ワールドオブスピリットオンライン ――相棒はいぬ――

ヒタク

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十三話 龍の息吹 そして、絶望的な戦い

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「いい加減にそこから動いてよ!」

 リーンが龍に向かって悪態をつく。
 それも無理はないだろう。龍は僕が≪ライトアロー≫を放ってからも一向に湖からその巨体を陸へ上げることがなかった。
 つまり、近接攻撃主体であるリーンは龍に対してなんら有効な手立てを持たないのだ。だからこそ、悪態が口を衝いて出たのだろう。

「リーン。落ちつけ」

 僕は≪ライトアロー≫を放ちつつもひとまず、リーンに声をかける。

「今の状態は僕達に有利なんだ。リーンはバフなどを用いてあの龍が陸にあがってきたら一気に叩けるように準備しておいてくれ」

「う、うん。分かったよ」

 リーンは困惑気味に返す。
 まあ、正直言ってその感情は僕も感じている。それは僕達が今戦っている現状に理由がある。
 僕は先ほどから何度も≪ライトアロー≫で攻撃を加えているが、一向に龍の攻撃が来ないのだ。

 ≪ライトアロー≫自体の攻撃力はさほど高くはないため、劇的に相手のHPを減らしているわけではない。
 しかし、三本あるゲージのうち、一本ぐらいはそろそろ削れてしまいそうだった。

「それにしてもなんであの龍は攻撃をしてこないのかな」

「そうだな……」

 リーンが疑問を口にする。
 同じく疑問に思った僕はもう一度龍の口元を見る。
 そこには未だに助けを求める魚――もとい、人面魚、でもなくて阿部がいた。
 阿部は龍の牙と牙の間に身をすべり込ませている。そこは丁度攻撃が当たらない場所なのか、さっきからパーティーを組むことによって見える阿部のHPが1ドットも減っていない。

「うん……? もしかして……」

 その様子を見て僕は気付いた。
 あの龍は攻撃を加え続けているからこそ、別の攻撃モーションを取らないのだ、ということに。

「ヒカリちゃん? 何か分かったの?」

「ああ。あの龍が攻撃をしてこない理由が分かったぞ」

「本当に?」

「もちろんだ。僕の叡智を持ってすれば分からない道理などない」

「さっすがヒカリちゃん!」

 あれ。なんだかちょっと恥ずかしい、ぞ。

「わう?」

 気にするな、いぬよ。というか、君は今にも眠りそうだけど、それでいいのか! 一応、ボス戦なんだぞ、一応。

「ま、まあ、いい。教えてやろうではないか」

「うんうん。早く教えて、ヒカリ先生!」

 また、こそばゆくなることを言ってからに。……いい加減に早く言わないと僕が耐えられないっ!

「う、うむ。……簡単に言ってしまえば、あの龍は攻撃を阿部に加えているんだ」

「あれ? でも、阿部さんのHPは全然減っていないよ?」

「確かにな。しかし、実際に攻撃は加えられているんだ。そう、本来の阿部のアバターならば確実にダメージをもらっているような攻撃を、だけどな」

「そっか! 今の阿部さんはお魚さんの姿になっているから!」

「ああ。攻撃を食らうことがないんだ。きっとそれが分かっているからこそ、阿部は囮となってくれているに違いない」

「そんなこと話してないで俺を助けてくれって!」

 龍の口辺りから何か聞こえるけど僕は聞こえなかったぞ。……決して今の状況が続けば楽に龍が倒せるなー、なんて思ってない。決してな。

「あれ? でも、ヒカリちゃんが使ってたスキルってそんなに長時間効果が持つの?」

「え?」

 リーンが言い、僕が≪ライトアロー≫を龍へ向かって放った瞬間のことだった。
 ぼふん。そんな間抜けた音を立てて龍の口辺りに煙が広がる。そして、ほぼ同時に僕の≪ライトアロー≫が煙に到達する。

「あひんっ」

 変な声らしきものが聞こえた。

「…………」

 なんとなく嫌な予感がした僕は阿部のHPを見てみる。……あれ。なんかすごい勢いで減っているなー。

「ヒカリちゃん! 早く阿部さんを助けないと!」

「あ、ああ。そうだな」

 龍の口の中に収まっている阿部の姿を見たリーンが慌てた声を出す。
 幸いと言っていいのかどうなのか分からないが、龍の攻撃は相手のHPを一定値減らした後に解放するものだったらしく、阿部は湖の中へ放り投げられた。
 そして、湖に入ってすぐに勢いよくこちらへ向かって泳いできた。それもバタフライで。……ゲームとはいえ、すごい体力だな。

「ふう……。ようやく陸に上がれた……」

 陸に上がった阿部は全身から滴り落ちる水を気にすることなく、龍の方を向いた。

「あいつめ……。絶対に許さん!」

 強い怒りが込められた語調で阿部が言う。
 しかし、その姿はなんというか――

「阿部さん……。あの、大丈夫なんですか……?」

「リーン? 何がだい?」

「え、えっと……。大丈夫ならいいんです! 大丈夫なら!」

「そうか? まあ、いい。今はあの龍に全力を注ぐべきだからな!」

 リーンはちらちらと阿部の方を向いては僕の方を向き、どうしようと視線で問いかける。
 ああ。分かっているさ。僕も全力で阿部に向かって言いたい。
 あの龍に全力を注ぐ前にやることがあるだろってな。

 僕は阿部の方を向く。そこには――お尻に矢が刺さった阿部の姿があった。……痛くないのかな、あれ。
 龍は阿部が口からいなくなったためか、僕達の方を向く。
 そして、その口が大きく開かれ、中に光り輝く球体が現れる。

「まずい! ブレス攻撃が来るぞ!」

 龍の挙動から行われる攻撃を読んだ阿部が叫ぶ。そして、阿部はすぐさまその場から移動した。
 声を聞いた僕とリーンもまた咄嗟に阿部が向かった方向とは逆へ動き――先ほどまでいた場所を龍の息吹が貫いた。

「なに、これ……」

 リーンが目の前の光景を見て思わずといった様子で呟く。
 しかし、それも無理はない気がした。
 何せ僕達の目の前にあった草地は見事にえぐられ、地面がむき出しになっているのだから。
 あまりにも一瞬で穴を開けられたために湖のすぐ横にも関わらず、すぐに水が流れ込まない。
 やがて、水が勢いよく流れ始めたその時――

「ばうっ!」

「う、うわぁ!」

 いぬが僕に噛みついた。
 何をするんだ、と思わず口にしかけたが、龍の方を見て合点がいった。
 龍はまたブレス攻撃をしようと口を開き、球体を口の中に作り始めていた。いぬは僕達にそのことを伝えたかったのだろう。

「わるい……。どうやら気が抜けていたみたいだ」

「わう?」

 いぬがもう大丈夫か、と言うかのような鳴き声を出す。

 ……全く、心配性なやつだ。

 僕は少しだけ感じる嬉しさから頬が緩むのを抑えつつ、リーンと阿部に声をかけた。

「二人とも。あいつに向かって遠距離攻撃は出来るか?」

 問いかけつつも目は決して龍から離さない。ブレスが来る瞬間を見計らい、間違いなく避けるためだ。あのブレスはおそらく一撃で僕達のHPを消し去るだろうから。

「ごめんね、ヒカリちゃん。私、遠距離攻撃は出来ないの」

 リーンが申し訳なさそうに言う。
 正直、リーンのスキル構成は前に二人でパーティーを組んだ際に聞いていたため分かってはいた。
 もしかしたら構成を変えていないだろうか、なんて期待から聞いてみたのだけれど、残念ながら変えてはいなかったということか。

「俺は一応、持ってはいるぞ」

 少し離れた場所にいる阿部からPTチャットによる声が届けられる。

「本当か! どんなスキルを持っているんだ?」

 良かった。一人でも遠距離攻撃を持つのなら、離れた場所同士で攻撃を加えることによってターゲットを分散させつつ攻撃することが出来る。幾ら攻撃力が高いとはいえ、当たらなければ問題はないはずだから、かなり効果的だろう。

「ああ。だが、俺の持つ遠距離攻撃のスキルは≪斧投げ≫によるものなんだ。一度使えば、他の斧を手にしない限り攻撃を出来なくなるぞ」

「……くっ」

 なんということだ。せっかくの遠距離攻撃とはいえ、一回しか使えないんじゃ使えないと同然じゃないか。

「……ヒカリちゃん。一か八か試してみない?」

「何を……?」

 リーンが僕に問いかける。
 一体、何を試すというんだろうか。

「それは……」

 リーンが口を開いたその時、また龍のブレスが放たれた。
 のろまなブレスに僕達がやられるものか――。
 僕達が余裕を持って避けようと動き始めた目の前でブレスの動きが変わった。

「そんな!」

 リーンの悲痛な声が聞こえる。
 今まで直進していたブレスが二つに割れたのだ。しかも二つのブレスはそれぞれ僕達と阿部を狙うように向かっている。

「リーン! 何とか逃げ――」

 僕がリーンに声をかけようとした時、軽い衝撃と共に僕の身体は突き飛ばされた。
 後ろを見るとリーンが手を伸ばした状態でそこにいた。
 そして、そのリーンのすぐ後ろには龍のブレスが迫っていた。リーンが突き飛ばしてくれたおかげで僕の位置にはブレスは飛んでこない。

 しかし、リーンはもう無理だ。リーンが瞬間移動出来るようなスキルを持っていれば別だが、そんなスキルはリーンが持っていないことは分かっている。このままHPが全損してしまうに違いない。
 リーンの口が動く。

――頑張って。

 確かにそう言ったような気がした。
 ふざけるな。諦めるのか。そして、なにより――僕はまた傷つけるのか。
 ちらりとこれはゲームだ、なんて言葉が頭によぎる。でも、そんなことは関係ない。今大切なのは――

 その時、僕の脳裏に先ほどの阿部の姿が思い浮かんだ。
 どうして、阿部は攻撃を食らうことがなかったのか。

『龍は阿部に攻撃を加えていたんだ』

 僕が自分で言った言葉を思い出す。
そうだ。龍は攻撃をする対象をアバターで判断していた。
 そのことを思い出した僕は気付いた。

 ……あるじゃないか。この状況を打開することの出来るスキルが。

 僕は自身の表情が笑みを浮かべているのを感じた。
 そして、僕はそのスキルを発動させた。

「≪縮小≫!」
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