴンの姿が確認できているらしい。

「皆落ち着け! 外門の上から魔法で攻撃するぞ!」
「集まった冒険者は外門の上に登ってくれ!」

 兵士のそんな叫び声が聞こえて、混乱しながらも迎撃準備が整えられていく。空を飛んでるドラゴンには魔法攻撃で応戦するそうだ。そして万が一地上に降りてきたら、その時は近接武器を持つ人達の出番らしい。

「リラ、こんなに人がいたら魅了を使えないから、街の外に行きたい。リラはここにいて。俺が皆から離れたのを確認したらスキルを解除して欲しい」
「ううん、私も一緒に行く」
「でも、危ないよ」
「私達はパーティーでしょ?」

 そう言って俺を見上げたリラの表情を見たら、決意は固いことが伝わってきた。さらにそんなリラに追従するようにユニーが顔を擦り付け、スラくんが鞄の中でプルプルと震えている。

「――皆、本当にありがとう。一緒に行こう」
「もちろん!」
「ヒヒンッ」

 俺達は四人で気持ちを通じ合わせ、ユニーに乗って皆の流れとは逆行して街の外に飛び出した。そして全力でドラゴンの近くまで駆ける。
 危ないぞと止める声が聞こえてくるけど、それには無視をしてひたすら進み、周りに誰もいなくなったところでスキル封じを解除してもらった。

 ――俺の魅了スキル、何とか頑張ってくれ。
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