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Auguste

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第3幕 アラン・スミシー

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結局、こいつはバーのカウンターで寝やがった。
たった5杯でこの有様だ。
置いてくとは言ったが、あそこは俺の行きつけだ。
迷惑をかけるわけにはいかない。
俺はベロベロに酔っ払ってる白馬の肩を持ちながら、新宿の東口に向かう。
歳のことも考えたら本来は逆だろ?普通。

「こにゃまさん。すんません」
「俺酔っ払ってるみたいで……」
呂律が回ってない上に、フラフラになりながら話す。

「馬鹿野郎。酒よえー癖に調子乗るから、そうなるんだよ」

「嬉しきゃったんすよ。ヒク」
「久々にきょやまさんと飲めて」

「…………」
「まあ俺も楽しかったがな」
俺はボソと呟いた。

「ふぇ?なんか言いました?」

「うるせぇ。ほら、もうすぐ東口だ。」
「たく、月曜日だっていうのに混んでんな。」
今日は6月5日。
梅雨入りの時期でかなり蒸し暑い。
蒸し暑かろうが月曜日だろうが、新宿は賑わっている。
最近、事件や行方不明者が多かろうが関係ない。
俺みたいな年寄りもいれば、若い連中もいる。
昔から新宿は変わらない。

それにしても立ち止まってる連中が多いな。
あれか?
12年前、飛び出す猫から始まったデジタルサイネージでも見てるのか?
今だと余計にリアル感が出て、アイドルとかが飛び出て歌ったり、宣伝したりしている。
技術の進歩はいいが、こうも立ち止まられてたら邪魔でしかねぇな。

俺は画面の方をチラッとみる。

なんだ、これは?

何かおかしい?

デジタルサイネージも、隣の大画面も、ノイズの入った映像だ。
電波の調子でも悪いのか?

「おい!渋谷や六本木の画面でもこうなってるらしいぞ!」

「何が起こってるんだ?」
その辺にいる連中が携帯を見ながら、話している。
渋谷や六本木も?
どうなってんだ?
ここだけじゃなくて、他のところも……。

「ちょっとまて!今、嫁から連絡あったんだけど、家のテレビがノイズ画面になってるらしい……」

「私の家も!」

「うちもだ!」

「え……。俺の家もなんだが……」
何が起こってるんだ?
大型ビジョンだけじゃねぇ。
家のテレビもこうなってるのか?

「どしたんですか~?」
「なんか騒がしいですね?」
白馬が呑気に喋り出す。
こいつは現役のデカだというのに……。

「馬鹿野郎!画面をよく見てみろ!」
「ここだけじゃねぇみてぇだ!」
「他の大型ビジョンも、家のテレビもこんな状態だ!」

「へ?もう夜遅いから、こうなってんじゃないっすか?」
「普通そうでしょ?」
ったくこいつは……。

「アホ!まだ23時半だ!」
「それに普通こんなこと起きるわけねぇだろ!」

「まあ確かに言われてみれば……」
「あれ?なんか映りましたよ」
白馬が画面に向かって指を指す。

俺は白馬が指の指す方向に、目線を向けた。
周りの連中がざわめきだす。

なんだ?
こいつは?

白い机と椅子に座る、黒のスーツ姿の奴が出てきた。

しかも何か変だ。
白い布で顔を覆い、白いインクかなんかで?マークが塗られた黒いレザーマスクを、口元に着けている。

なんかの番組か?
それにしても手が込んでいる気が……。

「お騒がせして申し訳ありません」
画面の奴が話し出す。
酷く加工された声だ。
聞いてるだけで気分が悪くなるように低くて、男と女の声が入り混じったような声をしている。

この加工された声。
確か12年前にも聞いた気が……。

「皆様、はじめまして」
「私の名前はアラン・スミシー」
「今日からデビューする映画監督です」
そいつは話し続ける。
周りの奴らは珍しそうに写真や動画を撮り出した。

「皆様は覚えているでしょうか?」
「12年前に存在した、あの名監督」
「アスモデウス監督を……」
アスモデウス……。
あのイカれた奴の何が名監督だ。
これは番組のドッキリ企画とかじゃねぇみてぇだな。

俺は元デカで、隣の現役はベロベロ。
周りの連中はずっと動画を撮っている。
110番するか。
俺がこの番号にかける日が来るとはな……。

俺は番号を打ち、耳元に携帯を構えると、画面に映ってるアホが話しを続ける。

「あの方が監督、脚本を務めたSplatter Museum」
「内容だけならご存知の方は多いでしょう」

そしてそいつは握り拳を作りながら
「残念ながら、警察があの名作品を独占したため、未公開映画となってしまったんです」
拳を震わせながらアホなことを言い出した。

独占?
ふざんけんな。
あんなの公開なんてできるわけないだろ。
それにあれが映画だって?
あれは映画の名前をしたイカれた殺人事件だ。

それにしても電話が繋がらない。
これを見てる奴らが一気に通報してるからか?
それとも電話回線まで何かされたっていうのか?

「しかし!私は今日、その名作を見ることができました」
見ることができた?
何を言ってるんだ?
あれは証拠保管室に眠ってる筈……。

「少々骨が折れましたが、警察から頂戴することに成功したのです!」
は?
警察から頂戴しただと……。

「おい!白馬!」
「どういうことだ!頂戴したって?」
俺は白馬の肩を強く掴んだ。

「そ、そんなこと言われても……」
「俺にも何がなんだが……」
流石の白馬も酔いが冷めたようだ。

「私だけ独り占めするのも申し訳ない」
「全国の皆様にもお見せしましょう!」
あ、あれを見せるのか?
あの狂気に満ちた惨劇を……。
しかも全国で……。

「それではご覧ください!」
「Splatter Museum第1幕、ノータリンの結婚式!」
画面が変わって、あの現場の映像が出てきた。
下着姿で手足が縛られて、口元を塞がれているろくでなしカップル。
そして神父服を着たあのデブが、ノコギリを構えて女の頭を切ろうとしている。

「おい!お前ら見るな!」
「動画を撮るのもやめろ!」
俺は近くにいる奴らに呼びかけた。

しかし
「は?何あのおっさん?」

「マジでキモいんだけど」

「ドッキリに決まってんじゃん」

「こんなバズりそうな映像、撮るしかないっしょ!」
こいつら……。
これはドッキリで作られた映像じゃない。
俺は事件後にその映像を見てるんだ。
それを見た奴らは具合が悪くなって部屋から出たり、その場で吐き出す奴もいたんだ。

「な、なんすか?これ……」
「本当にあれが、あの時の……」
白馬が唖然としている。

「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
あのデブの笑い声とノコギリでギコギコと頭を切る音が、東口中にこだまする。

「もー。ちゃんと綺麗に切ってよね。」
「やすりで綺麗にするのも大変なんだからさ」
あいつだ。
あいつの声だ。
この事件の首謀者、アスモデウス。
この狂った殺人事件を引き起こした全ての元凶だ。

「わかってるよ。でも、わざわざノコギリで切る必要あるのか?」
「もっといいのあるだろ?」

「いいの!ノコギリの方が自分のペースで切れるからいいでしょ?」

「まあそうだな。あっこいつ、動かなくなったな。」
何度見ても、胸糞悪い殺し方だ。
それにしても周りの奴らは……。
なんで携帯のカメラを止めねぇんだ?
なんで誰もおかしいと思わない?

人が殺されてるところがそんなに楽しいのか?
そんな珍しいものを見つけた子供のように……。

狂ってやがる。
この映像の中の奴らも、これを公開してる奴も……。

ここにいる奴らも……。

全員……。

狂ってやがる。
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