マリーゴールド

Auguste

文字の大きさ
31 / 71

第30幕 微かな進展

しおりを挟む
父さんがそう思ってくれてたなんて……。
駅へ向かう道中、父さんの言ったことを思い出した。
沙和子も同じようなことを言ってたな。
俺にはまだ武や家族がいるんだ。
そう思うと、嬉しく感じる。
ありがとう。
父さん。


今向かってるのは、駅の近くにあるDoDoドゥードゥーというカフェ。
昨日の夜、武から電話があった。
 

「とも。今、大丈夫か?」

「ああ。大丈夫だけどなんかあった?」

「あの後色々考えて、調べたりしたんだけどさ……。」
「俺らで犯人探さないか?」

「なんで?」
警察ですら物的証拠が無いって言ってるんだ。
素人の俺らに何ができるんだ。
しかも、なんで俺が……。

「まあ……なんていうか……。」
「あの刑事も物的証拠が無いって言ってただろ?」
「このままじゃ、お前が疑われたまんまだ。」

「まあ……確かに」

「だろ?」
「今までだって、警察は冤罪で無実の人を牢屋に入れたことあったし、無実ってわかっても責任とってくれるわけでもない。」
前に、テレビで見たことがある。
犯人扱いされてきつい取り調べの後、無期懲役を受けて10年ぐらい服役した人がいた。
警察も全員が正義というわけではない。
昔は拷問王とまで言われた刑事がいたぐらいだ。

「マスコミは面白おかしく事件を取り上げるだけ。」
「家族は不特定多数の人間からバッシングを受ける。」
それで一家心中があったぐらいだ。
家族は何もしてないのに……。
育て方がいけなかったとか、環境が良くなかったからとか。

「もしそうなったらお前も嫌だろ?」
家族の顔が思い浮かぶ。
心優しい母親、無口だけど見守ってくれる父親、口は悪いけど気遣ってくれる妹。

「嫌だ…。」
「俺はいい……。でも家族につらい思いをさせたくない。」

「俺はいいなんていうなよ!」
「少しは自分のことも大事にしようぜ!」

「ああ……そうだな。」

「まあとにかく、明日の昼頃空いてるか?」
「俺はそのあと仕事で東京へ帰るからよ。」
「駅近のDoDoでお茶でも飲みながら話さないか?」

「わかった。」

「よし、じゃあ11時半に駅集合しようぜ!」

「ああ。また明日な。」 

犯人を探す……。
だけど俺には検討がつかない。
綾葉、里部、木原と奥さん、学。
この5人の共通点が見つからない。
それになんであんな殺し方をして、物語を残しているんだ?
それが謎だ……。


駅に着いた。
11時20分。
少し時間がある。
喫煙所でタバコを吸おう。


あ……。
武がいる。
タバコ吸わないのに…。

「よ!とも。」
「ここに来ると思ってよ。」
俺の行動バレバレだな。

少し微笑みながら
「おはよう、武。」

「1本吸ってくか?」

「ああ。悪いけど、1本吸わせてくれ。」
俺はタバコに火をつける。

「前も思ったけど、変な匂いするタバコだな。」
武は笑った。

「そうだな。よく言われる。」
俺も笑った。

「ずっと同じ銘柄か?」

「去年まではセブンスター吸ってたんだけど、それから何回か変えてる。」

「へー。味とか変わるもんなんだな。」

俺はセブンスターの名前を出したとき、心がズキリと痛んだ。
「あたしもこのタバコが好き!」
綾葉と一緒だったんだ。
銘柄が…。

「ん?どうかしたか?」
顔に出てしまったようだ。

「なんでもない……。」
俺は誤魔化した。
それからタバコを吸い終わると、2人でDoDoに向かった。


昼頃だが、あまり混んでない。
スーツを来てる人が何人かいる。
日曜日でも、仕事をしている人がいるようだ。

「ホットのブラックとサンドイッチ1つ。」
武が注文をする。
大人だな。
俺はコーヒー飲むと腹を壊すから、まったく飲めない。

俺はいつもの
「ホットのアールグレイを1つでお願いします。」
紅茶が好きだ。
特にアールグレイが。

横から武が
「あれ?ケーキとかはいいのか?」
「甘いの好きだろ?」

「……あ、ああ。紅茶だけでいいんだ。」
そう。
実はケーキとかの甘いのは昔から好きだ。
食欲がない以外で理由はある。
食べれなくなってしまったんだ。

注文したものを受け取り、2人席につく。
カフェなんていつぶりだろうか…。
よく行ったものだ。
東京のfriendsフレンズ……。
懐かしいな。

俺は紅茶に3つ、角砂糖を入れる。
「そんなに入れたら糖尿病になるぞ。」
「ほんとに甘党だな。」
入れすぎてるのは自覚してる。

「大丈夫だよ。」
「健康診断では特に問題ない。」
「血圧が少し高いぐらい。」
俺は一口紅茶を飲む。
うん。美味しい。

「ふーん。そうなのか。」
武もコーヒーを少し飲む。
何も入れずに。
下痢とかにならないのか?


「それで……本題だけど。」
武が切り出した。
事件のことだろう。

「ネットで調べたよ。みんな面白おかしく話してる。」
「話をしても大丈夫か?」

「ああ…大丈夫。」

武はノートを取り出した。
調べてまとめてくれたようだ。
アナログなところは変わらない。
学生時代に曲を作る時も、ノートにまとめていた。
「まず、最初の事件はノータリンの結婚式。」
「第一発見者はマンションの大家。」
「家賃滞納の件で来たところ、ドアが少し空いていて明かりがついていたため、入ったところ死体を発見して警察に連絡。」
金遣いが悪かったようだし、家賃も期限通り払わなかったんだろう。

「綾葉と里部は向かい合わせで、キスをしたような状態で有刺鉄線で固定されていた。」
「頭を鋸で切断され、脳みそはぐちゃぐちゃの状態で頭と共にゴミ箱に捨てられ……。」
「足元の額縁と2人の頭から物語が書いてあった紙が発見された。」
ノートに物語の内容が書かれていた。
表沙汰にされているのか。
「イカれてるな。」
武がため息をついた。

「ああ。」
武のノートを見ると、気になる点があった。
里部の血のことだ。
「里部の血のことは?」

「血?なんのことだ?」
そこまで情報は広められてないらしい。

「小山が初めて家に来た時、話してくれたんだ。」
「現場の写真付きで……。」

「お前!現場の写真見たのか?」
武が大声で言った。
他のお客さんが俺らのほうを見る。

「武……声が大きい。」

「あ、ああ……すまん。」
「あのオッサン正気か?」
「詳しくないけど、ほんとは良くないんじゃないのか?」

「ああ。相棒の大鷲さんが止めてたけど、聞く耳持たなかったな。」
「木原の事件も見せられたよ。」
「学のときは直接だけど……。」

「おいおい…。マジかよ。」
少し沈黙になった。

「話を続けても大丈夫か?」
武が心配になってきたようだ。

俺は一言
「大丈夫。」

「わかった。話戻るけど血って?」

「綾葉の頭の中と口に血が入ってたらしい。」
「O型の血が……。」

「え?あいつの血液型って確か……。」

「AB型だ。」
俺は答えた。
血液型の特徴はあまり信じてないけど、AB型は二面性や表向きは社交的、執着しない。
あいつにぴったりだ。

「じゃあなんで……。」
武は腕を組みながら考えた。

「おい…。まさか…。」
武が察したようだ。

「そう…。里部の血が入ってたんだ。」
「綾葉の血を抜いて洗い流したあとに。」

「おいおい…。正気か?」
「ニュースで言われてる内容だけでも酷いが……もっと酷いじゃねえか。」
その通りだ。
現実はもっと残酷だ。

「あと2人がキスしている口には、赤と白のテープで×バツ印に留られてたんだ。」

「なんだそりゃ?」

「俺にもよくわからない。」
なぜわざわざテープで隠したんだ?

「…………。」
「もしかしてそれって×じゃなくてXエックスじゃないか?」

「X?」

「Xって、キスを意味するんじゃなかったっけ?」

「……確かにそうだったな。」
「よくバンドで、曲名や歌詞とかにも使われてた気がする。」
綾葉から聞いたんだ。
好きな曲でそういう意味があると……。

俺は物語のことを思い出した。
「武……。」
「この物語にある共通してるのは1つだけってあるけど、これは誓いのキスのことを言ってるんじゃないか?」

「そうなのか?」
「俺にはわからんが……。」

「2人とも違う色の衣装で、壁まで赤と白に分かれてたんだ。」

「マジかよ…。」
「壁までそうだったのか?」

「ああ。」

「でも、もう一つ共通点はあるぞ。」
「脳が無いってことが。」
当然の疑問だと思う。
でも…。

「確かにそうだと思うけど、綾葉の頭は血が入っていて、里部の頭は空になっていた。」
「共通点ではない。」
「他とは違う結婚式。同じなのは誓いのキスだけだ。」

「んー。確かにともの言ってることは合ってる思うが、それが何の意味を示してるんだ?」

「………。」
「わからない。」
「ただ、物語を残したり、殺害現場を結婚式に見立ててるってことは何かヒントを残してると思うんだ。」
「テープをわざわざ貼ってるぐらいだし…。」

「んー。わかんねーな。」
2人で少しの間考えたが、武がページをめくり
「とりあえず次行くか。」

「ああ。」

「次の事件は~運命~最終楽章。」
「第一発見者は近くの交番に勤務してる警察。」
「音楽が大音量でずっと鳴ってると近隣住民のクレームで来た。」
「チャイムを押しても出なかったが、明かりがついてたのと鍵が開いていたのを理由に入ったところ、発見された。」
「木原さんはベートーヴェンのような格好で、腹の中を裂かれてレコードプレイヤーが入っていた。」

「流れていた曲は運命。」
「奥さんは自宅にあったスタッドレスタイヤにバラバラの状態で、有刺鉄線で止めらていた…。」
「これも酷いな。」

「ああ…。」
「そういえば、木原は車を持っていたのか?」
今思えば、タイヤの出どころを知らなかった。

「そうみたいだな。」
「家は小さいが、賃貸の一軒家だったらしい。」
数字やってたからな。
俺なんかよりかなり稼いでいただろう。

「俺が他に付け足すことがあるとしたら、木原の奥さんは頭が下、腕が左右下、足が左右上で円を作っていた。」
「ちょっとそれを貸してくれ。」
ノートとペンを借りて簡単に書いた。
下手な絵だが、言葉で言うよりこっちのほうがわかりやすいだろう。

「こんな感じだ。」
「あと真ん中にタロットカードが貼られていた。」

「タロットカード?占いとかに使うやつか?」
「逆だと内容変わるっていう……。」

「ああ。カードは運命の輪の逆位置。」
「内容はチャンスを逃す、タイミングではないだそうだ。」

「そうか…。運命の輪か…」
武が携帯で調べた。

「大アルカナの10番目で……英語でwheelホイール ofオブ fortuneフォーチュンだそうだ。」

「………。」
「ん……なるほど。」
武が何かを見つけたようだ。

「どうした?」

「運命の輪にはwheel of fortune以外にも英語訳があるみたいだ。wheelホイール of オブfateフェイトというらしい。」
武が見せてくれた。

「なんで訳が2つあるんだ?」

「運命っていう意味では共通してるけど、fortuneは幸運、fateは死や破滅を表すようだな。」

「あっ。」
俺は1つ思い出したことがあった。
「もう一度それ、貸してくれ。」
ノートに書いた絵に付け加えてから武に見せた。

「多分だけど、こんな感じでカードの下にこのwheel of fortuneが逆さで、上にはwheel of fateが書いてあった。」
「あと奥さんの額には、矢印の形に皮が剥がされてたんだ。」

武はため息をつけながら、
「それじゃあ木原さんの奥さんは運命の輪のルーレットに見立てられたってことか。」

「ああ。矢印の下には……。」
英語が思い出せない。
「忘れちゃったけど、英語で死んで地獄に落ちるって血で書いてあったんだ。」
「天上には生きるって書いてあった。」

「ってことはliveとdie and go to hellって書いてあったんだな。」

「そう!それ。」
英語は苦手だ。
洋画は好きだが、どうしても英語が苦手で吹き替えで見ることが多い。
武は普段から洋楽を好み、意味も調べるからとても詳しい。

「この物語でいうと作曲家は地獄に落ちたってことになるな。」

「ああ。あと木原の下が水浸しになっていたんだ。」

「水浸し?」

「そう。バケツが倒されて流されてたみたいだ。」
「バケツには、英語の血文字でコーキュートスって書いてあったらしい。」

「何それ?」

「昔の詩人が書いた神曲っていう作品に出てくる地獄って聞いた。」
「地獄の最下層……9番目にあって嘘や裏切りを犯した人物が氷漬けにされる川だそうだ。」

「流石に氷漬けは難しいってことで、足元を川が流れたみたいにしたってことか。」

「そうだな…。」

「ただ、物語以外で綾葉達との共通点が無さそうだな。」
俺は考えた。
綾葉達との共通点……。

ドラムのフットペダル……。

「……そういえばタイヤの前にフットペダルがあった。」

「え?」
「フットペダルがなんで?」

「わかんないけど……まるでタイヤをバスドラムに見立てられてた。」

「ドラムか……。綾葉と共通するな。」

「ただ普通のフットペダルじゃなかった。
ビーターの部分が足になってたんだ。」

「はぁ?なんじゃそりゃ!」
「どうやって?」

「多分……無理矢理ねじ込んだものだと思う。」

「ああ。だからか…」
「物語にある右足でリズムを取るってこのことじゃないか?」
深く考えてなかったが、奥さんの足はタイヤに巻かれている。
木原の足が切断されていたってことか?

「まるで昔の殺人鬼みたいだな。」
「えーと…なんだっけ?エドワルドだっけなぁ」
武が適当な名前をいう。

「エドゲイン?」
俺は答えた。

「そうそう!死体で家具や食器作ったっていうやつ!」
「それに似てるなって思ってさ。」
エドゲイン。
殺人鬼と呼ばれることもあるが、実際は違う。
殺害したのは2人で、墓荒らしと死体の解体という異常性で騒がれたらしい。
精神病院で亡くなったとか…。

「ただ、今回は家具や食器じゃなくて楽器だから、それは関係ないんじゃないかな。」
それを元にした映画を見て多少調べた程度だが、楽器は作ってないはず。

「そうか……。」
「うーん。ドラムか……。」
武が腕組みしてると……

「あっ!」
「ドラムで女の子だとあいつがいたな!」
あいつ?
誰だ?

「ほら!さっちゃんだよ!」
大谷オオダニ幸代子サヨコ。高校で同じ部活だったろ?」

「……。」
「ああ。あの静かな子か。」
綾葉とは真逆の子だったな。
見た目は普通で大人しい子だった。
豪快にドラムを叩く綾葉と違い、綺麗にリズムを刻むタイプだった。
あと、ライブの打ち上げのときのカラオケでは……。
恥ずかしそうだったけど、上手かったな。
綾葉は歌うのは好きで自信満々だったが、はっきり言って下手くそだった。

「まああくまで噂程度だったが、綾葉のこと嫌ってたそうだからな。」

「あの大人しそうな子が?なんかあったのか?」
確かに話をしてるところは見たことないが…。

「んー。あまり言っていいがわかんないけど…。」
「実はお前に好意があったんだってよ!」
え?

「俺に?」

「そう。」

「嘘だろ?」

「まじ。」

「意外だ…。」

「あんまり自分のこと卑下すんな。」
「お前が一生懸命教室の片隅で練習してたの、こっそり見てたらしいぞ。」

「気づかなかった…。」
あのときみんなに近づきたいって必死だったからな。

「まああっちは奥手だし、お前は色々あったからな。」
「恋愛って気分じゃなかっただろ。」
確かにそうだったな。
二股かけられたとき、クラスのみんなから向けられた目。
加害者にじゃない。
被害者の俺を蔑む目だ。
コソコソ笑ってた。
二股かけられただらしない男だと。

後輩に振られたときも他の後輩達が嘲笑していた。

「そうだな。でもだからってなんで綾葉を?」
「別にあのときはあいつと付き合ってないけど。」

「まあー。単純な理由だろ。」
「男にだらしない上に、ド派手で授業は寝てるか遅刻だったろ。」

「確かに…。」
留年するって言われてたのにしなかったな。
学年主任に抱かせたからとか面白おかしく噂されてた。
頭にきてヤンキーみたいなやつに反論したら、殴られたっけな。
今思うと馬鹿みたいだ。

「自分とはまったく真逆の人間がお前の側にいる。いわゆる嫉妬ってやつだ。」
「一応葬式には来てたみたいだけど、すぐ帰っていったな。」

「来てたのか?」

「ああ。可愛くなってたぞ。ショートカットがとても似合ってた。」
「パティシエになったみたいだな。」
パティシエか…。
大谷のケーキ食べてみたいな。

「ただドラムと綾葉に共通点あるけど、木原や奥さんは関係なくないか?」

「うーん。」
「昔惚れた男にとって邪魔な存在を奥さんごとやっちまったとか…。」

「そんな映画やドラマの話じゃあるまいし…。」

「そうか?割とあると思うんだけどな。」
確かにそうだ。
喧嘩や浮気、不倫等で殺人に発展することが稀にある。
嘘のような話だが、恋愛絡みで事件は起きてるのだ。

「まあさっちゃんがわざわざこんなことするわけないか。」
武がページをめくろうとするが
「次は……。」
「学の事件だ。」
さっきよりページをめくるのが遅い。
辛いんだろう。

「開かずの番人…。」
武が拳をつくっている。
ごめん、武。
俺は何も感じない。
「これに関しては、俺らが小山さんから聞いてた通りだ。」

「ああ……。そうだな。」
骨を粉々に砕かれて金庫の中に…。
パスワードは学の体に…。

「ただ気になって調べたことがあるんだ。」

「何を?」
何が気になったんだ?

「数字だよ。おかしくないか?」
「ダイヤルは99まであるのに全部近い数字ばかり。」

「確かに!言われてみたらそうだな。」
「えーと、確か…」
忘れてしまった。
あの時は色々ショックすぎて頭に入らなかった。

「9、3、17、14だ。」

「それだ!よく覚えてるな。」

「譜面を覚えるよりかは楽だよ。」
「実はこの数字を調べると共通点がある。」

「共通点?」

「忌み数だ。」

「それってあれだろ?不吉な数字で13や666とか。」
ちなみに俺の誕生日も忌み数だ。
たしか6は666の獣の数字に通じるし、5は中国で無を意味する。
占い師から浄化しましょうとか言われたけど、意味なかった。

「そうそう。俺はこうゆうの知らなかったんだがな…」
「9は日本では苦しみ、3はベトナムで惨、17はイタリアで生きていることを終えた、14は中国で若くして死んだっていう意味だ。」

「国によって色々あるんだな。」

「ああ。しかもこの順で文章を作るとすると…。」
「苦しんで悲惨に生きていることを終え、若くして死んだ。ってなるだろ。」
俺はゾッとした。
わざわざそんなメッセージを残してたなんて…。

「もうわけがわからないな…。」

「だが、あともう一つ気づいたことがあったんだ。」

「気づいたこと?」

「あの物語に書かれてた九つ鳴らしてはいけないって書いてあっただろ?」

「そうだっけ?」
俺はあの時何も考えられなかったから、覚えていない。

「これは京都のお寺の伝説に似ているんだ。」

「伝説?」
あまり日本の歴史は詳しくない。

「2人の男女がいて、仲が悪かったんだ。」
「男は寺の鐘は八つ撞かれてる、女は九つ撞かれてるって言い争いになり、当たっていたほうに言うことを聞くことになったんだ。」
「男はズルをして寺男に八つでお願いした。」
「八つ撞かれてた鐘の音を聞いて、男の言いなりになりたくなかった女は…‥…。」

「自殺した。」

「悲しい物語だな。」

「ああ。」
「だからあの物語は八つ撞くように命じられている番人のことを表てると思うんだ。」
「それに物語にあった、信用できるのひとつだけっていうのは鐘のことだと思うんだ。」

「なるほど……。」
「確かにその通りだと思うけど、よくわからなくなってきたな。」

「確かにな…。」

「そういえば、学に恨みを持ってそうな人っているのか?」

「わかんねぇな。学は表では真面目で好青年だったろ?みんなから好かれてた。」
「ただ知ってるのは恋愛事情はあまり話さなかったってことだな。」
確かに気づいたら付き合ってて、気づいたら別れてたってことばっかだったな。
幼馴染の俺にもあまり話さなかった。

「取っ替え引っ替えばっかでよー。」
「でも別れた彼女達も、特に学のことは話さなかったな。」

「なんでだろうな。」

「さあな。」
「綾葉と仲良くて、学の元カノだったここちゃんなら葬式に来てたけど。」
「あいつら一言も話してなかったな。」

「ここちゃん?」

大神オオカミココロ。覚えてないか?」
「小学生の時から一緒だったんだろ?」

「………。」
「ああ。大神のことか。」
「別に小学生のときから一緒って言っても、別に仲良くなかったよ。」
「綾葉と仲良くて、それで偶然話すようになったんだ。」


「そうそう!綾葉とよく一緒にいたな。」
「でもあいつすぐに縁切るとか絶好したり、仲直りしたりの繰り返しだったろ?」
「彼氏とか友達とか。」
仲直りは俺の時はなかったが…。

「そうだったな。」

「それ言ったらここちゃんも、綾葉に恨み持ってることになるな。」

「あっ!あとあいつがいた」
武が何か思い出したみたいだ。
「三重も多分恨んでいただろうな。」

「三重?」

「あいつだよ!社長の息子かなんかで威張り散らしてたキモいデブ!」

「…………」
キモいデブ?

「あ!」
同窓会のときにちょっかいかけてきたやつだ。
たいして仲良くないのに不愉快だったな。

「思い出したか?」

「ああ。でも下の名前が思い出せないんだよな。」
「なんて名前だっけ?」

「んーー。おじゃるじゃなかったか?」

「流石にそれは違うだろ。」
2人で考える。


「ダメだ。」
武でも覚えてないみたいだ。

「俺も。」
あまり聞いたことが無いような名前だった気がするが…。

「なんで三重が綾葉に恨みを?」

「金貢がせてポイしたらしい。」
少しして
「俺も注意したんだがな……。」

もう俺が嫌になってくる。
高校の時からそんなことしてたのか。
なんで知らなかったんだろう。


「葬式には来てたみたいだけど、ずっとニヤニヤしてて不快でしかなかったな。」

「そうなのか…。」
葬式に来てたキャバ嬢3人組も嬉しそうだったな。

「葬式に来てたキャバ嬢もおんなじ顔してた。」
武も把握してたらしい。

「三重がナンパしてたな。僕と遊ばない?って。」
「最初きもいとか言ってたけど、名刺見せられた瞬間、あいつらの手のひら返しは不快だったな。」
葬式でそんな人間模様見せられたら確かに不快だ。
結局は金なのかと。

「偶然近くにいたから聞こえたんだけど、その3人が働いているところは、新宿のQ.A.Rっていう名前だ。」

「なんか聞いたことある気がする。」
そう、確か会社で…。

「お!どこでだ?」

「会社で…。」
「係長の行きつけの店だ…。よく話してる。」
「木原も行ったことがあるらしい。」
アサちゃん可愛かったとか言ってたな。
もしかしてスカンクや木原は綾葉と顔見知りだったのかもしれない。
そう考えるとまた嫌になってくる。

「繋がったな。」
「綾葉の葬式にいたキャバ嬢達の店に木原さんが行っていた。」

「それで提案なんだが、お互い時間ある時にその店に行って見ないか?」
キャバクラか…。
行ったことないな。
それにまたあの3人に会うのも……。
でも一度手がかりを探すって決めたしな。

「いいよ。行ってみよう。」

「よし!決まりだな。」
「あとこの店検索したら、あの3人組のキャバ嬢の紹介があってな…。」
「これだ。少し盛ってるけどな。」
武が見せてくれた。
うん。
少しじゃない。
かなりだ。

「このちかとしき……でんって子かな?」

「ああ。そうだ。」
「ちなみにちかって子が今のNo.1らしい。」
あのキャハハ笑いのやつか。
あんな性格悪くてもNo.1になれるのか。
確かに顔はよかったかもしれんが。

「また空いてる日がわかったら連絡するからよ。」
「この3人が出勤してるときに行ってみようぜ!」

「ああ。そうだな。」

武が携帯の時間を見て
「あっ!そろそろ仕事いかなきゃな。」
「そろそろでるか!」
武が立ち上がる。

「ああ。」
俺も立ち上がり店をでた。

俺も武と一緒にそのまま電車に乗って帰ることにした。
武は下北沢のライブハウスで働いていて、家もそこの近くらしい。
落ち着いてきたら、そこのライブハウスに行ってみたいと武に伝えた。
武は喜んでいた。
音楽から離れてしまったけど、またやり直す機会になればと俺は思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...