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二十八話 スサノオ そして、不可能なはずのPVP
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リーンたちの元へ戻った僕はリーンたちから心配されてしまった。
どうやらいぬがやられてしまったことで、自分でも気づかないぐらいに落ち込んでいたらしい。
「ああ……」
何とか言葉を口にするけど、正直気分は最悪なままだ。
確かに残像剣に勝つことは出来た。
でも、そのためにいぬが犠牲になるなんて……。
「ヒカリちゃん! 落ち込んでいても仕方がないよ! それよりも早くいぬちゃんを再召喚しましょう!」
「そうだよ、お姉ちゃん! 早く召喚してあげなって!」
「……そうだな。召喚するとしようか」
二人に促され、僕は≪ビーストテイマー≫のスキルを見た。思えばこのスキルを見るの久しぶりだな。いつもはいぬが召喚されっぱなしになってるから気にする必要もないし。
……あれ? スキル欄が灰色のまま……?
久々に見た≪ビーストテイマー≫のスキルは使用不可を示す灰色になっていた。
僕は改めて≪ビーストテイマー≫の説明を見てみた。
スキル名称:ビーストテイマー
扱い:職業スキル
効果:魔獣を呼び出し、使役することができる。
魔獣は最初にランダムで選ばれ、
一度呼ばれた後は同じ魔獣が呼ばれるようになる。
魔獣はHP(生命値)が全損しない限り、呼び出され続ける。
また、その際のMP(魔法力)は消費しない。
攻撃する際は魔獣自身のMPまたはSP(体力)を消費する。
HPを全損した魔獣は1日時間を置くことで
再度呼び出すことができるようになる。
召喚可能魔獣:いぬ
「HPを全損した魔獣は1日時間を置かないと召喚が出来ない……?」
改めて読んで気づいたけど再召喚するためには時間を開けないと駄目なのか。
……あれ? それってやばくない、か?
闘技大会は一日で全ての試合を行うわけではない。二回戦までは一日目に行い、三回戦以降は二日目で行うことになっている。
そして、僕にとって重要なことなのだけれど、現在は22時ぐらいなのに対して、次の三回戦の僕が戦う試合は20時となっている。つまり、いぬを再召喚するための時間が足りていないということだ。
やばい、やばすぎる……!
僕の機動力として活躍するいぬがいないにもかかわらず、紙装甲な僕が戦うなんて……無謀にもほどがあるじゃないか!
せっかくここまで来たのにこんなのって……。
「ヒカリちゃん、大丈夫?」
リーンが心配そうに声をかけてくるが、僕はその言葉に返す気力がまるでなくなってしまっていた。
「ちょっと一人に――」
「すまない! 遅れたがようやく完成したぞ!」
僕がリーンに言いかけた時、阿部が僕たちの所に走り寄ってきた。
「ほらこの装備だ」
そういえば阿部は僕の装備を作ってくれると言ってたっけ。
阿部がトレードを使って僕に渡そうとしている装備を見て僕は思い出した。
いぬがいなくなった僕にとっては装備は間違いなく必要なものだろう。でも、正直言って装備を多少変えたところでどうにかなるような気がしない。
何せ次の戦いの相手はアマテラス――三貴神の一人なのだから。
試合を見る限り、アマテラスはスサノオみたいな意味不明なスキルを持っているというわけではない。しかし、それに対応するためにはスサノオと同じぐらいに大変そうなスキルだった。
何せアマテラスがスキルを発動した瞬間――姿が消えたのだ。
どこにいるか分からず、あたりを見回していたチョコレートの密売人の姿が印象的な試合だった。結局、アマテラスはチョコレートの密売人に一切見つかることなく、戦闘を終えた。
攻撃自体はそれほど強いスキルを持っているというわけではないのか、一回当たりのダメージ量はそれほど多くはなかった。しかし、そのスキルは僕が危険視しないわけにはいかなかった。
敵の姿が見えない。その効果はつまり、僕の魔法スキルが当たる可能性が激減するということに等しい。
僕が持っている魔法スキルである≪ライトアロー≫は僕自身が敵の姿を確認し、対象に向けて手を向けることで発動させる。その際、進行方向は手の向けた先に固定となってしまう。
つまり、相手の姿が見えないということは僕の攻撃手段が使えなくなるという可能性が大きいことを示していた。
更に僕にとって不利な点は他にもある。チョコレートの密売人との試合ではアマテラスの与えるダメージ量はそれほど大きくないように見えたが、それはおそらく通常のステータス振りをしている場合のダメージ量であるということである。
僕のステータスが魔力に特化してしまっている関係上、正直言って僕の耐久は紙だ。
もしもいぬがいれば、そのあふれんばかりの敏捷によってあたりを縦横無尽に動き、アマテラスの動きを制限してくれたかもしれない。しかし、いぬはアマテラスの試合には間に合わない。
……いぬぐらい敏捷があれば僕の魔法もかなり早くなるんだけどなあ……。
いや、考えても仕方がない。そもそも僕はいぬ抜きで戦う必要があるのだ。そんな状態の今なら少しでも防御力をあげればマシになるかもしれない。阿部が作ってくれた装備は一体どれほどのものなのだろうか――
装備名:天使ちゃんの光輪
装備部位:頭
防御力:11
装備効果:耐久+2、精神+3、特殊セット効果あり
装備名:天使ちゃんの羽衣
防御力:26
装備部位:胴
装備効果:耐久+5、精神+10、特殊セット効果あり
装備名:天使ちゃんの羽靴
防御力:7
装備部位:靴
装備効果:敏捷+3、特殊セット効果あり
「……随分と効果が低くないか?」
正直言って阿部の作ってくれた装備の効果は決して低いわけではない。しかし、阿部が持っている≪鍛冶≫のスキルはレベルも上がっているし、もっと効果が高い装備も作れたはずだ。
……まあ、今の僕の装備には装備効果なんて付与されていないから、正直言ってステータスを底上げできるのはかなり嬉しいのは確かなんだけどね。
名前もすごく気になるけど、今は気にしないようにしよう。
「あはは。スキル効果を試していたら装備効果自体は低くなってしまってな。でも、その代わりと言っちゃあなんだが、特殊セット効果はすごいぞ。早く装備してみてくれ」
「……分かった」
阿部が絶賛するほどの特殊セット効果か。どんな効果がついているんだろう。
僕は装備を身に着け、効果を確認する。
特殊セット効果名:天使ちゃんセット
効果内容:この効果は天使ちゃんの光輪、天使ちゃんの羽衣、天使ちゃんの羽靴を
装備した時のみに発生する。
装備したプレイヤーの魔力を1.2倍にする。
「これは……やばいな」
ただでさえ、おかしなことになっている僕の魔力がより強化されるとは……。
「だろう? ヒカリのステータスを聞いた時、絶対にこの効果が出るようにしたいと思ってたんだ。この効果が出るまで何度も繰り返し、ようやくさっき付与できたんだよ」
なるほど。阿部が戻ってくるまでやけに時間がかかると思ったら、そんなことをしていたのか。とてもありがたい――けれども今必要なステータスは何よりも敏捷だった。
――いぬがいれば心強いのにな。
不意にずきん、と心が痛む。
僕は極力感じた痛みを顔に出さないようにしながら阿部に礼を言った。
◇
「はあ……。いぬ……、僕はどうすればいいんだ……」
僕は装備の調整をすると言ってリーン、ミイ、阿部の三人から離れて森へ移動していた。
ここのモンスターは中ボスである熊を除けばノンアクティブモンスターしかいない。その熊も森の奥に行かないと出てこないため、一人で考えるには打ってつけの場所だった。
僕は今までどれだけいぬを頼りにしていたのかということをいぬがいなくなって初めて思い知らされた。
いぬがいなくなったら僕は……私に戻ってしまう。
もう弱い自分は嫌だ。そう考え、強くてかっこいい自分を演じると決めていたのに、いったんよりどころをなくしてしまうとすぐに弱い自分が顔を見せてくる。
諦め。そんな気持ちが心に押し寄せてきて――『わんっ』とどこからかいぬの鳴き声が聞こえた気がした。
……そうか。そうだよな。まだ、僕は終わっていない。いぬもまだ生きているんだ。
諦めなければ、闘技大会で勝てばいぬは戻って――
「お? お前、確かヒカリって奴だよな」
気づくと僕の目の前には男がいた。
誰だろう。一瞬、そう考えるが、なぜか見覚えがあった。
少し考え――すぐに気づいた。こいつ、スサノオだ。
「こんな森の中まで来るなんて、明日の準備をしなくてもいいのか」
僕は手の甲で目をこするとスサノオに言った。
実際、スサノオがこんな森の中に来る必要なんてないはずだ。
森のモンスターはスサノオからすればレベルが低い。明日の闘技大会に向けて少しでもスキルのレベルを上げるためなら、こんな森ではなく、最前線のエリアで戦った方がいいはずだ。
装備を整えるためならそもそも町でことは済むはず。
正直言って、スサノオが森にいる理由は全くと言ってないはずだった。
「俺か? そうだな、俺が来た目的は――」
スサノオが僕を見る。
その顔がにやりと嫌らしい笑みの形に歪んだ。
「お前みたいなカモを見つけるためだよ。まあ、まさか闘技大会の出場者がこんな場所にいるとは思わなかったけどな。……まあ、俺にとってはラッキーってことだ」
「は? いったい、何を言っているんだ……?」
意味が分からなかった。
カモを見つける?
確かにWOSOではPVPは認められている。実際、PKをしてお金を稼ぐものもいると聞いたことがあるぐらいだ。でも、スサノオにとって僕はうまみのない相手のはずだ。何せ――闘技大会に出場する選手同士はPVPが行えなくなっているからだ。
「お前は何も考えなくてもいいさ。何せ、お前は奪われる者なんだからな」
「何を――」
突如、スサノオの背後が歪んだ。
何もないはずのそこには確かに何かが存在するかのように、後ろの景色が見えなくなっていく。
そして、スサノオは口を開いた。
「こいつを食らえ。≪神喰狼≫」
スサノオがスキルを発動すると僕の目の前に大きな狼が現れた。
そして、その狼を見た僕が逃げ出そうと後ずさった瞬間――大きな口を広げて僕は飲み込まれた。
「全く、うるさいアマテラスの奴がいない隙に近場の狩場に来たってのにプレイヤーがほとんど見えなかった時はどうしようかと思ったぜ。ま、闘技大会に出場するお前を見つけられてラッキーだったがな。……さて、お前はいいスキルを持っているか? 楽しみだぜ――」
狼の口の中でそんな言葉が聞こえた。一体何のことだ、と僕が声をあげる前にPVPが出来ないはずのスサノオによって僕のHPは全損させられ、教会へ転送させられてしまった。
どうやらいぬがやられてしまったことで、自分でも気づかないぐらいに落ち込んでいたらしい。
「ああ……」
何とか言葉を口にするけど、正直気分は最悪なままだ。
確かに残像剣に勝つことは出来た。
でも、そのためにいぬが犠牲になるなんて……。
「ヒカリちゃん! 落ち込んでいても仕方がないよ! それよりも早くいぬちゃんを再召喚しましょう!」
「そうだよ、お姉ちゃん! 早く召喚してあげなって!」
「……そうだな。召喚するとしようか」
二人に促され、僕は≪ビーストテイマー≫のスキルを見た。思えばこのスキルを見るの久しぶりだな。いつもはいぬが召喚されっぱなしになってるから気にする必要もないし。
……あれ? スキル欄が灰色のまま……?
久々に見た≪ビーストテイマー≫のスキルは使用不可を示す灰色になっていた。
僕は改めて≪ビーストテイマー≫の説明を見てみた。
スキル名称:ビーストテイマー
扱い:職業スキル
効果:魔獣を呼び出し、使役することができる。
魔獣は最初にランダムで選ばれ、
一度呼ばれた後は同じ魔獣が呼ばれるようになる。
魔獣はHP(生命値)が全損しない限り、呼び出され続ける。
また、その際のMP(魔法力)は消費しない。
攻撃する際は魔獣自身のMPまたはSP(体力)を消費する。
HPを全損した魔獣は1日時間を置くことで
再度呼び出すことができるようになる。
召喚可能魔獣:いぬ
「HPを全損した魔獣は1日時間を置かないと召喚が出来ない……?」
改めて読んで気づいたけど再召喚するためには時間を開けないと駄目なのか。
……あれ? それってやばくない、か?
闘技大会は一日で全ての試合を行うわけではない。二回戦までは一日目に行い、三回戦以降は二日目で行うことになっている。
そして、僕にとって重要なことなのだけれど、現在は22時ぐらいなのに対して、次の三回戦の僕が戦う試合は20時となっている。つまり、いぬを再召喚するための時間が足りていないということだ。
やばい、やばすぎる……!
僕の機動力として活躍するいぬがいないにもかかわらず、紙装甲な僕が戦うなんて……無謀にもほどがあるじゃないか!
せっかくここまで来たのにこんなのって……。
「ヒカリちゃん、大丈夫?」
リーンが心配そうに声をかけてくるが、僕はその言葉に返す気力がまるでなくなってしまっていた。
「ちょっと一人に――」
「すまない! 遅れたがようやく完成したぞ!」
僕がリーンに言いかけた時、阿部が僕たちの所に走り寄ってきた。
「ほらこの装備だ」
そういえば阿部は僕の装備を作ってくれると言ってたっけ。
阿部がトレードを使って僕に渡そうとしている装備を見て僕は思い出した。
いぬがいなくなった僕にとっては装備は間違いなく必要なものだろう。でも、正直言って装備を多少変えたところでどうにかなるような気がしない。
何せ次の戦いの相手はアマテラス――三貴神の一人なのだから。
試合を見る限り、アマテラスはスサノオみたいな意味不明なスキルを持っているというわけではない。しかし、それに対応するためにはスサノオと同じぐらいに大変そうなスキルだった。
何せアマテラスがスキルを発動した瞬間――姿が消えたのだ。
どこにいるか分からず、あたりを見回していたチョコレートの密売人の姿が印象的な試合だった。結局、アマテラスはチョコレートの密売人に一切見つかることなく、戦闘を終えた。
攻撃自体はそれほど強いスキルを持っているというわけではないのか、一回当たりのダメージ量はそれほど多くはなかった。しかし、そのスキルは僕が危険視しないわけにはいかなかった。
敵の姿が見えない。その効果はつまり、僕の魔法スキルが当たる可能性が激減するということに等しい。
僕が持っている魔法スキルである≪ライトアロー≫は僕自身が敵の姿を確認し、対象に向けて手を向けることで発動させる。その際、進行方向は手の向けた先に固定となってしまう。
つまり、相手の姿が見えないということは僕の攻撃手段が使えなくなるという可能性が大きいことを示していた。
更に僕にとって不利な点は他にもある。チョコレートの密売人との試合ではアマテラスの与えるダメージ量はそれほど大きくないように見えたが、それはおそらく通常のステータス振りをしている場合のダメージ量であるということである。
僕のステータスが魔力に特化してしまっている関係上、正直言って僕の耐久は紙だ。
もしもいぬがいれば、そのあふれんばかりの敏捷によってあたりを縦横無尽に動き、アマテラスの動きを制限してくれたかもしれない。しかし、いぬはアマテラスの試合には間に合わない。
……いぬぐらい敏捷があれば僕の魔法もかなり早くなるんだけどなあ……。
いや、考えても仕方がない。そもそも僕はいぬ抜きで戦う必要があるのだ。そんな状態の今なら少しでも防御力をあげればマシになるかもしれない。阿部が作ってくれた装備は一体どれほどのものなのだろうか――
装備名:天使ちゃんの光輪
装備部位:頭
防御力:11
装備効果:耐久+2、精神+3、特殊セット効果あり
装備名:天使ちゃんの羽衣
防御力:26
装備部位:胴
装備効果:耐久+5、精神+10、特殊セット効果あり
装備名:天使ちゃんの羽靴
防御力:7
装備部位:靴
装備効果:敏捷+3、特殊セット効果あり
「……随分と効果が低くないか?」
正直言って阿部の作ってくれた装備の効果は決して低いわけではない。しかし、阿部が持っている≪鍛冶≫のスキルはレベルも上がっているし、もっと効果が高い装備も作れたはずだ。
……まあ、今の僕の装備には装備効果なんて付与されていないから、正直言ってステータスを底上げできるのはかなり嬉しいのは確かなんだけどね。
名前もすごく気になるけど、今は気にしないようにしよう。
「あはは。スキル効果を試していたら装備効果自体は低くなってしまってな。でも、その代わりと言っちゃあなんだが、特殊セット効果はすごいぞ。早く装備してみてくれ」
「……分かった」
阿部が絶賛するほどの特殊セット効果か。どんな効果がついているんだろう。
僕は装備を身に着け、効果を確認する。
特殊セット効果名:天使ちゃんセット
効果内容:この効果は天使ちゃんの光輪、天使ちゃんの羽衣、天使ちゃんの羽靴を
装備した時のみに発生する。
装備したプレイヤーの魔力を1.2倍にする。
「これは……やばいな」
ただでさえ、おかしなことになっている僕の魔力がより強化されるとは……。
「だろう? ヒカリのステータスを聞いた時、絶対にこの効果が出るようにしたいと思ってたんだ。この効果が出るまで何度も繰り返し、ようやくさっき付与できたんだよ」
なるほど。阿部が戻ってくるまでやけに時間がかかると思ったら、そんなことをしていたのか。とてもありがたい――けれども今必要なステータスは何よりも敏捷だった。
――いぬがいれば心強いのにな。
不意にずきん、と心が痛む。
僕は極力感じた痛みを顔に出さないようにしながら阿部に礼を言った。
◇
「はあ……。いぬ……、僕はどうすればいいんだ……」
僕は装備の調整をすると言ってリーン、ミイ、阿部の三人から離れて森へ移動していた。
ここのモンスターは中ボスである熊を除けばノンアクティブモンスターしかいない。その熊も森の奥に行かないと出てこないため、一人で考えるには打ってつけの場所だった。
僕は今までどれだけいぬを頼りにしていたのかということをいぬがいなくなって初めて思い知らされた。
いぬがいなくなったら僕は……私に戻ってしまう。
もう弱い自分は嫌だ。そう考え、強くてかっこいい自分を演じると決めていたのに、いったんよりどころをなくしてしまうとすぐに弱い自分が顔を見せてくる。
諦め。そんな気持ちが心に押し寄せてきて――『わんっ』とどこからかいぬの鳴き声が聞こえた気がした。
……そうか。そうだよな。まだ、僕は終わっていない。いぬもまだ生きているんだ。
諦めなければ、闘技大会で勝てばいぬは戻って――
「お? お前、確かヒカリって奴だよな」
気づくと僕の目の前には男がいた。
誰だろう。一瞬、そう考えるが、なぜか見覚えがあった。
少し考え――すぐに気づいた。こいつ、スサノオだ。
「こんな森の中まで来るなんて、明日の準備をしなくてもいいのか」
僕は手の甲で目をこするとスサノオに言った。
実際、スサノオがこんな森の中に来る必要なんてないはずだ。
森のモンスターはスサノオからすればレベルが低い。明日の闘技大会に向けて少しでもスキルのレベルを上げるためなら、こんな森ではなく、最前線のエリアで戦った方がいいはずだ。
装備を整えるためならそもそも町でことは済むはず。
正直言って、スサノオが森にいる理由は全くと言ってないはずだった。
「俺か? そうだな、俺が来た目的は――」
スサノオが僕を見る。
その顔がにやりと嫌らしい笑みの形に歪んだ。
「お前みたいなカモを見つけるためだよ。まあ、まさか闘技大会の出場者がこんな場所にいるとは思わなかったけどな。……まあ、俺にとってはラッキーってことだ」
「は? いったい、何を言っているんだ……?」
意味が分からなかった。
カモを見つける?
確かにWOSOではPVPは認められている。実際、PKをしてお金を稼ぐものもいると聞いたことがあるぐらいだ。でも、スサノオにとって僕はうまみのない相手のはずだ。何せ――闘技大会に出場する選手同士はPVPが行えなくなっているからだ。
「お前は何も考えなくてもいいさ。何せ、お前は奪われる者なんだからな」
「何を――」
突如、スサノオの背後が歪んだ。
何もないはずのそこには確かに何かが存在するかのように、後ろの景色が見えなくなっていく。
そして、スサノオは口を開いた。
「こいつを食らえ。≪神喰狼≫」
スサノオがスキルを発動すると僕の目の前に大きな狼が現れた。
そして、その狼を見た僕が逃げ出そうと後ずさった瞬間――大きな口を広げて僕は飲み込まれた。
「全く、うるさいアマテラスの奴がいない隙に近場の狩場に来たってのにプレイヤーがほとんど見えなかった時はどうしようかと思ったぜ。ま、闘技大会に出場するお前を見つけられてラッキーだったがな。……さて、お前はいいスキルを持っているか? 楽しみだぜ――」
狼の口の中でそんな言葉が聞こえた。一体何のことだ、と僕が声をあげる前にPVPが出来ないはずのスサノオによって僕のHPは全損させられ、教会へ転送させられてしまった。
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