八卦は未来を占う

ヒタク

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一章 遭遇⑩

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 いまだに喚き続ける寛太を極力目に入れないようにしつつ、考えていると、なぜか教室の扉が開いた。出てきたのは先ほど走り去っていったはずの千歳だった。

「うん? どうしたんだ、千歳?」

「あはは……」

 笑いながらも恥ずかしそうに頬を掻く千歳。

「なんか今日の部活休みだったみたい……」

「なんかあったのか? もう大会も近かっただろう?」

 レベルの高い部活に所属している千歳だ。さぞ練習も大変だろう。

「そうなんだけどね。なんでも先生がどうしても外せない用事があるんだって」

 用事って何だっけなあ、と千歳が続けて言う。
 入っている部活が部活だ。今年はコーチも優秀でインターハイの優勝候補の一つと言われているらしい。きっと担当している先生も相当忙しいに違いない。

「ああ、コミケに出す同人誌が書き終わってないとかだったっけ」

「なんだそれ!」

 ひどい理由だった。高校屈指の実力を持つ部の監督がそれでいいのだろうか。

「ああ、心配しなくてもいいよ! 私は描き終えているから!」

「そんなことは聞いてないって……。そもそも描いているなんて初耳だぞ」

「内容は……。うん。圭くんだけじゃないとだけ言っておこうか」

「聞きたくなかった、そんな事実!」

 むふふ、なんて嫌な笑いをしながら俺を見ている千歳。そんな千歳に嫌な予感がしたのか寛太がじりじりと離れていこうとしている。

 逃がすものか。そう思った俺は寛太の腕をつかんだ。俺の腕を振り払おうと寛太が腕を振り回しだす。
 そんな俺たちを面白そうに見ていた千歳が口を開いた。

「まあ、そんなことはさておき」

「俺の貞操がさておきって……」

「ああ。とっくに本では散ってるよ」

「……!」

 俺は急に耳が遠くなった気がした。にこやかに笑う千歳の頭の中では一体、自分がどんな風に見えているのか。 俺は甚だ疑問を感じていた。いや、問いかければダメージが甚大なものではないだろうし、絶対に訊くことはないのだが。

「とにかく! 一緒に帰らない?」

「え、まあ。隣だし、いいけど……」

 俺は千歳の言葉に煮え切らない言葉を返す。千歳とはずいぶんと小さい頃からの付き合いだ。
 年齢が上がったことで少しの気恥ずかしさはあっても一緒に帰ることを拒否するほど大きいわけではない。そんなわけで別に一緒に帰ることは構わないのだが――

「ぐへへ……」

 今の千歳と一緒に帰るのはなんとなく危険な気がした。主に描かれる本の内容的に。
 一体、何がここまで千歳を駆り立てるのだろう。

「と、ところでさ。圭くんと寛太はやっぱり……」

「やっぱり……?」

 手で目を覆い隠し、気恥ずかしそうにする千歳。なんとなく、言わせないでよ、みたいな言葉が聞こえてくるような気もする。

「――付き合ってるの?」

「ありえないって!」

 そして、千歳の口から出てきた言葉に俺は全力で否定した。頬が上気し、気恥ずかしそうに聞く千歳。外から見ればもしかすると告白シーンと勘違いする人もいるだろう。しかして、その実態はとんでもない――変態の――告白だったりするのだが。

 どうしてこうなった、と俺は千歳の目の前で大きくため息をつく。正直、今の今まで全く気付かなかった。……片鱗は見せていた気もするが。
 それにしても、いつからこんな人物になってしまったのだろう。いや、気づきたくなくて目を逸らしていただけなのかもしれない。

 俺はもう一度ため息をつくために目を閉じた。その時、腕の力も弱まっていたのだろう。寛太が俺の腕から自身の腕を抜き出した。

「圭……」

 呟きながら、無駄にまっすぐな視線で俺のことを見てくる寛太。
 そして、すぐ横で目を爛々と輝かせる千歳。

「俺な。今まで言っていなかったけどお前のことが……」

「お、おい、寛太。お前、ふざけてるんじゃ――」

 嫌な予感しかしない。千歳の荒い息が激しさを増していくのが分かる。

「――じゃあな!」

 そして、寛太はそう言うとすごい勢いで走り出した。

「は……?」

 先ほどの意味深な言葉は何だったのか。俺が驚いている間に寛太はどんどん逃げていく。すぐそばでは千歳が雄たけびを上げながら何か激しくノートに描いているのが見える。

「か、寛太! お前、この状況で置いていく気か!」

「圭! 男にはな! やらねばならぬ時があるのさ!」

 振り返ると無駄にかっこよく宣言する寛太。しかし、すぐに逃走しようとする姿がいまいち格好よくなりきれていない。

「ふざけるな、寛太!」

「じゃあ、八卦さんのこと頼んだぞぉぉ……!」

 ドップラー効果なのか、声を小さくさせながら走っていく寛太。無駄に速くて簡単には追いつけそうにもなかった、
 仕方なく、俺は寛太のことをあきらめることにした。

「千歳」

「なあに、圭くん?」

「寛太の本はもっと過激にしていいよ」

「あいよー」

 そう、寛太の分は諦めたのだ。
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