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52、休日
昨日は屋敷に戻ってから、さすがに疲れていたのかお風呂に入ってすぐ眠りに落ちた。そして今日は朝起きてから清々しい朝の陽気を感じながら、屋敷の庭を一人で散歩している。
スキルを自分で封じる手段を得たことが、自分で思っていたよりも嬉しくてじっとしていられないのだ。このペンダントを付けているだけで、パッシブの魅了が発動して襲われることはもうない……!
言うなればこのペンダントは、俺の命の恩人だ。これがあるだけでこの世界での暮らしやすさが何十倍にも跳ね上がる。
「よく見たら見た目も綺麗なペンダントだな」
色はエメラルドグリーンだ。宝石なのか魔石なのか分からないけど、小ぶりで質の良い石が目立ちすぎずに華やかさを演出している。
「リョータ、おはよう」
「あ、リラ」
門まで歩いてきてしまったのでそろそろ屋敷に戻ろうかな……そう思って振り返ったところで、ちょうど近くまで来ていたリラと目があった。
「ふふっ、リョータの部屋以外で朝の挨拶をするのが新鮮だね」
「今までは朝イチでまずスキルを封じてもらってたからなぁ」
これからはあの時間が無くなるのかと思ったら少し寂しい気もするけど、リラに手間をかけないようになるんだから喜ぶべきだろう。
「今日はどうする?」
「うーん、さすがに仕事はしないよね?」
「そうだな。昨日ダンジョンから帰ってきたところだし」
「それなら一日休みにしようか。リョータも自由にお出かけしたいでしょう? それぞれ好きに過ごそうか」
「了解。でもまずは……朝食を食べよう。お腹空いたよ」
「ふふっ、屋敷では美味しそうな匂いがしてたよ」
リラが楽しそうな笑みを浮かべて屋敷に向かったので、俺もリラを追いかけて二人で食堂に入った。
そうして美味しい朝食を堪能したら、俺はさっそく屋敷を出た。魔車ではなくて歩きでの出発だ。目的地はないけど、とりあえず中心部からは出て、街の中をあてもなく歩いてみようと思う。
鞄の中にはスラくんがいて、隣にはユニーがいる。リラがいないのはやっぱりちょっと寂しいなぁ。
「ユニー、どこか行きたいところはある?」
「ヒヒンッ、ヒヒーンッ」
ユニーはどこでも俺の行きたいところに付いて行くよと伝えるように、俺に顔を擦り付けてきた。スラくんもそんなユニーに同意するように大きく震えている。
「俺の行きたいところっていうのも難しいんだよな……」
改めて街中の様子をぐるりと見回してみると、まず目に入るのはやっぱり王宮だ。しかし次に王宮とはまた別の雰囲気で目立っている建物が目に止まった。
教会だ……今まで何度も近くを通ったりして視界には入ってたけど、一度も行ったことはない。リラの話を聞く限りだと誰でも中に入って祈れるみたいだし、この機会に行ってみるのもありなのかな。
「ユニー、スラくん、教会に行くので良い?」
「ヒヒンッ」
俺の問いかけに二人が同意してくれたので、俺は少し遠くに見える教会に足を向けた。
それから途中で地元の人に道を尋ねつつ、三十分ほど歩いていると教会に辿り着いた。近づくと思っていたよりも大きな建物で、入り口は大きく開かれている。
さっきから少し見てるだけでも人が自由に出入りしているから、俺が中に入るのに支障はなさそうだ。
「あの、すみません」
「はい。いかがいたしましたか?」
教会の前で掃除をしていた、祭司服のようなものを着ている女性に声をかけると、女性はにこやかな笑みを浮かべて対応してくれた。
「従魔って中に入っても良いのでしょうか? もしダメならどこか預けられる場所を教えていただきたいのですが」
「そちらの従魔ですね。問題なくご一緒に礼拝していただけますよ。入り口の扉を通れる従魔は、中に入っていただいても構わないことになっています」
「そうなのですね。良かったです」
「いえ、心休まる時間をお過ごしください」
女性はそう言って穏やかな微笑みを浮かべると、また掃除に戻っていった。扉を通れれば良いって、ほとんどの従魔は自由に入って良いってことだよな。
「一緒に中に行こうか」
嬉しそうなユニーとスラくんを連れて中に入ると、中は広い一つの空間になっていた。天井を見上げるとかなり高く、ステンドグラスのようにお洒落なガラスで装飾されている。
そんな空間の奥にあるのは、巨大な像だ。この世界の神を模したのだろう像はかなり大きく、髪が長くて胸があることから女性だと分かる。この世界は女神が信仰の対象なんだな。
周囲の人の真似をして女神像の前に跪き、瞳を閉じて祈りを捧げた。
――俺に関わっている人達が、健康で過ごせますように。
日本に帰れますようにって祈ろうかと思ったんだけど、何故だかそれは祈りたくなくて、当たり障りのない祈りになってしまった。
俺って日本に帰りたいのかな……いや、日本には家族も友達も仲間も仕事も全てがあるから帰りたい。それは当然なんだけど……この世界でもずっと暮らしたい、んだよな。
この複雑な感情をどうすれば良いのか。ユニーとスラくんと別れるなんて寂しすぎるし、リラとももっと一緒にいたい。屋敷に雇った皆も俺がいなくなったら困るよな……
そんなことを色々と考えると、帰りたいのか帰りたくないのかさえわからなくなってくるのだ。まあそもそも、帰る方法なんてあるのか分からないんだけど。
「総本山にシュリーネ様がご降臨なされるのが一月後に迫っています。三日後がシュリーネ様への供物を運ぶ最後の便となりますので、何か贈りたいものがある方は早めにお願いいたします」
頭の中でぐるぐるとまとまらない考えを巡らせていると、突然そんな声が耳に入ってきた。声の発信源を見てみると、教会の一角にいるここで働く女性みたいだ。
「それって、何かのイベントですか?」
気になって聞いてみると、一枚のチラシを渡された。
「ご存知かと思いますが、三年に一度総本山にある大聖堂にシュリーネ様がご降臨されるのが、一ヶ月後に迫っております。ここから魔車で運ぶとなると大聖堂まで数週間はかかりますので、三日後がご降臨されるシュリーネ様へ供物を渡す最後のチャンスとなります。何かお渡しになりたいものがございましたら、こちらの教会までお持ちください」
「……降臨って、シュリーネ様? と会えるのですか?」
「大司教様を始めとして教会の上層部の方々はお会いできます。それから短い時間ですが、大聖堂の扉が開かれる時には大聖堂の前に集まる民にもシュリーネ様はお姿を見せてくださいます」
それって本当に神が降臨するのだろうか。空が光って人型の光が浮かび上がるみたいな、アニメや映画でよくあるやつ……?
本当にそんなことが起こるなんて信じられない。でもこの世界は色々地球と違うから、絶対にないとは言い切れないよな。もし本当にシュリーネ様という神が実在してるのなら、その神様に頼んで俺を日本に戻してもらうことだって……
「絶対にできないとは、言えないよな」
「はい? 何かおっしゃいましたか?」
「あ、いえ、気にしないでください」
俺は教会で働く女性にチラシのお礼を伝えて教会を後にした。そしてシュリーネ様のことについて詳細を聞くために、急いで屋敷へ戻った。
スキルを自分で封じる手段を得たことが、自分で思っていたよりも嬉しくてじっとしていられないのだ。このペンダントを付けているだけで、パッシブの魅了が発動して襲われることはもうない……!
言うなればこのペンダントは、俺の命の恩人だ。これがあるだけでこの世界での暮らしやすさが何十倍にも跳ね上がる。
「よく見たら見た目も綺麗なペンダントだな」
色はエメラルドグリーンだ。宝石なのか魔石なのか分からないけど、小ぶりで質の良い石が目立ちすぎずに華やかさを演出している。
「リョータ、おはよう」
「あ、リラ」
門まで歩いてきてしまったのでそろそろ屋敷に戻ろうかな……そう思って振り返ったところで、ちょうど近くまで来ていたリラと目があった。
「ふふっ、リョータの部屋以外で朝の挨拶をするのが新鮮だね」
「今までは朝イチでまずスキルを封じてもらってたからなぁ」
これからはあの時間が無くなるのかと思ったら少し寂しい気もするけど、リラに手間をかけないようになるんだから喜ぶべきだろう。
「今日はどうする?」
「うーん、さすがに仕事はしないよね?」
「そうだな。昨日ダンジョンから帰ってきたところだし」
「それなら一日休みにしようか。リョータも自由にお出かけしたいでしょう? それぞれ好きに過ごそうか」
「了解。でもまずは……朝食を食べよう。お腹空いたよ」
「ふふっ、屋敷では美味しそうな匂いがしてたよ」
リラが楽しそうな笑みを浮かべて屋敷に向かったので、俺もリラを追いかけて二人で食堂に入った。
そうして美味しい朝食を堪能したら、俺はさっそく屋敷を出た。魔車ではなくて歩きでの出発だ。目的地はないけど、とりあえず中心部からは出て、街の中をあてもなく歩いてみようと思う。
鞄の中にはスラくんがいて、隣にはユニーがいる。リラがいないのはやっぱりちょっと寂しいなぁ。
「ユニー、どこか行きたいところはある?」
「ヒヒンッ、ヒヒーンッ」
ユニーはどこでも俺の行きたいところに付いて行くよと伝えるように、俺に顔を擦り付けてきた。スラくんもそんなユニーに同意するように大きく震えている。
「俺の行きたいところっていうのも難しいんだよな……」
改めて街中の様子をぐるりと見回してみると、まず目に入るのはやっぱり王宮だ。しかし次に王宮とはまた別の雰囲気で目立っている建物が目に止まった。
教会だ……今まで何度も近くを通ったりして視界には入ってたけど、一度も行ったことはない。リラの話を聞く限りだと誰でも中に入って祈れるみたいだし、この機会に行ってみるのもありなのかな。
「ユニー、スラくん、教会に行くので良い?」
「ヒヒンッ」
俺の問いかけに二人が同意してくれたので、俺は少し遠くに見える教会に足を向けた。
それから途中で地元の人に道を尋ねつつ、三十分ほど歩いていると教会に辿り着いた。近づくと思っていたよりも大きな建物で、入り口は大きく開かれている。
さっきから少し見てるだけでも人が自由に出入りしているから、俺が中に入るのに支障はなさそうだ。
「あの、すみません」
「はい。いかがいたしましたか?」
教会の前で掃除をしていた、祭司服のようなものを着ている女性に声をかけると、女性はにこやかな笑みを浮かべて対応してくれた。
「従魔って中に入っても良いのでしょうか? もしダメならどこか預けられる場所を教えていただきたいのですが」
「そちらの従魔ですね。問題なくご一緒に礼拝していただけますよ。入り口の扉を通れる従魔は、中に入っていただいても構わないことになっています」
「そうなのですね。良かったです」
「いえ、心休まる時間をお過ごしください」
女性はそう言って穏やかな微笑みを浮かべると、また掃除に戻っていった。扉を通れれば良いって、ほとんどの従魔は自由に入って良いってことだよな。
「一緒に中に行こうか」
嬉しそうなユニーとスラくんを連れて中に入ると、中は広い一つの空間になっていた。天井を見上げるとかなり高く、ステンドグラスのようにお洒落なガラスで装飾されている。
そんな空間の奥にあるのは、巨大な像だ。この世界の神を模したのだろう像はかなり大きく、髪が長くて胸があることから女性だと分かる。この世界は女神が信仰の対象なんだな。
周囲の人の真似をして女神像の前に跪き、瞳を閉じて祈りを捧げた。
――俺に関わっている人達が、健康で過ごせますように。
日本に帰れますようにって祈ろうかと思ったんだけど、何故だかそれは祈りたくなくて、当たり障りのない祈りになってしまった。
俺って日本に帰りたいのかな……いや、日本には家族も友達も仲間も仕事も全てがあるから帰りたい。それは当然なんだけど……この世界でもずっと暮らしたい、んだよな。
この複雑な感情をどうすれば良いのか。ユニーとスラくんと別れるなんて寂しすぎるし、リラとももっと一緒にいたい。屋敷に雇った皆も俺がいなくなったら困るよな……
そんなことを色々と考えると、帰りたいのか帰りたくないのかさえわからなくなってくるのだ。まあそもそも、帰る方法なんてあるのか分からないんだけど。
「総本山にシュリーネ様がご降臨なされるのが一月後に迫っています。三日後がシュリーネ様への供物を運ぶ最後の便となりますので、何か贈りたいものがある方は早めにお願いいたします」
頭の中でぐるぐるとまとまらない考えを巡らせていると、突然そんな声が耳に入ってきた。声の発信源を見てみると、教会の一角にいるここで働く女性みたいだ。
「それって、何かのイベントですか?」
気になって聞いてみると、一枚のチラシを渡された。
「ご存知かと思いますが、三年に一度総本山にある大聖堂にシュリーネ様がご降臨されるのが、一ヶ月後に迫っております。ここから魔車で運ぶとなると大聖堂まで数週間はかかりますので、三日後がご降臨されるシュリーネ様へ供物を渡す最後のチャンスとなります。何かお渡しになりたいものがございましたら、こちらの教会までお持ちください」
「……降臨って、シュリーネ様? と会えるのですか?」
「大司教様を始めとして教会の上層部の方々はお会いできます。それから短い時間ですが、大聖堂の扉が開かれる時には大聖堂の前に集まる民にもシュリーネ様はお姿を見せてくださいます」
それって本当に神が降臨するのだろうか。空が光って人型の光が浮かび上がるみたいな、アニメや映画でよくあるやつ……?
本当にそんなことが起こるなんて信じられない。でもこの世界は色々地球と違うから、絶対にないとは言い切れないよな。もし本当にシュリーネ様という神が実在してるのなら、その神様に頼んで俺を日本に戻してもらうことだって……
「絶対にできないとは、言えないよな」
「はい? 何かおっしゃいましたか?」
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