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25、ドラゴン退治

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 ドラゴンは街に向かって飛んでいたけれど、自分に駆け寄る俺達の存在に気付いたようだ。飛ぶスピードを弱めて、俺達の上空を旋回している。

「ここから魅了って届くと思う?」
「いや、声が届かないとさすがに無理だと思うけど……でも一度やってみてくれる?」
「了解。――地面に降りて、動きを止めろ!」

 俺はアイドル時代にボイストレーニングで鍛えた声量をフル活用し、ドラゴンに届くように声を張り上げた。しかしドラゴンは……操れないみたいだ。

「やっぱり声が届いてないのかも。地面におびき寄せないとダメだね」
「どうする? 何か餌で釣るとか?」
「ううん、私が魔法を当てるよ。そうすれば敵と認識して一気に襲ってくると思う。――危険だけど、リョータを信じてるよ」

 そう言ったリラは笑顔を浮かべていたけれど、手は少し震えているのに気づいた。俺はそんなリラの手をぎゅっと握って熱を分け与え、少しでもリラックスできるようにと笑みを返した。

「もちろん、任せておいて」

 怖いけどやるしかない。このまま放置したら街が壊滅するだけだ。

「じゃあいくよ。――ファイヤーボール」

 リラが放ったファイヤーボールは、さすがのコントロールでドラゴンの頭に直撃した。その攻撃を受けてドラゴンは雄叫びを上げ、怒ったように俺達を睨みつけた。
 圧倒的な上位の存在に上から睨まれているのは思った以上に怖く、心臓が縮み上がる。

 そうして俺にとっては数分にも思えた数秒間が過ぎ、ドラゴンは再度雄叫びを上げて俺達に向かって急降下してきた。口には鋭い牙が見え、俺達を狙っている爪は大きく鋭い。

「――止まれっっ!!」

 息を大きく吐き出して震えそうな声を気合で押さえ込み、今までで一番気合を入れて魅了の魔力を載せて声を発した。すると……ドラゴンは俺達の上空で痙攣するように動きを止め、そのまま垂直に落下してくる。

「……っ、ユニー、この場から離れて!」

 俺は落ちてくるドラゴンに巻き込まれないようにとユニーにそう叫ぶと、ユニーは俺が言うまでもなく駆け出してくれていた。

 ドシンッと大きな音と共に砂埃が巻き上がり、ドラゴンが地面に落ちる。

「魅了が効いた……のか?」
「グォォォォォ!」
「うわっ、効いてない!?」

 地面に落ちたドラゴンはそのまま動きを止めているかと思ったら、怒り狂ったような雄叫びを上げてその場に立ち上がった。そして俺達のことを射殺すような目つきで睨んでくる。

「ど、どうしよう、効いてないかも!」
「でもさっきは絶対に効いてたよ。多分相手が強いからすぐに切れちゃうんだ。何回もかけて!」
「わ、分かった。――止まれ!」

 再度魅了をかけてみると、ドラゴンは苦しそうに呻きながらも動きを止める。魅了に必死に抗ってる感じだ。効果はあるけど、俺の意のままに動かせるほどには効かないんだな。

「リラ、この間に攻撃を!」
「もちろん分かってる! ――ファイヤーストーム」

 リラがそう唱えた瞬間にドラゴンが炎の嵐に包まれた。ゴブリンを炭にした魔法だ。しかし炎が消えた後でも、ドラゴンは少しのダメージを受けただけで生きていた。

「ドラゴンってこんなに硬いの!?」
「どう、倒せそう?」
「何とか頑張ってみる!」

 そこからは凄かった。リラは魔力が無くなるのも厭わないというようなペースで、とにかく強い魔法を打ち続けた。俺も魅了スキルを使い続け、ドラゴンの動きを何とか制限した。

 そうしてドラゴンにダメージを与えること数分、そろそろリラの魔力が尽きそうという時に、リラのファイヤーアローがドラゴンの目に直撃し、それが脳まで到達した。そしてそれが決定打となり、巨大なドラゴンは地に伏した。

「倒せた……のか?」
「た、多分、倒せた、みたい。リョータ、やったね」

 リラはそう言って力ない笑みを浮かべると、俺の方に倒れてきた。俺はそんなリラをしっかりと受け止めて、リラがユニーから落ちないように固定する。

「ごめん、ちょっと魔力を使いすぎて、力が入らないみたい」
「大丈夫。リラ、めちゃくちゃかっこ良かったよ」
「へへ、やった。ありがと」

 そうして俺とリラがお互いを労っていると、俺達の戦いを見ていた兵士や冒険者達が、一斉に門から出てこちらに来るのが見えた。
 俺はそれを見てとにかく焦る。今の俺は魅了のパッシブ状態なのだ。リラにスキル封じを頼むわけにはいかないし……

「ど、どうしよう」

 解決策が思い浮かばずにオロオロしているうちに、先頭の数人が魅了にかかったようだ。さらに後続も次々と魅了にかかる。
 そうして大勢の兵士と冒険者――ほとんどが男――が瞳をハートにして俺に迫ってきた。

「ど、どうしようもなく好きだぁぁぁ」
「カッコ良すぎて惚れたぞっ!」

 うわっ、マ、マジでどうしよう。初対面の相手を意図的に魅了したら攻撃と取られても仕方ないけど、ここで魅了を使わなかったらこの人数に襲われることになる。
 そんなのは誰も幸せにならないはずだ。ここは止めるのが全員のためになるはず……!

「――止まれ! 全員後ろを向いてゆっくりと前に進め」

 俺が皆に届くようにそう声を発すると、俺に駆け寄ってこようとしていた皆は動きを止めて、ぎこちない動きで後ろを振り返った。そして魅了の範囲から出たところで……全員が正気に戻る。

「何だ今の。急にあいつが好きだってことしか考えられなくなって……」
「ごめん! あの、俺には魅了のパッシブスキルがあるんだ。だから十メートル以内に近づかないでほしい。いつもはスキル封じをかけてもらってるけど、今はリラに無理はさせられないから」

 派手にドラゴンを倒してしまったし、スキルを隠すのは無理だろうと思ってそう告白すると、皆は驚愕に瞳を見開いた。

「魅了のパッシブなんてものがあるのか」
「それは……不憫だな」

 そして皆はだんだんとこのスキルの辛さを理解してくれたのか、俺に同情の眼差しを向けてくれる。それを分かってくれるだけで俺は嬉しいよ……
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