八卦は未来を占う

ヒタク

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一章 遭遇⑨

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 昼休みが終わる時間が近づくと雫たち中等部組は急いで自分たちの教室へ走って行った。
 中等部の教室とは結構な距離があるはずだが、間に合うのだろうか。
 賑やかだった昼食も終わり、いつの間にか残りの授業も過ぎて放課後になっていた。

 角度が傾いてきたのか、窓から太陽の光が差し込んでくる。その少しずつ暗くなっていく光を見ていた俺は、昨日に路地裏で八卦と出会った時のことを思い出した。

「そういえば昨日の言葉ってやっぱり占いだったのか?」

 後ろで帰る用意をしていた八卦に俺は尋ねる。八卦が本当に占いが好きだということは今日一日見ていただけでも、十分に分かった。

 しかし、占いは所詮占いだ。
 俺にそんな気持ちがないとは言わないし、言えない。正直言うと占いはあまり信用していなかった。
 しかし、信じていないとはいえ、自分が死ぬと言われて気にならないはずがなかった。

「そうよ」

 八卦は肯定する。無表情で言うために一層真実味が増したように感じた。いくら占いを軽視している俺でも信じてしまいそうになる。
 俺は急に背筋へ寒気を覚えた。身体が少しだけ震えたのが分かる。

「……占いってことは合っているかどうかわからないよな?」

 否定してほしかった。
 ただ、その一心で俺は八卦に問いかけた。
 八卦は俺の言葉をどう受け取ったのか、なぜか下を向いた。そして、何か呟く。呟いた言葉はわからないが、視線を上げた八卦の口元は少しだけほころんでいるように見えた。

「ええ。きっとわからないわ。だって、あなたは未来を変化させるんでしょう?」

 八卦はそれだけ言うとカバンを持ち、教室から出て行こうとする。

「そ、それってつまりどういうことだよ」

 八卦の歩みは俺の言葉によって止められた。
 ゆっくりと振り返る。

――一瞬、昨日の光景を幻視した。

 こちらを完全に振り返った八卦は自らの口に指を当てた。まるで秘密を洩らさないようにとでも言うかのように。

「私からはこれ以上言わないようにするわ。あなたが自身の運命を変えるためにはきっと私が影響してはいけないもの」

 意味が分からなかった。占いの結果を言っているのではなかったのか。占いというにはあまりにも信じすぎている。
 八卦は言うべきことは言ったのか、今度は振り返ることなく教室から出て行った。
 残された俺の脳裏には八卦の言葉が壊れたレコーダーのように何度も繰り返し流れた。

「そろそろ帰ろうぜ」

「ああ……」

 寛太がカバンを持って話しかけてくる。どうやら、八卦との会話が終わるのを待ってくれていたらしい。ご丁寧にも八卦との会話を聞かないためか、離れた場所で待っていたようだ。
 いつもながらアホなことをしている割に気を使ってくれるやつだ。友人――親友へ心の中で感謝の言葉を言いながら、俺は自身のカバンを持つ。そして、寛太と教室の外へ歩き出した。

「八卦さんって本当に面白い奴だよな」

「寛太はいつもそれだよな……」

 本当に嬉しそうに言う寛太に呆れてしまう。
 寛太が俺の背中を勢いよく叩く。いきなり叩かれた俺は驚き、衝撃によって咳き込んだ。

「い、いきなり何をするんだよ!」

「いやさ。圭がずいぶんと暗い顔をしていたからな。そんな顔をしていたら、ちっとも面白くなくなっちまうんだ」

「…………」

「八卦さんと何を話していたかは聞いてねえからわからない。別に聞こうとも思わないさ。でもよ、少なくともそんな暗い顔をしていても解決するようなことじゃないんじゃねえか?」

 ははは、らしくもないこと言ったかもな、なんて寛太は笑っていた。
 寛太の言うとおりかもしれない。そもそも占いなのだ。いくら考えても仕方がないことなのかもしれない。
 俺は頭を小さく振った。自身の暗くなる原因を今は忘れるために。

「お? もう平気みたいだな」

「ああ、助かったよ」

 笑顔で話しかけてくる寛太に返事する。寛太はその言葉に満足したのか、偉そうに頷いている。その姿があまりにも偉そうだったから、俺は背中を叩き返した。

「ちょ、何を――」

「あれ? 圭くんじゃん。まだ帰ってなかったんだ」

 寛太の声を遮るようにして声をかけられた。
 声の方を見ると、そこには千歳がいた。

「千歳? これから部活か?」

「うん、そうなんだよ。今年は全国行けそうだから頑張らないとね」

 嬉しそうに答える千歳。
 千歳が入っているのはバスケ部だ。今まで弱小だったらしいが、千歳が入った年にうまい選手が何人も来たらしく、話題になっていることを思い出した。千歳もかなりうまいらしく、レギュラーになっているらしい。

「圭くんはこれから帰るところ?」

「ああ、そうだよ」

「じゃあ、雫ちゃんにまた夕飯よろしくって伝えておいて!」

「また、たかりに来るつもりかよ……」

「よろしくね!」

 バン、と俺の肩を強く叩くと千歳は廊下を走って行った。

「圭、本当に千歳と仲いいな」

「はあ?」

 しみじみと言う寛太に呆けた言葉を返してしまった。

「俺は応援しているんだぜ? 何せ、千円も賭けたんだからな!」

「いったい何の話なんだよ」

「まあ、お前が気にすることじゃねえって」

 寛太は誤魔化すように、また俺の背中をバシバシと叩いた。

「やめろって」

「ははは。悪い悪い」

 悪びれもせずに言う寛太。そんな顔が何故か急に真面目になった。

「――ところで、圭」

「なんだよ、改まって」

「八卦さんのことなんだけどさ」

「…………」

 自身の心臓が跳ねた気がした。先ほどの会話を聞かれていたのだろうか。
いや、そもそも聞かれていたとしても何のことか分からなかったはず。
 それでも、もし聞かれていたら――

「さりげなくでいいんだ! 俺のことを八卦さんに印象良く伝えてくれ!」

「……はあ?」

「圭、お前は八卦さんと仲がいいだろう? そんなお前だからこそ、頼めるんだ!」

 思わず、頭を抱えてしまいそうになった。この悪癖が女性を遠ざけていることにこいつは気づいていないのだろうか。
 いったいどうやってこいつを黙らせてやろうか。
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