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二話 冒険開始 そして、犬の食事
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「ごめんごめん。あまりにも貴方達がかわいかったから、つい」
「むぅ……」
目の前で手を合わせて謝る女性は片手剣を腰にぶら下げている。スキルに片手剣マスタリー(片手剣を扱うために必要なスキル)でも入っているのだろう。
身長は僕と比べて高い。目測だが、150cmはあるに違いない。羨ましくなんてない。
いや、体格は設定の変更でどうにでもなったはずだ。
「見かけなど設定で簡単に変更ができるはずだ。君も現実ではその背の高さはないのだろう?」
「え? 急にどうしたの? 体格は変更するとゲームがしづらいって説明に書いてあったし、現実から変えていないよ?」
「…………」
あっ、そうですか。何となくわかってた。
「大丈夫? 急に黙っちゃったけど。あ、そういえば自己紹介もまだだったね」
そう言うと女性は僕に向かって手を差し伸べる。
「私はリーン。今日からWOSOを始めた初心者です」
今日からクローズドベータが始まったのだ。誰もが初心者で当り前だろう。
僕が侮蔑的な視線を投げつけているにも関わらず、リーンは気にもしないでニコニコと笑っている。
仕方なく僕は手を握り返す。
「それで、貴方の名前は?」
「そうか。僕の名前を知りたいか。ならば無知蒙昧な君の脳へ我が名を刻みつけるがいい」
「うわあ。難しい言葉知ってるね」
「…………」
あれ。なぜかちょっと顔が熱いな。僕、風邪引いてたっけ。
僕はなぜか熱くなり始めた顔に手で風を送る。よし。ちょっと冷えてきた。
「僕の名前はヒカリだ」
「そっか! よろしくね、ヒカリちゃん!」
「わふっ」
その時、召喚した魔獣が自らの存在を主張した。
そうだった。名前も決めずに放置なんて我が魔獣に何たる仕打ちをしていたのだろう。
僕はつぶらな瞳で見つめている、かの魔獣の名をどうすべきか、しばし目をつぶり考えることにした。
「ふむ。そうだな……。お前の名は地獄の門番ケルベロスの弟であるオルトロスがふさわしい」
「えー。こんなかわいい子なのに似合わないって」
「ふっ、やはり一般人には僕の偉大なる命名が理解できないようだね」
いつの世も天才の考えることは理解されぬものだ。
「というか、なんか合わなさ過ぎて逆に格好悪いよ」
「なん……だと……」
「そんな名前よりポチとかどうかな?」
「いや、それはないだろ」
さすがにそれではかわいそうだ。いや、ポチという名前が悪いわけではない。 しかし、なんていうか個性に欠ける気がする。
「そうだ! せっかくなんだからその子の種類を見てみればいいんだよ! そこから連想した名前をつけてあげればいいじゃない」
「ふむ。それはいいかもしれんな」
本当はオルトロスがいいんだが、仕方がない。格好が悪いなんて言われてしまったし。オルトロス、格好いいと思うんだけどな。
僕は魔獣の方を向き、数秒見つめる。
こうすることにより、対象の情報が表示されるらしい。
ピッと軽い音が鳴り、魔獣の情報が表示された。
魔獣名称:いぬ
状態:獣魔(友好度:5)
種族:犬
レベル:1
HP:20
MP:8
SP :32
筋力:10
魔力:2
体力:8
耐久:5
精神:4
器用:3
敏捷:8
成長点:0
説明:犬の魔獣。特筆すべき個所はない。人に懐きやすく、
プレイヤーの言うことをよく聞く。攻撃方法は爪と牙による攻撃。
「あれ?」
なんだか表示される情報がおかしくないだろうか。
具体的には魔獣名称のところ。既に名前が入っているような気がするんだが。しかも、なんだこの名前。「いぬ」って……。
「ヒカリちゃん。この子の名前って……」
「言うな」
運営にどうしてこの名前をつけたと言いたくて仕方がなくなった。
そして、さらに言いたい。
せめて種族をもうちょっと細かく設定しても良かったんじゃないだろうか。
僕は気が抜ける気持ちを抑えつつ、リーンの方を向く。
「さて、気を取り直していこうじゃないか」
「そうだね! いぬちゃんの名前も分かったことだし!」
「……まあ、そうだね」
もういいもん。気にしない。
ちなみに名前は変更不可となっていた。
「それより、リーンと言ったな。こんなところに君はどうしているんだ」
そもそも僕は他の人と会わないようにするために路地裏に入った。わざわざ入ろうとしなければこんな場所になんて来ないだろう。
僕の考えが分かったのか、僕の前でリーンは恥ずかしそうにしながら言った。
「えへへ。実は迷っちゃって……」
ちなみにWOSOでは空中に表示できるマップで他のプレイヤーを表示することができる。
試しに表示をしてみると、僕とリーン以外の人はいないようだ。
誰もいない場所に知らずに迷い込んだというリーン。
「相当な方向音痴だな……」
「ってそんなことはどうでもいいんだよ! ヒカリちゃん、一緒に戦闘しに行こうよ!」
「まあ、いいだろう」
どうせ、戦闘はしなければゲームは楽しめない。孤独(ぼっち)を愛する僕とはいえ、時には誰かと共に戦うのも一興だろう。
というか、リーンは極度の方向音痴みたいだし、誰かと一緒にいないとモンスターがいるフィールドにたどり着くことができないんじゃないか。
「それじゃ、行ってみよー!」
元気な声で走り出すリーンに僕は抱えられながら移動する。
「ちょっ、何故抱えるのだ! 僕は一人で歩けるぞ!」
「えー? 聞こえなーい」
そして、そのまま僕達はモンスターがいる外のフィールドへ辿り着いた。
「さて、何と戦ってみようか」
「そうだな……」
道中、何度もフィールドから逸れた方向へ進もうとするリーンを誘導し続けたこともあり、僕は少し疲れを感じていた。
未だに抱えられ続けていたリーンの腕の中から僕は抜け出し、周りを見渡す。
草原フィールドであるそこには何体かモンスターが存在していた。
WOSOではモンスターは二種類に分けられる。こちらが攻撃しなければ相手も攻撃をしてこないノンアクティブモンスターと近づいたら問答無用で攻撃を仕掛けてくるアクティブモンスターだ。
僕達が来ている始まりの町周辺であるこの草原フィールドではアクティブモンスターは存在していないようで、モンスターは皆思い思いの行動をしていた。
草を食む兎や猪。それを狙う狼。
やはり、最初に狙うべきは兎だろう。
猪とか狼って怖いし。
「最初だし、兎とかでいいんじゃないか」
「そうだね。試しに戦ってみよう!」
「……あれ? そういえばリーンは攻撃のスキルは何を持っているんだ?」
戦闘を行う直前に気付けてよかった。
どんなスキルを持っているか分からないと連携のしようがない。
「ああ、伝えていなかったね。私が持っている攻撃のスキルは片手剣・格闘だよ」
「片手剣は装備している武器から分かっていたが、格闘も持っているのか」
確か格闘のスキルは武器を持っていないときに使える徒手空拳と蹴りなどの動きに補正を与えるものだったはずだ。
蹴りなどについては武器を持ちながらも使えたはず。なかなかに考えられた構成を取っているのではないだろうか。
「魔法は取っていないのか」
「魔法はねー。私、なんていうか詠唱とか覚えるのが苦手だし、そういうの唱えるのってなんだかまどろっこしくて」
「…………詠唱は格好いいのに」
「え? なんか言った?」
「いや、別に……」
「変なの。それより、ヒカリちゃんはどんなスキルを持っているの?」
リーンに聞かれて僕は改めてスキルを確認した。
「そうだな、僕のスキルで攻撃のスキルはビーストテイマー・天使・弓だな」
「天使って攻撃スキルなんだ……」
「遠距離攻撃と回復ができる便利なスキルだぞ?」
実際、僕もスキルの説明を見てみたら驚いた。
何せ、天使のスキルはただのコスプレスキルなどではなく、れっきとした使えるスキルだったからだ。効果には天使魔法(回復系が大半らしいがアロー系の攻撃魔法も存在するとのこと)と弓の補正があったのだ。
残念ながら弓のスキルがランダムで入ってしまったために一部重なってしまっているが、それでも十分使えるだろう。
「そういえばいぬちゃんのスキルは?」
「ああ、いぬのスキルは爪と牙だ」
爪が切り裂くなどの爪を使ったスキルであり、牙が噛みつくなどの牙を使ったスキルに該当するらしい。
「なるほど。そうなると私といぬちゃんが前衛で、ヒカリちゃんが後衛ってことになるのかな」
僕はリーンの言葉に頷く。
「よし、それなら役割も決まったし、改めて戦闘にいってみようか」
リーンは言うや否や兎に向かって剣を振るった。
肉を切り裂くような音が聞こえたすぐ後にダメージ表示が現れる。
「ダメージ1だと……」
「あれ? おかしいなー」
全然相手に攻撃が入っていない。というか、あの兎怒ってる気がするんだけど。やけに赤く色が変化しているし。
そして、兎がなぜか後ろ足で地面を掻いている。何か嫌な予感がする。そう思ったその時、兎が後ろ足で地面を蹴飛ばした。
「逃げ――」
ろ、とリーンに言おうとしたが、言い切る前に兎がリーンにぶつかり、リーンは大きく跳ね飛ばされた。
幸いにもHPは減りきっていないようで、まだリーンの姿はその場に存在している。
しかし、HPの残量はほとんどなく、後一撃もらえば間違いなく全損してしまうだろう。
さらにリーンは状態異常の『ひるむ』を受けてしまったらしく、動けないでいるようだ。
「なんだ、こいつ……!」
予想外だ。こんな初期フィールドにも関わらず、当たれば一撃でやられてしまうかもしれないような敵が出てくるなんて。
「いぬ! ≪切り裂く≫で相手に攻撃するんだ! 隙があれば≪噛み付く≫も行え!」
僕はいぬに対し、指示を出す。
獣魔であるいぬは僕が指示を出さなくても攻撃を行ってくれる。
しかし、僕が指示を出した方がビーストテイマーのスキルによって効果が高まるのだ。
そして、いぬによる≪切り裂く≫が兎に当たった。
しかし――
「また、ダメージ1だと!」
何かがおかしいのではないか。そう思わざるを得ない数値。
だが、目の前で起こっていることは疑いようがない。
「くそっ、ならこれでも食らえ! ≪ライトアロー≫!」
ライトなんて付くぐらいなんだから、少しぐらい明るくて目がくらんだりもするだろう。
そんな考えから僕は天使魔法である≪ライトアロー≫を使った。
僕の手の中で光の矢が出来上がり、同じく現れた弓に矢を番えて自動的に矢が放たれる。システムによる動きとはいえ、妙な感じだ。
矢が放たれる。空中に光の軌跡を描きながら、飛んでいく。
しかし、兎も動かないわけがなかった。
僕の放った矢を兎は避けようと動く。
もともと胴体に向かっていた矢は兎の右耳に当たるだけになってしまった。
「くっ」
あれではダメージを与えられたとしても致命傷を負わせることができてなどいない。
僕が次なる手をどうすべきか考え始めたその時、兎は消滅した。
兎が消滅したと同時にレベルアップのファンファーレが鳴り響く。
「……へ?」
何が起こったのか分からず、僕は変な声を出してしまう。
「ヒカリちゃん、大丈夫だった?」
『ひるむ』が解けたらしいリーンが声をかけてくる。
「あ、ああ……」
よく分からないが兎を倒せたらしい。
しかし、ああも攻撃が聞かなかった兎が何故こうも簡単に……。
疑問に思っている僕の目の前で唐突に三枚の羊皮紙のマークが現れた。表には『Congratulation!』などと書かれている。
「なんだこれ?」
僕が目の前に現れたそれぞれの羊皮紙を見ていると情報が開示された。
クエスト:兎を倒せ! その1(推奨レベル:1)
内容:耐性が大幅に強化された兎が現れました。
物理攻撃はほとんど効果がありません。
あなたの魔法による攻撃で兎を倒してください!
報酬:魔力の指輪(魔力+3)
最速クリア報酬:魔力の実(魔力+5)
クエスト:兎を倒せ! その4(推奨レベル:5)
内容:耐性が大幅に強化された兎が現れました。
すべての攻撃に耐性を持っています。
しかし、ある一点だけ弱点となっています。
弱点を探し出し、兎を倒してください!
報酬:弱点看破の符
最速クリア報酬:弱点看破 (エクストラスキル)
クエスト:兎を倒せ! その5(推奨レベル:10)
内容:耐性が大幅に強化された兎が現れました。
何かしらの攻撃に耐性を持っています。
今までの経験を生かし、兎を倒してください!
報酬:耐性無視の理
最速クリア報酬:耐性無視 (エクストラスキル)
「これはひどい」
どうやら知らないうちにクエストをクリアしていたらしい。
というか、このクエストを見る限り、本当ならば一個ずつクリアしていくものなのだろう。
何気に最後の『兎を倒せ』シリーズが推奨レベル10となっていることに驚愕した。こんなもの分かってなければクリアなんてできないだろう。
クエストの難易度が高いためか、もらったアイテムとスキルもまた優秀なものばかりだ。
指輪は二個までしか装備できないが、序盤である現状ぜひとも装備しておきたいものだし、実は永続系のアイテムだ。使えば能力が底上げされる。
符や理は専用の職スキルを得ないと加工ができないが、それでも使えるようになった時に大いに活用できるだろう。
そして、何よりスキルがすごかった。
スキル自体は名前の通り、相手の弱点が分かるスキルに耐性を持っていようと攻撃が通るスキルだ。
しかし、これらのスキルはエクストラスキルとして、通常選択することができる10個以外に持つことができるのだ。
「ほえー。すごいスキルだねー」
「そうだろ、そうだろ!」
僕は喜びを隠しきれずに同意した。
そして、僕はこの喜びを相棒と共有したくなった。
「いぬ! 君ともこの喜びを分かち合いたい!」
そして、僕がいぬの方を向くといぬは――
「わふ?」
絶賛、お食事中でした。先ほど僕が倒した兎からドロップした兎の肉を。
プレイヤー名:ヒカリ
レベル:1 → 6
HP:30
MP:55
SP:30
筋力:5
魔力:11
体力:6
耐久:6
精神:9
器用:7
敏捷:6
成長点:10
プレイヤー名:リーン
レベル:1 → 4
HP:50
MP:20
SP:40
筋力:12
魔力:4
体力:8
耐久:10
精神:5
器用:6
敏捷:5
成長点:6
魔獣名称:いぬ
状態:獣魔(友好度:6)
種族:犬
レベル:1
HP:20
MP:8
SP :32
筋力:10
魔力:2
体力:8
耐久:5
精神:4
器用:3
敏捷:8
成長点:0
「むぅ……」
目の前で手を合わせて謝る女性は片手剣を腰にぶら下げている。スキルに片手剣マスタリー(片手剣を扱うために必要なスキル)でも入っているのだろう。
身長は僕と比べて高い。目測だが、150cmはあるに違いない。羨ましくなんてない。
いや、体格は設定の変更でどうにでもなったはずだ。
「見かけなど設定で簡単に変更ができるはずだ。君も現実ではその背の高さはないのだろう?」
「え? 急にどうしたの? 体格は変更するとゲームがしづらいって説明に書いてあったし、現実から変えていないよ?」
「…………」
あっ、そうですか。何となくわかってた。
「大丈夫? 急に黙っちゃったけど。あ、そういえば自己紹介もまだだったね」
そう言うと女性は僕に向かって手を差し伸べる。
「私はリーン。今日からWOSOを始めた初心者です」
今日からクローズドベータが始まったのだ。誰もが初心者で当り前だろう。
僕が侮蔑的な視線を投げつけているにも関わらず、リーンは気にもしないでニコニコと笑っている。
仕方なく僕は手を握り返す。
「それで、貴方の名前は?」
「そうか。僕の名前を知りたいか。ならば無知蒙昧な君の脳へ我が名を刻みつけるがいい」
「うわあ。難しい言葉知ってるね」
「…………」
あれ。なぜかちょっと顔が熱いな。僕、風邪引いてたっけ。
僕はなぜか熱くなり始めた顔に手で風を送る。よし。ちょっと冷えてきた。
「僕の名前はヒカリだ」
「そっか! よろしくね、ヒカリちゃん!」
「わふっ」
その時、召喚した魔獣が自らの存在を主張した。
そうだった。名前も決めずに放置なんて我が魔獣に何たる仕打ちをしていたのだろう。
僕はつぶらな瞳で見つめている、かの魔獣の名をどうすべきか、しばし目をつぶり考えることにした。
「ふむ。そうだな……。お前の名は地獄の門番ケルベロスの弟であるオルトロスがふさわしい」
「えー。こんなかわいい子なのに似合わないって」
「ふっ、やはり一般人には僕の偉大なる命名が理解できないようだね」
いつの世も天才の考えることは理解されぬものだ。
「というか、なんか合わなさ過ぎて逆に格好悪いよ」
「なん……だと……」
「そんな名前よりポチとかどうかな?」
「いや、それはないだろ」
さすがにそれではかわいそうだ。いや、ポチという名前が悪いわけではない。 しかし、なんていうか個性に欠ける気がする。
「そうだ! せっかくなんだからその子の種類を見てみればいいんだよ! そこから連想した名前をつけてあげればいいじゃない」
「ふむ。それはいいかもしれんな」
本当はオルトロスがいいんだが、仕方がない。格好が悪いなんて言われてしまったし。オルトロス、格好いいと思うんだけどな。
僕は魔獣の方を向き、数秒見つめる。
こうすることにより、対象の情報が表示されるらしい。
ピッと軽い音が鳴り、魔獣の情報が表示された。
魔獣名称:いぬ
状態:獣魔(友好度:5)
種族:犬
レベル:1
HP:20
MP:8
SP :32
筋力:10
魔力:2
体力:8
耐久:5
精神:4
器用:3
敏捷:8
成長点:0
説明:犬の魔獣。特筆すべき個所はない。人に懐きやすく、
プレイヤーの言うことをよく聞く。攻撃方法は爪と牙による攻撃。
「あれ?」
なんだか表示される情報がおかしくないだろうか。
具体的には魔獣名称のところ。既に名前が入っているような気がするんだが。しかも、なんだこの名前。「いぬ」って……。
「ヒカリちゃん。この子の名前って……」
「言うな」
運営にどうしてこの名前をつけたと言いたくて仕方がなくなった。
そして、さらに言いたい。
せめて種族をもうちょっと細かく設定しても良かったんじゃないだろうか。
僕は気が抜ける気持ちを抑えつつ、リーンの方を向く。
「さて、気を取り直していこうじゃないか」
「そうだね! いぬちゃんの名前も分かったことだし!」
「……まあ、そうだね」
もういいもん。気にしない。
ちなみに名前は変更不可となっていた。
「それより、リーンと言ったな。こんなところに君はどうしているんだ」
そもそも僕は他の人と会わないようにするために路地裏に入った。わざわざ入ろうとしなければこんな場所になんて来ないだろう。
僕の考えが分かったのか、僕の前でリーンは恥ずかしそうにしながら言った。
「えへへ。実は迷っちゃって……」
ちなみにWOSOでは空中に表示できるマップで他のプレイヤーを表示することができる。
試しに表示をしてみると、僕とリーン以外の人はいないようだ。
誰もいない場所に知らずに迷い込んだというリーン。
「相当な方向音痴だな……」
「ってそんなことはどうでもいいんだよ! ヒカリちゃん、一緒に戦闘しに行こうよ!」
「まあ、いいだろう」
どうせ、戦闘はしなければゲームは楽しめない。孤独(ぼっち)を愛する僕とはいえ、時には誰かと共に戦うのも一興だろう。
というか、リーンは極度の方向音痴みたいだし、誰かと一緒にいないとモンスターがいるフィールドにたどり着くことができないんじゃないか。
「それじゃ、行ってみよー!」
元気な声で走り出すリーンに僕は抱えられながら移動する。
「ちょっ、何故抱えるのだ! 僕は一人で歩けるぞ!」
「えー? 聞こえなーい」
そして、そのまま僕達はモンスターがいる外のフィールドへ辿り着いた。
「さて、何と戦ってみようか」
「そうだな……」
道中、何度もフィールドから逸れた方向へ進もうとするリーンを誘導し続けたこともあり、僕は少し疲れを感じていた。
未だに抱えられ続けていたリーンの腕の中から僕は抜け出し、周りを見渡す。
草原フィールドであるそこには何体かモンスターが存在していた。
WOSOではモンスターは二種類に分けられる。こちらが攻撃しなければ相手も攻撃をしてこないノンアクティブモンスターと近づいたら問答無用で攻撃を仕掛けてくるアクティブモンスターだ。
僕達が来ている始まりの町周辺であるこの草原フィールドではアクティブモンスターは存在していないようで、モンスターは皆思い思いの行動をしていた。
草を食む兎や猪。それを狙う狼。
やはり、最初に狙うべきは兎だろう。
猪とか狼って怖いし。
「最初だし、兎とかでいいんじゃないか」
「そうだね。試しに戦ってみよう!」
「……あれ? そういえばリーンは攻撃のスキルは何を持っているんだ?」
戦闘を行う直前に気付けてよかった。
どんなスキルを持っているか分からないと連携のしようがない。
「ああ、伝えていなかったね。私が持っている攻撃のスキルは片手剣・格闘だよ」
「片手剣は装備している武器から分かっていたが、格闘も持っているのか」
確か格闘のスキルは武器を持っていないときに使える徒手空拳と蹴りなどの動きに補正を与えるものだったはずだ。
蹴りなどについては武器を持ちながらも使えたはず。なかなかに考えられた構成を取っているのではないだろうか。
「魔法は取っていないのか」
「魔法はねー。私、なんていうか詠唱とか覚えるのが苦手だし、そういうの唱えるのってなんだかまどろっこしくて」
「…………詠唱は格好いいのに」
「え? なんか言った?」
「いや、別に……」
「変なの。それより、ヒカリちゃんはどんなスキルを持っているの?」
リーンに聞かれて僕は改めてスキルを確認した。
「そうだな、僕のスキルで攻撃のスキルはビーストテイマー・天使・弓だな」
「天使って攻撃スキルなんだ……」
「遠距離攻撃と回復ができる便利なスキルだぞ?」
実際、僕もスキルの説明を見てみたら驚いた。
何せ、天使のスキルはただのコスプレスキルなどではなく、れっきとした使えるスキルだったからだ。効果には天使魔法(回復系が大半らしいがアロー系の攻撃魔法も存在するとのこと)と弓の補正があったのだ。
残念ながら弓のスキルがランダムで入ってしまったために一部重なってしまっているが、それでも十分使えるだろう。
「そういえばいぬちゃんのスキルは?」
「ああ、いぬのスキルは爪と牙だ」
爪が切り裂くなどの爪を使ったスキルであり、牙が噛みつくなどの牙を使ったスキルに該当するらしい。
「なるほど。そうなると私といぬちゃんが前衛で、ヒカリちゃんが後衛ってことになるのかな」
僕はリーンの言葉に頷く。
「よし、それなら役割も決まったし、改めて戦闘にいってみようか」
リーンは言うや否や兎に向かって剣を振るった。
肉を切り裂くような音が聞こえたすぐ後にダメージ表示が現れる。
「ダメージ1だと……」
「あれ? おかしいなー」
全然相手に攻撃が入っていない。というか、あの兎怒ってる気がするんだけど。やけに赤く色が変化しているし。
そして、兎がなぜか後ろ足で地面を掻いている。何か嫌な予感がする。そう思ったその時、兎が後ろ足で地面を蹴飛ばした。
「逃げ――」
ろ、とリーンに言おうとしたが、言い切る前に兎がリーンにぶつかり、リーンは大きく跳ね飛ばされた。
幸いにもHPは減りきっていないようで、まだリーンの姿はその場に存在している。
しかし、HPの残量はほとんどなく、後一撃もらえば間違いなく全損してしまうだろう。
さらにリーンは状態異常の『ひるむ』を受けてしまったらしく、動けないでいるようだ。
「なんだ、こいつ……!」
予想外だ。こんな初期フィールドにも関わらず、当たれば一撃でやられてしまうかもしれないような敵が出てくるなんて。
「いぬ! ≪切り裂く≫で相手に攻撃するんだ! 隙があれば≪噛み付く≫も行え!」
僕はいぬに対し、指示を出す。
獣魔であるいぬは僕が指示を出さなくても攻撃を行ってくれる。
しかし、僕が指示を出した方がビーストテイマーのスキルによって効果が高まるのだ。
そして、いぬによる≪切り裂く≫が兎に当たった。
しかし――
「また、ダメージ1だと!」
何かがおかしいのではないか。そう思わざるを得ない数値。
だが、目の前で起こっていることは疑いようがない。
「くそっ、ならこれでも食らえ! ≪ライトアロー≫!」
ライトなんて付くぐらいなんだから、少しぐらい明るくて目がくらんだりもするだろう。
そんな考えから僕は天使魔法である≪ライトアロー≫を使った。
僕の手の中で光の矢が出来上がり、同じく現れた弓に矢を番えて自動的に矢が放たれる。システムによる動きとはいえ、妙な感じだ。
矢が放たれる。空中に光の軌跡を描きながら、飛んでいく。
しかし、兎も動かないわけがなかった。
僕の放った矢を兎は避けようと動く。
もともと胴体に向かっていた矢は兎の右耳に当たるだけになってしまった。
「くっ」
あれではダメージを与えられたとしても致命傷を負わせることができてなどいない。
僕が次なる手をどうすべきか考え始めたその時、兎は消滅した。
兎が消滅したと同時にレベルアップのファンファーレが鳴り響く。
「……へ?」
何が起こったのか分からず、僕は変な声を出してしまう。
「ヒカリちゃん、大丈夫だった?」
『ひるむ』が解けたらしいリーンが声をかけてくる。
「あ、ああ……」
よく分からないが兎を倒せたらしい。
しかし、ああも攻撃が聞かなかった兎が何故こうも簡単に……。
疑問に思っている僕の目の前で唐突に三枚の羊皮紙のマークが現れた。表には『Congratulation!』などと書かれている。
「なんだこれ?」
僕が目の前に現れたそれぞれの羊皮紙を見ていると情報が開示された。
クエスト:兎を倒せ! その1(推奨レベル:1)
内容:耐性が大幅に強化された兎が現れました。
物理攻撃はほとんど効果がありません。
あなたの魔法による攻撃で兎を倒してください!
報酬:魔力の指輪(魔力+3)
最速クリア報酬:魔力の実(魔力+5)
クエスト:兎を倒せ! その4(推奨レベル:5)
内容:耐性が大幅に強化された兎が現れました。
すべての攻撃に耐性を持っています。
しかし、ある一点だけ弱点となっています。
弱点を探し出し、兎を倒してください!
報酬:弱点看破の符
最速クリア報酬:弱点看破 (エクストラスキル)
クエスト:兎を倒せ! その5(推奨レベル:10)
内容:耐性が大幅に強化された兎が現れました。
何かしらの攻撃に耐性を持っています。
今までの経験を生かし、兎を倒してください!
報酬:耐性無視の理
最速クリア報酬:耐性無視 (エクストラスキル)
「これはひどい」
どうやら知らないうちにクエストをクリアしていたらしい。
というか、このクエストを見る限り、本当ならば一個ずつクリアしていくものなのだろう。
何気に最後の『兎を倒せ』シリーズが推奨レベル10となっていることに驚愕した。こんなもの分かってなければクリアなんてできないだろう。
クエストの難易度が高いためか、もらったアイテムとスキルもまた優秀なものばかりだ。
指輪は二個までしか装備できないが、序盤である現状ぜひとも装備しておきたいものだし、実は永続系のアイテムだ。使えば能力が底上げされる。
符や理は専用の職スキルを得ないと加工ができないが、それでも使えるようになった時に大いに活用できるだろう。
そして、何よりスキルがすごかった。
スキル自体は名前の通り、相手の弱点が分かるスキルに耐性を持っていようと攻撃が通るスキルだ。
しかし、これらのスキルはエクストラスキルとして、通常選択することができる10個以外に持つことができるのだ。
「ほえー。すごいスキルだねー」
「そうだろ、そうだろ!」
僕は喜びを隠しきれずに同意した。
そして、僕はこの喜びを相棒と共有したくなった。
「いぬ! 君ともこの喜びを分かち合いたい!」
そして、僕がいぬの方を向くといぬは――
「わふ?」
絶賛、お食事中でした。先ほど僕が倒した兎からドロップした兎の肉を。
プレイヤー名:ヒカリ
レベル:1 → 6
HP:30
MP:55
SP:30
筋力:5
魔力:11
体力:6
耐久:6
精神:9
器用:7
敏捷:6
成長点:10
プレイヤー名:リーン
レベル:1 → 4
HP:50
MP:20
SP:40
筋力:12
魔力:4
体力:8
耐久:10
精神:5
器用:6
敏捷:5
成長点:6
魔獣名称:いぬ
状態:獣魔(友好度:6)
種族:犬
レベル:1
HP:20
MP:8
SP :32
筋力:10
魔力:2
体力:8
耐久:5
精神:4
器用:3
敏捷:8
成長点:0
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