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32、謁見の準備
次の日の朝。
俺達は朝早くから宿を出て今は王宮の中にいる。応接室のようなところでさっきまで文官らしき人達と打ち合わせをしていて、今はメイドさんに髪型を整えてもらっているところだ。
服装は冒険者の格好のままで良いと言われたけど、髪型を綺麗に整えることはするらしい。
「リョータさんは、人に髪を整えられることに慣れているのですね」
「……そういうのって分かるんですか?」
「はい。慣れていない方は頭を動かしたり居心地悪そうにされますので」
「そうなんですね」
これは確実にアイドル時代の名残だな。髪型を弄られるのなんて久しぶりで楽しいと思ってたところだった。
「実は舞台に上がる仕事を以前はしてたんです」
「そうだったのですね! それは素敵です!」
俺を担当してくれている若いメイドさんは、嬉しそうに顔を明るくさせた。やっぱりどの世界でもこういう部分は同じなんだなぁ。俺は懐かしさを感じて、最近は考えないようにしていた日本のことを思い出してしまう。
――早く日本に帰りたいな。
でもスラくんとユニー、リラと別れたくないし、どうすれば良いのか考えがまとまらない。皆と別れずに日本にも帰りたいけど、そんな都合の良いのは無理だろうし……
「はい。これでよろしいでしょうか?」
「おおっ、凄いですね。ありがとうございます」
「いえ、とても綺麗なお顔立ちなので整え甲斐がありました。ありがとうございます」
俺の顔はこの世界でも綺麗な顔になるのか。今まで見て来た限りではもっと彫りの深い顔の人が多いから、俺は平凡顔なんだと思っていた。
でも俺の顔は、日本ではどちらかというと綺麗よりもカッコ良いだったことを考えると、この世界の方が日本よりもワイルドな顔の人が多いのは確かだろう。
「リョータさんの準備が終わったことを伝えて参りますので、少々お待ちください」
それから数分待っているとメイドさんが戻ってきて、俺は応接室から謁見の待機部屋に連れていかれた。
中に入るとすでにリラがいて、俺は向かいのソファーに腰掛ける。ちなみにスラくんとユニーはさすがにここには来れないので、城壁近くにある従魔用の待機場所に預けてある。
「リョータはちゃんとするとかっこいいんだね」
「本当? ありがと。リラも可愛いよ。いつも三つ編みだから、髪の毛を下ろしてるところは初めて見た」
「変じゃない? なんだか落ち着かなくて……」
「めちゃくちゃ似合ってるから大丈夫」
リラの髪は緩くウェーブがかかっているようで、下ろすととても大人っぽくなる。冒険者として働く時には邪魔かもしれないけど、休みの日とかは下ろしたら良いのに。
「後どのぐらいで謁見になるのかな」
「緊張するから早くして欲しいよね……」
「こういう待ってる時間って嫌だよな」
お菓子とお茶を出されているけど、トイレの心配もあって飲む気にはならないし、緊張で胃が痛くてお菓子を食べるどころの話ではない。
「謁見室に入ったらカーペットが途切れる場所までゆっくり歩いて、そこで右膝をついて左膝は立てて跪けば良いんだよな?」
「そう。それで頭を下げて、陛下が来て面をあげよって言われたら顔を上げて良いって」
さっき文官と話し合いをした時に、それだけは教えてもらったのだ。とにかく陛下が謁見室にいる間は跪いていて、聞かれたことにだけ答えれば良い。そして陛下が謁見室を去ったら俺達も退出できる。
「リラ、頑張ろう」
「うん。……生きて帰ろうね」
俺はリラのその言葉を大袈裟だと笑い飛ばすことができなかった。王政の国で陛下への謁見なんて、何か粗相をしたら本当に命が危険に晒されたりするのだろう。ましてや俺なんて、そもそも警戒されてるのだから尚更だ。
それからは冷たくなった手を少しでも温めようと手を擦り合わせてそわそわと待っていると、ついに文官が俺達のことを呼びに来た。
「私について来てください。謁見が始まります」
「わ、分かりました……!」
緊張でギクシャクしながら文官を追いかけると、謁見室にはすぐに到着する。
「中には数名の文官と騎士がいますが、まっすぐ前を向いて進んでください。跪いたところで陛下が供を連れて入室されますが、声をかけていただくまでは絶対に頭を上げないでください。それだけを守れば大丈夫です」
文官の男性は最後にもう一度注意事項を述べてくれて、俺達の緊張が伝わったのか安心させるような笑みを浮かべてくれた。
この場面でその笑顔は反則だ……! 特別かっこいいわけじゃない平凡顔の文官が、キラキラと輝いて見える不思議。リラも瞳を潤ませて文官を凝視している。
「では開けますね」
大きな扉を開けるには仕掛けがあるようで、文官は俺達を扉の前に置くと、少し離れたところにあるレバーを回し始めた。そのレバーを回すと、少しずつ扉が開く仕組みらしい。
少しずつ開いていく扉の隙間から部屋の中の様子が見えるようになり、俺はゴクリと息を飲み込んだ。
まず一番に目に入るのは大きな玉座だ。キラキラと輝く宝石が散りばめられた椅子が、圧倒的な存在感を放っている。そしてそんな玉座が置かれた場所から階段を少し下がったところに護衛だろう騎士がいて、俺達が歩く予定のカーペットの両脇にも等間隔で騎士が並んでいる。
さらに騎士の後ろ側には文官も並んでいるようだ。ただ扉を開けてくれている文官より、かなり服装が豪華に見える。文官の中にも序列があるのだろう。
俺とリラはそんな光景に逃げ出したい気持ちになりながらも、拳を握りしめて一歩を踏み出した。
ついに謁見の始まりだ。
俺達は朝早くから宿を出て今は王宮の中にいる。応接室のようなところでさっきまで文官らしき人達と打ち合わせをしていて、今はメイドさんに髪型を整えてもらっているところだ。
服装は冒険者の格好のままで良いと言われたけど、髪型を綺麗に整えることはするらしい。
「リョータさんは、人に髪を整えられることに慣れているのですね」
「……そういうのって分かるんですか?」
「はい。慣れていない方は頭を動かしたり居心地悪そうにされますので」
「そうなんですね」
これは確実にアイドル時代の名残だな。髪型を弄られるのなんて久しぶりで楽しいと思ってたところだった。
「実は舞台に上がる仕事を以前はしてたんです」
「そうだったのですね! それは素敵です!」
俺を担当してくれている若いメイドさんは、嬉しそうに顔を明るくさせた。やっぱりどの世界でもこういう部分は同じなんだなぁ。俺は懐かしさを感じて、最近は考えないようにしていた日本のことを思い出してしまう。
――早く日本に帰りたいな。
でもスラくんとユニー、リラと別れたくないし、どうすれば良いのか考えがまとまらない。皆と別れずに日本にも帰りたいけど、そんな都合の良いのは無理だろうし……
「はい。これでよろしいでしょうか?」
「おおっ、凄いですね。ありがとうございます」
「いえ、とても綺麗なお顔立ちなので整え甲斐がありました。ありがとうございます」
俺の顔はこの世界でも綺麗な顔になるのか。今まで見て来た限りではもっと彫りの深い顔の人が多いから、俺は平凡顔なんだと思っていた。
でも俺の顔は、日本ではどちらかというと綺麗よりもカッコ良いだったことを考えると、この世界の方が日本よりもワイルドな顔の人が多いのは確かだろう。
「リョータさんの準備が終わったことを伝えて参りますので、少々お待ちください」
それから数分待っているとメイドさんが戻ってきて、俺は応接室から謁見の待機部屋に連れていかれた。
中に入るとすでにリラがいて、俺は向かいのソファーに腰掛ける。ちなみにスラくんとユニーはさすがにここには来れないので、城壁近くにある従魔用の待機場所に預けてある。
「リョータはちゃんとするとかっこいいんだね」
「本当? ありがと。リラも可愛いよ。いつも三つ編みだから、髪の毛を下ろしてるところは初めて見た」
「変じゃない? なんだか落ち着かなくて……」
「めちゃくちゃ似合ってるから大丈夫」
リラの髪は緩くウェーブがかかっているようで、下ろすととても大人っぽくなる。冒険者として働く時には邪魔かもしれないけど、休みの日とかは下ろしたら良いのに。
「後どのぐらいで謁見になるのかな」
「緊張するから早くして欲しいよね……」
「こういう待ってる時間って嫌だよな」
お菓子とお茶を出されているけど、トイレの心配もあって飲む気にはならないし、緊張で胃が痛くてお菓子を食べるどころの話ではない。
「謁見室に入ったらカーペットが途切れる場所までゆっくり歩いて、そこで右膝をついて左膝は立てて跪けば良いんだよな?」
「そう。それで頭を下げて、陛下が来て面をあげよって言われたら顔を上げて良いって」
さっき文官と話し合いをした時に、それだけは教えてもらったのだ。とにかく陛下が謁見室にいる間は跪いていて、聞かれたことにだけ答えれば良い。そして陛下が謁見室を去ったら俺達も退出できる。
「リラ、頑張ろう」
「うん。……生きて帰ろうね」
俺はリラのその言葉を大袈裟だと笑い飛ばすことができなかった。王政の国で陛下への謁見なんて、何か粗相をしたら本当に命が危険に晒されたりするのだろう。ましてや俺なんて、そもそも警戒されてるのだから尚更だ。
それからは冷たくなった手を少しでも温めようと手を擦り合わせてそわそわと待っていると、ついに文官が俺達のことを呼びに来た。
「私について来てください。謁見が始まります」
「わ、分かりました……!」
緊張でギクシャクしながら文官を追いかけると、謁見室にはすぐに到着する。
「中には数名の文官と騎士がいますが、まっすぐ前を向いて進んでください。跪いたところで陛下が供を連れて入室されますが、声をかけていただくまでは絶対に頭を上げないでください。それだけを守れば大丈夫です」
文官の男性は最後にもう一度注意事項を述べてくれて、俺達の緊張が伝わったのか安心させるような笑みを浮かべてくれた。
この場面でその笑顔は反則だ……! 特別かっこいいわけじゃない平凡顔の文官が、キラキラと輝いて見える不思議。リラも瞳を潤ませて文官を凝視している。
「では開けますね」
大きな扉を開けるには仕掛けがあるようで、文官は俺達を扉の前に置くと、少し離れたところにあるレバーを回し始めた。そのレバーを回すと、少しずつ扉が開く仕組みらしい。
少しずつ開いていく扉の隙間から部屋の中の様子が見えるようになり、俺はゴクリと息を飲み込んだ。
まず一番に目に入るのは大きな玉座だ。キラキラと輝く宝石が散りばめられた椅子が、圧倒的な存在感を放っている。そしてそんな玉座が置かれた場所から階段を少し下がったところに護衛だろう騎士がいて、俺達が歩く予定のカーペットの両脇にも等間隔で騎士が並んでいる。
さらに騎士の後ろ側には文官も並んでいるようだ。ただ扉を開けてくれている文官より、かなり服装が豪華に見える。文官の中にも序列があるのだろう。
俺とリラはそんな光景に逃げ出したい気持ちになりながらも、拳を握りしめて一歩を踏み出した。
ついに謁見の始まりだ。
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